ガラスの鐘に入れた動物
鐘の形をしたガラスの容器に動物を入れ、空気の出入りを閉じる。ヴィクトル・ルニョーとジュール・レゼが1849年にパリで本にまとめた装置では、動物が吐いた二酸化炭素をポタスと呼ばれたアルカリの液に吸わせ、使われた分の酸素はガラスの球から補った。2人はこの装置で、イヌやニワトリなどが吸った酸素と、吐いた二酸化炭素を量り比べた。
結論の章によると、二酸化炭素に含まれる酸素と、使われた酸素の全体との比は、動物の種類より、餌の中身で大きく変わった。穀物を食べると比は最も大きく、しばしば1を超え、肉だけを食べると0.62から0.80に下がる。何も食べさせないと、肉のときとほぼ同じ比になった。飢えた動物は自分の体を燃やすので、肉を食べる動物と同じ呼吸になる、と2人は考えた。
酸素原子を数えて比を出す
呼吸商は、呼吸で放出した二酸化炭素の体積を、吸収した酸素の体積で割った値である。同じ温度と圧力で測れば、体積の比は分子の数の比に等しいので、反応式の係数から計算できる。燃やす物質がもともと持つ酸素原子が少ないほど、外から取り込む酸素が増え、呼吸商は小さくなる。
呼吸で分解され、エネルギーを取り出される物質を呼吸基質という。主な呼吸基質は、グルコースなどの炭水化物、脂肪、たんぱく質の3つだ。RQはrespiratory quotientの頭文字で、quotient(商)は割り算の答えを指す。
同じ温度と同じ圧力の気体は、種類によらず、同じ体積に同じ数の分子を含む(アボガドロの法則)。だから、二酸化炭素と酸素の体積の比は、分子の数の比に読み替えてよい。
まず、グルコースで計算してみる。
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グルコースの呼吸の式を書く
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係数を分子の数の比とみて割る
では、なぜグルコースではちょうど1になるのか。右辺の二酸化炭素と水を作るのに要る酸素原子を数え、そのうち何個を外から取り込むかを考えればよい。どの原子がどの分子へ移るかとは別の、数の帳じりの話である。
燃やす物質をと書く。、、は、1分子に含まれる炭素、水素、酸素の原子の数である。
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CO₂に入る酸素原子を数える(炭素1個に2個)
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水に入る酸素原子を数える(水素2個に1個)
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物質が持つ個を引き、外から取り込む数を出す
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CO₂に入る数を、外から取り込む数で割る
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グルコース(、、)を入れる
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トリステアリン(、、)を入れる
手順6で酸素原子の数どうしを割ってよいのは、O₂もCO₂も、1分子に酸素原子を2個ずつ持つからだ。原子の数の比は、そのまま分子の数の比になる。ルニョーとレゼが量った「二酸化炭素に含まれる酸素と、使われた酸素の全体との比」は、手順6の形そのものである。
トリステアリンは、脂肪の一種だ。2分子が燃える式で、手順8の数を確かめておく。
グルコースやデンプンなど多くの炭水化物は、水素と酸素を水と同じ2対1の割合で持つ()。そのため手順6の分母でが0になり、呼吸商は1になる。脂肪は酸素原子が少なく、水素を水にする分の酸素まで外から取り込むので、1より小さくなるのだ。
たんぱく質を作るアミノ酸も、脂肪と同じく水素に比べて酸素原子が少なく、外から酸素を取り込む。ただ、アミノ酸の窒素は水素と組み、アンモニアなどの形で体の外へ出ていく。その水素は水にならないので酸素が要らず、呼吸商は脂肪より大きく炭水化物より小さい、0.8前後になる(例題1)。
ラスクの栄養学の教科書にも、炭水化物で1、たんぱく質で0.781、脂肪で0.71という当時の値が載っている。
吸った酸素の原子が実際にどこへ行くかは、手順の数え方とは別の話になる。グルコースの呼吸を3つの段階に分けると、吸った酸素の原子はすべて水に入り、二酸化炭素の酸素はグルコースと水から来る(呼吸の反応式)。同じ脂肪の計算をトリパルミチンで行った例は、化学反応式の量的関係で読める。
発芽種子の気体を2つのフラスコで量る
発芽中の種子の呼吸商は、同じ種子を入れた2つのフラスコで量れる。フラスコAには水酸化カリウム水溶液を入れ、出てきた二酸化炭素を吸わせる。フラスコBには、その代わりに水を入れる。
どちらのフラスコでも、気体が減った体積は、ガラス管の中の色水が動いた距離で読む。Aでは出てきた二酸化炭素がすべて吸われるので、減った体積は吸収した酸素そのものになる。Bでは、酸素が減った分から、出てきた二酸化炭素の分だけ戻る。
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Aの減りをとおく
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Bの減りをとおく
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1の式から2の式を引く
手順3で引くは、吸収したO₂から放出したCO₂を引いた量だ。からを引くと吸収したO₂どうしが打ち消し合い、放出したCO₂だけが残る。
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呼吸商の式に入れる
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mL、 mLを入れる
呼吸基質を選ぶと、Aの色水はどれも同じだけ動き、Bの色水だけが違う。炭水化物ではBの色水が動かず、脂肪では大きく動く。2つのフラスコは、温度が変わると気体の体積も変わるので、同じ温度の水につけて比べる。
呼吸商が0.70なら、種子は主に脂肪を使っていると読める。読み方は動物でも同じだ。ラスクの教科書によると、ペッテンコーファーとフォイトは1866年の論文で、絶食した人の呼吸商を0.69と計算している。体の中で脂肪が燃えていることを示す値で、1849年に絶食させた動物で比が下がったのと同じ向きである。
フラスコの数から呼吸基質を読む
例題 1基本アミノ酸の呼吸商
アミノ酸のロイシンが呼吸で分解される式を、と書く。両辺の原子の数がそろっていることを確かめ、呼吸商を求めよ。
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左辺は炭素12個、水素26個、酸素個、窒素2個。右辺は炭素12個、水素個、酸素個、窒素2個で、4種類ともそろう。
例題 2入試炭水化物と脂肪を一緒に使う
炭水化物と脂肪だけを呼吸基質にする動物が、酸素を10.0 L吸収し、二酸化炭素を7.9 L放出した。炭水化物の分解に使われた酸素は何Lか。炭水化物の呼吸商を1.0、脂肪の呼吸商を0.70とし、気体の体積は同じ温度と圧力で測ったものとする。
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炭水化物の分解に使われた酸素を Lとおく。脂肪の分解に使われた酸素は Lである。放出した二酸化炭素は、それぞれの酸素に呼吸商を掛けた量の和になる。
括弧を外すとで、。
例題 3入試フラスコBの気体が増えた
発芽種子を入れた2つのフラスコで、Aの気体は4.0 mL減り、Bの気体は0.6 mL増えた。呼吸商を求めよ。また、呼吸商が1を超えた理由として考えられることを答えよ。
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Bの気体は増えたので、減りは mLとおける。
酸素を使う呼吸だけなら、炭水化物でも1.0までにとどまる。1を超えたのは、酸素を使わずに二酸化炭素を出すアルコール発酵が、呼吸と一緒に起きているためと考えられる。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第7節「生物」3(2)ア(イ)㋐ 呼吸、136〜137ページ
- V. Regnault, J. Reiset, Recherches chimiques sur la respiration des animaux des diverses classes(Paris: Bachelier, 1849)、17ページ(装置)、215〜216ページ(結論)。Wellcome Collection
- G. Lusk, The Elements of the Science of Nutrition, Introductory(版の記載のない写し)。本文はChest of Booksで読める