リチウムイオン電池

Lithium-ion battery

鉄の塊を落としても、その電池は燃えなかった。

充電でリチウムイオンが正極から負極の炭素の層へ移り、放電で戻る。金属のリチウムを使わずに約4 Vを出す電池の反応式で、1985年に吉野彰が形にした。

年代
1980年(コバルト酸リチウムの正極)・1985年(炭素の負極と組んだ電池)
習う
高2・化学・物質の変化と平衡
レベル
基本(例題 5 問)
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
逸話

火薬の試験場で落とした鉄

山の中の試験場で、電池の上に鉄の塊を落とす。旭化成の吉野彰らは、作った電池が売り物になるほど安全かを、10を超える試験で確かめようとしていた。ノーベル化学賞の一般向けの解説によると、1986年のことだった。

試す場所を見つけるのにも苦労した。初めは研究所の近くの河原を考えたが、役所の許可が要り、下りる見込みも薄い。行き着いたのは、同じ会社で火薬を扱う部門が山の中に持っていた試験場だった。

負極に金属のリチウムを使った電池は、同じように鉄の塊でつぶすと、20秒ほどで激しく燃え出す。炭素とコバルト酸リチウムで組んだ新しい電池は、1時間たっても危ない様子を見せなかった。

この試験に通ったときを、吉野は「リチウムイオン電池が生まれた瞬間」と語っている。

山の中の試験場のむき出しの地面に、小さな円筒形の電池が立てて置かれ、その真上から太い鉄の棒が落ちてくる(画像生成 AI で描いたイメージ)
1986年、火薬の試験場で鉄の塊を落として確かめた電池の安全(様子を想像して描いた)画像生成AIで描いたイメージ

2つの電池を分けたのは、負極の中身である。名前にリチウムとあるのに、新しい電池の中に、金属のリチウムは入っていない。

金属のリチウムは、金属の中でいちばん軽い。密度は1 cm³あたり0.53 gと、水の半分ほどしかない。そのうえ電子を手放しやすく、空気や水とすぐに反応するので、油の中にしまっておく。電池の材料として魅力があるのも、扱いが危ないのも、この反応しやすさのためである。

吉野の電池では、リチウムはいつもイオンの形のまま、正極と負極の層のすき間を行き来する。ふつうに使う限り、金属のリチウムの塊は、充電しても放電しても現れない。

吉野彰1948–炭素の負極とコバルト酸リチウムの正極で、リチウムイオン電池の原型を作った

2019年のノーベル化学賞は、ジョン・グッドイナフ、スタンリー・ウィッティンガム、吉野彰の3人に贈られた。授賞の理由は「リチウムイオン電池の開発」である。グッドイナフはこのとき97歳で、全部門の受賞者の中で最も高い年齢だった。

起源

層のすき間にイオンをしまう

電池は、2つの電極を電解質でへだてた仕組みである。1800年にアレッサンドロ・ボルタが発表した電池は、亜鉛と銅のような2種類の金属の円板のあいだに、水溶液を含ませた厚紙をはさんで積み上げたもので、1組の電圧は約0.8〜1.1 Vだった。

ボルタの電堆(画像生成 AI で描いたイメージ)
ボルタの電堆1800年2種類の金属の円板と湿らせた厚紙を積み重ねた、最初の電池画像生成AIで描いたイメージ

水を使う電池には、越えにくい壁がある。水は、電圧が1.5 Vほどを超えると水素と酸素に分かれてしまう。グッドイナフはノーベル賞の講演で、長く保存できる電池にするなら、水の電池は1個の電圧を1.5 Vより低く抑えるしかないと述べている。

1970年代の石油危機が、電池の研究を動かした。1972年に石油会社エクソンの研究所へ移ったスタンリー・ウィッティンガムは、層が積み重なった二硫化チタンという物質に目をつけた。層と層のすき間には、リチウムイオンが入り込める。イオンが入っても出ても、層の骨組みはほとんど崩れない。骨組みのすき間にイオンを出し入れするこの現象を、インターカレーションという。

