どの組でも同じ中和熱
塩酸を水酸化ナトリウムで中和しても、硝酸を水酸化カリウムで中和しても、出る熱は変わらない。強い酸と強い塩基の薄い水溶液なら、どの組でも水が1 molできるごとに同じ熱が出る。スヴァンテ・アレニウスは1903年12月11日のノーベル化学賞の受賞講演で、この値を18 °Cで13,600カロリーと紹介し、熱化学で見つかった中で最も法則に忠実な現象だと語った。今の単位に直せば約57 kJになる。
理由は、アレニウスの電離説で読むと短い。強い酸も強い塩基も、薄い水溶液ではほぼすべてイオンに分かれている。中和で実際に起きるのはだけで、酸と塩基の種類によらない。だから中和の量を決めるのも、酸や塩基の粒の数ではなく、やりとりされるとの数になる。
H⁺とOH⁻の数をそろえる
酸の価数は、酸1個が出せるの数である。塩化水素は1、硫酸は2、シュウ酸は2。酢酸は水素原子を4個もつが、出せるのはカルボキシ基の1個だけなので1価だ。塩基の価数は、塩基1個が出す、または受け取るの数で、水酸化ナトリウムとアンモニアは1、水酸化カルシウムは2。酸の濃度を mol/L、体積を mLとし、塩基のほうをとで表す。
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酸が出すの物質量を書く
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塩基が出すの物質量を書く
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中和点では2つが等しい
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両辺に1000を掛ける
体積をmLのまま入れてよいのは、両辺に同じが掛かっていたからだ。0.050 mol/Lの硫酸10.0 mLを、0.10 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で中和してみる。
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価数と濃度と体積を入れる
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について解く
硫酸の濃度は半分だが、要る体積は同じになった。価数の2が、ちょうど埋め合わせている。ただし、片方が固体の質量や気体の体積で与えられたときは、手順1か2の形に戻り、mLをLに直してから物質量どうしを比べる。
では、酢酸のような弱酸ではどうか。0.10 mol/Lの酢酸は大部分が分子のままで、イオンに分かれているのはごく一部しかない。それでも、中和に要る水酸化ナトリウムの量は、同じ濃度の塩酸と変わらない。加えたがを取り去るたびに、残った酢酸が次々にを出すからだ。「化学」で習う言葉でいえば、電離平衡が右へ移っていく。
量の関係は同じでも、中和点の液性は違う。酢酸を中和した液には酢酸イオンが残り、水と反応してわずかにを生むので、塩基性に傾く。そのため指示薬には、塩基性の側で色が変わるフェノールフタレインを選ぶ。液性の強さを表す数はpHの定義で読める。
ビュレットの読みを濃度に戻す
滴定の器具の扱いも、から理由が読める。酸の水溶液をホールピペットで正確に mL取ってコニカルビーカーに移し、ビュレットから塩基を落としていく。コニカルビーカーは、純水でぬれたまま使ってかまわない。中の水で酸が薄まっても、取った酸の物質量は変わらないからだ。逆に、ホールピペットやビュレットの内側に水が残っていると、入る液そのものが薄まってやがずれる。だから、こちらは使う液で内側をすすいでから使う。
濃度の分からない水酸化ナトリウム水溶液は、先に標準溶液で濃度を決めておく。固体の水酸化ナトリウムは空気中の水分を吸い、二酸化炭素とも反応するので、量った質量から濃度を出せないのだ。そこで、純度が高く安定なシュウ酸二水和物から作った標準溶液で滴定する。0.0500 mol/Lのシュウ酸10.00 mLに9.80 mL要したなら、シュウ酸は2価なので次のようになる。
アンモニアや二酸化炭素のような気体は、ビュレットに入れて落とせない。そういうときは、量の分かった酸か塩基に気体を全部吸わせ、使われずに残った分を滴定で測る。これが逆滴定だ。アンモニアを酸に吸わせたなら、式は「はじめの酸が出す=アンモニアが受け取った+滴定で加えた」となり、右辺が1項増えるだけである。
価数は、畑にまく塩基の量にも効いてくる。炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムを主成分とする苦土石灰は、酸性に傾いた土の酸を中和するのに使われる。炭酸イオンはを2個受け取るので、どちらも2価の塩基として働く。1 kgあたりで中和できるは、炭酸カルシウム(式量100.1)で約20.0 mol、炭酸マグネシウム(式量84.3)で約23.7 mol。同じ重さなら、式量の小さい炭酸マグネシウムのほうが2割ほど多くの酸を受け止める。
2段の色の変化まで読む
例題 1基本2価の酸に要る塩基
0.10 mol/Lの硫酸15.0 mLを、0.12 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で中和する。要る体積を求めよ。
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硫酸は2価、水酸化ナトリウムは1価である。
例題 2基本食酢の酢酸の濃度
