枠の中だけ数える
校庭の隅の草地に、タンポポは何本あるだろうか。全部を数えなくても見当はつく。1 m四方の枠を何か所かに置いて枠の中だけ数え、その平均に、草地に入る枠の総数を掛ければよい。
区画を決めて中の株を数える調査を1898年に論文で勧めた1人が、のちに法学者として名を残すロスコー・パウンドだ。ネブラスカ大学で植物学の博士号を取ったパウンドはこの年の6月、フレデリック・クレメンツと連名の6ページの論文を出し、種の多さを判断するとき「見かけはひどく当てにならない」と書き出した。草原を10年以上歩いた2人でさえ、花の目立つ種を多いと思い込んでいたという。
枠の英語名quadratから、この方法はコドラート法とも呼ばれ、平凡社の『世界大百科事典』は枠取り法の名で紹介している。
平均に区画の総数を掛ける
この計算の道すじ。 調査地を同じ面積の区画に分けて総数を出し(手順1)、いくつかの区画で数えて平均を出し(手順2〜3)、総数を掛ける(手順4)。そのあと、置き方と区画の数で結果がどう変わるかを、数と動きで確かめる(手順5〜8)。
生物の1つ1つを個体、同じ種類の個体の集まりを個体群という。公式のは調査地全体の個体数で、これが知りたい数だ。記号≈は「ほぼ等しい」を表し、全部を数えていないので=にはしない。
では、100 m²の草地に1 m²の区画を5個置いて数える。出てきた本数は順に4、7、3、6、5本だったとする。数値はどれも、説明のために作った例である。
-
調査地の面積を1区画の面積で割り、区画の総数を出す
-
数えた5区画の本数を足す
-
区画の数で割り、1区画あたりの平均を出す
-
平均に区画の総数を掛ける
1区画が1 m²なら、平均の5本はそのまま1 m²あたりの本数でもある。この面積あたりの個体数を個体群密度と呼ぶ。つまり区画法は、一部の区画から密度を求め、調査地の面積まで広げる計算だ。
でたらめに置く
では、区画はどこに置けばよいのか。見つけやすい場所に置きたくなるが、そこに落とし穴がある。同じ500本の草地で、道ぞいに5か所置いた場合と、くじで5か所選んだ場合を比べよう。左の端に道があり、道に近いほど草が多い草地だとする。
-
道ぞいの5区画の平均を出す
-
区画の総数を掛ける
-
でたらめな5区画の平均を出す
-
区画の総数を掛ける
道ぞいの840本は、草の多い場所だけを見たせいで大きくずれた。でたらめの400本も100本ずれているが、こちらは偶然のずれで、向きは決まっていない。ここで言う「でたらめ」は適当に置くことではなく、区画に番号をふってくじや乱数で選び、人の好みを入れないことである。
1898年のパウンドとクレメンツは、区画を「典型的な場所」に置いていた。環境省の研修資料は、今の野生動物の調査について「ランダムなサンプリングが必要」と書く。
区画を増やすと落ち着く
偶然のずれを小さくするには、数える区画を増やせばよい。草地に区画を落として、推定の本数がどう動くかを見てみよう。
でたらめに置くと、はじめは上下に大きく揺れる線が、区画が増えるにつれて破線の500に寄っていく。「置き直す」を押すと、別の場所で同じことが起きる。道ぞいの3列だけに切り替えると、線は500より上の約860で落ち着き、区画をいくら増やしても500には戻らない。
この草地で区画の選び方を計算機で2万回試すと、5区画の推定は95%がおよそ240〜860本に散らばり、30区画ならおよそ390〜620本に収まる。増やせば揺れは縮むが、偏った置き方のずれは数では消えない。だから先に決めるのは、数より置き方だ。
よく動く動物には使いにくい
区画法の前提は、数えている間に個体が動かないことだ。植物や、動きの遅い動物なら、この前提がほぼ成り立つ。バッタのような動物では、同じ個体を別の区画でまた数えたり、枠の外へ逃げられたりする。
そこで、よく動く動物には標識再捕法を使う。捕まえた個体に印を付けて放し、もう一度捕まえて印のある割合を調べる方法だ。1回目に印を付けた数を、2回目に捕まえた数を、そのうち印のある数をとすると、で推定する。
枠の大きさと、シカの糞