スタンリー・ウィッティンガム1941–層状の二硫化チタンにリチウムを出し入れする充電式の電池を作った

ウィッティンガムは、正極に二硫化チタン、負極に金属のリチウムを使った充電式の電池を作り、1976年に発表した。電圧は2 Vあまり。ところが充電をくり返すと、負極の金属のリチウムから細いひげが伸び、反対の極に届いてショートを起こした。研究所では何度も火事が起き、消防隊は、リチウムの火を消す特別な薬剤の代金を払わせるとまで言い出したという。

1976年にオックスフォード大学へ移ったジョン・グッドイナフは、別の筋道を考えた。正極を硫化物ではなく酸化物にすれば、電圧はもっと高くなるはずだ。東京大学から来ていた物理学者の水島公一と、化学者のフィリップ・ワイズマンが組んで調べたのは、層状のコバルト酸リチウムである。

結果は、グッドイナフが期待した以上だった。コバルト酸リチウムからはリチウムの半分以上をくり返し出し入れでき、金属のリチウムと組むと約4 Vが出た。ウィッティンガムの電池の、ほぼ2倍である。論文は1980年、水島、P・C・ジョーンズ、ワイズマン、グッドイナフの連名で発表された。

ジョン・グッドイナフの肖像(Nobel 9 Dec 2019 029 copy (49204051647) (cropped))
ジョン・グッドイナフ1922–2023コバルト酸リチウムが約4 Vを出す正極になることを示した出典: Wikimedia Commons・US Embassy Sweden・CC BY 2.0

この正極には、もう1つの利点があった。リチウムを初めから正極に抱えているので、電池を空のまま組み立て、あとから充電すればよい。ところが、イギリスでもヨーロッパでもアメリカでも、この材料の特許を使いたいという電池の会社は現れなかった。空の状態で作る電池を、どの会社も思い描けなかったと、グッドイナフは講演で振り返っている。

日本では事情が違った。ビデオカメラやコードレス電話、コンピューターのために、軽くて充電できる電池が求められていたのである。旭化成の吉野は1981年から、白川英樹が合成に成功した電気を通すプラスチック、ポリアセチレンを負極に使う研究を進めていた。ところが、組み合わせる正極が見つからない。当時の正極の材料は、金属のリチウムの負極と組む前提で作られていて、リチウムを含んでいなかったからだ。

1982年の仕事納めの日、吉野は机を片づけながら、読みそびれていた論文の束に目を通した。その中に、グッドイナフらの1980年の論文があった。吉野は講演で、このときを「エウレカ(見つけた)」の瞬間と呼んでいる。翌1983年の初めには、試験管の中で組んだ電池が動いた。

冬の夕方の研究所の机に、片づけた書類の束と、開いたままの学術雑誌、湯のみ、鉛筆、卓上のスタンドが置かれている(画像生成 AI で描いたイメージ)
1982年の仕事納めの日、論文の束を読んだ川崎の研究所の机(様子を想像して描いた)画像生成AIで描いたイメージ

ただ、ポリアセチレンは熱に弱く、密度も1 cm³あたり1.2 gと小さい。電池は軽くなっても、小さくはならない。吉野は密度が2 gを超える炭素材料に切り替え、会社の繊維の研究所が作っていた気相成長炭素繊維で、ようやく手応えをつかんだ。1985年5月10日、正極にコバルト酸リチウム、負極に炭素材料を使う二次電池(充電してくり返し使える電池)の特許を、実近健一、中島孝之と連名で出願している。

1991年、ソニーがこの組み合わせの電池を、世界で初めて商品にした。負極は、石油を精製するときにできる石油コークスという炭素で、充電の電圧は4.1 Vまで。その後、電解液を工夫すると黒鉛も負極に使えるようになり、充電の電圧は4.2 Vに上がった。

