小さなグラフは予想の味方だった
下の段から上の段へ渡るには、柱を通るしかない。だから下の段の点から見れば、同じ段の点のほうが、その真上の点よりつながりやすいはずだ。およそ40年信じられてきたこの不等式は、2024年10月に破れた。ニキータ・グラドコフ、イゴール・パク、アレクサンドル・ジミン(Nikita Gladkov, Igor Pak, Aleksandr Zimin)の3人が、7,222点のグラフで反例を示したのである。
破れ方はかなり奇妙だった。確率の差はより小さく、現実の計算機で試行を重ねて見分けられる大きさではない。3人が反例を確かめた手段も、試行ではなく証明である。
反証へ動いたのはパクである。2009年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)へ移ってまもなく、同じ大学のトム・リゲットからこの予想を教わる。パクのブログによると、リゲットは何年にもわたって話題にし、そのたびに、証明するならあなただと言った。
Quanta Magazineの記事は、パクは初めから疑っていたという教え子の言葉を載せている。ただ、パク本人は2024年12月のブログで、初めは皆と同じく正しいと思っていたと書いた。考えを変えたのは、確率の差を多項式として調べる実験で、係数に規則が見えなかったときだという。すべてのグラフで通用する直接の証明があるとしたら奇跡に近い、とパクは考えた。それから2年、パクは会う人ごとにこの予想を尋ねたが、詳しい人のほとんどは正しいと信じていた。
同じ記事によると、パクが反証に乗り出したのは2022年で、1年の空振りのあと、指導する大学院生のグラドコフに計算機での探索を任せた。グラドコフは、高校時代からの友人で、マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院に進んだジミンを誘う。2人は大学でルームメイトだった。「寮の部屋には本物の二段ベッドがあった」とグラドコフは言う。

探索の結果は、ことごとく予想の味方をした。8点以下の連結なグラフはすべて調べ、辺が15本以下のグラフもデータベースから調べたが、予想を強めた形でさえ破れない。次にアダム・ワグナーが2021年に発表した方法を改良し、ニューラルネットワークに怪しいグラフを作らせた。UCLAの計算機クラスターHoffman2で、20点と30点のグラフを探す。2つの確率はどちらも1/2へ寄っていき、差は0.01を切って、4,000回の試行で測れる限界に近づいた。それでも、どの段階でも同じ段のほうが勝っていた。

3人が探索をやめた理由は、結果だけではない。かりに反例らしいものが見つかっても、辺が100本なら部分グラフは通りあり、全部は数えられない。試行で言えるのは99.99%の確信があるといった確率の話までで、証明にはならない。パクはブログで、数学の雑誌の多くはそうした「ファイブシグマの反例」を読もうともしないだろうと書き、本音を続けた。「博士課程の学生に要るのは、理論の上の職ではなく現実の職だ。本当はそれでやめたのだ」。
転機は2024年6月に来た。ケンブリッジ大学のローレンス・ホロム(Lawrence Hollom)が、予想をハイパーグラフへ広げた形を破る、10点の小さな例をarXivに公開したのである。Quantaの取材にグラドコフが語ったところでは、夜にこの論文を見つけて午前3時まで読み、「すごい、これはとんでもない」と思ったという。翌日、ジミンとの電話で話が始まる。この例を、普通のグラフに作り直せないか。
4か月後にarXivに出た論文は、リゲットに捧げられている。反証を見ることなく亡くなったからだ。雑誌『PNAS』に載ったのは2025年6月である。
注に残った1985年の問いかけ
予想の出どころは、論文の本文ですらない。2001年、ヤコブ・ファン・デン・ベルク(Jacob van den Berg)と、カーン=カライ予想で知られるジェフ・カーンが、『The Annals of Probability』に4ページの論文を載せた。その注に、定理の動機がこう書いてある。「故P. W. カステレインから聞いた予想(個人的なやりとり、1985年ごろ)」。後の論文がこぞって出典に挙げるのは、この短い注である。会話の席で聞いたのか、手紙だったのかは、注からは分からない。パクも自分のブログで、起源ははっきりしないと書いている。
注の書き方は、今の形と少し違う。同じグラフを2枚用意し、点の集合で貼り合わせて、どの辺も写しと同じ確率で残す。そのうえで、同じ写しの2点のほうが、違う写しの2点よりつながりやすいと述べている。二段ベッドという語は、この注にはまだ無い。
