元素を測る術
1789年、イェレミアス・ベンヤミン・リヒターは、ケーニヒスベルクで「化学における数学の使用について」という学位論文を書いた。4年前からこの町の大学で、カントらに哲学と数学を学んでいた。『新ドイツ人名事典』によると、カントの思想の影響が濃いこの論文には、化学を本来は数学の学問とみるリヒターの見方がよく表れている。リヒターは酸と塩基がちょうど中和し合う重さを調べ、相手ごとに要る量を表にまとめた。
1792年から1794年にかけて3部に分けて出した本には、ギリシャ語の「元素」と「測る」を組み合わせた題を付けた。『化学量論の初歩、あるいは化学元素の測定術』。化学量論という言葉を化学に持ち込んだのは、リヒターである。ただ、その仕事は同時代の化学者にほとんど注目されず、プルーストにもドルトンにも知られていなかったという。
先に尽きるほうを探す
係数の比が表すのは、反応で増える量と減る量の比であり、容器に入れた量の比ではない。では、メタン0.30 molと酸素0.50 molを混ぜて燃やすと、どちらが残り、二酸化炭素は何molできるのか。
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それぞれの物質量を係数で割る
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値の小さい酸素が先に尽き、反応するメタンは酸素の半分
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係数の比で変化量を決める
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反応前の量に変化量を足す
手順1で係数で割ると、反応式1組ぶん、つまりメタン1 molと酸素2 molの組が何組作れるかが分かる。メタンだけなら0.30組ぶんあるが、酸素は0.25組ぶんしかなく、反応は少ないほうで止まる。一般になら、との小さいほうにを掛けた量だけCができる。
手順3と4は、行をそろえた表にすると追いやすい。単位はmolである。
| CH₄ | O₂ | CO₂ | H₂O | |
|---|---|---|---|---|
| 反応前 | 0.30 | 0.50 | 0 | 0 |
| 変化量 | −0.25 | −0.50 | +0.25 | +0.50 |
| 反応後 | 0.05 | 0 | 0.25 | 0.50 |
変化量の行だけが係数の比1 : 2 : 1 : 2に並び、反応前と反応後の行はこの比にならない。化学平衡の計算でも、同じ3行の表がそのまま使える。
答えは質量で確かめられる。原子量はH=1.0、C=12、O=16とする。
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反応前の質量の和を出す
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反応後の質量の和を出す
2つが一致しなければ、係数か変化量のどこかが間違っている。
次に、酸素を0.50 molに決めたまま、加えるメタンの量を0から増やしていく。
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酸素が余るうちは、二酸化炭素はメタンと同じ量
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メタンが余ると、酸素で決まる量で止まる
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折れ目のと酸素の量の比が、係数の比になる
グラフが折れるのは、2つの物質がちょうど過不足なく反応する点である。だから実験で折れ目の位置を読めば、反応式を知らなくても係数の比が分かる。
呼吸で出る気体の比
係数の比は、体の中の燃焼にも当てはまる。ブドウ糖を酸素で燃やす式はで、出ていく二酸化炭素と使われる酸素の物質量の比は6 : 6、つまり1.0になる。同じ温度と圧力の気体なら、物質量の比はアボガドロの法則で体積の比に読み替えられる。生物では、この体積の比を呼吸商と呼ぶ。
燃やすものが脂肪だと、比が変わる。脂肪の一例としてトリパルミチンで式を立てると、次のようになる。
二酸化炭素と酸素の比はだ。トリパルミチンの分子は炭素51個と水素98個を含むのに、酸素原子は6個しかなく、炭素6個に酸素6個のブドウ糖と比べてずっと少ない。そのぶん外から多くの酸素を取り込んで燃やすので、比が小さくなる。体が取り込んで使った酸素と、吐き出した二酸化炭素の体積を測れば、体が糖と脂肪のどちらを多く燃やしているか、見当がつく。
足りないほうで決まる量
原子量はH=1.0、C=12、O=16、Na=23、Al=27、S=32、Ba=137とする。
例題 1基本メタノールを燃やす
メタノール3.2 gを完全燃焼させる。
(1)必要な酸素(2)できる二酸化炭素(3)できる水の質量をそれぞれ求め、質量の和が保存されていることを確かめよ。