では、正極と負極のあいだを、何がどう動いているのだろうか。

証明

2つの電極の式を足す

電池の断面。左の正極はコバルト酸リチウム(LiCoO₂)で、太い線の層のあいだに丸で描いたリチウムイオンが並ぶ。右の負極は黒鉛(C₆)で、波線の炭素の層のあいだにリチウムイオンが入る。真ん中の電解液を、充電ではイオンが右へ、放電では左へ動き、電子は上の導線を同じ向きに回る。正極の点線の丸は抜けたあとの空きで、抜けた6個のうち5個は負極に入り、1個は電解液を渡っている。正極から負極へ移ったリチウムの割合がx。

この証明の道すじ 手順1〜5で、正極と負極で起きる変化を電子を書き込んだ式(半反応式)で別々に書き、足し合わせて公式にする。手順6〜11で、コバルトの酸化数がxとともにどう変わるかを追う。

公式のはコバルト酸リチウムで、リチウム1個、コバルト1個、酸素2個の割合でできた正極の材料である。は、負極の黒鉛を炭素原子6個ずつのひと組で数えたものだ。2つの電極のあいだは、イオンを通す液(電解液)で満たされている。

は、正極1組から抜けて負極へ移ったリチウムの割合で、単位は無い。なら、10組あたり3個のリチウムが負極へ移ったことになる。

原子が電子を手放したり受け取ったりして、電気を帯びた粒をイオンという。リチウムの原子では、+3の電気を持つ原子核のまわりを3個の電子が回っていて、いちばん外側の1個を手放すと、+1の電気を帯びたリチウムイオンになる。電子を失う変化を酸化、受け取る変化を還元と呼ぶ。

左のリチウム原子は、+3の原子核のまわりに電子が3個ある。いちばん外の電子1個が飛び出すと、右のリチウムイオンになり、電子は2個残る。電子を失う変化が酸化、受け取る変化が還元。

正極のコバルト酸リチウムは、コバルトと酸素でできたの層が積み重なり、層のあいだにリチウムイオンが並んだ形をしている。負極の黒鉛は、炭素原子が六角形の網目につながった層の重なりで、層のあいだに、炭素6個あたりリチウムイオン1個まで入れる。公式が炭素をとひと組で数えるのは、このためだ。

左は正極。太い線のCoO₂の層のあいだに、リチウムイオンの丸が並ぶ。右は負極の黒鉛の六角形で、角の6か所に炭素があり、真ん中にリチウムイオンが1個入る。炭素6個にリチウムイオンは1個まで。

半反応式を足す

  1. 充電すると、正極1組から個のリチウムがイオンになって出ていく。手放された電子個は導線へ流れる

正極を10組並べ、3組からリチウムを抜く(x = 0.3)。残るのは7個で、1組あたりの残りは1 − 0.3 = 0.7。抜けたリチウムイオンは電解液へ、電子は導線へ出ていく。
  1. 負極の炭素は、電解液を渡ってきたリチウムイオン個と、導線を回ってきた電子個を受け取る

  2. 2つの式の左辺どうし、右辺どうしを足す

  3. 両辺に同じだけあるとを消す

上の段は正極の式、中の段は負極の式。右辺のxLi⁺とxe⁻と、左辺のxLi⁺とxe⁻は同じだけあるので斜線で消し、下の段に、足し合わせた式LiCoO₂ + C₆ → Li₁₋ₓCoO₂ + LiₓC₆ が残る。

充電は、充電器が外から電子を押し込んで進める変化だ。充電器を外して機器につなぐと、電子とリチウムイオンは自分から正極へ戻ろうとし、反応は逆向きに進む。これが放電で、戻る電子の流れが機器を動かす。

  1. 充電の向きと放電の向きを、両向きの矢印で1本の式にまとめる

左右でリチウムの数を比べると、左はの1個、右は個と個で、合わせて1個になる。なら、になる。だから、リチウムはイオンの形で場所を移るだけで、増えも減りもしない。

つまみでを動かすと、正極で抜けた数と負極に入った数が、いつも同じだけ動く。いちばん下の目盛りは、次の節で求めるコバルトの酸化数である。

式のには0から1までの数が入りそうに見える。ただ、グッドイナフらが1980年に確かめたのは、リチウムの半分あまりをくり返し出し入れできることだった。以下の計算でも、正極はまで使うと考える。負極の黒鉛のほうは、になるまで、つまりまで受け入れられる。