ピーテル・カステレイン(Pieter Kasteleyn)は1924年にオランダのライデンで生まれ、生涯をこの町で過ごした物理学者である。シェルの研究所で二量体の数え上げの方法を編み出し、1963年にライデン大学の教授になった。フォルタインとのランダムクラスターモデルでパーコレーションとイジング模型を結びつけ、ジニブルを加えた3人で1971年にFKG不等式を証明した。四色問題にも長年挑み、計算機に先を越された人でもあった。1985年に早めに退官し、1996年に亡くなった。

3人の論文によると、カステレインがこの問いに行き着いたのは、正方格子のパーコレーションで、離れた点ほどつながりにくいのかを考えたからだ。パーコレーションは、グラフの各辺を確率で残し、残りを消す模型である。長さや形を忘れて、つながり方だけを問う見方は、ケーニヒスベルクの橋にまでさかのぼる。
今の書き方では、有限の連結なグラフと点の集合を決める。を2段に重ね、の点だけ上下を柱でつなぐ。柱は消さず、2つの段の辺だけを、それぞれ独立に確率で残す。このときの確率をと書く。
とは下の段の点、はの真上の点である。どのとでも、のどのでも成り立つ、というのが予想だった。
証拠は積み上がっていった。オッレ・ヘッグストレーム(Olle Häggström)は、ランダムウォークとイジング模型で同じ向きの不等式を証明した。予想そのものも、車輪、完全グラフ、完全二部グラフでは正しいと分かり、柱が1本か2本ならどのグラフでも成り立つ。2023年の論文では、トム・ハッチクロフトらが、有限グラフごとにを1に十分近づければ成り立つことを示した。その近さはグラフによって変わるので、の反例と矛盾はしない。
では、穴はどこにあったのか。手がかりは、予想を広げた形にあった。ホロムは広げた形を3つ調べ、どれも正しくないと示す。ハイパーグラフもその例で、辺の代わりに、3点をまとめてつなぐ「三角形」を使う。
点はの10個、三角形は6つ、柱はの3本。各三角形を、コインを投げて下の段か上の段の一方にだけ置くと、置き方は通りになる。数えると、が同じ段のにつながるのは12通り、真上のにつながるのは13通りで、向きが逆転する。
ただし、ホロムの例は元の予想の反例ではない。三角形は3点を「全部つなぐ」か「何もつながない」かの二択で、普通の辺をどう組み合わせても、この動きは作れないからだ。グラドコフとジミンは、その不可能性をすでに調べていた。3人の仕事は、完全な三角形をあきらめ、不完全な部品でも逆転が残るようにすることだった。
三角形を扇に置き換える
反例を示すには、グラフを1つ作り、あるで不等式の向きが逆だと証明すればよい。3人の証明は2段構えである。まず「三角形が不完全でも、ある条件を満たせば逆転は残る」という補題を示し、次にその条件を満たす部品を作る。ここでは筋を追い、細かい場合分けは論文に譲る。
三角形の3点を、柱のある点と、残りのとする。三角形を何かのグラフに置き換えると、の分かれ方は5通りになる。全部つながるのが、どれもつながらないのが、だけ離れてとがつながるのが、片方だけとつながるのがとで、この2つは等しいとする。完全な三角形ならとだけが残る。
6つの三角形は、道に沿って順に並ぶ。この道は柱のある点を通らない。
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鍵になるのは次のである。と、とがどれだけ一緒につながりやすいかを測る量で、普通のグラフではハリス=クライトマンの不等式からになる
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補題の条件は、とが抜きでつながる確率がの400分の1以下であることだ
手順3から8の筋は、入れ替えられる組があればその先の三角形を上下に入れ替えて差を消し、消えずに残る場合をホロムの64通りと手順2の条件で見積もる、というものだ。
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1つの三角形の上下の状態の組は25通りある。を含まない16通りのうち、と、それぞれの上下を逆にした組を除く12通りを「入れ替えられる組」と呼ぶ
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入れ替えられる組が1つでもあれば、道に沿って最初のものを選び、そこから先の三角形をすべて上下入れ替える(組の種類によっては、その三角形も含める)。同じ段につながる場合と違う段につながる場合が1対1に対応し、確率も変わらないので、この場合に絞った確率では差が消える
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組は、に読み替えると同じように入れ替えられる。確率が釣り合わないので、逆向きの読み替えには確率をかける。これで差はまた消え、の組には重みだけが残る
