ソラマメの根の時刻表
顕微鏡で見る細胞は止まっている。それなのに、分裂に何時間かかるかが、細胞を数えるだけで分かる。どういうことなのか。
手がかりは、ソラマメの根にあった。マギル大学生物学科の紹介によると、アルマ・ハワードとスティーブン・ペルクは、ソラマメの根にリン32を取り込ませて調べていた。酸で処理するとDNAに入らなかったリン32の大半が洗い流されることに偶然気づき、分裂する細胞の核にリン32がどう入るかを追った。その結果、DNAは間期のうち限られた時間にだけ複製されると結論し、その時期をS期と名付けた。2人が1953年に出した論文は、細胞の一生に初めて時間の枠を与えた、と同じ紹介は評している。
数の割合を時間の割合に読み替える
細胞周期の長さを、ある時期の長さをとする。観察した細胞は全部で個、そのうちその時期にいたのが個だったとする。前提は2つある。細胞の時期がばらばらで、そろっていないこと。そして、周期のどの時刻にも同じ数の細胞がいることだ。
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周期を1時間ずつに区切ると、どの1時間にも同じ数の細胞がいる
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長さの時期には、その倍の細胞がいる
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両辺をで割る
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両辺にを掛けて、を求める形にする
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周期22時間で、観察した500個のうち分裂期が50個なら
手順3が公式の中身である。1枚の写真に写った細胞のうち、ある時期にいるものの割合は、その時期が1周に占める時間の割合に等しい。1つの細胞を22時間見続ける代わりに、時期の違う500個を一度に見て、時間の長さを数の多さに読み替えているわけだ。
では、前提が崩れるとどうなるか。細胞の時期をそろえた集団(同調した集団)では、ある瞬間に多くの細胞が同じ時期にいる。数えた割合は時期の長さではなく、数えた時刻を映してしまう。分裂を止める薬を加えた場合も、分裂期の細胞が時間とともにたまり、割合はふくらみ続けるばかりだ。
分母に入れる細胞にも気をつけたい。中学校の学習指導要領解説は、根の成長は細胞の数が増えるだけでなく、細胞自体が伸びて大きくなることでも起きる、と説明している。分裂をやめて伸びている細胞まで数えると、分裂期の割合は小さく出る。数えるのは、分裂している細胞が集まる根の先端部だけ。
もう1つの前提は、もっと気づきにくい。数が倍々に増えている集団では、周期のどの時刻にも同じ数の細胞がいる、とは厳密には言えない。いま分裂した直後の細胞は、いまの集団から生まれたばかりだ。周期の終わりにいる細胞は、1周前の、数が半分だったころの集団から生まれた。だから周期の始まりには、終わりの2倍の細胞がいる。
その結果、周期の最後にあるM期の割合は、時間の割合より小さい。分裂直後から直前まで細胞数が半分に減っていく形を積分すると、M期の割合はになる。1周期24時間、M期1時間なら、比例で見込めば約4.2%のところが約2.9%になり、比例の式に戻すと0.7時間にしかならない。もっとも、2018年の日本生物学オリンピック予選の解説も、比例の式で答えを出している。
DNA量と分裂像で時期を分ける
生物基礎の学習指導要領解説は、細胞周期には触れる程度とし、間期にDNAが複製され、分裂期に等しく分けられることを挙げている。ただ、共通テストの生物基礎の問題には、G1期やG2期、M期の名前が出てくる。2025年の本試験では、気管の細胞がG1期、G2期、M期の中期にあるとして、細胞1個あたりのDNA量の組み合わせを選ばせている。
時期を数え分けるには、2つの手がかりがある。分裂期は染色体の形から前期、中期、後期、終期に分けられるが、間期は顕微鏡の像では見分けにくい。そこで細胞1個あたりのDNA量を測り、複製前の量ならG1期、2倍ならG2期かM期、その間ならS期として数える。
周期の長さそのものが分からないときは、逆に解けばよい。ある時期の長さが別の観察で分かっていれば、周期はだ。2026年の共通テスト追試験(生物基礎)は、タマネギの根の先端部には約22時間で1回分裂する細胞が多数ある、という設定で出題している。
根端の500個とDNA量の1000個
例題 1基本タマネギの根端で時期を分ける
