2本あった物差し
炭素の原子量は12.011で、12ちょうどではない。基準の¹²Cを12と決めてあるのに、なぜずれるのか。天然の炭素には約1.1%の¹³Cが混ざり、原子量はその平均だからだ。
では、なぜ基準は酸素や水素でなく¹²Cなのか。物差しが2本に割れた時代を収めるためだった。
1928年の時点では、酸素は1種類の原子とみなされ、酸素を16とする物差しを化学者も物理学者も使っていた。ところが1929年、大気の吸収帯の分析から、酸素に3種類の同位体があると分かる。物理学者は¹⁶Oを16とし、化学者は天然の酸素の平均を16のままにした。2つの値の換算には1.000275という係数が要り、酸素の混ざり方が場所で違うので、その係数さえ1.000268から1.000278のあいだで揺れた。
1957年、A. O. ニーアとA. エーランダーは別々に、¹²Cを12とする案を出した。理由は2つある。炭素が原子の質量を測る基準物質として使われていたこと。もう1つは公平さで、どちらか一方だけでなく、物理学者も化学者も少しずつ物差しを変えることになる。国際純正・応用化学連合と国際純粋・応用物理学連合は1959年と1960年に合意し、質量の単位は物理の側で100万分の318、化学の側で100万分の42だけ大きくなった。1本の物差しに戻るまでに31年かかった。
2019年にモルの定義が改められても、¹²Cを12とするこの基準は変わっていない。
個数で重みをつけて平均する
相対質量は、¹²C原子1個を12としたときの原子1個の質量である。質量数との違いは質量数の表で確認できる。存在比は同位体の個数の割合で、質量の割合ではない。
天然のガリウムは⁶⁹Gaが60.1%、⁷¹Gaが39.9%で、相対質量は68.926と70.925である。原子を1,000個取り出したと考える。
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存在比から同位体ごとの個数を出す
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1,000個の相対質量を全部足す
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1個あたりにするため1,000で割る
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手順3の割り算を項ごとに分ける
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相対質量を、存在比をとおいて一般の形にする
個数の割合という点を見落とすと、答えがずれる。⁶Liと⁷Liを質量で半分ずつ混ぜると、軽い⁶Liの個数のほうが多くなり、平均は6.48になる。相対質量6.015と7.016を単純に平均した6.52にはならない。
すべての同位体を足せば全体になるので、存在比の和は1である。この性質で、未知数を1つ減らせる。
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存在比の和を1とおく
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を手順5に代入する
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かっこを外してでまとめる
逆に原子量が分かっていれば、存在比を取り戻せる。手順5と手順6は、とについての2元連立方程式である。
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手順8をについて解く
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ガリウムの原子量69.723を代入する
手順9の分子は、原子量から反対側の同位体までの距離を表す。だから、原子量に近い同位体ほど多い。
区間で書かれる原子量
平均である以上、混ざり方が変われば原子量も変わる。逆に、平均の項が1つしかない元素では、値が動かない。同位体存在度・原子量委員会(CIAAW)の一覧には、1種類の安定な同位体で標準原子量が決まる元素が19あり、ふっ素の18.998 403 162(5)のように長い桁で書かれる。
ところが水素の標準原子量は、1つの数ではなく[1.00784, 1.00811]という区間で示される。CIAAWが2009年の評価で10元素をこの形に改め、2024年の表では14元素になった。区間の読み方は決まっている。炭素の[12.0096, 12.0116]なら、ふつうの試料の原子量はどれもこの範囲に入るが、真ん中の値に誤差を付けた数ではない。
区間の端には、実在の試料がある。水素の下限は天然ガスの水素にあたる。リチウムの上限6.997は、水素爆弾用に⁶Liを抜き取ったあとの実験用試薬の値だ。手順9を当てはめると、⁶Liの存在比が見える。
CIAAWの示す⁶Liの区間[0.019, 0.078]と一致する。
幅がとくに大きいのは鉛で、[206.14, 207.94]もある。重い3つの同位体がウランとトリウムの崩壊の行き着く先なので、鉱物ごとに混ざり方が大きく違うからだ。
