同じyが逆を向く
自由落下のと鉛直投げ上げのは、同じ文字なのに向きが逆である。自由落下のは放した点から下へ測った距離で、鉛直投げ上げのは投げた点から上へ測った高さを表す。どちらを正にとったかを見れば、の負の符号で迷わなくなる。
2組の式には共通点もある。物体の質量がどこにも入っていない。
それを1971年に月面で見せたのが、アポロ15号の船長デイヴィッド・スコットだ。最後の月面活動の終わりに、1.32 kgのハンマーとハヤブサの羽を約1.6 mの高さから同時に放すと、2つはそろって月面に着いた。月には空気抵抗がほとんどないからである。
式の骨組みは、それより300年以上古い。落ちた距離が時間の2乗に比例することを、ガリレオ・ガリレイは1638年の『新科学対話』第3日で、斜面に球を転がす実験とともに示した。
加速度を入れる一歩
は速度、は出発点からの変位、は時刻、は初速度、は重力加速度の大きさを表す。どちらの運動も空気抵抗を無視する。等加速度直線運動の2本の式に加速度を入れれば、2組の公式が出る。
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速度の式を書く
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変位の式を書く
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自由落下は下向きを正に、、とする
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変位の式も同じ値で書き直す
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投げ上げは上向きを正に、とする
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変位の式も同じ値で書き直す
変わったのは、正の向きとの符号だけだ。重力の向きは変わらないが、上向きを正にとればと負になる。が質量によらないのは、運動方程式の両辺からが消えるからである。
上向きを正にしたまま投げ上げの式にを入れると、になる。つまり自由落下は、軸の向きを替えた投げ上げの特別な場合にすぎない。逆に投げ上げのが負になっても、投げた点より下にあるというだけで、式はそのまま使える。
投げた物がどこまで上がるかも、この式から決まる。
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最高点では速度が0になる
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について解く
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手順6に代入して高さを出す
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投げた点に戻るときとおく
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でない解をとる
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手順5に代入して速度を出す
戻るまでの時間は、最高点までの時間のちょうど2倍である。速さも投げたときと等しい。下りは、上りの動きを時間の向きだけ逆にたどった形になっているからだ。
時間の入らない式も、同じ一歩で出る。
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にを入れる
とおけば手順9にも戻れる。縦の動きをこの2組に任せ、横の動きを足すと、水平投射へ進める。
定規で測る0.2秒
定規の目盛りは時計になる。友人が放した定規を親指と人差し指でつかみ、20 cm落ちたところで止まったなら、手順4をについて解いて、反応時間は sと分かる。10 cmなら0.14 s、30 cmなら0.25 sだ。距離が2倍でも、時間は約1.4倍にしかならない。
同じ式を逆に使えば、ストップウォッチで投げる速さも測れる。ボールを真上に投げて3.0 sで手に戻ったなら、手順11から m/sで、時速は約53 km。最高点は手から約11 m上にある。
月面のハンマーも同じ式で追える。月の重力加速度は1.62 m/s²なので、1.6 mを落ちる時間は約1.4 sになる。地球で空気がなければ約0.57 sだから、2.5倍ほどゆっくり落ちたことになる。
では、空気抵抗はどこで無視できなくなるのか。雨粒で試すと差がはっきりする。高さ1,000 mから自由落下すれば、から地面で約140 m/s、時速500 kmになるはずだ。ところが静止した空気の中で測った水滴の落下速度は、直径5.8 mmの大粒でも9.17 m/sにとどまる。自由落下ならわずか4.3 mで届く速さである。
速くなるほど空気抵抗が増え、やがて重力とつり合うからだ。だから公式が使えるのは、速さがこの上限より十分小さいあいだと考えてよい。
