測って分かった、等しい2組
5,386塩基のDNAに、Aが1,291個、Tが1,684個。大腸菌に感染するウイルス、ファージφX174の配列を数えると、AとTの数はそろわない。ウイルスの粒子に入っているDNAは1本鎖である。2本鎖のDNAなら、向かい合う鎖でAはTと、GはCと対をつくるので、AとT、GとCの数は必ず等しくなる。
この規則は、二重らせんより先に、化学分析の数字として見つかった。エルヴィン・シャルガフは1944年にオズワルド・エイブリーの論文を読んでDNAの研究に移り、ペーパークロマトグラフィーなどの新しい方法で、胸腺や酵母、結核菌のDNAを分析した。4種類の塩基が同じ量ずつ入っているという当時の説は、この測定で崩れる。ところが1950年の論文までに、AとT、GとCの比はどのDNAでも1に近いことがはっきりしてきた。
なぜ1に近いのかは、そのとき分からなかった。答えが出たのは、1953年にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックが二重らせんのモデルを示したときである。
1つの割合から4つを出す
は、DNAの塩基全体に占めるアデニンの割合(%)を表す。はチミン、はグアニン、はシトシンの割合である。まず2本鎖のDNAで計算する。
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塩基対ごとにAとT、GとCが1個ずつ入る
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4つの割合を足すと100%になる
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手順1を代入して2種類にまとめる
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両辺を2で割る
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なら残りが決まる
手順4から、AとGを足すとちょうど半分になると分かる。だから4つの割合のうち1つが分かれば、残り3つは計算で出せる。
では、片方の鎖だけを見るとどうなるのか。上の鎖のA、T、G、Cの個数を、、、とおく。
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下の鎖のAは上の鎖のTの向かいにある
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2本全体のAは上下の和になる
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全体のTも上下の和で同じ式になる
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GとCも同じように等しくなる
とが等しくなくても、全体のAとTは必ず等しい。規則は鎖1本の性質ではなく、2本を足したときに現れる。
φX174の粒子の中のDNAには相手の鎖がないので、との差がそのまま残り、TがAより393個も多い。このDNAが1本鎖であることは、ロバート・シンスハイマーが1959年に報告した。
もっとも、長いゲノムでは1本の鎖でも数が近づくことがある。大腸菌K-12の片方の鎖ではAが1,142,742個、Tが1,141,382個で、差は0.12%しかない。これはシャルガフの第2パリティ規則と呼ばれるが、塩基対から導ける規則ではなく、成り立つ理由も研究が続いている。短い1本鎖には当てはまらないので、1本鎖に手順1を使ってはいけない。
AとGの比は5倍以上変わる
規則が決めるのはAとT、GとCの関係だけで、AとGの関係には触れていない。手順4の和が50になるだけで、内訳は生物によって大きく違う。全ゲノムの公開配列を数えて2本鎖全体の比を出すと、次のようになる(ヒトは論文の値)。
| 生物 | G+Cの割合 | AとGの比 |
|---|---|---|
| 放線菌Streptomyces coelicolor | 72.1% | 0.39 |
| 大腸菌K-12 | 50.8% | 0.97 |
| ヒト | 40.9% | 1.4 |
| マイコプラズマMycoplasma genitalium | 31.7% | 2.2 |
放線菌とマイコプラズマでは、比が5.6倍も違う。どちらも手順1を満たしたうえでの差である。AとGの比が全部の生物で1なら、塩基が同じ量ずつという古い説は正しかったことになる。シャルガフの測定が示したのは、等しいのは対の2つだけで、生物ごとに中身は違うということだった。
比の出し方は難しくない。G+Cの割合を%とすると、、なので、比はになる。
規則の裏にある対のつくり方は、DNAを写す仕組みそのものでもある。片方の鎖の並びが決まれば、もう片方の並びも決まる。PCRでDNAを増やせるのは、ほどいた1本ずつを型にして、相手の鎖を合成できるからだ。
割合から鎖の中身を読む
例題 1基本残り3つの割合
ある2本鎖DNAで、Aの割合が27%だった。T、G、Cの割合を求めよ。
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AとTは等しいので、Tは27%である。手順4から、Gは次のようになる。
CはGと等しいので、GもCも23%である。
例題 2基本塩基対の数と塩基の数
1,000塩基対の2本鎖DNAに、Gが420個含まれていた。Aの個数と、Aの割合を求めよ。
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1,000塩基対の塩基は、全部で個ある。CもGと同じ420個なので、AとTの合計は次の個数になる。
AとTは等しいので、Aは580個である。割合はで、29%になる。
例題 3入試片方の鎖から全体へ
2本鎖DNAをつくる鎖Xの塩基は、Aが34%、Tが22%、Gが17%、Cが27%だった。(1)向かい合う鎖Yの塩基の割合を求めよ。(2)2本鎖全体の塩基の割合を求めよ。
