端まで届く電子は3兆個に1個
三重水素の原子核がベータ崩壊して出す電子のうち、とりうるエネルギーの上限から1 eV以内に入るのは、およそ3兆4000億個に1個しかない。ニュートリノの重さは、この端の電子がどれだけ減っているかから量る。ドイツのKATRINはそのやり方で、電子ニュートリノの有効質量が0.45 eVより小さい(90%の信頼度)ことを突き止めた。
KATRINは、カールスルーエ工科大学(KIT)の構内に置かれた長さ70 mの実験装置である。2019年から2021年までの259日の測定で、上限の手前40 eVまでに入る電子を3600万個数え、2024年6月に結果を公開した。論文は2025年4月の『サイエンス』に載っている。0.45 eVは、電子の質量のおよそ110万分の1にあたる。

ニュートリノに質量があること自体は、1998年に分かっている。飛ぶうちに種類が入れ替わるニュートリノ振動が見つかったからだ。ただ、振動の確率に入るのは質量の2乗の差だけで、質量そのものは決まらない。KATRINは、崩壊の前後でエネルギーと運動量が保存されることだけを頼りにする。宇宙のモデルにも、ニュートリノが自分自身の反粒子かどうかにもよらない量り方である。
端を量って重さを「見つけた」という発表は、前にもあった。
1980年、モスクワの理論実験物理学研究所(ITEP)のリュビモフらは、三重水素の分布の端から、ニュートリノの質量はおよそ30 eVだと発表した。線源は、アミノ酸のバリンに三重水素を組み込んだ薄い膜だった。フォルマッジオらの総説によると、30 eVは、宇宙を満たすニュートリノの重力だけで宇宙を閉じるのにちょうどよい大きさで、発表は大きな興奮を呼んだ。疑う声はあったものの、退ける決め手はなかなか見つからない。ITEPはその後も、17 eVから40 eVのあいだという有限の値を出し続けた。
確かめるための実験が、各地で始まった。チューリッヒ大学は、三重水素を含む炭素の鎖をシリコンの板にそろえて並べた膜を、ロスアラモス国立研究所は気体の三重水素を線源にした。1980年代の後半には30 eVより小さい上限が相次ぎ、1991年にロスアラモスが9.3 eV、東京大学原子核研究所が13 eVまで下げて、30 eVははっきり否定された。ところが、新しい測定は別の謎を残す。ロスアラモスやリバモアの結果では、重さの2乗が0より小さいという、ありえない値になったのである。
もう一つの流れは、モスクワ近郊のトロイツクとドイツのマインツで生まれた。オッテンとヴァインハイマーの総説によれば、2つのグループは1980年代に、ITEPの主張を別のやり方で確かめるため、それぞれ新しい分光器を考えた。磁場で電子の進む向きをそろえ、電圧の坂を越えた電子だけを数えるMAC-Eフィルターで、トロイツクのロバシェフとスピヴァクが1985年に論文で提案している。KATRINの主分光器は、この分光器の直系にあたる。外れた主張が、次の時代の量り方を生んだことになる。
フェルミが描いた3本の曲線
では、分布の端から重さを読むという考えは、どこから来たのだろうか。
始まりは1930年、パウリがベータ崩壊のエネルギーの帳尻を合わせるために、目に見えない軽い粒子を仮定したことにある(いきさつはニュートリノ振動の起源の章)。1933年には、ペランが、連続した分布の形から、この未知の粒子の質量の手がかりが得られるかもしれないと書いた。
翌1934年、ローマ大学のエンリコ・フェルミは、ドイツの『Zeitschrift für Physik』誌に「ベータ線の理論の試み」を発表した。電子とニュートリノが原子核の中の1点で生まれるとして、崩壊の確率と電子のエネルギー分布を計算した理論である。フェルミは、分布の端の形がニュートリノの静止質量でどう変わるかを調べ、質量が「大きい」「小さい」「0」の3本の曲線を描いて実験と比べた。いちばん似ていたのは0の曲線だった。結論は、ニュートリノの静止質量は「0か、いずれにしても電子の質量に比べてとても小さい」。

フォルマッジオらの総説は、フェルミの論文集を引いて、この理論が先にネイチャーに送られ、「読者の関心を引くには現実から離れすぎた抽象的な推測」を含むとして断られたと書いている。
三重水素で上限を出す実験は、1948年に始まった。イギリスのグラスゴーとカナダのチョークリバーで、気体の三重水素を比例計数管に入れ、電子のエネルギーを測ったのである。チョークリバーのハンナとポンテコルボは、翌1949年の論文で上限を500 eVとした。

