足すと57.6、数えると37.6
足すと57.6、数えると37.6。1913年の論文で、同じ2つの因子の隔たりを表した2つの数である。組換え価は、検定交雑で親と違う組み合わせになった子が全体の何%かを表す。同じ染色体の遺伝子は離れるほど大きな値になるが、50%で頭打ちになるので、距離として足し算できるのは小さな値だけだ。
この数で遺伝子の並びを描こうと思いついたのは、学部生だった。アルフレッド・スタートバントの回想によると、1911年の後半、コロンビア大学のトーマス・ハント・モーガンと話していて、連鎖の強さの違いから染色体の上の並び順を決められると気づいた。家に帰ると学部の宿題を放り出し、夜の大半を使って最初の染色体地図を作ったという。
土台にはモーガンの見方があった。遺伝子が染色体に一列に並ぶなら、近いものほど一緒に動く。1911年の短い論文でモーガンは、分離の比は数の体系というより、染色体上の位置の表れだと述べている。
スタートバントは1913年の論文で、配偶子100個あたり平均1回の乗換えが起こる長さを距離の単位に選んだ。隣り合う因子の値を足し、ショウジョウバエのX染色体の因子を0.0、1.0、30.7、33.7、57.6の位置に置いた。ところが両端のBとMの組換え価を実際に数えると、37.6%しかなかった。
差の20は、どこへ消えたのか。
4本の染色分体で上限を数える
遺伝子AとBが同じ染色体にあるとする。純系AABBとaabbの子AaBbは、ABの並びとabの並びを1本ずつ持つ。これに潜性のホモ接合aabbを掛ける検定交雑では、相手がabしか渡さないので、子の表現型の数がそのままAaBbの配偶子の数になる。子1,000匹が[AB] 446、[Ab] 56、[aB] 54、[ab] 444だったとしよう。
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親と違う組み合わせの数を分子に置く
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子の数を代入する
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100を掛けて百分率にする
ただし、どちらが組換え型かは親の並びで決まる。親がAAbbとaaBBなら、ABとabのほうが組換え型になる。
では、なぜ50%が上限なのか。答えは減数分裂の中にある。乗換えが起こるのは、複製を終えた相同染色体が対合して4本の染色分体が並んだときで、1回の乗換えに加わるのはそのうち2本だけである。
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1回の乗換えで組換え型になる本数を数える
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AとBの間で乗換えが起きた細胞の割合をとする
は1を超えないので、は50%を超えない。2回の乗換えでも同じだ。2回目に加わる2本は1回目と同じ2本、1本違い、2本とも違う、の3通りがあり、偶然に決まるなら比は1:2:1になる。組換え型の割合は順に0、半分、全部である。
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3通りを重みつきで平均する
頭打ちの形は式にできる。ここから先はポアソン分布を使うので、高校の範囲を超える。配偶子1本に注目すると、AとBのあいだの乗換えが奇数回なら組換え型、偶数回なら親型に戻る。1919年にJ・B・S・ホールデンは、乗換えが互いに無関係に起こるとして、この和を計算した。距離は、配偶子1本あたりの乗換えの平均回数である。
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乗換えが回になる確率を書く
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奇数回の確率を足す
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かっこの中を指数関数で表す
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展開する
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が小さいときで近似する
が大きいとは0に近づき、はに限りなく近づく。この50%は、別々の染色体にある遺伝子の値と同じだ。メンデルの分離の法則で対ごとに分かれる遺伝子が、染色体が別なら互いに無関係に配偶子へ入る。これが独立の法則で、配偶子の4種類は1:1:1:1になる。
が小さいところではとがそろう。だから組換え価1%を距離1センチモルガン(cM)、つまり1地図単位と読み替える。ホールデンは同じ論文で、距離の単位を「モルガン」と呼ぶよう提案し、モーガンの単位はそのセンチモルガンにあたると書いた。
足りない20を二重乗換えで読む
スタートバントの表を見ると、短いあいだの足し算は当たり、長いあいだだけが大きく外れる。
| 因子の組 | 地図で足した距離 | 数えた組換え価(%) |
|---|---|---|
| BとP | 30.7 | 32.2 |
| BとR | 33.7 | 35.5 |
| BとM | 57.6 | 37.6 |
BとMの行は20も違う。スタートバントはこの差を二重乗換えのせいだと考えた。BとMのあいだで2回切れると両端の組み合わせは親と同じに戻り、数えても組換え型に入らない。モーガンらの交雑を集計した10,495匹には、3因子を同時に追って初めて見える二重乗換えが9匹いた。
手順10をについて解くと、数えた組換え価から距離を戻せる。
たとえば組換え価20%は、この式で約25.5 cMになる。逆に57.6 cMを手順10に入れるとは34.2%で、足し算の57.6より実測の37.6に近い。それでも実測より小さいのは、乗換えどうしを互いに無関係と置いたからだろう。スタートバントは同じ論文で、1回の乗換えが近くの乗換えを起こりにくくする傾向を見つけている。二重乗換えが式の見込みより少なければ、組換え型は式より多く残る。