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差が残るのは、すべての三角形が「片方の段で全部つながり、もう片方で何もつながらない」か、を含むときだけである。前者がそろう事象をとすると、ホロムの模型そのものになる
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の混ざる割合を押さえる。差が残る場合に絞ると、条件から三角形1つあたり以下になるので、6つでは次のとおり
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合わせると差は負になる。の外では差は高々1だから、絞った場合の差は次のように押さえられる
手順4と5の場合の差は0なので、全体の差も負になる。これで補題が言えた。あとは条件を満たす部品を作ればよい。3人が選んだのは扇形のグラフである。点と道を用意し、をすべてのと結ぶ。点は個、辺は本で、、とし、どの辺も確率1/2で残す。
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とが抜きでつながるのは、道の本がすべて残り、から出る本がすべて消えるときだけである
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漸化式を解くと、とがつながる確率はになり、3点がつながる確率は次のとおりである
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に代入すると、がかかるのはの第2項だけで、ここが効く
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3人はを満たすように、と置いた。三角形を扇に替えると、元の10点に内側の点が1,202個ずつ加わる
できたグラフは平面グラフで、柱はの3本のままだ。1柱が3本というのは、予想が破れる最小の本数でもある。
完全な証明は論文にあり、3人は補題の場合分けを計算機でも確かめて、コードを公開している。ただ、証明そのものは計算機に頼らない。ホロムの64通りは手で数えられる大きさで、残りは式の評価だけで済むからだ。
なお、柱も確率で残す版の予想も同じ考え方で破れ、差は柱3本の反例よりさらに小さい。『PNAS』の版では、柱がほぼ確実に立つように部品を増やし、点と辺がそれぞれ100万未満のグラフにした。パクのブログにある7,523点とは、この版を扱ったarXivの第1版に沿った値である。Quanta Magazineはこのを7,222点のグラフの差として書いているが、柱3本を固定した論文の評価は「より小さい」である。
12通りと13通りを手で数える
柱が1本なら、予想は3行で証明できる。柱のある点をとする。
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違う段へは必ずを通る
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同じ段では、を通る場合がその一部になる
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ハリス=クライトマンの不等式を使う
しかし柱が3本になると、この議論は使えない。何が起きるかを64通りで見る。三角形を道の順に、、、、、と呼ぶ。
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が上ならは孤立するので下に決める
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が下なら、上ならだけが行き先になる
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が下ならの柱が使え、どちらもつながる
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が上の8通りを1つずつ調べる
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合計する
手順7の8通りのうち、3通りは両方につながり、2通りはどちらにもつながらない。差を生むのは残る3通りである。
がすべて下なら、下の段をと進んでに着き、が下ならに届く。ところがの柱で上がっても先が無く、が上だと届かない。
逆にだけが上なら、でへ進み、柱で上がってに着く。が下のままが上なら、の柱ですぐ上がり、でへ行ける。この2通りは、が上のときだけ届く。
つまり、上へ抜ける道が2通りあるのに、下に留まる道は1通り。逆転の正体はこの1通りの差だった。