コバルトの酸化数を追う

充電で正極が電子を手放すとき、その電子はどの原子から出たのか。手がかりは酸化数である。酸化数は、原子が電子をどれだけ手放したかを表す数で、化合物では全部を足すと0になる。リチウムは+1、酸素は−2と決まっている。残るのは、コバルトの酸化数だけ。

  1. の4つの原子の酸化数を足し、合計を0とおく

  2. 左辺の数どうしを計算する。にを足すとになる

  3. 両辺に3を足す

上の段はx = 0のLiCoO₂で、Li 1個が+1、Coが+3、Oが−2と−2で、合計0。下の段はx = 0.5で、Liが0.5個に減って+0.5、Coが+3.5、Oが−2と−2で、合計0。Liが減ったぶん、Coの酸化数が上がる。
  1. では、リチウムが個に減る。同じように合計を0とおく

  2. 左辺の数どうしをまとめる。にを足すとになる

  3. 両辺にを足す

なら、コバルトの酸化数は+3.5になる。+3のコバルトと+4のコバルトが半分ずつ混ざった平均である。つまり、充電で電子を手放したのは、正極のコバルトだった。

正極は充電で酸化され、放電で還元される。負極の炭素は逆で、充電で電子を受け取り、放電で手放す。

放電で負極が出す電子個は、導線を通って、そのまま正極が受け取る。出した電子と受け取る電子の数が等しいことは、酸化剤と還元剤の量的関係と同じ考え方で、電池ではその電子の流れを、外の導線に通して使っている。

では、電圧の4 Vはどこから来るのか。電池の電圧は、2つの電極の「高さ」の差で決まる。金属のリチウムを0 Vとして測ると、コバルト酸リチウムは約4 Vの高さにあり、黒鉛は金属のリチウムとほとんど同じ高さにいる。差し引けば、残りは約4 V。

途中の計算

容量から、動くリチウムを数える

モバイルバッテリーのラベルには、「3.7 V」「5,000 mAh」のような数字が並ぶ。羽田空港の案内によると、よくあるモバイルバッテリーの容量は5,000〜20,000 mAhほどだ。5,000 mAhの電池を空になるまで使うと、正極と負極のあいだを、リチウムは何gぶん動くのだろうか。

計算の道すじ 手順1〜2でmAhを電気量(C)に直し、手順3〜4で電子とリチウムの物質量と質量にする。手順5〜9で、それを出し入れする正極と負極の量を出す。

電流の単位A(アンペア)は、1秒間に流れる電気の量を表し、1 Aは1秒に1 C(クーロン)が流れる強さである。mAはその1000分の1。mAh(ミリアンペア時)は、電流(mA)と流した時間(時間)のかけ算で、ためておける電気の総量を表す。

横軸が時間、縦軸が電流のグラフで、高さ1 mA(0.001 A)、幅3600秒(1時間)の長方形の面積が、流れた電気の量0.001 × 3600 = 3.6 C。1 mAhは3.6 Cで、5,000 mAhならその5000倍。
  1. 5,000 mAhを1000で割り、Ah(アンペア時)に直す

  2. 5 Ahは、5 Aの電流を1時間(3600秒)流したときの電気の量である。5 Aに3600秒をかけて電気量(C)にする

電子1個が運ぶ電気は Cで、ほんのわずかだ。は、1を10で19回割った数を表す。電子を物質量の1 mol、つまり個(6.022に10を23回かけた数)集めると、運ぶ電気は96485 Cになる。この1 molあたりの電気の量を、ファラデー定数という。

電子1個は1.602 × 10⁻¹⁹ C。電子を6.022 × 10²³個、つまり1 mol集めると、1.602 × 10⁻¹⁹ × 6.022 × 10²³ ≈ 96470 Cで、けたを多くとってかけると96485 C。18000を96485で割ると約0.187 mol。
  1. 電子1 molの電気量96485 Cで割り、流れた電子の物質量にする。小数第3位までに丸め、ここからは0.187 molで計算する

