地球の中心までの千分の一
同じ高さから同時に、片方の球をそのまま落とし、もう片方を真横へ速く投げる。先に床へ着くのはどちらだろうか。
答えは同時である。初速が変えるのは届く距離だけで、落ちるまでの時間は高さで決まる。
この運動を横と縦の2つに分けたのがガリレオ・ガリレイである。1638年の『新科学対話』の第4日で、ガリレオは台の端を越えた球を考えた。横には同じ速さで進み続け、そこへ鉛直方向の落下が加わる。等しい時間ごとに横の距離は1、2、3と増え、縦の距離は1、4、9と増えるので、道筋は放物線の半分になる。
もちろん反論は出る。物が落ちていく先は地球の中心なのに、放物線は中心から離れていく。水平な線も、端へ行くほど中心から遠ざかる。対話の語り手サルヴィアチはどちらも認めたうえで、こう答えた。大砲の射程でも4マイルを超えず、地球の中心までは4,000マイルある。その範囲なら放物線の形はほとんど変わらない。
横は等速、縦は自由落下
投げた点を原点にして、水平に軸、鉛直下向きに軸をとる。は下向きを正とするので、公式のは落ちた距離そのものである。は初速の大きさ、は重力加速度の大きさで、空気の抵抗は考えない。
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水平方向には力がはたらかず、速度が変わらない
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等速直線運動の式でを書く
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鉛直方向は初速度0、加速度で動く
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等加速度直線運動の式でを書く
手順4の式に、は入っていない。
だから、真横へどれだけ速く投げても、同じ時刻の高さは変わらない。では、床まで何秒かかるのか。高さの台から投げるとして、にを入れる。
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落ちた距離を台の高さとおく
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について解く
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手順2に代入して飛距離を出す
初速を2倍にすると飛距離も2倍になる。ところが高さを2倍にしても、飛距離は倍、約1.4倍にしか伸びない。
道筋の形は、2本の式からを消せば分かる。
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手順2をについて解く
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手順4に代入する
つまりはの2次関数で、軌道は放物線である。上向きを正にとる本では、高さから投げた物の高さをと書くが、軸の向きを替えても符号が変わるだけで運動は同じだ。
着地の速さには、落下時間と違って初速が効く。
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手順3に手順6のを入れる
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2つの成分を三平方の定理で合わせる
手順11までは、地面を平らとして計算した。しかし地面は、サルヴィアチも認めたとおり丸いので、速く投げるほど足元の地面が先に逃げていく。球が落ちなくなる速さは、次のように出せる。
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半径の地面が先で下がる量をとする
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展開して、小さいを無視する
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落ちた距離と地面の下がりを等しいとおく
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を消してについて解く
1秒で7.9 km進めば落ちない
手順15に m/s²、 mを入れると、 km/sになる。球は1秒で4.9 m落ちるが、7.9 km先の地面も4.9 m下がっている。
球は、いつまでも地面に届かない。
高い山の上から水平に撃ち出す話は、アイザック・ニュートンが『プリンキピア』の定義5に書いている。空気の抵抗がなければ、速くするほど遠くへ届き、やがて地球をひと回りするという思考実験だ。死後の1728年に出た『世界の体系』にも、同じ話が出てくる。万有引力の法則では重力を向心力として同じを導くが、水平投射の2本の式でも答えにたどり着ける。
サルヴィアチの見積もりも、手順13で確かめられる。地球の半径の1,000分の1にあたる6.4 km先でも、地面の下がりは約3.2 mで、進んだ距離の2,000分の1にすぎない。大砲の放物線に丸い地面を持ち込まなかったのは、もっともな判断だった。
もっと身近な使い方もある。たとえば水鉄砲の初速は、巻尺1本で測れる。高さ1.2 mから水平に撃って5.0 m先に水が届いたなら、手順6から落下時間は約0.49 sで、初速は約10 m/sになる。時計が要らないのは、時間を高さから出せるからだ。