次に、扇を入れた反例で差の大きさを見積もる。証明の手順6で残るのは、上下どちらかの向きでがそろう場合だから、三角形1つあたりの確率はである。
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のを求める
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6つの三角形がそろう確率を出す
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逆転のをかける
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標準誤差がを切る回数を出す
は、1回の試行で同じ段だけにつながれば、違う段だけにつながれば、それ以外は0とした量の標準偏差で、この反例ではになる。は、推定の95%信頼区間(±2標準誤差)の端がちょうど0に届く回数の目安で、毎回の結果をそのまま平均する場合の値だ。ここまでは当サイトの計算である。有理数のまま厳密に計算するとで、見積もりとほぼ一致し、論文の「より小さい」とも合う。差は小数第4332位に初めて現れる。
2段の辺は合わせて28,884本あるので、全部の場合を並べると通りになる。試行で見分ける回数は、それより31桁少ないだけだ。厳密な値を出せるのは、扇1つを5通りの分かれ方の確率に束ねられるからで、2段の12個を組み合わせても通りで済む。
6つの三角形では差が1/64なので、およそ6,400回で符号が見え始める。82点の反例では、100万回試しても推定は0のまわりを揺れるだけである。
差が見えないとき、何回試すか
反例そのものは、通信網の設計を何も変えない。差が小数第4332位に現れても、どの装置の性能にも効かないからだ。それでも、この話から持ち帰れる計算が1つある。2つの確率の差を試行で見分ける回数は、差の逆数の2乗で増える。
たとえばウェブページのA/Bテストで、申込率3.0%と3.3%を見分けるには、先ほどの2標準誤差の目安で、1群あたり約2万7000人が要る。差が10分の1の3.00%と3.03%なら、約260万人。およそ100倍である。ビュフォンの針で円周率の精度を1桁上げるのに試行が100倍要るのも、同じの壁だ。
2棟の建物を結ぶ通信網でも数字を見ておく。棟ごとに9台を3×3の格子につなぎ、四隅のうち3隅を棟どうしケーブルで結ぶ。ケーブルは切れないものとし、棟の中の各リンクは独立に確率で生きているとする。残りの1隅の端末から、同じ棟の中央へ届く確率と、別の棟の中央へ届く確率を、通りすべて数えて比べた(当サイトの計算)。
なら0.514と0.351で、30回あまりの試行で差が見える。なら0.98796と0.98763で、差はまで縮み、必要な試行は約2万2000回に増える。通信網が丈夫になるほど、棟の違いは見えにくい。
ケーブルの位置を変えると、差が消えることもある。を隅、を対角の隅に置き、の隣の2台との隣の1台にケーブルを引く。するとからの道は必ず柱のある点を通るので、その先を上下入れ替えられ、差はちょうど0になる。の計算でも、どちらも0.39084で一致した。
通信網が大きくなると、全部は数えられない。2点がつながる確率の計算は#P困難だと、プロヴァンとボールが1983年に示している。だから試行に頼るのだが、差が見えないときに言えるのは「差はより小さいらしい」までだ。差が無いとは言えない。試行を増やす前に、差の大きさの見当を式でつけておくと、見込みのない計算に時間を使わずに済む。
柱と確率を動かす問題
例題 1基本三角形1つと柱1本
点の三角形を2段に重ね、だけ上下を柱でつなぐ。各段の辺はそれぞれ確率1/2で残す。
(1)を求めよ。
(2)を求めよ。
(3)差を求めよ。
解説を見る
(1)上の段へ渡っても、戻るには同じ柱を通るので、下の段だけで考えてよい。直接の辺か、を経由する道のどちらかが残ればよい。
(2)とが下の段で、とが上の段でつながればよい。2つの段は独立で、どちらも(1)と同じ確率になる。
(3)予想の向きである。
例題 2入試試行で6つの三角形の差を見分ける
ホロムの模型では、で、2つの事象は同時には起きない。1回の試行で、同じ段につながれば、違う段につながれば、どちらでもなければとする。
(1)の期待値を求めよ。
(2)の分散を求めよ。
(3)回の平均の標準誤差の2倍が、期待値の大きさより小さくなる最小のを求めよ。
解説を見る
(1)確率を引くだけである。
(2)は、どちらかの事象が起きたとき1になる。
(3)をについて解く。
最小のは6397である。
例題 3難関扇の漸化式
点と道からなる扇で、どの辺も確率1/2で残す。とがつながる確率をとする()。
(1)辺で場合を分け、の漸化式を作れ。