  2. 電子1個につきリチウムイオン1個が動くので、リチウムも0.187 mol。原子量は、その原子1 molの質量をgで表した数で、リチウムは6.94。これをかけて質量にする

  3. 正極はリチウムを半分()まで出すので、要るコバルト酸リチウムはその2倍の物質量になる

  4. コバルト酸リチウムの式量を出す。式量は、の1組に入る原子の原子量を足したもので、1 molの質量をgで表した数になる。原子量はリチウム6.94、コバルト58.93、酸素16.00で、酸素は2個ぶん足す

上の帯はLiCoO₂の式量で、Li 6.94、Co 58.93、O 16.00、O 16.00をつなぐと97.87。下の帯は黒鉛の1組C₆で、C 12.01を6個つなぐと12.01 × 6 = 72.06。
  1. 物質量に式量をかけて、コバルト酸リチウムの質量にする

  2. 負極の黒鉛はを1組として数える。炭素の原子量12.01を6倍して式量にする

  3. 黒鉛はの1組にリチウム1個まで入るので、要るも0.187 mol。式量をかけて質量にする

行き来するリチウムは1.30 gでも、それを抱える正極は36.6 g、受け止める負極は13.5 gになる。しかも電池の重さには、このほかに電解液や、電極を塗る金属の箔、外の容器も加わる。リチウムがいくら軽くても、電池がそれほど軽くならないのはこのためだ。

応用

持ち込める電池を電力量で決める

2026年4月24日から、飛行機の機内に持ち込めるモバイルバッテリーは、1人2個までになった。国土交通省の発表によると、1個あたりの電力量(ワット時定格量)が160 Whを超えるものは持ち込めない。機内では、モバイルバッテリーを充電することも、モバイルバッテリーからほかの機器を充電することも、しないよう定められた。

電力量は、電池が出せるエネルギーの量である。電圧1 Vは、1 Cの電気が流れるあいだに1 J(ジュール)の仕事をする強さを表す。だから、電池が出せるエネルギーは電圧と電気量のかけ算になる。電気量をAhで測ったときの単位がWh(ワット時)で、である。

横軸が電気量、縦軸が電圧のグラフで、高さ3.7 V、幅27 Ahの長方形の面積が、電力量3.7 × 27 = 99.9 Wh。27,000 mAhは27 Ah。国土交通省の資料にある例。

国土交通省の資料が例に挙げるのは、ラベルの定格容量が27,000 mAh、定格電圧が3.7 Vのモバイルバッテリーだ。27,000 mAhは27 Ahなので、次のとおり99.9 Whになり、160 Wh以下に収まる。

では、容量を数えた5,000 mAhの電池はどうか。定格電圧が3.7 Vなら、次の値になる。

1 Whは、1 W(1秒に1 J)の仕事を1時間、つまり3600秒続けたエネルギーである。18.5 Whをジュールに直すと、3600をかけて次の値になる。

物を持ち上げる仕事は、重さ(質量 × 9.8で、単位はN)と高さのかけ算で表せる。体重50 kgの人の重さは Nなので、66600 Jを490で割ると、持ち上げられる高さが出る。

5,000 mAhの電池1個に、人を130 m以上持ち上げるほどのエネルギーが入っている。

1本の電圧の高さは、機器の作りも変えた。吉野の講演によると、1990年代の初めに売られた手で持てる携帯電話は、回路が5.5 Vで動いていた。電池を直列につなぐと電圧は足し算になるので、1本1.2 Vのニッケル水素電池なら5本(4本では4.8 Vで足りない)、1本4.2 Vのリチウムイオン電池なら2本が要る。

講演の4.2 Vは、満充電のときの1本の電圧だ。使うにつれて下がっていくので、ラベルには定格電圧3.7 Vのような目安の値が書かれる。

次の世代のデジタル方式では、回路が3 Vで動くようになった。

上はニッケル水素電池3本で、1.2 V × 3 = 3.6 V。下はリチウムイオン電池1本で、4.2 V × 1 = 4.2 V。3 Vで動く回路に足りる本数は3本と1本で、ニッケル水素電池2本では2.4 Vで足りない。