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(1)鎖Xの塩基の向かいに、対になる塩基が入る。YのAはXのTと同じ割合になる。
(2)2本の鎖の長さは等しいので、全体の割合は2本の平均になる。
TはAと同じ28%、CはGと同じ22%である。
例題 4入試どの試料が2本鎖か
3種類の試料の塩基の割合(%)を測った。Pはアデニン24、チミン31、グアニン23、シトシン22。Qはアデニン30、ウラシル30、グアニン20、シトシン20。Rはアデニン21、チミン21、グアニン29、シトシン29だった。2本鎖DNAではないと断定できる試料をすべて選べ。また、残りの試料について言えることを答えよ。
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Pはアデニンとチミンの割合が等しくないので、2本鎖DNAではない。Qにはチミンがなくウラシルがあるので、DNAではなくRNAである。
Rは規則を満たすので、2本鎖DNAである可能性がある。ただし、規則は2本鎖であることの必要条件にすぎない。1本鎖でも割合がたまたま等しくなることはあるので、この測定だけでは2本鎖と断定できない。
mRNAの割合を2本鎖に戻す
- 2026年 大学入学共通テスト 追試験 生物基礎 第1問 問5:mRNAのある領域に含まれるウラシルとアデニンの割合から、対応する2本鎖DNAでグアニンとシトシンを合わせた割合を求める。出典は大学入試センター「令和8年度 追・再試験の問題」。
- 2026年 大学入学共通テスト 本試験 生物基礎 第1問 問3:遺伝情報とDNAについての記述から、適当なものを選ぶ。選択肢には、2本鎖DNAのシトシンとグアニンの割合を述べた文がある。出典は大学入試センター「令和8年度 本試験の問題」。
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 生物基礎 第1問 問4:ゲノムやDNA、遺伝子発現についての記述から、適当なものを選ぶ。1本鎖のmRNAで、アデニンの割合からグアニンの割合が決まるかを問う選択肢がある。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 生物基礎 第1問 問2:ゲノムや遺伝子についての記述から、適当なものを選ぶ。選択肢には、ゲノムのDNAに含まれるアデニンとグアニンの数の関係を述べた文がある。出典は大学入試センター「令和6年度 本試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第6節「生物基礎」3(1)ア(イ)㋐、118-119ページ
- E. Chargaff, E. Vischer, R. Doniger, C. Green, F. Misani, "The composition of the desoxypentose nucleic acids of thymus and spleen", Journal of Biological Chemistry 177 (1949), 405-416
- E. Chargaff, "Chemical specificity of nucleic acids and mechanism of their enzymatic degradation", Experientia 6 (1950), 201-209
- Encyclopedia.com, "Erwin Chargaff"
- J. D. Watson, F. H. C. Crick, "Molecular structure of nucleic acids: a structure for deoxyribose nucleic acid", Nature 171 (1953), 737-738
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- European Nucleotide Archive, J02482.1(φX174)、U00096.3(大腸菌K-12 MG1655)、AL645882.2(S. coelicolor A3(2))、L43967.2(M. genitalium G37)。塩基の数は編集部が配列から数えた
- A. Piovesan et al., "On the length, weight and GC content of the human genome", BMC Research Notes 12 (2019), 106
- D. R. Forsdyke, J. R. Mortimer, "Chargaff's legacy", Gene 261 (2000), 127-137
- R. Rudner, J. D. Karkas, E. Chargaff, "Separation of B. subtilis DNA into complementary strands. 3. Direct analysis", Proceedings of the National Academy of Sciences 60 (1968), 921-922
- M. E. B. Yamagishi, R. H. Herai, "Chargaff's 'Grammar of Biology': New Fractal-like Rules", arXiv:1112.1528 (2011)
- P. Gaspard, "Chargaff's second parity rule and the kinetics of DNA replication", arXiv:2601.12101 (2026)
- 大学入試センター「令和6年度 大学入学共通テスト 本試験 生物基礎」「令和7年度 大学入学共通テスト 追・再試験 生物基礎」「令和8年度 大学入学共通テスト 本試験 生物基礎」「令和8年度 大学入学共通テスト 追・再試験 生物基礎」