引き算では測れない森
木は、光合成でつくった有機物をどこへ使うのだろうか。自分の呼吸で使う分、葉や枝として落とす分、虫に食べられる分があり、残りだけが木の体に積み上がる。
この帳じりを森ごと調べる研究は、日本では1950年代に動き出した。大阪市立大学の吉良竜夫と京都大学の四手井綱英は1967年の総説で、人工林についての最初の報告が1955年に出て、1957〜1958年に4つの研究グループがほぼ同時に続いたと書いている。調べた林は、北海道の亜寒帯の針葉樹林から東南アジアの熱帯の密林まで、およそ40の森林の型で100か所を超えた。
ところが、公式どおりの引き算は、森ではできない。岐阜大学の大塚俊之は2009年の解説で、森林の総生産量と呼吸量を野外で測って差をとることは現段階では不可能だ、と書く。だから森では、増えた分と失われた分を足し合わせて、純生産量を求める。
1本の棒を切り分ける
この計算の道すじ。 総生産量の棒を、呼吸量と純生産量に切る(手順1〜2)。次に純生産量の棒を、被食量、枯死量、成長量に切る(手順3〜4)。切り分けた棒を足すと元の長さに戻ることと、成長量が現存量を増やすことも、数で追える(手順5〜7)。
生産者は、光合成で有機物をつくる植物などを指す。総生産量は、ある面積の生産者が、ある期間に光合成でつくった有機物の量である。単位はどの量もそろえ、たとえば「1 haあたり1年に何t」で表す。
呼吸量は、生産者が自分の呼吸で使った量だ。被食量は動物に食べられた量、枯死量は枯れたり落ちたりした量、成長量は生産者の体に残って増えた量である。図の数は、総生産量を100として作った例で、実測の値ではない。
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総生産量から、生産者の呼吸量を引く
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作った例の数を入れる
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純生産量から、食べられた分と枯れた分を引く
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作った例の数を入れる
つまみで呼吸量と、被食量と枯死量の和(図の「失う分」)を変えると、棒の切れ目が動く。切り分けた棒を全部足すと、いつも総生産量の100に戻る。失う分が純生産量より多いと成長量は負になり、破線の分だけ体が減る。
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手順1と手順3の式を、足し算の形に書き直して並べる
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作った例の数で確かめる
手順5は、棒をどう切っても長さの合計が変わらないことを式にしたものだ。つまり、生産者がつくった有機物は、4つの行き先のどれかに必ず入る。
現存量は、ある時点でその場所にある生物の量を指す。成長量は1年で増えた分なので、現存量を次の式で更新できる。
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今の現存量に、1年の成長量を足す
では、動物の場合はどう変わるのか。消費者は光合成をしないので、棒の始まりは食べた量(摂食量)である。不消化排出量は消化されずにふんとして出る分で、同化量は消化して体に取り込んだ分を指す。
同化量が生産者の総生産量に、生産量が純生産量にあたる。消費者の成長量も、生産量から被食量と死滅量(死んだ分)を引いて求める。違いは、体に取り込む前に、ふんとして抜ける段が1つ多いことだ。段ごとの同化量を割り算すると、エネルギー効率になる。
世界大百科事典の「生物生産」の項も、同じ流れで同化量と成長量を示している。そこでは代謝産物排出量や脱落量、再生産物質量まで分けて引くので、上の式はそれらを省いた形である。
学習指導要領の解説によると、「生物」の生態と環境では、年間生産量と生産者の現存量に注目して生態系の物質生産の特徴を扱い、栄養段階ごとのエネルギー収支の資料も例に挙がる。生物基礎の解説は捕食と被食を挙げるが、物質生産の語は出てこない。
足し算で測る森の収支
森林では総生産量と呼吸量を直接測れないので、切り分けた棒を逆に足す。成長量は同じ木の太さを年をおいて測って求め、枯死量は落ち葉を受ける網のかご(リタートラップ)や枯れた木の調査で求める。
岐阜大学のカンバとミズナラを中心とする落葉広葉樹林(高山サイト)では、1999〜2003年の平均で、樹木の純生産量が、炭素の質量で1 haあたり1年に5.4 tと推定された。大塚の解説の図6(125ページ)から矢印の数を読み取って足すと、木から出ていく枯死の分は次のようになる。
倒木などの1.3は、図で大きな木質へ向かう2本の矢印、0.5と0.8を足した数である。純生産量5.4から5.1を引くと、木の体に残る成長量は0.3、純生産量の約6%にすぎない。この0.3は、図の地上部バイオマスに書かれた増加量と合う。
被食量が式に入っていないのは、健全な森林では消費者に食べられる分が比較的小さいと考えられ、測らない調査が多いからだ。