(2)を求めよ。
(3)の値を求めよ。
解説を見る
(1)辺が残れば、とはつながる。消えたときは、辺が残り、かつとがつながればよい。
(2)不動点は2/3である。差は1回ごとに1/4倍になる。
(3)代入する。
例題 4大学量Δを書き直す
5通りの確率の和は1である。、とする。
(1)次の式を示せ。
(2)の扇では、である。の値を求めよ。
解説を見る
(1)をの定義に代入して展開する。
第2項から第5項までがにまとまる。
(2)を使う。
このときで、条件の400には遠い。
例題 5大学条件の400を詰める
補題の条件をに変える。
(1)証明の手順7と8の評価がそのまま通る最小の整数を求めよ。
(2)そのとき、を満たす最小のと、グラフの点の数を求めよ。
解説を見る
(1)三角形1つあたりの割合は以下になる。となればよい。
最小のは390である。
(2)からとなる。点の数は次のとおり。
論文の7,222点は、評価を丸めた分だけ大きい。実際に符号が変わる大きさは、次の章で見るようにもっと小さい。
符号が変わるのはn=14
差を有理数のまま計算して並べた(当サイトの計算)。までは同じ段が勝ち、差は。で初めて符号が変わり、差はになる。このとき点は82個で、論文が挙げる「82点」「差はの程度」と合う。をさらに増やすと、差は1増えるごとに3桁あまり縮み、が大きければ約3.6桁になる。にがかかるからだ。
証明に要るに比べ、境目はずっと手前にある。ではは4.4ほどで、条件の400に遠く及ばなくても逆転は起きる。ただし、これは扇を使う作り方の中での境目で、論文も82点が最小とは言っていない。辺ごとに確率を変えてよければ、論文は28点で差が程度の例も挙げている。どこまで小さな反例があるのかは、まだ分かっていない。
64通りを自分で数える
番号を押すと、その三角形が下の段と上の段のあいだを移る。太い線と濃い斜線がにつながっている部分で、かまで届くかが読み出しに出る。表は64通りの全部で、横の並びが三角形2から5の置き方、行が三角形1と6の置き方である。「順に数える」を押すと表が埋まり、最後に、1行目と2行目で食い違う3つの列を順に見せる。
2点がつながる確率を比べる場面
- 数学 どのグラフで予想が成り立つかを分類するときに、差を辺の確率の多項式として調べる。3人の論文は反例が平面グラフであることをわざわざ強調した。平面なら成り立つかもしれないと推測されていたからだ。
- 物理学 格子の上で離れた2点がつながる確率、いわゆる2点関数が距離とともに減るかを調べるときに、この問いが出発点になる。予想が正しければ単調性がすぐに出るはずだったが、今も一般には分かっていない。が0に近い場合とイジング模型では単調性が示されている。
- 情報科学 通信網のリンクが確率で切れるときに、2点がつながる確率を見積もる計算で使う。総和は通りに及ぶので、モンテカルロ法がよく使われる。パクは、差を数え上げる問題が計算量のクラス#Pに入るかという問いから、この予想に戻ってきた。
グラフを替えて問い直す
- 2025年 ケーニヒとリヒトハンマー(パーダーボルン大学):と直線の積で、層が離れるほどつながりにくいかを調べた。有限のでは、あるから先のすべてのでを証明している。正方格子はが無限の直線の場合にあたり、カステレインの出発点にはまだ届いていない。出典はarXiv:2207.13173。
- 2025年 アイヤー(インド理科大学院)、リヌソン(スウェーデン王立工科大学)、ラヴィチャンドラン:辺の集合の重みをとするランダムクラスターモデルへ問いを広げた。は連結成分の数で、がパーコレーションにあたる。3人の扇を使うとで予想は破れ、完全グラフやの結果はすべてので成り立つ。出典はarXiv:2509.18788。
- 2025年 プシビウォフスキ(オックスフォード大学):矢印の向きにたどる有向グラフでは、閉路が無ければ帰納法で証明できるのではないかと期待されていた。この期待を、多重辺も閉路も無いグラフの反例で破った。リアンダー(Leander)とホロムの予想に決着をつけた形である。出典はarXiv:2506.22284。
- 2026年 グラドコフ(UCLA)とジミン(MIT):三角形を普通の辺で作れない理由を定理にした。どんなグラフのどの3点でも、か、のどちらかになる。近似でも作れないことも示しており、反例の証明が5通りの分かれ方を許す補題を必要としたのは、この壁があるからだ。出典はarXiv:2404.08873。
参考文献
- N. Gladkov, I. Pak, A. Zimin, "The bunkbed conjecture is false", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 122(24) (2025), e2420725122 (arXiv:2410.02545, 2024).