ただし、空気の抵抗を受ける水の値は目安にとどまる。サルヴィアチも、空気の抵抗だけは物の形や重さや速さで無数に変わり、正確な法則にできないと認めている。
高さと初速を入れ替えて解く
例題 1基本崖から水平に投げる
高さ19.6 mの崖の上から、小球を水平に速さ15 m/sで投げた。重力加速度の大きさを9.8 m/s²とする。(1)海面に達するまでの時間(2)崖の真下の点から着水点までの水平距離(3)着水の直前の速さを、有効数字2桁で求めよ。
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(1)手順6にを入れる。
(2)横は等速なので、次の距離を進む。
(3)鉛直方向の速さは m/sである。水平方向の15 m/sと合わせる。
例題 2基本飛距離は何倍になるか
高さから初速で水平に投げると、落下時間は、飛距離はだった。高さを、初速をにすると、落下時間と飛距離はそれぞれ何倍になるか。
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手順6から、落下時間はに比例し、初速によらない。
手順7から、飛距離はに比例する。
例題 3入試斜面に落ちる球
水平面と30°をなす長い斜面の上端から、斜面が下っていく向きへ、小球を水平に初速 m/sで投げた。重力加速度の大きさを9.8 m/s²とする。(1)小球が斜面に落ちるまでの時間を求めよ。(2)投げた点から落下点までの斜面に沿った距離を求めよ。(3)小球が斜面から最も離れる時刻を求めよ。答えは有効数字2桁とする。
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(1)落下点では、落ちた距離と進んだ距離の比が斜面の傾きに等しい。
なので、について解く。
(2)落ちた距離は mである。斜面に沿った距離は、これをで割る。
(3)速度が斜面と平行になるときに最も離れるので、となる。
落ちるまでの時間のちょうど半分である。
例題 4入試月でも同じ距離に落ちる
なめらかな坂を高さだけ下りた小球が、高さの水平な台の端から飛び出した。(1)飛び出す速さを、とで表せ。(2)床に落ちるまでの水平距離を、とだけで表せ。(3) m、 mのときの水平距離を求めよ。
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(1)力学的エネルギーの保存から求める。
(2)手順7に代入する。
(3)数値を入れる。
答えにが残らない。重力が約6分の1の月へ持っていっても、速さと時間の変化が打ち消し合い、落ちる場所は同じになる。
弾ませる、ぶつける、速さを比べる
- 2026年 物理チャレンジ 第1チャレンジ 理論問題 総合コース 問16:速さの違う2つの小物体を、同じ高さから同じ向きへ同時に水平に打ち出し、空中で弾性衝突させる。衝突後に片方が鉛直に落ちる条件から質量比を求め、どちらが先に着地するかを答える。出典は物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ2026の第1チャレンジ理論問題コンテスト(総合コース)」。
- 2021年 物理チャレンジ 第1チャレンジ 理論問題 問4:同じ高さから同じ速さで、一方を下向きに、もう一方を水平に投げたとき、地面にぶつかる速さの関係を選ぶ。出典は物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ2021の第1チャレンジ理論問題」。
- 2017年 物理チャレンジ 第1チャレンジ 理論問題 第2問 問3:高さから水平に投げ出した小球が、なめらかな床で弾む。水平方向と鉛直方向の速さが時間とともにどう変わるかを、グラフから選ぶ。出典は物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ2017の第1チャレンジ理論問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第2節「物理基礎」3(1)ア(イ)㋓、50、52ページ。第3節「物理」3(1)ア(ア)㋑、64-65ページ
- Galileo Galilei, Dialogues Concerning Two New Sciences, trans. H. Crew, A. de Salvio, The Fourth Day, Dover (1954), pp. 244-295
- I. Newton, The Mathematical Principles of Natural Philosophy, trans. A. Motte, Definitions, Definition V
- I. Newton, A Treatise of the System of the World, London(1728)。University of Oklahoma Libraries「A Treatise of the System of the World」
- 物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ」2017年、2021年、2026年の理論問題