食酢10.0 mLを水で薄めて100 mLにし、そのうち10.0 mLを0.100 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定すると、7.20 mLで中和した。(1)薄める前の食酢に含まれる酢酸のモル濃度を求めよ。(2)食酢の密度を1.0 g/cm³、酢酸のモル質量を60 g/molとして、酢酸の質量パーセント濃度を求めよ。(3)指示薬にはメチルオレンジとフェノールフタレインのどちらが適するか。
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(1)酢酸は1価である。薄めた液の濃度をとする。
mol/Lで、10倍に薄める前の食酢はその10倍の0.720 mol/Lになる。 (2)食酢1 Lは1000 gで、酢酸を g含む。
(3)中和点の液は酢酸ナトリウムを含んで塩基性に傾くので、塩基性の側で色が変わるフェノールフタレインが適する。
例題 3入試二酸化炭素を水酸化バリウムに吸わせる
0.0050 mol/Lの水酸化バリウム水溶液100 mLに、0 °C、 Paで10.0 Lにあたる空気をゆっくり通し、二酸化炭素をすべて吸収させた。生じた炭酸バリウムの沈殿を除き、上澄み液20.0 mLを0.010 mol/Lの塩酸で滴定すると、12.5 mLで中和した。空気に含まれていた二酸化炭素の体積の割合は何%か。気体1 molの体積を22.4 Lとし、吸収で液の体積は変わらないものとする。
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反応はで、はじめの水酸化バリウムは mmolある。上澄み液20.0 mLに残った水酸化バリウムを mmolとすると、2価の塩基なので次の式が立つ。
mmolで、100 mL全体には5倍の0.3125 mmolが残っていた。二酸化炭素と反応したのは mmolで、体積に直すと4.2 mLになる。
10.0 Lの空気のうち4.2 mLなので、割合は次のようになる。
例題 4入試色が2回変わる滴定
水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムを含む水溶液20.0 mLにフェノールフタレインを加え、0.100 mol/Lの塩酸で滴定すると、15.0 mLで赤色が消えた。続けてメチルオレンジを加えて滴定すると、さらに5.0 mLで色が変わった。水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムのモル濃度を求めよ。
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1回目の終点までに、2つの反応が終わる。
2回目の5.0 mLは、できた炭酸水素ナトリウムだけを中和する。
炭酸ナトリウムは2価の塩基で、を2段に分けて1個ずつ受け取る。2段目の量から、炭酸ナトリウムは mmolある。1段目の15.0 mLのうち5.0 mLは炭酸ナトリウムの1段目に使われたので、水酸化ナトリウムは mmolである。
全体で見ると、塩酸20.0 mLの 2.0 mmolが、水酸化ナトリウム1.0 mmolと、2価の炭酸ナトリウム0.50 mmolの合計 mmolに等しく、の形に戻る。
強弱から逆滴定まで問う共通テスト
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎 第1問 問8:酸と塩基、酸性と塩基性についての4つの記述から、誤りを含むものを選ぶ。価数と物質量が同じ強酸と弱酸で、過不足なく中和するのに要る塩基の物質量を比べる記述が入っている。出典は大学入試センター「令和6年度 本試験の問題」。
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎 第1問 問6:0.10 mol/Lの酢酸10 mLに水10 mLを加え、2倍に薄める。これを0.10 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定したときの滴定曲線を、4つのグラフから選ぶ。中和点までの滴下量と、中和点の前後のpHの両方を読む。出典は大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」。
- 2024年 大学入学共通テスト 追試験 化学 第3問 問3 c:コバルトの錯塩を水酸化カリウム水溶液と煮てアンモニアを出し、1.00 mol/Lの希硫酸35.0 mLにすべて吸わせる。残った硫酸を1.00 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定する逆滴定で、要した20.00 mLから、コバルトのイオン1個に配位するアンモニアの数を求める。出典は大学入試センター「令和6年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第4節「化学基礎」3(3)ア(イ)㋐ 酸・塩基と中和、92-93ページ
- S. Arrhenius, "Development of the theory of electrolytic dissociation", Nobel Lecture(1903年12月11日)
- 大学入試センター「令和6年度 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎」「令和6年度 追・再試験 化学」「令和7年度 本試験 化学基礎」
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 追・再試験 化学基礎」第2問 問2・問3(シュウ酸の標準溶液と、水酸化ナトリウムの標準溶液を作りにくい理由)、「令和8年度 本試験 化学基礎」第2問 問1(苦土石灰の成分と使い道)