興奮の伝導速度

Nerve conduction velocity

筋肉が縮むまでの時間は錘で変わったが、2点の差は変わらなかった。

神経の2か所を刺激し、筋肉が縮み始めるまでの時間の差で2点の距離を割ると、興奮が伝わる速さが出る。神経と筋肉の接続や筋肉自身にかかる時間は、引き算で消える。

年代
1850年(ヘルムホルツがカエルの神経で測る)
習う
高3・生物・生物の環境応答
レベル
基本(例題 3 問)
人物
ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
起源

錘を変えても変わらない差

1850年1月、ケーニヒスベルク大学で生理学を教えていたヘルマン・ヘルムホルツは、ベルリンの科学アカデミーの月報に短い報告を出した。カエルの腰の神経の束を一瞬の電流で刺激すると、刺激が腿の神経を通ってふくらはぎの筋肉に届くまでに、測れるだけの時間がかかる。神経の長さが50〜60 mmの大きなカエルで、その時間は0.0014〜0.0020秒だったという。

測り方にも工夫がある。神経を刺激した瞬間に別の回路に電流を流し始め、筋肉が縮んでぶら下げた錘を持ち上げた瞬間に、その電流が切れるようにした。流れていた時間は、電流計の磁針の振れから計算できる。ヘルムホルツは、フランスの物理学者プイエが考えた短い時間の測り方と本質は同じだと書いている。

結果は2つに分かれた。筋肉が縮むまでの時間は、錘が重いほど長くなった。ところが、神経の上の端を刺激したときと、筋肉に近い所を刺激したときの差は、同じカエルなら一定で、錘の重さによらなかった。差はカエルによって0.0014〜0.0020秒で、寒い日ほど大きかったという。

報告に速さの値は無い。そこで神経の長さを差の時間で割ってみると、いちばん短い50 mmをいちばん長い0.0020秒で割って秒速25 m、いちばん長い60 mmをいちばん短い0.0014秒で割って秒速約43 mになる。どの長さとどの時間が同じカエルの組かは書かれていないので、速さはこの2つの間のどこかだ。

途中の計算

2か所の時間を引き算する

高校の生物では、「生物の環境応答」の単元で、刺激を受けてから筋肉が反応するまでの仕組みを学ぶ。高等学校学習指導要領解説は、神経細胞に活動電位が生じて伝わることを示す資料や、神経筋標本を使った実験の結果から考えさせる例を挙げている。

この計算の道すじ。 刺激点が1か所だと、測る時間には、神経を伝わる時間と、接続と筋肉の時間が混ざる。2か所で測って引き算すると、2点の間を伝わる時間だけが残る(手順1〜5)。数を入れて速さを出し、1か所だけで割ったときとの違いを見る(手順6〜8)。

神経細胞では、膜の内側がふだん外側よりマイナスの電位にある。刺激を受けると、その場所で一瞬だけ内側がプラスに変わる。この電位の変化を活動電位といい、活動電位が起きることを興奮という。

興奮は隣の部分に次々と起こり、神経細胞から長く伸びた突起(軸索)に沿って伝わっていく。これが伝導だ。神経の端から筋肉へは、神経伝達物質という化学物質で興奮が受け渡される。これを伝達といい、起こる場所は神経と筋肉の接続部(神経筋接合部)である。筋肉にも、興奮を受け取ってから縮み始めるまでの、わずかな遅れがある。

公式のは伝導速度(m/s)、は2つの刺激点の距離(m)である。は筋肉に近い刺激点を刺激してから筋肉が縮み始めるまでの時間、は遠い刺激点を刺激してからの時間(s)で、右下の1と2は刺激点の番号だ。

公式の読み方。神経の先に筋肉がつながっている。筋肉に近い刺激1と、遠い刺激2の距離がd。刺激1から筋肉が縮み始めるまでの時間がt₁、刺激2からの時間がt₂。vは伝導速度でm/s、dはm、tはsで表す。

筋肉に近い刺激点から筋肉までを伝わる時間を、伝達と、筋肉が縮み始めるまでにかかる時間をまとめてとおく。

刺激してから筋肉が縮むまでの時間の帯。t₁は伝導0.4 msと接続と筋肉3.1 msで3.5 ms。t₂はそこに2点の間を伝わる1.5 msが加わって5.0 ms。同じ接続と筋肉の3.1 msは引き算で消え、差の1.5 msだけが残る。
  1. 近い点を刺激したときの時間を、2つに分けて書く

  2. 遠い点では、伝わる道のりがだけ長い。距離÷速さの時間を足して書く

  3. 2の式から1の式を引く

  4. 両辺にを掛ける

  5. 両辺をで割る

つまり、手順3でとが消えた。同じ筋肉を同じ接続で動かすので、はどちらの刺激でも同じだからである。ヘルムホルツの差が錘の重さによらなかったのも、錘で変わる筋肉の時間がに入っていて、引き算で消えたからだ。

接続と筋肉の時間を長くすると、もも同じだけ遅くなり、2つの印はそろって右へずれる。差の矢印の長さは変わらず、速さは30 m/sのままだ。2点の距離を延ばすと、差だけが長くなる。

では、数を入れてみる。カエルの神経筋標本で、筋肉から12 mmの点と、そこからさらに45 mm離れた点を刺激した。筋肉が縮み始めるまでの時間は、近い点で3.5 ms、遠い点で5.0 msだった。msはミリ秒と読み、1 msは0.001秒である。

