素数定理

Prime number theorem

ガウスは暇な 15 分を見つけては、千個ずつ素数を数えた。

x 以下の素数の個数 π(x) は、x が大きいとき x/ln x に近づく。1 つ 1 つの素数の並びは不規則でも、全体の密度は対数で決まっている。

年代
1792年ごろ
人物
カール・フリードリヒ・ガウス、アドリアン=マリ・ルジャンドル、パフヌティ・チェビシェフ、ベルンハルト・リーマン、ジャック・アダマール、シャルル=ジャン・ド・ラ・ヴァレ・プーサン、アトル・セルバーグ、ポール・エルデシュ
逸話

千個ずつの数え上げ

1849 年 12 月 24 日、72 歳のカール・フリードリヒ・ガウスは、ベルリンの天文学者ヨハン・フランツ・エンケに長い返事を書いた。エンケが素数の現れ方について自分の考えを書き送ってきたのに答えたものである。ガウスはその中で、半世紀以上前の自分の仕事を振り返った。

始まりは 1792 年か 1793 年、15 歳か 16 歳のころである。ランベルトが出した対数表の補遺を手に入れたガウスは、そこに載っていた素数の表を使い、数を千個ずつの区切りに分けて、それぞれにいくつ素数があるかを数えた。数が大きくなるほど素数はまばらになる。ガウスはすぐに、その減り方には揺らぎがあるものの、平均すると対数に反比例していることに気づいた。 のあたりで素数が現れる割合はおよそ で、 以下の素数の個数は積分 で近似できる。

その後もガウスは、暇な 15 分を見つけては、あちこちの千個の区切りを数え足していったと書いている。最初の 100 万までを数え終える前にやめてしまったが、のちにゲッティンゲン天文台の若い同僚ゴルトシュミットの手も借りて表を広げ、300 万までの素数を数えて積分と比べた、とある。

ガウスはこの観察を、生前に論文として発表しなかった。エンケへの手紙は、死後に出版された全集の第 2 巻(1863)に収められ、広く知られるようになった。今の値で確かめると、300 万以下の素数は 216816 個、ガウスの積分 は約 216970 で、差は 0.1% もない。

予想が定理になるまでには、それから約 100 年かかった。1896 年、フランスのジャック・アダマールとベルギーのシャルル=ジャン・ド・ラ・ヴァレ・プーサンが、互いに独立に証明を発表した。2 人とも、リーマンが 1859 年に示した道筋を、複素関数論の新しい道具で完成させたのである。

起源

素数が無限にあることは、紀元前 300 年ごろのエウクレイデス『原論』で証明されている(素数が無限にあること)。しかし「どれくらいの割合であるか」を問う人は、長く現れなかった。

1737 年、オイラーは素数の逆数の和 が限りなく大きくなることを示した。その証明に使った式 (オイラー積)は、すべての整数についての和を、素数についての積に書き換える。のちの素数定理の証明の入口になる式である。

1798 年、アドリアン=マリ・ルジャンドルは『数の理論についての試論』で、 以下の素数の個数を の形で近似できると書き、1808 年の第 2 版では を示した。発表としてはこちらが先で、ガウスの観察は手紙の中にとどまった。

1850 年ごろ、ロシアのパフヌティ・チェビシェフは、 が十分大きい で の 0.92 倍と 1.11 倍の間にあることを、初等的な方法で証明した。比が 1 つの値に近づくなら、その値は 1 しかないことも示した。しかし、比が本当に近づくことまでは示せなかった。

1859 年、ベルンハルト・リーマンは 8 ページの論文「与えられた数より小さい素数の個数について」を発表した。オイラーの式の を複素数に広げたゼータ関数 を考え、素数の個数がゼータ関数の零点(値が 0 になる点)で決まることを示した。論文には、零点はすべて実部が の直線の上にあるだろう、という予想も書かれていた。これがリーマン予想で、今も解かれていない。2000 年にはクレイ数学研究所が 100 万ドルの懸賞をかけた。

1896 年のアダマールとド・ラ・ヴァレ・プーサンの証明は、リーマン予想ほど強いことは要らず、実部が 1 の直線の上に零点が無いことだけで足りる、という点を突いたものだった。

1948 年から 49 年にかけて、ノルウェーのアトル・セルバーグとハンガリーのポール・エルデシュが、複素関数論を使わない「初等的な」証明を見つけた。セルバーグが見つけた式をエルデシュが使って結果を出したことから、どう発表するかで 2 人は対立し、結局別々に論文を出した。数学の歴史でもよく知られた先取権争いである。