枠は1 m四方とは限らない。パウンドとクレメンツの区画は5 m四方で、これより大きいと正確に数えられないと2人は書いた。小さな草なら50 cm四方でも足りる。このとき枠の面積は、0.5 m²ではなく0.25 m²だ。
動く動物でも、動かない手がかりなら枠で数えられる。環境省の研修資料によると、1 m²の枠の中の糞粒を数えて生息密度を求める糞粒法があり、糞虫の影響などに注意がいる。四国森林管理局の調査もニホンジカの密度をこの方法で推定し、糞虫の影響が少ない晩秋以降に数えている。
環境省の資料には、紛らわしい名前も出てくる。野生動物の調査で「区画法」と呼ぶのは、一定面積(例として1 km²)を10等分し、それぞれの小区画を1人ずつ歩いて、見つけた個体を記録する方法だ。一部の枠から広げる計算ではなく、見落としや調査の時期に結果が左右されるという。読む資料が植物か野生動物かで、同じ語の中身が変わることになる。
調べる面積を広げるほど見つかる種の数が増える関係は、種数面積関係で扱う。
面積と平均から全体を出す
例題 1基本長方形の草地
縦40 m、横25 mの草地で、ある植物の個体数を調べる。1 m²の区画を8個、でたらめに選んで数えると、3、6、2、5、4、7、3、2本だった。草地全体の個体数を推定せよ。
解説を見る
草地の面積は m²で、1区画が1 m²なので、区画の総数は1,000である。
8区画の合計は本で、平均を出す。
平均に区画の総数を掛ける。
例題 2基本枠が50 cm四方のとき
面積200 m²の草地に50 cm四方の枠を5個置くと、ある植物が6、9、4、7、9本あった。草地全体の個体数と、1 m²あたりの個体群密度を推定せよ。
解説を見る
枠の面積は m²なので、区画の総数は次のとおり。
5枠の合計は35本で、1枠の平均は本である。
1 m²に枠は4つ入るので、密度は1 m²あたり本になる。となり、合っている。
例題 3入試区画法を使わない場面
池のフナの個体数を調べる。60匹を捕まえて標識を付けて放し、数日後に50匹を捕まえると、12匹に標識があった。(1)全体の個体数を推定せよ。(2)この調査に区画法が向かない理由を述べよ。(3)放した魚の標識の一部がはがれていたら、推定の値は実際より大きくなるか小さくなるか。
解説を見る
(1)、、を入れる。
(2)フナは水中を泳ぎ回るので、数えている間に区画を出入りする。また、水の中で区画の範囲にいる個体を全部数えるのも難しい。
(3)標識がはがれると、2回目に見つかる標識の数が本来より少なくなる。は分母にあるので、推定の値は実際より大きくなる。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018、2021年一部改訂)、第1部 第2章 第7節「生物」3(5)ア(ア)㋐ 個体群、144ページ(「ハツカダイコンやウキクサなどを用いた個体群密度に関する実験」)。区画法と標識再捕法の語は、解説に出てこない
- 愛知県総合教育センター「試験問題例と実施後の分析」(科目 生物、学年類型3年生理系、単元 個体群と生物群集。標識再捕法の実験と問題)
- R. Pound, F. E. Clements, "A method of determining the abundance of secondary species", Minnesota Botanical Studies 2, Part I(1898年6月15日), 19-24。本文は「Minnesota Botanical Studies, Vol. II」(HathiTrustのテキストの写し)で読める
- ネブラスカ大学リンカーン校 文書館「Faculty, Roscoe Pound」(植物学の博士号)
- 平凡社『改訂新版 世界大百科事典』「個体数推定法」(枠取り法)
- 諸澤崇裕「個体群動態の基礎とモニタリング」環境省 人材育成研修 理論編(区画法、糞粒法、ランダムなサンプリング、標識再捕獲法の式)
- 林野庁 四国森林管理局の公開資料「h26_deer_p2」(ニホンジカの生息密度を糞粒法で推定した調査)