- L. Hollom, "The bunkbed conjecture is not robust to generalisation", European J. Combin. 128 (2025), 104188 (arXiv:2406.01790, 2024).
- J. van den Berg, J. Kahn, "A correlation inequality for connection events in percolation", Ann. Probab. 29 (2001), 123-126, Remark 5.
- O. Häggström, "On a conjecture of Bollobás and Brightwell concerning random walks on product graphs", Combin. Probab. Comput. 7 (1998), 397-401; O. Häggström, "Probability on bunkbed graphs", Proc. FPSAC (2003); S. Linusson, "On percolation and the bunkbed conjecture", Combin. Probab. Comput. 20 (2011), 103-117; T. Hutchcroft, P. Nizić-Nikolac, A. Kent, "The bunkbed conjecture holds in the p↑1 limit", Combin. Probab. Comput. 32 (2023), 363-369.
- I. Pak, "The bunkbed conjecture is false", Igor Pak's blog (1 October 2024); I. Pak, "On faith, religion, conjectures and Schubert calculus", Igor Pak's blog (29 December 2024); J. Howlett, "Math's 'Bunkbed Conjecture' Has Been Debunked", Quanta Magazine (1 November 2024).
- F. den Hollander, "Piet Kasteleyn, 1924-1996", J. Stat. Phys. 85 (1996), 801-805(ライデン大学ローレンツ研究所の掲載); J. S. Provan, M. O. Ball, "The complexity of counting cuts and of computing the probability that a graph is connected", SIAM J. Comput. 12 (1983), 777-788; A. Z. Wagner, "Constructions in combinatorics via neural networks", arXiv:2104.14516 (2021).
- P. König, T. Richthammer, "Monotonicity properties for Bernoulli percolation on layered graphs: a Markov chain approach", Stochastic Process. Appl. 181 (2025), 104549 (arXiv:2207.13173, 2022); A. Ayyer, S. Linusson, M. Ravichandran, "The bunkbed problem and the random cluster model", arXiv:2509.18788 (2025); T. Przybyłowski, "The acyclic directed bunkbed conjecture is false", European J. Combin. 132 (2026), 104289 (arXiv:2506.22284, 2025); N. Gladkov, A. P. Zimin, "Bond percolation does not simulate site percolation", Electron. Commun. Probab. 31 (2026), 1-16 (arXiv:2404.08873, 2024).
注
-
Quanta MagazineとUCLAのニュースは辺の数を14,422本と書いているが、論文の定理は14,442本で、とも合う。 ↩