証明

完全な証明は、解析数論の教科書で数十ページを要する。ここでは道筋と、どこが難しいかを示す。 は素数を表す。

  1. 素因数分解がただ 1 通りであることから、 でオイラー積が成り立つ。

  2. 対数をとって微分すると、素数とその累乗だけが残る。 は のとき 、それ以外は 0 である。

  3. 素数の重み付きの個数 を考える。部分和の計算で、素数定理は次と同じことになる。

  4. は で 1 位の極を持つ。そのため手順 2 の左辺は の近くで のようにふるまい、これが の主な項 を生む。

  5. 最も難しい点は、実部が 1 の直線の上に の零点が無いことである。零点があれば、手順 2 の左辺にもう 1 つ極ができ、 が のまわりで振動し続けてしまう。 という不等式から、 で次が言える。

  6. もし なら、 で左辺は の 3 位の極と 4 位の零点が打ち消し合って 0 に近づき、手順 5 に反する。よって

  7. 最後に、ディリクレ級数の情報を の大きさの情報に戻す定理(タウバー型の定理、または複素積分)を使うと、 が得られ、手順 3 から素数定理が出る。

1896 年まで証明できなかった大きな理由は、手順 5〜7 に必要な複素関数論の道具がまだ育っていなかったことにある。アダマールが 1893 年に作った整関数の理論も、その道具の 1 つである。1980 年にドナルド・ニューマンが手順 7 を大きく短くした証明を発表し、今では数ページで書ける。

零点が実部 1 の直線からどれだけ離れているかが、近似の誤差の大きさを決める。リーマン予想が正しければ、誤差は 程度に収まることが 1901 年に示されている。

応用

数えてみる。 実際の個数と 2 つの近似を比べる。

168145177
784987238278627
508475344825494250849234

との比は でも 1.054 で、1 にはゆっくりとしか近づかない。ガウスの積分はずっと近く、 での差は 0.003% である。

暗号の鍵を作る。 インターネットの通信を守る RSA 暗号では、2048 ビットの鍵を作るのに 1024 ビット(約 309 桁)の素数を 2 つ用意する。素数定理によれば、この大きさの数が素数である確率は である。奇数だけを試せば約 355 個に 1 個が素数なので、でたらめに選んだ奇数を素数かどうか判定する作業を数百回繰り返せば、鍵の素数が見つかる。素数が十分に多いことが、鍵を手早く作れる理由になっている。

ハッシュ表の大きさ。 データを並べる表の大きさに素数を使うと、偏りが減ることが多い。必要な大きさの近くには、平均して 個に 1 個の割合で素数があるので、すぐに見つかる。

図示

100 までの素数の個数 π(x) は、素数のところで 1 段ずつ上がる階段になる。細い曲線は x / ln x、太い曲線はガウスの積分 ∫ dt / ln t で、ごく小さい x を除いて、階段は 2 つの曲線の間を進む。

範囲を広げると、階段の段は目に見えなくなり、なめらかな曲線にぴたりと重なる。1 つ 1 つの素数の位置は予測できなくても、数えた総数は対数の法則に従う。

シミュレーション

「数える」では、 の上限を 100 から 100 万まで変えて、素数の個数の階段 と 2 つの近似の曲線を比べる。上限が小さいと階段のでこぼこが見え、大きくすると曲線とほぼ重なる。「ふるい」では、エラトステネスのふるいで、2, 3, 5, 7 と小さい素数の倍数を順に消していく。最後まで残った数が素数である。

広がる学問

  • 数学 素数定理は、整数の問題を複素関数で解く解析数論の出発点になった。双子素数がどれだけあるかなど、素数の細かな分布の問題の多くは今も未解決で、その中心にリーマン予想がある。
  • 情報科学 公開鍵暗号の鍵の生成、素数を使ったハッシュ、乱数の検定など、大きな素数を探す計算の手間は、素数定理で見積もられる。
  • 物理学 1972 年、数学者ヒュー・モンゴメリーが調べていたゼータ関数の零点の間隔の分布が、原子核のエネルギー準位を表す乱雑な行列の固有値の間隔の分布と同じ式になることを、物理学者フリーマン・ダイソンが指摘した。素数と量子の世界の思いがけないつながりとして、今も研究が続いている。

参考文献

  1. C. F. Gauss, letter to J. F. Encke, 24 December 1849, in Werke, Bd. 2 (Göttingen, 1863), 444-447.
  2. Bernhard Riemann, "Ueber die Anzahl der Primzahlen unter einer gegebenen Grösse", Monatsberichte der Königlichen Preußischen Akademie der Wissenschaften zu Berlin (November 1859), 671-680.
  3. L. J. Goldstein, "A History of the Prime Number Theorem", American Mathematical Monthly 80 (1973), 599-615.
  4. D. J. Newman, "Simple Analytic Proof of the Prime Number Theorem", American Mathematical Monthly 87 (1980), 693-696.
  5. D. Zagier, "Newman's Short Proof of the Prime Number Theorem", American Mathematical Monthly 104 (1997), 705-708.
  6. Dorian Goldfeld, "The Elementary Proof of the Prime Number Theorem: An Historical Perspective", in Number Theory: New York Seminar 2003 (Springer, 2004), 179-192.
  7. Marcus du Sautoy, The Music of the Primes (HarperCollins, 2003).

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