  1. 2点の距離をmに直す

  2. 時間の差を出し、sに直す

  3. 公式に入れる

単位の換算。1 mmは0.001 m、1 msは0.001 sで、どちらも1000分の1。だから45 mm ÷ 1.5 msは0.045 m ÷ 0.0015 sと同じで、30 m/sになる。

だから、mmをmsで割った数は、そのままm/sの数になる。分子も分母も1000分の1にした量なので、割ると1000分の1どうしが打ち消し合う。

ただ、近い点の数だけで割ると、 m/sになり、本当の速さの9分の1ほどに見誤る。3.5 msのうち、神経を伝わっていたのは0.4 msだけで、残りの3.1 msは接続と筋肉の時間だからだ。

応用

肘と手首で測る神経の検査

病院の神経伝導検査も、同じ引き算を使う。医療者向けの医学事典、MSDマニュアルの解説によると、腕や脚の神経を、筋肉までの道筋に沿った何か所かで電気で刺激し、筋肉が反応し始めるまでの時間を記録するという。測った長さの神経を伝わる時間から伝導速度が決まり、筋肉にいちばん近い区間にかかる時間は遠位潜時とよばれる。

肘と手首の距離を、肘で刺激してから筋肉が反応し始めるまでの時間を、手首で刺激したときの時間をとおくと、伝導速度は次の式で求まる。

腕の神経の検査の図。親指のつけ根の筋肉で反応を記録し、肘と手首で神経を刺激する。肘の刺激から反応までの時間から、手首の刺激から反応までの時間を引き、肘と手首の距離をその差で割ると速さになる。

手首で刺激したときの時間には、手首から筋肉までを伝わる時間と、接続と筋肉の時間が入っている。肘で刺激すれば、そこに肘から手首までを伝わる時間が加わる。引き算すれば、残るのは肘と手首の間を伝わる時間だけだ。

もっとも、速さは神経の種類で大きく違う。MSDマニュアルによると、髄鞘という膜に包まれた太い神経は、包まれていない神経や髄鞘の薄い神経よりずっと速く伝え、髄鞘をもつ太い線維が傷む病気では伝導速度が大きく遅くなる。伝導速度が秒速60 mなら、1 mの神経を伝わるのにかかるのは秒である。

では、髄鞘はどうやって速さを上げるのか。脳科学辞典によると、髄鞘は脂質に富んで電気を通しにくく、一定の間隔ですき間(ランビエ絞輪)があいている。興奮はこのすき間だけで起こり、すき間からすき間へ飛び飛びに伝わるので、跳躍伝導とよばれる。

膜の電気の性質から、活動電位の形と伝わる速さを計算した式は、ホジキン・ハクスリーのモデルで読める。

例題と解説

時間の差から速さを出す例題

例題 1基本カエルの神経筋標本

カエルの神経筋標本で、筋肉から15 mmの点と51 mmの点を刺激した。筋肉が縮み始めるまでの時間は、15 mmの点で2.6 ms、51 mmの点で4.1 msだった。興奮の伝導速度は何m/sか。

解説を見る

2点の距離は mm、時間の差は msである。mmをmsで割った数はm/sの数になる。

例題 2基本時間の内訳を求める

伝導速度が25 m/sの神経で、筋肉から10 mmの点を刺激すると、3.4 ms後に筋肉が縮み始めた。(1)刺激点から筋肉まで興奮が伝わる時間(2)伝達と、筋肉が縮み始めるまでにかかる時間(3)筋肉から60 mmの点を刺激したとき、筋肉が縮み始めるまでの時間を求めよ。

解説を見る

(1)25 m/sは、1 msに25 mm進む速さである。10 mmを伝わる時間は次のとおり。

(2)全体の3.4 msから伝わる時間を引く。

(3)60 mmを伝わる時間は msで、そこに(2)の3.0 msを足すと5.4 msになる。公式で確かめると、 m/sで合う。

例題 3入試肘と手首で測る

人の腕の神経を手首と肘で刺激し、親指のつけ根の筋肉で反応を記録した。反応が始まるまでの時間は、手首で刺激すると3.4 ms、肘で刺激すると7.4 msだった。肘と手首の距離は0.24 m、手首の刺激点から筋肉までは0.070 mである。(1)肘と手首の間の伝導速度を求めよ。(2)手首で刺激したときの時間だけを使い、0.070 mを3.4 msで割ると何m/sになるか。有効数字2桁で答え、(1)と違う理由を答えよ。

解説を見る

(1)時間の差は ms sである。

(2)で、約21 m/sになる。3.4 msには、手首から筋肉までを伝わる時間のほかに、伝達と筋肉が反応し始めるまでの時間が入っている。伝わる時間ではない分まで割る数に含めたので、速さが(1)の3分の1ほどに小さく出る。

参考文献

  1. 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第7節「生物」3(4)ア(ア)㋐ 刺激の受容と反応、140〜141ページ
  2. H. Helmholtz, "Vorläufiger Bericht über die Fortpflanzungs-Geschwindigkeit der Nervenreizung", Archiv für Anatomie, Physiologie und wissenschaftliche Medicin (1850), 71-73(ベルリンの科学アカデミーの月報1850年1月から)。紙面の画像はMax Planck Institute for the History of Science「The Virtual Laboratory」
  3. 吉村 武、池中 一裕「髄鞘」、脳科学辞典(2013年12月原稿完成)
  4. M. Freedman, "Electromyography and Nerve Conduction Studies", MSD Manual Professional Edition(2025年6月改訂)

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この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

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