それから80年近く、三重水素は主役であり続けている。端のエネルギーは約18.6 keVと低く、端の近くに入る電子の割合が大きい。半減期は12.3年と短いので、少ない量でたくさんの崩壊が起きる。原子核による補正の形を足さなくてよい「超許容」の崩壊で、分布の形を計算しやすい。1972年にはベルクヴィストが上限を55 eVに下げ、崩壊でできた分子の電子が励起される効果を、初めて解析に入れている。
MAC-Eフィルターで測ったマインツは2005年に2.3 eV、トロイツクは2011年に2.05 eV(どちらも95%の信頼度)の上限を出す。マインツの最終の解析でも、重さの2乗の最もよく合う値は−0.6 eV²と、0を少し下回った。
KATRINの計画は、2001年にカールスルーエで提案された。ロスアラモス、マインツ、トロイツクで端を量ってきた研究者が、創設に加わっている。主分光器の容器は長さ23 m、内径9.8 m、容積1240 m³で、フォルマッジオらの総説は世界最大の超高真空の容器と書く。2006年11月、この容器はライン川の岸から、当時のカールスルーエ研究センター(いまのKITの北キャンパス)までの最後の7 kmを運ばれた。

開所の式典は2018年6月11日だった。2019年春の4週間の測定で最初の上限1.1 eVを出し、2022年の論文では2回分の測定を合わせて0.8 eV、2025年の論文では5回分で0.45 eVまで下げた。
測定は2025年の末に、予定の1000日分を終えている。ドレクスリンとヴァインハイマーの2026年の解説によると、端の手前40 eVまでに数えた電子は2億3000万個近くになり、最後の感度は0.3 eVを下回る見込みだ。2026年10月に改訂されたこの解説でも、全データの結果はまだ示されていない。2026年からは、新しい検出器TRISTANで分布の広い範囲を測り、keVの重さの「ステライルニュートリノ」を探す。
状態の数から端の形を出す
ベータ崩壊の電子のエネルギー分布は、崩壊のあとにとりうる状態の数で決まる。三重水素の崩壊
を、の単位で考える。は電子の運動エネルギー、は電子の質量、はニュートリノの質量である。ヘリウム3の原子核は運動量の釣り合いを引き受けるが、電子の約5500倍重いので、受け取る運動エネルギーはわずかで、の中に含めて扱う。
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フェルミの黄金律では、崩壊の速さは、遷移の行列要素の2乗と、終状態の密度の積に比例する。三重水素のような許容の崩壊では行列要素がエネルギーによらないので、原子核のクーロン力が電子を引き戻す効果を、フェルミ関数として掛けるだけでよい。
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運動量の大きさがからにある状態の数は、運動量の空間の球殻の体積に比例する。電子とニュートリノの数を掛け合わせる。
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エネルギーの保存から、電子の運動エネルギーがなら、ニュートリノの全エネルギーはに決まる。ニュートリノは静止エネルギーを必ず持っていくので、電子はを超えられない。
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ニュートリノの全エネルギーと運動量はを満たす(質量とエネルギーの等価性)。微分するとになる。
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電子も同じで、全エネルギーを使う。
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全エネルギーがに決まっているので、を選べばも1つに決まる。ニュートリノの側では、4をで割ったが、エネルギーあたりの状態の数として残る。
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1に入れてと書くと、フェルミの分布の式になる。
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端からの距離をとする。が数eVのところでは、前の3つの因子は1 eVあたり10万分の3ほどしか変わらないので、定数とみなせる。で、
ならで、分布は放物線のように端で0に触れる。なら分布はで途切れ、端がだけ手前に来る。フェルミが描いた3本の曲線の違いも、この因子から出る。
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電子ニュートリノは、質量の決まった3つの状態を重ね合わせたものである(ニュートリノ振動の証明の章)。崩壊のたびに、のどれか1つが確率で出るので、分布はその重みをつけた足し算になる。
