一度は断られた湖の論文
1942年10月、学術誌Ecologyにレイモンド・リンデマンの論文「The Trophic-Dynamic Aspect of Ecology」が載った。著者は、その年の6月に亡くなっている。Gale社の環境百科事典によると、査読者は一度、3つの湖のデータから離れた推測だとして掲載を断った。研究員として一緒に研究したイェール大学のG・E・ハッチンソンの後押しもあり、編集者が判断を覆したという。
調べた湖には、ミネアポリス近くのシーダー・ボグ湖が含まれる。平凡社の『世界大百科事典』によると、リンデマンはある栄養段階の同化エネルギーと、そのすぐ下の段の同化エネルギーの比を求め、累進効率と呼んだ。のちにリンデマン比とも呼ばれるこの比は、高校の生物で習うエネルギー効率の式と同じ形をしている。
同化量を段ごとに割る
この計算の道すじ。 食べた量から同化量を求め(手順1)、1つ前の段の同化量で割って百分率にする(手順2〜3)。二次消費者でも同じ計算をして(手順4〜5)、段を上がると小さくなるわけを確かめる。最後に、前の段がない生産者の扱いを見る。
生態系の生き物は、食べる、食べられるの関係で段に分けられる。光合成で有機物を作る生産者がいちばん下の段で、それを食べる一次消費者、一次消費者を食べる二次消費者と続く。この段を栄養段階という。
同化量は、食べた量のうち、消化して体に取り込んだ量である。食べた量を摂食量、消化されずにふんとして出た量を不消化排出量という。どちらもエネルギーの量として数え、単位にはなどを使う。
公式のは、割合を百分率に直すためのものだ。エネルギーどうしの割り算なので、単位は消える。
では、面積1 m²あたり1年間の数で計算してみよう。生産者の総生産量を10,000 kJ、一次消費者の摂食量を1,500 kJ、不消化排出量を500 kJとする。総生産量は生産者が光合成で作った有機物のエネルギーで、生産者の同化量にあたる。数値はこのあとも、説明のために作った例である。
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摂食量から不消化排出量を引き、一次消費者の同化量を出す
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1つ前の段である生産者の総生産量で割る
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100を掛けて百分率にする
一次消費者の同化量1,000は、そのまま次の段へ渡るわけではない。呼吸に600を使うと、体を作るなどに回せる生産量は400になる。
二次消費者が食べるのは、この400のうちの180だ。そのうち30は消化されずに出ていく。
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二次消費者の同化量を出す
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1つ前の一次消費者の同化量で割り、100を掛ける
段を上がると小さくなるわけ
一次消費者の同化量1,000と、二次消費者の同化量150の差は、どこへ消えたのだろうか。消えてはいない。次の段へ渡らずに、ほかの行き先へ分かれたのだ。呼吸の600、食べられなかった220()、次の段が消化できずに出した30を、次の段の同化量150に足すと、もとの1,000に戻る。
いちばん大きいのは呼吸で、使ったエネルギーは最後に熱になって生態系の外へ出ていく。食べられずに死んだ分や、ふんとして出た分は、次の段ではなく、菌類や細菌などの分解者へ回る。だから段を上がるたびに、同化量は小さくなる。
段を積むと細くなる
同化量を横幅にして積むと、ピラミッドの形になる。三次消費者の同化量を20とすると、段ごとの効率は10%、15%、約13%で、そろってはいない。
段から段へ渡る割合を「約10%」とまとめた説明を見かけることがある。ただ、これは目安でしかなく、決まった値ではない。オルデンブルク大学の解説は、平均すれば10%前後だが、詳しい調査では2〜24%の幅があるという1995年の研究を紹介している。計算では、問題や資料の数値から毎回出すことになる。
効率のつまみを動かすと、上の段の細り方が変わる。どの段も同じ効率にした仮の例なので、実際の生態系のような段ごとの違いは出ない。左へ出る矢印は次の段へ渡らない分を指し、長さは量を表さない。