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メタノールのモル質量は32 g/molなので、物質量は molである。係数の比2 : 3 : 2 : 4から、各物質の量が決まる。 (1)酸素は molで、 g。 (2)二酸化炭素は0.10 molで、 g。 (3)水は0.20 molで、 g。 反応前の和と反応後の和は、どちらも8.0 gになる。
例題 2基本アルミニウムと酸素の過不足
アルミニウム5.4 gと酸素6.4 gを反応させた。
(1)どちらが何g残るか。(2)酸化アルミニウムは何gできるか。
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アルミニウムは0.20 mol、酸素も0.20 molある。係数で割ると、アルミニウムは、酸素はで、先に尽きるのはアルミニウムである。表にすると次のとおり(単位はmol)。
| Al | O₂ | Al₂O₃ | |
|---|---|---|---|
| 反応前 | 0.20 | 0.20 | 0 |
| 変化量 | −0.20 | −0.15 | +0.10 |
| 反応後 | 0 | 0.05 | 0.10 |
(1)酸素が0.05 mol、つまり g残る。 (2)酸化アルミニウムの式量は102なので、 gできる。 検算すると、反応前の gと、反応後の gが一致する。
例題 3入試沈殿のグラフの折れ目
0.10 mol/Lの塩化バリウム水溶液20 mLに、0.20 mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液を mL加えると、硫酸バリウムが沈殿する。
(1)沈殿の質量がそれ以上増えなくなるを求めよ。(2)とのときの沈殿の質量を、有効数字2桁で求めよ。
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塩化バリウムは molある。硫酸バリウムの式量はである。 (1)係数は1 : 1なので、硫酸ナトリウムも0.0020 mol加えたところが折れ目になる。
(2)では硫酸ナトリウムが先に尽き、0.0010 molの沈殿ができる。
では塩化バリウムが先に尽き、沈殿は0.0020 molで止まる。
例題 4入試減った質量から混合物の組成を読む
炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合物3.0 gを、十分に加熱した。炭酸水素ナトリウムだけが分解し、水と二酸化炭素が出ていって、質量は0.62 g減った。
混合物に含まれていた炭酸水素ナトリウムの質量と、その割合を求めよ。
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反応式1組ぶん、つまり炭酸水素ナトリウム2 mol(168 g)が分解すると、出ていくのは水1 molと二酸化炭素1 molで、合わせて gである。減った質量が0.62 gなので、分解したのは0.010組ぶんになる。
炭酸水素ナトリウムはその2倍の0.020 molで、質量と割合は次のとおり。
折れ目を読ませた共通テスト
- 2024年 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎 第2問 問3 b:宇宙ステーションの空気を保つ装置が題材。二酸化炭素1 molを水素と反応させてメタンと水を作るとき、使った水素の物質量と、できた水の物質量の関係を表すグラフを選ぶ。出典は大学入試センター「令和6年度 本試験の問題」。
- 2024年 大学入学共通テスト 追試験 化学基礎 第1問 問10:硫化水素の一部を燃やして二酸化硫黄にし、残りの硫化水素と反応させて硫黄を得る。硫化水素の全量を3.0 molに決めたまま、燃やす量を0から3.0 molまで変えたときの硫黄の物質量をグラフから選ぶ。先に尽きる物質が途中で入れ替わる。出典は大学入試センター「令和6年度 追・再試験の問題」。
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 化学基礎 第1問 問10:亜鉛に希硫酸を加えたときの、加えた体積と発生した水素の体積のグラフが与えられ、同じ質量の亜鉛に同じモル濃度の塩酸を加えたときのグラフを選ぶ。酸の種類による違いを、折れ目の位置に読み替える。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第4節「化学基礎」3(3)ア(ア)㋑、92ページ
- S. Büttner, "Richter, Jeremias Benjamin", Neue Deutsche Biographie 21 (2003), S. 532-533(著作Anfangsgründe der Stöchyometrie、全3部、1792-1794)
- A. Ladenburg, "Richter, Jeremias Benjamin", Allgemeine Deutsche Biographie 28 (1889), S. 466-467(同じページに収録。語の成り立ち)
- 大学入試センター「令和6年度 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎」「令和6年度 追・再試験 化学基礎」「令和7年度 追・再試験 化学基礎」