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がより十分大きいところでは、とを使う。
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1つの質量の式8も、同じ近似でになる。見比べると、3つの質量は、次の1つの有効質量としてだけ分布に現れる。
つまり、KATRINが上限を与えたのは、このである。3つの質量の差は大きくても0.05 eVほどなので、1 eVほどの幅で電子を選り分ける今の分光器では、3つの質量がつくる折れ目を見分けられず、1つの端に重なって見える。分布に合わせるときはそのものを未知数にとり、負の値も許す。
端に入る割合を手で出す
ベータ崩壊と半減期は、高校の物理の「原子」で扱う(放射性崩壊)。分布の式を使うのは、大学の原子核物理学からである。証明の章の手順8で、質量が0なら端の近くの分布はになった。端からまでに入る電子の割合を、クーロン力と相対論の補正を省いた式で1行ずつ追う。
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端からまでを積分する
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全体の分布を近似する(、、)
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端の近くの形と比べてを決める
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と置いて全体を積分する
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かっこを開いて積分する
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1を4で割る
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eV、 keVを入れる
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質量があるときは、証明の章の手順8の形をから積分する
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質量0のときとの比をとる
省いたクーロン力は、遅い電子を原子核が引き戻す分だけ、分布の低いほうを持ち上げる。フェルミ関数を入れて数値で積分すると、割合は2.9×10⁻¹³になった(当サイトの計算)。フォルマッジオらの総説も、裸の三重水素の原子核について2.93×10⁻¹³としている。この逆数が、冒頭の3兆4000億個に1個である。近似の3.4×10⁻¹³と数字の並びが入れ替わって見えるのは、偶然にすぎない。
手順9に eV、 eVを入れると0.71で、端の1 eVに入る電子は3割近く減る。ただ、もとが3兆個に1個の電子の3割だ。KATRINが使う分子の三重水素では、崩壊でできた分子が励起されて電子のエネルギーが減る崩壊が4割あまりあり、端まで届く電子はさらに少ない。端に近いほど欠けは大きいが電子は少なく、離れると電子は増えるが欠けは小さい。そこでKATRINは、端の手前40 eVまでを測り、質量によるずれがいちばん大きく出るあたりに、長い時間を割いている。
上限0.45を読み解く
0.45 eVを質量に直すと、8×10⁻³⁷ kgになる。KITの発表は、KATRINを「精密なはかり」と呼んだ。では、この重さがあると、分布はどれだけ削られるのだろうか。
証明の章の手順8から、端からのところの数は、質量が0のときの倍になる。 eVなら、 eVで0.89倍、2 eVで0.974倍、10 eVで0.999倍である。削られるのは端から数eVのあいだだけで、10 eVより先では1000分の1にも届かない。
KATRINは、分布そのものではなく、ある電圧を越えた電子の数を測る。主分光器の電圧をにすると、運動エネルギーがより大きい電子だけが検出器に届く。電圧を少しずつ変えながら数えると、分布をから端まで積分した数が並ぶ。と置けば、質量0のときとの比は、途中の計算の手順9と同じになる。2025年の論文では、端の手前10 eVより上で、信号は1秒に1個に満たなかった。
背景は1秒に0.1〜0.3個で、その多くは主分光器の内側の壁から来る。組み立てのあいだに空気中のラドンから壁に付いた鉛210とその娘の崩壊で、電子をゆるく抱えた原子がはじき出され、その電子が離れて検出器へ加速されるのである。