計算の使い道は地図づくりにとどまらない。品種改良で目的の遺伝子をDNAマーカーで追うとき、マーカーが5 cM離れていれば組換え価は約4.8%で、100回に5回ほど目印を失う。両側5 cMに1つずつ置き、乗換えが無関係に起こるとすると、両方で同時に外れるのは約0.23%まで下がる。
もっとも、地図の1 cMは長さの単位ではない。スタートバント自身が、切れやすい場所と切れにくい場所があれば、地図の距離は実際の空間の距離を表さないと断っている。地図の距離が表すのは、長さではなく乗換えの起こりやすさである。
親の並びと50%の壁で解く
例題 1基本親の並びを見て数える
遺伝子A、Bは同じ染色体にある。[ ]は子の表現型を表す。(1)AABBとaabbの子AaBbに検定交雑をすると、[AB] 418、[Ab] 82、[aB] 78、[ab] 422だった。組換え価を求めよ。(2)AAbbとaaBBの子AaBbに検定交雑をすると、[AB] 78、[Ab] 422、[aB] 418、[ab] 82だった。組換え価を求めよ。
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(1)親の並びはABとabなので、組換え型はAbとaBである。
(2)親の並びはAbとaBなので、組換え型はABとabに入れ替わる。
表の上では多い組と少ない組が逆でも、組換え価は同じになる。
例題 2基本3つの値から順序を決める
同じ染色体の遺伝子A、B、Cの組換え価は、AとBで7%、BとCで3%、AとCで4%だった。(1)3つの遺伝子の並び順を求めよ。(2)Aの位置を0 cMとする地図で、BとCの位置を求めよ。
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(1)いちばん大きい7%が、残り2つの和に等しい。
AとBが両端で、Cがそのあいだにある。並びはA、C、Bである。
(2)CはAから4 cM、BはAから7 cMの位置になる。
例題 3入試三点交雑で二重乗換えを見つける
ABCの並びとabcの並びを持つAaBbCcに、検定交雑をする。子1,000匹は[ABC] 431、[abc] 425、[Abc] 47、[aBC] 43、[ABc] 24、[abC] 26、[AbC] 2、[aBc] 2だった。(1)真ん中の遺伝子を答えよ。(2)A-B、B-C、A-Cの組換え価を求めよ。(3)A-Cの値がA-BとB-Cの和より小さい理由を、数で説明せよ。
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(1)最も少ない[AbC]と[aBc]が二重乗換えである。親のABCやabcと比べるとBだけが入れ替わっているので、真ん中はBである。
(2)A-Bの組換え型は、AとBの組み合わせが親と違う4種類である。
B-Cも同じように数える。
A-Cでは、二重乗換えの[AbC]と[aBc]は親と同じ組み合わせに見える。
(3)和はで、A-Cより0.8%大きい。二重乗換えの4匹(0.4%)は和の中で2回数えられ、A-Cでは1回も数えられないので、差はになる。
例題 4入試50%の壁で並びを見分ける
AaBbを自家受精させた子のうち、aabbが4%だった。AとBは同じ染色体にあり、雌雄の配偶子で組換え価は等しいとする。(1)このAaBbの染色体の並びは、ABとabか、AbとaBか。(2)組換え価を求めよ。
解説を見る
aabbはabの配偶子どうしの受精で生じるので、abの配偶子の割合をとする。
並びがABとabなら、abは親型で、組換え価をとしてである。
これは50%を超えるのであり得ない。並びがAbとaBなら、abは組換え型でである。
並びはAbとaBで、組換え価は40%である。
人数の表と交配で問われる組換え
- 2026年 大学入学共通テスト 本試験 生物 第1問 問4:ネアンデルタール人との交雑で受け継がれた受容体の遺伝子について、アミノ酸3か所の組合せごとの人数の表から、2つの区間のどちらで組換えの頻度が高いかを考える。出典は大学入試センター「令和8年度 本試験の問題」。
- 2025年 京都大学 生物 問題II問6:近交系マウスの交配で得た第2代のうち、変異の遺伝子座が潜性のホモ接合の個体に注目し、別の遺伝子座の型の割合を問う。別の染色体にある場合と、同じ染色体で組換え価が0.2の場合を比べる。出典は京都大学「令和7年度 試験問題および出題意図等」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第7節「生物」3(1)ア(イ)㋑ 遺伝子の組合せの変化について、131-132ページ
- A. H. Sturtevant, "The linear arrangement of six sex-linked factors in Drosophila, as shown by their mode of association", Journal of Experimental Zoology 14, 43-59(1913)(Electronic Scholarly Publishingの復刻版。序文にA History of Geneticsの回想を引く)
- T. H. Morgan, "Random segregation versus coupling in Mendelian inheritance", Science 34, 384(1911)(文は2の論文の引用による)
- J. B. S. Haldane, "The combination of linkage values, and the calculation of distances between the loci of linked factors", Journal of Genetics 8, 299-309 (1919)
- 大学入試センター「令和8年度 大学入学共通テスト 本試験 生物」
- 京都大学「令和7年度 入学試験問題 理科(生物)」