区間のままでは計算しにくいので、ふだんは丸めた値を使う。CIAAWの簡略表は水素を1.0080 ± 0.0002、炭素を12.011 ± 0.002、鉛を207.2 ± 1.1とする。共通テストの化学基礎の問題の頭には、さらに丸めたH 1.0、C 12、O 16が載る。試験では、問題が指定した値で計算すれば答えが合う。この原子量は、物質量の計算へそのままつながる。
平均を出し、存在比を取り戻す
例題 1基本銀の原子量
天然の銀は、相対質量106.905の¹⁰⁷Agが51.8%、相対質量108.905の¹⁰⁹Agが48.2%を占める。銀の原子量を小数第1位まで求めよ。
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相対質量に存在比を掛けて足す。
銀の原子量は約107.9である。
例題 2基本同位体が3種類のネオン
天然のネオンの相対質量と存在比は、²⁰Neが19.992で90.48%、²¹Neが20.994で0.27%、²²Neが21.991で9.25%である。(1)存在比の和が100%になることを確かめよ。(2)ネオンの原子量を小数第2位まで求めよ。
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(1)足すととなる。
(2)項が3つになっても手順5の形は変わらない。
ネオンの原子量は約20.18である。
例題 3入試原子量からルビジウムの存在比を求める
天然のルビジウムは⁸⁵Rbと⁸⁷Rbからなり、相対質量は84.912と86.909、原子量は85.468である。それぞれの存在比を連立方程式で求め、百分率で整数まで答えよ。
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存在比を、とする。
上の式からとして下の式に代入する。
⁸⁵Rbが72%、⁸⁷Rbが28%である。原子量が85に近いので、⁸⁵Rbが多いことは計算の前に見当がつく。
例題 4入試未知の存在比が2つあるマグネシウム
天然のマグネシウムの同位体は²⁴Mg、²⁵Mg、²⁶Mgで、相対質量は23.985、24.986、25.983である。²⁴Mgの存在比を79.0%、原子量を24.305として、²⁵Mgと²⁶Mgの存在比を百分率で小数第1位まで求めよ。
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²⁵Mgの存在比を、²⁶Mgの存在比をとする。存在比の和は1である。
原子量の式から、²⁴Mgの項を移項する。
を代入する。
なので、²⁵Mgは10.0%、²⁶Mgは11.0%である。未知数が2つなら、式も2本で足りる。
存在比を逆算させる出題
- 2022年 東京海洋大学 前期日程 化学 第1問 問2:塩素の原子量を35.5として、同位体の表にある³⁵Clと³⁷Clの存在比を整数の百分率で答える。計算式も求められる。出典は東京海洋大学「令和4年度 前期日程 化学」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第4節「化学基礎」3(3)ア(ア)㋐、92ページ
- J. R. de Laeter et al., "Atomic weights of the elements: Review 2000", Pure and Applied Chemistry 75 (2003), 683-800
- M. E. Wieser, T. B. Coplen, "Atomic weights of the elements 2009", Pure and Applied Chemistry 83 (2011), 359-396
- Commission on Isotopic Abundances and Atomic Weights, "Standard Atomic Weights"(2024)、"Abridged Standard Atomic Weights"(2024)、"Isotopic Abundances"、"Monoisotopic Elements"、"Lead"
- M. Wang, W. J. Huang, F. G. Kondev, G. Audi, S. Naimi, "The AME 2020 atomic mass evaluation (II)", Chinese Physics C 45 (2021), 030003
- Bureau International des Poids et Mesures, The International System of Units (SI), 9th ed. (2019), Appendix 4, "Unit of amount of substance, mole", https://www.bipm.org/documents/20126/41483022/SI-Brochure-9-EN.pdf
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 本試験 化学基礎」、東京海洋大学「令和4年度 前期日程 化学」