最もよく合う重さの2乗は、−0.14 eV²だった。負の2乗は、統計の揺らぎで端の電子が多めに数えられれば、ふつうに起きる。問題は、そこから上限をどう出すかである。広く使われるフェルドマン・カズンズの方法なら上限は0.31 eVになるが、この方法では、最もよく合う値が負に寄るほど上限が小さくなる。測定に見落とした広がりがあると、重さの2乗はだけ負にずれる。その危うさを考えて、KATRINは、負の値のときに上限が測定の感度と等しくなるロホフ・トカチョフの方法を選び、0.45 eVとした。0.31 eVと書くほうが見栄えはよい。負の2乗に何十年も悩まされてきた分野らしい選び方だと思う。
反対に、はどこまで小さくなりうるのか。振動の測定で決まった質量の2乗の差と混ざり方を、証明の章の手順11に入れればよい。いちばん軽い質量を0とすると、は正常質量階層で0.0088 eV、逆階層で0.050 eVを下回れない(例題4)。0.45 eVは、まだその51倍と9倍の高さにある。
質量と磁場の比を計算する
例題 1基本0.45 eVを質量に直す
J、 m/s、電子の質量を kgとする。(1)静止エネルギーが0.45 eVになる質量を、kgで求めよ。(2)電子の質量は、その何倍か。
解説を見る
(1)からを出す。
(2)
約110万倍である。ニュートリノの有効質量は、電子のおよそ110万分の1より軽い。
例題 2入試1グラムの三重水素から端に届く電子
三重水素の半減期を12.3年、モル質量を3.02 g/mol、アボガドロ定数を /mol、1年を sとする。(1)崩壊定数を求めよ。(2)1 gの三重水素は、1秒に何個崩壊するか。(3)崩壊で出る電子のうち、端から1 eV以内に入る割合をとする。1 gの三重水素から、端の1 eVに入る電子は1秒に何個出るか。
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(1)半減期と崩壊定数の関係を使う。
(2)1 gの中の原子の数はである。崩壊の数はになる。
(3)
1秒に約100個である。KATRINの線源の強さ84 GBq(1秒に回の崩壊)は、(2)で割ると、三重水素0.2 mgあまりにあたる。
例題 3大学MAC-Eフィルターの分解能
磁場がゆっくり変わるとき、磁力線のまわりを回る電子の運動エネルギーのうち、磁場に垂直な向きの分と磁場の比は、ほぼ一定に保たれる。(1)磁場の場所で運動エネルギーをすべて垂直の向きに持っていた電子が、磁場の分析面に来たとき、垂直の向きに残るエネルギーを求めよ。(2)KATRINの設計の値 mT、 T、 keVで、(1)を計算せよ。(3)2019年の最初の測定では、 mT、 Tだった。同じ計算をせよ。
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(1)が一定なので
電圧の坂で選り分けられるのは、磁場に沿った向きのエネルギーだけである。分析面に残る垂直の分は選り分けられないので、これがフィルターの幅になる。
(2)
(3)
2019年の論文が書くフィルターの幅2.8 eVと合う。KATRINは、背景を減らすために設計より粗い幅で測っている。
例題 4大学振動から決まる有効質量の下限
、、とする。ダヤベイ実験の、JUNOの、 eV²を使い、 eV²とする。(1)を求めよ。(2)いちばん軽いが0のとき(正常質量階層)、を求めよ。
解説を見る
(1)をについて解く。
(2)、で、である。
KATRINの上限の約50分の1である。逆階層でとし、ダヤベイの eV²で同じ計算をすると、は約0.050 eVになる。
電圧の坂と下がり続けた上限
通り道の磁場の最大値(図では検出器の手前の4.2 T)が大きいほど、また分析面の磁場が小さいほど、垂直の向きに残るエネルギーは小さく、選り分けの幅は細くなる(例題3)。容器を大きくするのは、弱い磁場でも、広がった電子の束をそのまま受け止めるためである。
およそ80年で、上限は1700 eVから0.45 eVへ、3800分の1ほどになった。それでも、0.45 eVと逆階層の下限のあいだには、まだ1桁近い隔たりが残っている。
端を拡大して質量を足す
端から5 eV手前までを拡大し、上の段に質量0の分布(破線)と質量の分布(太線)を描いた。斜線は質量によって欠ける電子で、下の段は、同じエネルギーで質量0のときの何割が残るかを示す。触らなければ、質量は0から0.45 eV、0.8 eV、1.1 eV、2 eVと、これまでの上限の値に順に止まる。「電圧を越える数」に切り替えるとKATRINが実際に数える積分の形になり、グラフをたたくと、その位置で残る割合を読み出す。
上限を手がかりにする学問