前の段がない生産者
生産者には1つ前の栄養段階がないので、公式の分母が決まらない。そこで、太陽から届く光のエネルギーと比べる方法がある。届く光を1,000,000 kJとすると、次の値になる。
平凡社の『世界大百科事典』も、生産者が太陽エネルギーを利用する効率を「エネルギー効率」とも呼ぶとし、生育期間中に入ってくるエネルギーに対する総生産の比は、森林で2.1〜3.2%と紹介している。
ただ、呼び名も決め方も資料によって違う。大学入試センターの「生物」の問題例は、生産者の段では太陽の入射エネルギーを分母に置き、似た比を「変換効率」と呼んでいる。試験では、問題文の決め方に従えばよい。
肉を1段はさむと
エネルギー効率は、同じ畑でどれだけの食べ物を得られるかの見当に使える。作物の総生産量を10,000、どの段の効率も10%とする。作物をそのまま食べる場合と、家畜を1段はさむ場合で、ヒトに届く量はどれだけ違うだろうか。
実際の効率は作物や家畜の種類で変わるので、10分の1はおおまかな見当にすぎないが、段を1つはさむたびに呼吸の熱などで減っていく向きは変わらない。上の段の生き物ほど、養える量に限りが出るのはこのためだ。
表の数値から効率を出す
例題 1基本一次消費者のエネルギー効率
ある生態系で、面積と期間をそろえた値として、生産者の総生産量が15,000 kJ、一次消費者の摂食量が2,400 kJ、不消化排出量が600 kJだった。一次消費者のエネルギー効率を求めよ。
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まず、摂食量から不消化排出量を引いて同化量を出す。
1つ前の段である生産者の総生産量で割り、100を掛ける。
例題 2基本二次消費者のエネルギー効率
一次消費者の同化量が900 kJ、二次消費者の摂食量が150 kJ、不消化排出量が15 kJのとき、二次消費者のエネルギー効率を求めよ。
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二次消費者の同化量は kJである。分母は生産者ではなく、1つ前の一次消費者の同化量になる。
例題 3入試効率から同化量へ
ある生態系で、太陽から届く光のエネルギーが2,000,000 kJ、生産者の総生産量が20,000 kJ、一次消費者の同化量が2,400 kJだった。生産者のエネルギー効率を総生産量 ÷ 届く光 × 100で定める。(1)生産者と一次消費者のエネルギー効率を求めよ。(2)二次消費者のエネルギー効率が15%のとき、二次消費者の同化量を求めよ。(3)二次消費者の同化量は、届く光の何%か。
解説を見る
(1)問題文の決め方どおりに割る。
(2)一次消費者の同化量に、効率の15%を掛ける。
(3)届く光で割って100を掛ける。
光のエネルギーのうち、二次消費者の体に取り込まれるのは、ごくわずかである。
生産者の効率に触れた出題
- 2024年 大学入学共通テスト 追試験 生物 第5問 問1:海洋と陸地の純生産量、生産者のエネルギー効率と呼吸量の関係、森林の現存量、生産者の成長量の求め方について述べた4つの記述から、最も適当なものを選ぶ。出典は大学入試センター「令和6年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018、2021年一部改訂)、第1部 第2章 第7節「生物」3(5)ア(イ)㋐ 生態系の物質生産と物質循環、144〜145ページ(「栄養段階ごとのエネルギー収支を示す資料」。エネルギー効率の語と式は解説に出てこない)
- R. L. Lindeman, "The Trophic-Dynamic Aspect of Ecology", Ecology 23 (4) (1942), 399-417
- 平凡社『世界大百科事典(旧版)』「生態学的効率」「生態系」。コトバンク「Lindeman,R.L.」、コトバンク「エネルギー効率」
- G. J. Young, "Lindeman, Raymond L. (1915-1942)", Gale(Encyclopedia.com)
- 大学入試センター「令和6年度 大学入学共通テスト 追・再試験 生物」
- 大学入試センター「「生物」問題例」
- University of Oldenburg, "Answer 5th question"(Pauly and Christensen 1995を引く)