指数を読むための記号
濃度 mol/Lの塩酸のpHは、8ではない。pH 8なら塩基性で、酸を水に溶かした液が塩基性になるはずはないからだ。きちんと計算すると約6.98で、7よりわずかに小さい。
もっとも、濃度の指数を読むという発想そのものは正しい。1909年、デンマークのカールスベア研究所で化学部門を率いていたS・P・L・セーレンセンは、酵素の働きを調べる論文で、水素イオン濃度を10の負の累乗で表し、その指数を「水素イオン指数」と名づけた。今のpHは、この指数から始まっている。カールスベア研究所は、同じ名前のビール会社が支えていた研究所である。ChemTeamに載る英訳の抜粋によると、定義は水素イオンについての規定度の逆数の常用対数で、1規定より強い液はまれなので、たいていは正の数になる、という注がついている。
同じ抜粋によると、セーレンセンは水素イオンと水酸化物イオンの濃度の積に、研究所で測った平均、つまりを使った。論文が水の電離定数と呼ぶこの積は、今の水のイオン積にあたる。そこから、純粋な水と中性の液の水素イオン濃度はになる。最初に書かれた中性のpHは、7ではなく7.07だった。
10分の1ごとに1つずつ
は、水溶液1 Lに含まれる水素イオンの物質量(mol/L)を表す。強酸の塩酸は薄い液ではほぼすべて電離するので、塩酸の濃度がそのままになる。
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水素イオン濃度を10の累乗で書く
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指数のをpHとする
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手順1の両辺の常用対数をとる
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符号を変えて手順2と合わせる
化学基礎では、水素イオン濃度とpHのこの関係に触れる。 mol/LならpH 3と、手順2の形で読めるからだ。ただ、 mol/Lのように10の累乗でない濃度では、手順4の対数が要る。対数を習うのは数学IIで、文部科学省の数学の解説には、理科の学習に合わせて、指数関数と対数関数を数学IIのほかの内容より先に学ぶことも考えられる、とある。
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強酸の液を水で10倍に薄める
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商の対数を差に分ける
100倍に薄めれば2、1000倍なら3上がる。逆から見ると、pHが1違う2つの液は水素イオン濃度が10倍違い、pH 3とpH 5なら100倍になる。
では、なぜ酸をいくら薄めてもpHは7を超えないのか。水そのものも、わずかに電離してとを出すからだ。2つの濃度の積は温度で決まる一定の値になり、これを水のイオン積という。化学基礎は水の電離とpHの関係に触れるところまでで、水のイオン積を使う手順7から先の計算は、高校の「化学」の電離平衡で習う。
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25 °Cの水のイオン積を書く
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純水では2つの濃度が等しい
だから純水のpHは7になる。一方、濃度の塩酸では、水素イオンは塩酸と水の両方から出るが、液全体で正と負の電荷は釣り合っている。
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正と負の電荷の釣り合いを書く
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手順7でを消す
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正の解をとる
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なら根号の中はより大きい
つまり、水素イオン濃度はいつも mol/Lより大きく、pHは7より小さいままだ。を入れると mol/Lとなり、冒頭の6.98が出る。薄めるほど、水から出る水素イオンのほうが多くなる。
海の8.1、雨の5.6
pHの1は水素イオン濃度の10倍にあたるので、小数第2位の小さな動きにも意味がある。気象庁によると、海面の海水はpHが約8.1の弱アルカリ性だ。東経137度線の観測では、1985〜2025年に10年あたり平均0.019ずつ下がった。0.019の低下は、水素イオン濃度でいえば倍、約4.5%の増加にあたり、40年分の0.076なら約1.19倍になる。気象庁は、海水のpHが長い期間にわたって下がるこの傾向を海洋酸性化と呼び、おもな原因を、海水が大気中の二酸化炭素を吸収することだとしている。
汚れのない雨も、すでに弱い酸性である。青森県の説明では、大気中の二酸化炭素が雨に十分に溶け込んだときのpHが5.6で、この値が酸性雨の一つの目安になっている。純水の7と比べると、水素イオン濃度は倍だ。
薄めたときのpHの動き方は、酸の強さによっても違う。電離度が1よりずっと小さい弱酸では、がおよそで表される。は電離定数で、これを使うのは「化学」の範囲だ。濃度が10分の1になってもは倍にしかならないので、pHはおよそ0.5しか上がらない。10倍で1上がるという目安は、ほぼ全部が電離する強酸に限られる。
薄める、混ぜる、温める
例題 1基本濃度からpH、pHから濃度