- 物理学 ニュートリノの質量を生む仕組みを考えるとき、の上限を、理論が超えてはならない値として使う。KATRINの2025年の論文は、ニュートリノがほかのフェルミ粒子より少なくとも6桁軽いことを、別の種類の質量の仕組みを示す手がかりとして挙げている。同じ分布の形からは4つ目のステライルニュートリノも探され、2025年12月の『ネイチャー』の論文は、その信号を見つけなかった。
- 天文学 宇宙の大規模構造からニュートリノの質量の和を求めるとき、宇宙のモデルによらないKATRINの値を、外から照らし合わせる基準として使う。KATRINの2019年の論文は、自らの結果を、構造の形成を調べる宇宙論の研究への、モデルによらない入力と位置づけている。
- 化学 分布の端の形を正しく読むために、崩壊でできた分子イオンHeTが回転や振動、電子の励起で持っていくエネルギーの分布を、量子化学の計算で見積もる。フォルマッジオらの総説によると、ロスアラモスとリバモアで重さの2乗が負になった原因は、この分布の見積もりにあったと2015年に分かった。
- 工学 電子のエネルギーを1 eVほどの幅で選り分けるために、超高真空と超伝導磁石、高電圧の安定化を組み合わせて設計する。主分光器にかける約−18.6 kVの電圧は、変動を20 mVより小さく保ち、100万分の1の精度で較正できる。MAC-Eの原理は1976年に電子のエネルギー分析器として初めて書かれ、電子分光の多くの分野に広がった。
ほかの原子核と宇宙で量る
- 2025年 ハイデルベルク大学などのECHo: ホルミウム163は、原子の内側の電子を取り込んで崩壊する。ECHoはそのエネルギーの全部を、0.02 Kより低く冷やした金属磁気カロリメーターで熱として量り、約2億個の崩壊から有効質量を15 eV未満(90%の信用区間)とした。端のエネルギー eVは三重水素のの約6.5分の1で、端の近くの形は証明の章の手順8と同じを含む。同じ年、HOLMESも超伝導の転移端センサーで27 eVの上限を出した。出典はarXiv:2509.03423(Physical Review Letters 136(2026), 121801)とarXiv:2503.19920(同135(2025), 141801)。
- 2022年Project 8の国際共同研究: 磁場の中を回る電子が出す電波の周波数から、電子のエネルギーを量る。この方法(CRES)で三重水素の分布の端を測り、cm³ほどの体積で < 155 eVを出した。0.959 Tの磁場では周波数は約26 GHzで、18.6 keVの近くの1 eVは約49 kHzの違いにあたる(当サイトの計算)。分子の三重水素は内部の動きによる広がりのため0.1 eVほどで系統誤差の壁に当たるとして、原子の三重水素と組み合わせ、0.04 eVまでの感度を目指す。出典はarXiv:2212.05048(Physical Review Letters 131(2023), 102502)。
- 2024年 東北大学ニュートリノ科学研究センターなどのKamLAND-Zen: キセノン136を濃縮したキセノン745 kgを、液体シンチレーターに溶かして見張る。2019年2月から2024年1月まで、ニュートリノを出さない二重ベータ崩壊を探したが見つからず、半減期は3.8×10²⁶年より長いとした。この崩壊は、ニュートリノが自分自身の反粒子(マヨラナ粒子)でなければ起きない。軽いニュートリノのやりとりで起きるとすると、は28〜122 meVより小さい(幅は原子核の計算の違いによる)。位相を含むで足すので、証明の章の手順11のと違い、項どうしが打ち消し合うこともある。出典はarXiv:2406.11438(Physical Review Letters 135(2025), 262501)。
- 2025年DESIの国際共同研究: 3年間に1400万個を超える銀河とクエーサーの位置を測り、バリオン音響振動を物差しにした。宇宙マイクロ波背景放射と合わせると、標準の宇宙モデル(ΛCDM)のもとで、ニュートリノの質量の和は0.064 eV未満(95%)になる。暗黒エネルギーが時間とともに変わるモデルでは、上限は0.16 eVにゆるむ。3つの質量がほぼ等しければ和はおよそで、KATRINの0.45 eVは和の1.35 eVほどにあたる。宇宙からの上限は、モデルを仮定したうえで、その20分の1と厳しい。出典はarXiv:2503.14738(Physical Review D 112(2025), 083515)。
参考文献
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