電荷のふりをした数
過マンガン酸イオンでは、マンガンの酸化数は+7だが、マンガンの原子が+7の電荷を帯びて4つの酸素を引きつけているわけではない。マンガンと酸素は電子を出し合って結合している。共有する電子をすべて酸素側に寄せたと仮定したとき、マンガンに残るはずの電荷が+7なのだ。
国際純正・応用化学連合(IUPAC)の文書では、この数は「酸化状態」の名で定義されている。その定義が勧告として出たのは、2016年8月のことである。勧告の要約によれば、それまで酸化状態は、計算の手順か、決めごととして置いた値で定められてきた。2014年の技術報告では、結合した原子の酸化状態は「イオン結合とみなしたときの電荷」とされ、決め方として、組成式から出す方法と、構造式の結合を1本ずつ割り振る方法の2つが挙がっている。高校で習う決め方も、ちょうどこの2つにあたる。
組成式から1つの未知数を解く
決まりは次のとおりである。単体の原子は0、単原子イオンはイオンの電荷に等しい。化合物中の水素は+1、酸素は−2を基本とする。そして化合物では酸化数の合計が0、多原子イオンでは合計がイオンの電荷になる。過マンガン酸カリウムのマンガンで試すと、カリウムはとして+1になる。
-
マンガンの酸化数をとおき、合計を0とする
-
について解く
-
多原子イオンでは、合計をイオンの電荷とおく
-
について解く
では、「酸素は−2」を当てはめると合わない物質では、どう決めるのか。過酸化水素がその例だ。
-
酸素を−2とおくと、合計が0にならない
-
構造式に戻り、O−Hの電子は酸素へ、O−Oの電子は半分ずつ割り振る
同じ割り振りをすると、水素化ナトリウムの水素は−1になる。水素はナトリウムより電気陰性度が大きく、結合の電子を水素側に寄せるからだ。二フッ化酸素では、酸素のほうが電子を手放して+2になる。つまり、水素が+1になるのは相手の電気陰性度が水素より大きいとき、酸素が−2になるのは相手が酸素より小さく、酸素どうしの結合もないときに限られる。
-
酢酸を組成式で見て、炭素の平均を出す
-
構造式で1つずつ数えると、2つの炭素は−3と+3になる
手順7の0は、−3と+3の平均にすぎない。組成式から出るのは平均で、どの原子がいくつなのかは、構造式を見ないと分からないのである。四酸化三鉄の鉄も、平均をとるとで整数にならない。結晶にはとが1 : 2の割合で入っていて、その平均を見ていることになる。
電子の出入りを数えて係数を決める
酸化数のいちばんの使い道は、酸化還元反応で電子の数をそろえることだ。酸化数が増えた原子は酸化され、減った原子は還元されている。硫酸で酸性にした過マンガン酸カリウム水溶液に過酸化水素水を加えると、マンガンは+7から+2へ5減り、酸素は−1から0へ1ずつ増える。過酸化水素1分子では2増えるので、増減をそろえる比はになる。
酸化数の幅を見ると、どちらに働くかも読める。過酸化水素では酸素が−1で、これは単体の0と水の−2のあいだにある。だから過マンガン酸カリウムのような強い酸化剤が相手なら0へ上がって還元剤に、ヨウ化カリウムが相手なら−2へ下がって酸化剤になる。文部科学省の学習指導要領解説も、代表的な酸化剤と還元剤の例として、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、ヨウ化カリウムを挙げている。
ところで、化合物の名前にも酸化数が入っている。酸化マンガン(IV)のIVはマンガンの酸化数+4のことで、同じ元素の酸化物が何種類もあるときの呼び分けに使う。
滴定で濃度を出す計算の筋は、中和の量的関係と変わらない。ビュレットの読みから物質量を出し、電子数の比で相手の物質量に直せばよい。
塩素は+1にも+5にもなる
例題 1基本指定した原子の酸化数
次の物質で、指定した原子の酸化数を求めよ。(1)次亜塩素酸の塩素(2)塩素酸イオンの塩素(3)塩素の塩素(4)水素化カルシウムの水素
解説を見る
(1)合計を0とおく。
(2)合計をイオンの電荷とおく。
(3)単体なので0。
(4)カルシウムはとして+2なので、水素をとおく。
同じ塩素でも、相手と数によって+5から0まで動く。
例題 2基本エタノールの2つの炭素
エタノールの2つの炭素の酸化数を、構造式から1つずつ求めよ。また、組成式から出す平均と比べよ。
解説を見る
炭素は水素より電気陰性度が大きく、酸素より小さい。C−Hの電子は炭素へ、C−Oの電子は酸素へ寄せ、C−Cは半分ずつ分ける。