ニッケル水素電池は2本では2.4 Vで足りず、まだ3本要る。リチウムイオン電池は1本で足りる。この差で設計がずっと簡単になり、携帯電話の電池はほどなくリチウムイオン電池に切り替わったという。

例題と解説

電池の数を手で追う

例題 1基本抜けた割合と酸化数

を100組並べた正極から、充電で40個のリチウムが負極へ移った。(1)はいくつか。(2)正極に残るリチウムは1組あたりいくつか。(3)このときのコバルトの酸化数を求めよ。

解説を見る

(1)100組のうち40個が移ったので、割合は次のとおり。

(2)1組あたり1個から0.4個が抜けるので、残りはである。

(3)証明の手順11のにを入れる。

例題 2基本コバルト酸リチウム1 gがためる電気

正極のコバルト酸リチウム1 gをまで使うとき、取り出せる電気の量は何mAhか。式量は97.87、ファラデー定数は96485 C/molとする。

解説を見る

まず1 gの物質量を出す。動くのは、その半分のリチウムだ。

電子も0.00511 mol動くので、ファラデー定数をかけて電気量にする。

1 mAhは3.6 Cなので、3.6で割る。

1 gあたり約137 mAhである。

例題 3入試黒鉛の容量と組み合わせる量

(1)黒鉛1 gが、すべてになるまでリチウムを受け入れるとき、ためる電気の量は何mAhか。の式量は72.06とする。(2)例題2のコバルト酸リチウム1 gから出るリチウムを、すべて受け止めるのに要る黒鉛は何gか。

解説を見る

(1)の1組にリチウム1個が入るので、の物質量がそのまま電子の物質量になる。

1 gあたり約372 mAhで、コバルト酸リチウムの137 mAhより大きい。

(2)例題2で動くリチウムは0.00511 molなので、要るも0.00511 molである。

正極1 gには、黒鉛が約0.37 gあれば足りる。

例題 4入試機内に持ち込めるか

定格電圧3.7 V、定格容量20,000 mAhのモバイルバッテリーがある。2026年4月24日からのルールで考える。(1)ワット時定格量は何Whか。(2)同じものを3個持って飛行機に乗るとき、機内に持ち込めるのは何個か。(3)電圧が3.7 Vのままなら、定格容量が何mAhを超えると、1個でも持ち込めなくなるか。

解説を見る

(1)20,000 mAhは20 Ahなので、電圧とかける。

(2)74 Whは160 Wh以下だが、持ち込めるのは2個までなので、2個である。

(3)160 Whを3.7 Vで割ると、上限のAhが出る。

43.24 Ahは約43,240 mAhなので、これを超えると持ち込めない。

例題 5難関ナトリウムに置き換えると

仮に、リチウムをナトリウムに置き換えたを正極にし、同じく半分()まで使うとする。原子量はナトリウム22.99、コバルト58.93、酸素16.00とする。(1)1 gあたりの容量は何mAhか。(2)例題2のコバルト酸リチウムの何倍か。

解説を見る

(1)式量を出し、あとは例題2と同じ順。

(2)で、約0.86倍。動く粒の数は同じでも、ナトリウムがリチウムより重いぶん、1 gあたりで運べる電気が減る。

入試・大会での出題

電池の反応で問われた電気量

  • 2024年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第2問 問3:アルカリマンガン乾電池、空気亜鉛電池、リチウム電池の放電の反応式と式量の表から、反応物を合わせて1 kg使ったときに流れる電気量を比べ、大きい順を選ぶ。名前は似ているが、ここでのリチウム電池はリチウムイオン電池ではない。負極は金属のリチウムそのもので、使い切りで充電しない電池(一次電池)だ。反応式はで表される。逸話の試験で燃え出したのも、負極に金属のリチウムを使う電池だった。それでも、反応式から動く電子の物質量を数え、反応物の質量で割る手順は、途中の計算や例題2と同じである。問題は大学入試センターの令和6年度 本試験の問題で読める。
図示