(1)0.010 mol/Lの塩酸のpHを求めよ。塩酸は完全に電離するものとする。(2)(1)の塩酸を水で1000倍に薄めた液のpHを求めよ。(3)pH 3の液とpH 5の液では、水素イオン濃度は何倍違うか。
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(1) mol/Lなので、pHは2である。
(2)1000倍は10倍を3回くり返したことになるので、pHは3上がって5になる。このときの濃度は mol/Lで、水から出る mol/Lほどの水素イオンは無視できる。
(3)で、pH 3の液のほうが100倍濃い。
例題 2基本塩基の液と2価の酸
(1)0.010 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液のpHを、25 °Cの水のイオン積を使って求めよ。(2)0.0050 mol/Lの硫酸のpHを求めよ。硫酸は2段階とも完全に電離するものとする。
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(1) mol/Lなので、水のイオン積をこの値で割って水素イオン濃度を出す。
pHは12である。
(2)硫酸1 molから水素イオンは2 mol出るので、 mol/L。pHは2になる。
例題 3入試中和点の前後でpHが跳ぶ
0.10 mol/Lの塩酸20.0 mLに、0.10 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加える。加えた量が(1)19.8 mL(2)20.2 mLのときの液のpHを、小数第1位まで求めよ。液の体積は40 mLとみなし、、水のイオン積をとする。
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(1)中和されずに残る水素イオンは molで、40 mLに溶けている。
なので、。
(2)今度は水酸化物イオンが mol余り、 mol/Lとなる。
。加えた量が0.4 mL違うだけで、pHは7以上も変わる。中和滴定で指示薬の色がわずかな滴下ではっきり変わるのは、この跳び方のおかげである。中和点までに要る量そのものは、中和の量的関係の式で決まる。
例題 4入試ごく薄い塩酸
mol/Lの塩酸のpHを、小数第2位まで求めよ。25 °Cで水のイオン積は、塩酸は完全に電離するものとし、、を使ってよい。
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手順11にを入れる。根号の中はなので、次のようになる。
。塩酸の濃度だけで数えた8とは、酸性と塩基性が逆になる。
薄めても7を超えない、と問う
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎 第1問 問8:酸と塩基についての4つの記述から、誤りを含むものを選ぶ。その中に、酸の水溶液をどれだけ水で薄めても25 °CでpHが7を超えない、という記述があり、水の電離から正誤を判断できるかが問われる。問題の全文は大学入試センター「令和6年度 本試験の問題」で読める。
- 2026年 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎 第1問 問9:1価の弱酸の水溶液は、濃度が0.050 mol/Lで、25 °CのpHが3.0である。pHから水素イオン濃度を読み、酸の濃度で割って電離度を出す。問題は大学入試センター「令和8年度 本試験の問題」にある。
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第2問 問3:弱酸の水溶液を、pH 4.0から水で薄めていく。pHと体積の関係を表すグラフを選ぶ問題で、電離度が小さいとみなせるので、強酸のように10倍で1ずつは上がらない。大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」に載っている。
- 2026年 大学入学共通テスト 追試験 化学 第2問 問2:45 °Cでは水のイオン積がに増えることから、その温度の純水のpHを、を使って求める。中性でも、温度が変わればpHは7からずれる。出典は大学入試センター「令和8年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第4節「化学基礎」3(3)ア(イ)㋐ 酸・塩基と中和、92-93ページ。第5節「化学」3(2)ア(イ)㋒ 電離平衡、104-105ページ
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第2節「数学II」3(3)指数関数・対数関数、60ページ
- S. P. L. Sørensen, "Enzyme Studies II. The Measurement and Meaning of Hydrogen Ion Concentration in Enzymatic Processes"(英訳の題), Biochemische Zeitschrift 21 (1909), 131ページから。英訳の抜粋はChemTeam「Sören Sörenson and pH」
- Science History Institute, "Søren Sørensen"
- 気象庁「海洋の健康診断表 表面海水中のpHの長期変化傾向(北西太平洋)」
- 青森県「酸性雨調査結果」
- 大学入試センター「令和6年度 本試験 化学基礎」「令和7年度 本試験 化学」「令和8年度 本試験 化学基礎」「令和8年度 追・再試験 化学」