意外なのは細根である。細根は直径が2 mmや5 mmより細い根で、現存量は1 haあたり1.6 tで樹木全体の2%にすぎないのに、純生産量は1 haあたり1年に1.8 tと全体の3割以上を占める。掘り出さなければ見えない根が、毎年つくられては枯れている。
森林と草原は、現存量と純生産量の比で比べると違いがはっきりする。解説に樹木全体の現存量の数は無いが、細根が全体の2%という値から逆算すると、高山サイトの樹木はおよそ t/haになる。2%は丸めた数なので80は目安で、純生産量はその約7%にあたる。
草原は一般に、地上部が1年以内にすべて枯れ、放牧を含めて食べられる量も大きいと大塚の解説にある。つまり毎年つくった分が、ほとんど積み上がらない。一方の森林は、毎年の成長量がわずかでも幹に積み重なるので、現存量が大きくなる。図の草原の数は作った例で、実測の値ではない。
この足し算は、森と大気の炭素のやり取りを調べるときにも使う。大塚は、木を測って出した収支と、塔で二酸化炭素の出入りを測る観測とを比べ合わせることが、非常に重要だと書く。
棒を切る計算と逆算
例題 1基本草原の収支
ある草原で、1年の総生産量が1200 g/m²、呼吸量が500 g/m²、被食量が150 g/m²、枯死量が450 g/m²だった。純生産量と成長量を求めよ。
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総生産量から呼吸量を引く。
純生産量から、被食量と枯死量の和を引く。
例題 2基本現存量の変化
ある森林の年初の現存量が8.0 kg/m²で、1年の純生産量が1.2 kg/m²、被食量が0.1 kg/m²、枯死量が0.8 kg/m²だった。年末の現存量を求めよ。
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先に成長量を出す。
年初の現存量に成長量を足す。
純生産量の1.2をそのまま足すと、枯れた分と食べられた分まで体に残ることになり、誤りである。
例題 3入試消費者の収支
ある一次消費者の1年の摂食量が300、不消化排出量が120、呼吸量が130、被食量が20、死滅量が10だった(単位はどれも同じ)。同化量、生産量、成長量を求めよ。
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摂食量から不消化排出量を引くと同化量になる。
同化量から呼吸量を引くと生産量になる。
生産量から被食量と死滅量の和を引くと成長量になる。
例題 4入試割合から総生産量を逆算する
ある森林の成長量は、1 haあたり1年に4 tだった。純生産量のうち枯死量が55%、被食量が5%で、総生産量のうち呼吸量が60%である。純生産量と総生産量を求めよ。
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純生産量をとおく。枯死量と被食量で合わせて60%を失うので、成長量は純生産量の40%である。
両辺を0.40で割る。
次に総生産量をとおく。呼吸量が60%なので、純生産量は総生産量の40%である。
両辺を0.40で割る。
1 haあたり1年に、純生産量は10 t、総生産量は25 tである。
森と畑の表を読む出題
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 生物 第5問 問2:熱帯、温帯、亜寒帯の森林と農耕地について、現存量と土壌有機物量、純生産量の推定値の表から、考察として適当でないものを選ぶ。出典は大学入試センター「令和6年度 本試験の問題」。
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 生物 第5問 問3:森林を焼き払って農耕地にしたあと土壌有機物量が減っていく理由を、分解の進みやすさと純生産量の小ささ、収穫による持ち出しから考える。出典は同じページ。
- 2024年 大学入学共通テスト 追試験 生物 第5問 問1:純生産量、生産者の成長量、森林の現存量などについての記述から、最も適当なものを選ぶ。出典は大学入試センター「令和6年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第7節「生物」3(5)ア(イ)㋐ 生態系の物質生産と物質循環、144〜145ページ
- T. Kira, T. Shidei, "Primary production and turnover of organic matter in different forest ecosystems of the Western Pacific", Japanese Journal of Ecology 17(2) (1967), 70-87(抄録)。J-STAGE
- 大塚俊之「森林生態系の純一次生産量の測定手法」『低温科学』67(2009)、119-127ページ(定義は120ページ、収支の図は125ページ)。北海道大学HUSCAP
- 林秀剛「生物生産」『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、コトバンク
- 大学入試センター「令和6年度 本試験の問題」「令和6年度 追・再試験の問題」