電極を高さで並べる

縦軸は、金属のリチウムを0 Vとしたときの電極の高さ。コバルト酸リチウムは約4 V、二硫化チタンは約2.4 V、石油コークスは約0.5 V、金属のリチウムと黒鉛は0 V付近にある。二硫化チタンと金属のリチウムの差が2.4 V、コバルト酸リチウムと黒鉛の差が約4 V。右の括弧は、水を使う電池が届く約1.5 Vまでの幅。

電極を高さの順に並べると、電池の移り変わりがそのまま読める。ウィッティンガムの電池は、二硫化チタンと金属のリチウムの差で2.4 Vほど。コバルト酸リチウムの正極は約4 Vの高さにあるので、負極を金属のリチウムから炭素に替えて少し高さが上がっても、4 V近くが残る。酸化物なら電圧が上がるというグッドイナフの見通しが、金属のリチウムを使わない負極への道を開いた。

水を使う電池が届くのは1.5 Vほどまでなので、どの組み合わせも、水の代わりに、炭素を骨組みにした化合物の液体(有機溶媒)を使う電解液と組んでいる。イオンが行き来して電圧が生まれるのは、電池だけではない。神経細胞の膜でも、ナトリウムイオンとカリウムイオンの出入りが膜の電圧を変え、その動きを式にしたのがホジキン・ハクスリーのモデルである。

シミュレーション

充電と放電を切り替える

左の正極の丸がリチウムイオンで、行き来するのは電解液に近い12個だ。「充電する」を押すとイオンは1個ずつ右の負極の層へ移り、上の導線では電子が同じ向きに流れる。「放電する」を押せば向きは逆になり、イオンは正極の空きへ戻っていく。

読み出しのは、正極にある24個のうち負極へ移ったものの割合。12個がすべて移ると0.5になる。グラフは残量と電圧の関係で、充電が進むほど電圧が上がる。曲線の形は模式で、点線は国土交通省の例にある3.7 Vの高さだ。

広がる学問

電池の式が届く学問

  • 化学 電池の正極や負極の材料を選ぶとき、反応を半反応式に分け、動く電子の物質量から1 gあたりの容量(mAh/g)を見積もる。正極の酸化物のコバルトをニッケルやマンガンに置き換えたときに、酸化数と電圧がどう変わるかも、同じ形の式で比べられる。
  • 物理学 電池がためるエネルギーを、電圧と電気量のかけ算で数えるときに、この式で動く電子の数が出発点になる。固体の中をイオンが動く速さ(拡散係数)は温度が上がるほど大きくなり、その効き方はアレニウスの式と同じ形で表されることが多い。
  • 工学 携帯電話や電気自動車の電源を設計するとき、1本の電圧から直列につなぐ本数を決め、必要な電力量から容量を割り出す。重さあたりの電力量(Wh/kg)が、機器の大きさや車の走れる距離を左右する。
いまの研究と事業