屋上から投げ、1秒遅れで追う
どの例題も、重力加速度の大きさを9.8 m/s²とし、空気抵抗を無視する。
例題 1基本橋から小石を放す
水面から高さ44.1 mの橋の上で、小石を静かに放した。(1)水面に届くまでの時間(2)届く直前の速さを求めよ。
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下向きを正にとる。
(1)手順4を使い、とおく。
(2)手順3で速さを出す。
例題 2基本真上に投げる
小球を初速度24.5 m/sで真上に投げた。(1)最高点に達する時刻(2)最高点の高さを有効数字2桁で(3)投げた点に戻る時刻を求めよ。
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上向きを正にとる。
(1)手順8を使う。
(2)手順9を使う。
(3)手順11から、(1)の2倍になる。
例題 3入試屋上から投げ上げる
高さ24.5 mの屋上の端から、小球を初速度19.6 m/sで真上に投げた。小球は屋上に当たらず地面まで落ちる。(1)地面から測った最高点の高さ(2)地面に着く時刻(3)着く直前の速度を求めよ。
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上向きを正にとり、投げた点を原点とする。地面は mにある。
(1)手順9から、投げた点より上に次の高さだけ上がる。
地面からは mである。
(2)手順6でとおく。
両辺を4.9で割って整理し、因数分解する。
なので sである。
(3)手順5から速度が出る。
負の符号は下向きを表す。最高点からは44.1 mの自由落下なので、例題1と同じ速さになる。
例題 4入試遅れて投げた2球
同じ地点から小球Aを初速度19.6 m/sで真上に投げ、その1.0 s後に小球Bを同じ初速度で真上に投げた。Aを投げた時刻をとする。(1)AとBが同じ高さになる時刻(2)その高さを有効数字2桁で(3)そのときのAとBの速度を求めよ。
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(1)Bは投げてからだけたっている。
とおくと、の項が消える。
(2)の式で高さを計算する。
(3)Bが動いた時間は1.5 sである。
Aは下り、Bは上りですれ違う。2球の加速度は等しいので、Bから見たAの相対速度は m/sのまま変わらない。
階段、床、気球で問われた上下の運動
- 2024年 大学入学共通テスト 追試験 物理基礎 第2問 問2:校舎の3階から小球Aを下向きに投げると同時に、4階から小球Bを自由落下させ、2つの位置の差と時刻の関係を表すグラフを選ぶ。出典は大学入試センター「令和6年度 追・再試験の問題」。
- 2024年 大学入学共通テスト 追試験 物理 第2問 問1:高さから速さで投げ上げても投げ下ろしても、床に届く直前の速さは同じになる。その速さを表す式を選ぶ。出典は大学入試センター「令和6年度 追・再試験の問題」。
- 2026年 大学入学共通テスト 追試験 物理基礎 第2問 問5:上昇している気球から静かに放したおもりの、高さと時間の関係を表すグラフを選ぶ。放した瞬間のおもりが気球と同じ速度を持っていることに気づけるかが問われる。出典は大学入試センター「令和8年度 追・再試験の問題」。
- 2026年 物理チャレンジ 第1チャレンジ 理論問題 総合コース 問13:高さから小球Aを自由落下させると同時に、真下の小球Bを速さで投げ上げ、衝突する高さを選ぶ。出典は物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ2026の第1チャレンジ理論問題コンテスト(総合コース)」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第2節「物理基礎」3(1)ア(イ)㋓、50-52ページ
- NASA NSSDCA, "The Apollo 15 Hammer-Feather Drop"。J. Allen, Apollo 15 Preliminary Science Report, NASA SP-289, p. 2-11を引用。"Apollo 15"
- Galileo Galilei, Dialogues Concerning Two New Sciences, trans. H. Crew, A. de Salvio, The Third Day, Dover (1954)
- 梶川正弘「降水粒子の落下速度について」『天気』21巻7号(1974)、第1表(1013 mb、20 °Cの静止大気の値。Gunn and Kinzer 1949ほかによる)
- NASA NSSDCA, "Moon Fact Sheet"
- 大学入試センター「令和6年度 大学入学共通テスト 追・再試験 物理基礎、物理」「令和8年度 大学入学共通テスト 追・再試験 物理基礎」。物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ2026」