の炭素は、C−Hが3本なので−3。の炭素は、C−Hの2本で−2、C−Oの1本で+1なので、合わせて−1になる。
組成式からは次の平均が出る。
−3と−1の平均で、確かに−2である。エタノールが酸化されて酢酸になると、−1だった炭素が手順8の+3になり、酸化数が4増える。
例題 3入試過酸化水素を滴定する
0.0500 mol/Lの過酸化水素水10.0 mLを硫酸で酸性にし、0.0200 mol/Lの過マンガン酸カリウム水溶液で滴定した。(1)マンガンと酸素の酸化数は、それぞれいくつからいくつに変わるか。(2)過不足なく反応するまでに加えた過マンガン酸カリウム水溶液の体積を求めよ。
解説を見る
(1)マンガンは+7から+2に、過酸化水素の酸素は−1から0に変わる。
(2)過酸化水素の物質量を出す。
応用の章の式から、は過酸化水素の倍の物質量で過不足がない。
体積は L、つまり10.0 mLである。
例題 4入試鉄が少し足りない酸化物
ある鉄の酸化物の組成式はだった。鉄はとだけ、酸素はだけとする。(1)鉄の酸化数の平均を、小数第2位まで求めよ。(2)鉄原子のうちの割合を、百分率の整数で求めよ。
解説を見る
(1)鉄の平均をとおき、合計を0とする。
(2)を、をとすると、数と電荷の2つの式が立つ。
解くと、。割合はで、約11%になる。鉄が足りない分を、一部の鉄が+3になって埋めている。
ホウ砂からバナジウムまで
- 2022年 化学グランプリ 一次選考 問題1〔問ウ〕:ホウ砂に含まれるホウ素の酸化数を選ぶ。解答の解説は、陰イオンの合計をイオンの電荷とおいて解いている。出典は化学グランプリ「化学グランプリ2022の一次選考問題」。
- 2022年 化学グランプリ 一次選考 問題3〔問ア〕:16族元素についての記述から、最も不適切なものを選ぶ。選択肢には、の6つの硫黄の酸化数がすべて+0.333になるという記述がある。解答の解説によれば、塩素と結合した2つの硫黄が+1、残りの4つは0で、平均と原子ごとの値の違いが問われた。出典は化学グランプリ「化学グランプリ2022の一次選考問題」と解答。
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎 第1問 問9:硫酸イオン、硝酸、酸化マンガン(IV)、アンモニウムイオンの中で決められた原子について、酸化数がいちばん大きいものを選ぶ。出典は大学入試センター「令和6年度 本試験の問題」。
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第5問 問3 a:原油に含まれるバナジウムを題材に、オキシドバナジウムイオンのバナジウムの酸化数を選ぶ。出典は大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」。
- 2026年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第3問 問1:水素の酸化数が水の水素と異なる化合物を、、、、から選ぶ。金属の水素化物の例外を知っているかが問われる。出典は大学入試センター「令和8年度 本試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第4節「化学基礎」3(3)ア(イ)㋑ 酸化と還元、92-93ページ
- IUPAC「Comprehensive definition of oxidation state」(P. Karen, P. McArdle, J. Takats, Pure and Applied Chemistry 88 (2016), 831-839、2016年8月)
- P. Karen, P. McArdle, J. Takats, "Toward a comprehensive definition of oxidation state (IUPAC Technical Report)", Pure and Applied Chemistry 86 (2014), 1017-1081。要約はゴールウェイ大学「Research Repository」
- 化学グランプリ「化学グランプリ2022一次選考問題」「一次選考解答」
- 大学入試センター「令和6年度 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎」「令和7年度 本試験 化学」「令和8年度 本試験 化学」