タマネギの根の先端部を観察し、500個の細胞を数えると、間期450個、前期30個、中期8個、後期4個、終期8個だった。細胞周期を22時間として、(1)分裂期全体(2)前期(3)後期の長さを求めよ。後期は分で答えよ。
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(1)分裂期は個なので、次のとおり。
(2)前期は約1.3時間である。
(3)後期は0.176時間で、60を掛けると約11分になる。
4個しかない時期は、1個の数え違いで長さが25%変わる。短い時期ほど、たくさんの細胞を数える必要がある。
例題 2基本周期の長さを逆に求める
ある培養細胞では、M期の長さが別の観察から1.0時間と分かっている。時期がそろっていない集団を数えると、M期の細胞は全体の5.0%だった。細胞周期の長さを求めよ。
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を変形してを出す。
例題 3入試間期をDNA量で分ける
時期がそろっていない培養細胞1000個について、細胞1個あたりのDNA量を測った。DNA量が複製前と同じ細胞は600個、2倍の細胞は150個、その間の細胞は250個だった。2倍の量の細胞のうち40個は、分裂期の像を示していた。細胞周期を20時間として、(1)G1期(2)S期(3)G2期(4)M期の長さを求めよ。
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DNAが複製前の量ならG1期、2倍ならG2期かM期、その間ならS期にいる。 (1) (2) (3)G2期の細胞は個である。
(4) 4つを足すと、周期の20時間に戻る。
例題 4入試そろえた細胞は時計にならない
例題3と同じ細胞に、DNAの合成を止める薬を加え、すべての細胞をS期の初めでそろえてから薬を除いた。2時間後に数えると、S期の細胞が90%だった。この割合から「S期は時間」と求めるのは正しいか。理由とともに答えよ。
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正しくない。薬で時期をそろえたため、細胞はばらばらの時期にいない。薬を除いて2時間しかたっていないので、そろって進む細胞の大半はまだS期を抜けていない。90%という割合が映しているのは、S期の長さではなく、薬を除いてからの時間である。時期がばらばらの集団で数えた例題3では、S期は5.0時間だった。
コルヒチンで止めた4%
- 2018年 日本生物学オリンピック 予選 問3:細胞周期が25時間で、時期がそろっていない培養細胞では、M期の細胞が全体の4%を占める。微小管ができるのを妨げるコルヒチンを6時間はたらかせたあと、M期の細胞が何%になるかを選ぶ。M期の長さを割合から出し、そのあいだにM期へ入ってくる細胞を足し合わせる。出典は日本生物学オリンピック「日本生物学オリンピック2018予選試験問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第6節「生物基礎」3(1)ア(イ)㋐、118-119ページ
- 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』(2017)、第2章 第2節[第2分野]2(5)ア(ア)㋐、99-100ページ
- McGill University, Department of Biology, "The Alma Howard Lecture in Molecular Biology"
- A. Howard, S. R. Pelc, "Synthesis of Desoxyribonucleic Acid in Normal and Irradiated Cells and Its Relation to Chromosome Breakage" (1953)。International Journal of Radiation Biology 49 (1986), 207-218に再録
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 本試験 生物基礎」「令和8年度 大学入学共通テスト 追試験 生物基礎」
- 日本生物学オリンピック「日本生物学オリンピック2018予選試験問題」「同 正解・解説」
注
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分裂してからの時間をとし、細胞数がに比例するとおく。周期の終わりにある長さの区間にいる割合はで、割合から長さを出し直すならになる。どの細胞も同じ周期で分裂するとした計算である。 ↩