液を固め、コバルトを外す

  • 2023年 出光興産とトヨタ自動車: 電気自動車向けの全固体電池を量産するため、固体電解質の量産技術の開発などで協業すると発表した。対象は、柔らかくてほかの材料と密着しやすい硫化物の固体電解質で、2027〜28年の実用化を目指す。半反応式のが正極と負極のあいだを渡る道を、液体から固体に替える試みである。出典は出光興産「出光とトヨタ、バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始」(2023年10月12日)。
  • 2023年 東京理科大学の駒場慎一らの研究グループ: リチウムの代わりにナトリウムを使う電池で、酸化亜鉛を鋳型にしたハードカーボン(黒鉛になりにくい炭素)を作り、負極として1 gあたり464 mAhの容量を示した。ナトリウムは黒鉛の層のあいだに安定して入れないので、公式のにあたる負極を、すき間の多い炭素に替えている。当サイトの計算では、リチウムを入れた黒鉛()は372 mAh/gである。この負極で組んだ電池は、1 kgあたり312 Whのエネルギー密度を示した。出典は東京理科大学「鍵は「ハードカーボン」。驚異的なエネルギー密度をもつナトリウムイオン電池の創製に成功」(2023年11月13日)と、Igarashiほか「New Template Synthesis of Anomalously Large Capacity Hard Carbon for Na- and K-Ion Batteries」Advanced Energy Materials 13 (2023), 2302647。
  • 2024年 横浜国立大学の藪内直明らの研究グループ: 名古屋工業大学、島根大学と共同で、コバルトもニッケルも使わないリチウムマンガン酸化物を合成した。ナノ構造を細かく制御したことで、ニッケル系の層状材料と同じ程度の、1 kgあたり約800 Whのエネルギー密度を材料で示している。約10分で8割ほどを充電し直せるという。公式ののコバルトをマンガンに替え、同じようにリチウムを出し入れする正極である。出典はJSTほか「実用的な高エネルギー密度のコバルト・ニッケルフリー電池材料を開発」(2024年8月27日)と、Miyaokaほか「A Practical and Sustainable Ni/Co-Free High-Energy Electrode Material: Nanostructured LiMnO2」ACS Central Science 10 (2024), 1718-1732。
  • 2024年 マイクロソフトとPNNLの研究チーム: マイクロソフトと、アメリカのパシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)は、AIのモデルと物理の計算を、クラウドの計算機で組み合わせた。3200万を超える候補から、安定しそうな物質を約50万個に絞り、そこから電池の固体電解質の候補18個を選んでいる。約1000台の仮想の計算機で、80時間かからなかった。選んだうちのの仲間を実際に合成し、構造とイオンの通りやすさを測っている。が通る道の材料を、計算で先に選ぶ研究だ。出典はChenほか(arXiv:2401.04070)、Journal of the American Chemical Society 146 (2024), 20009-20018。

鉄の塊を落としても燃えなかった電池から、40年がたった。正極の層に何を並べ、イオンにどこを通らせるか。探しているものは、1980年にオックスフォードで見つかった層のすき間と、いまも同じ形をしている。

参考文献

  1. K. Mizushima, P. C. Jones, P. J. Wiseman, J. B. Goodenough, "LixCoO2 (0<x≤1): A new cathode material for batteries of high energy density", Materials Research Bulletin 15(6) (1980), 783-789.(書誌はCrossrefで確認)
  2. The Royal Swedish Academy of Sciences, "The Nobel Prize in Chemistry 2019", press release, 9 October 2019; "They developed the world's most powerful battery" (Popular Science Background); "Scientific Background on the Nobel Prize in Chemistry 2019: Lithium-Ion Batteries".
  3. J. B. Goodenough, "The Pathway to Discovering Practical Cathode Materials for the Rechargeable Li+-ion Battery"; M. S. Whittingham, "The Origins of the Lithium Battery"; A. Yoshino, "Brief History and Future of the Lithium-Ion Battery", Nobel Lectures, 8 December 2019.
  4. 旭化成「吉野 彰プロフィール」(特許第1989293号「二次電池」、優先日1985年5月10日、発明者 吉野彰・実近健一・中島孝之)、「吉野 彰インタビュー」。物質・材料研究機構「NIMS Award受賞者に水島 公一氏、吉野 彰氏の2名が決定」(2016年9月14日)
  5. 東北村田製作所「キーワードで知る東北村田製作所」(1991年のソニーのリチウムイオン2次電池)、「沿革」(郡山事業所で1991年にリチウムイオン二次電池の生産を開始。ソニーの電池事業は2017年9月に村田製作所へ)
  6. 国土交通省 航空局「モバイルバッテリーの機内持込みの新たなルールについて」(2026年4月14日)、日本空港ビルデング・東京国際空港ターミナル「モバイルバッテリー等の航空機内持ち込みについて(2026年4月24日以降)」
  7. 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第5節「化学」3(2)ア(ア)㋑ 電池、103-104ページ
  8. NIST, CODATA 2022 recommended values: "Faraday constant", "elementary charge"; CIAAW, "Standard Atomic Weights"

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この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

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