語順だけが違う2つの命題
三角形の3辺の長さだけを知っているとき、いちばん大きい角はどれだろうか。分度器を当てなくても、いちばん長い辺と向かい合う角だと答えられる。エウクレイデスは『原論』第1巻で、これを命題18「大きい辺の向かいの角は大きい」と命題19「大きい角の向かいの辺は大きい」に分けて証明した。
クラーク大学で『原論』の英訳を公開しているデイヴィッド・ジョイスの訳注によると、原文の語順のまま訳せば、命題18は「どの三角形でも、大きい辺が大きい角に向かい合う」となる。命題19は「どの三角形でも、大きい角に大きい辺が向かい合う」で、違うのは語順だけだ。エウクレイデスのギリシャ語の文は、与えられたものを先に置く。だから語順が入れ替われば、仮定と結論も入れ替わる。2つは互いの逆だが、逆が正しいとは限らないので、命題19には別の証明が要る。エウクレイデスは命題18を使った背理法でそれを示し、すぐ次の命題20、つまり三角形の成立条件のもとになる定理の証明に使った。
二等辺三角形を1つ切り出す
△ABCで、頂点A, B, Cと向かい合う辺の長さを, , 、角の大きさを, , とする。まず、ならとなることを示す。
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なので、辺CBの上にとなる点Dをとれる
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△CADは二等辺三角形なので、底角が等しい
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∠CDAは△ABDの外角で、隣り合わない内角の和に等しい
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で、∠ABDは角そのもの
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Dは辺CBの上にあるので、線分ADは角の内側を通る
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手順2、4、5をつなぐ
エウクレイデスも命題18で、長い辺から短い辺と同じ長さを切り取り、二等辺三角形を作った。ただし手順3の「外角は内角の和に等しい」は、平行線を使う命題32で初めて証明されるので、命題18ではまだ使えない。エウクレイデスは命題16「外角は、隣り合わないどちらの内角よりも大きい」で済ませている。手順4に要るのは大小だけだから、それで足りる。
次は逆向きに、ならとなることを示す。との大小は3通りしかないので、2通りを順につぶす。
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との関係は次のどれか1つ
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なら二等辺三角形の底角が等しくなり、仮定に反する
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なら、手順1〜6でとを入れ替えて仮定に反する
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残る1通りが結論になる
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2つの向きをまとめる
命題19の証明もこの形で、命題18と、二等辺三角形の底角が等しいという命題5しか使わない。同じ筋でも成り立つ。辺を長い順に並べれば、向かい合う角も大きい順に並ぶ。
すると、直角や鈍角と向かい合う辺が、ほかのどの辺より長いことも分かる。残り2つの角は和が90°以下なので、どちらも90°未満になるからだ。
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直線ℓの外の点Pから垂線PHを引き、ℓの上にH以外の点Qをとる
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内角の和から、Qの角は90°より小さい
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大きい角の向かいの辺は長い
点から直線までの距離を、垂線の長さで測ってよい理由がこれである。
辺だけで最大の角を見切る
3辺の長さが分かれば、いちばん大きい角はすぐに決まる。ただ、それが鈍角かどうかまでは、大小を比べるだけでは分からない。そこで余弦定理を使う。最大の辺をとすると、の符号はの符号と同じになる。
たとえば3辺が4, 5, 7なら、最大の角は7の向かいにある。なので鈍角で、から約101.5°と出る。5, 7, 8ならで、最大の角でも約81.8°にとどまり、鋭角三角形だ。調べるのは最大の辺の1本だけでよい。
正弦定理と組み合わせると、少し意外なことも言える。なので、1つの三角形の中ではが成り立つ。正弦は0°から90°までは増え、90°を過ぎると減るので、角が大きいほど正弦も大きいとは限らない。は、より小さい。けれども、120°と80°の角が1つの三角形に同居することはない。2つの角の和は180°未満なので、120°の角と並ぶ角は60°未満で、のように正弦も必ず小さくなる。
最大の辺を見つけるこの一歩は、ほかの判定の入口にもなる。三角形の成立条件では最大の辺について足し算を1回すればよく、三平方の定理の逆で直角かどうかを調べるときも、2乗を比べるのは最大の辺だ。
長さの順と角の順を入れ替える
例題 1基本辺の順から角の順へ
(1)、、の△ABCで、3つの角を小さい順に並べよ。(2)、の△ABCで、3辺を短い順に並べよ。
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(1)角は向かいの辺の長さの順に並ぶ。なので、それぞれの向かいの角も同じ順で、である。余弦定理で確かめると、、、になる。
(2)残りの角は次のとおり。
角の順はなので、向かいの辺も同じ順に並び、である。
例題 2基本最大の角を指定された三角形
△ABCで、、とする。∠Cがほかの2つの角より大きいとき、の値の範囲を求めよ。
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∠Cの向かいの辺はABなので、ABがほかの2辺より長ければよい。はすでに成り立っているから、残る条件は1本である。
三角形ができる条件は、つまりで、2つを合わせて次の範囲になる。
例題 3入試中線は短い辺の側に傾く
△ABCでとし、辺BCの中点をMとする。を示せ。
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線分AMをMの先へ延ばし、となる点A'をとる。△ABMと△A'CMでは、、で、∠AMBと∠A'MCは対頂角なので等しい。2辺とその間の角が等しいから2つの三角形は合同で、次の2つが成り立つ。
△ACA'ではなので、長い辺A'Cの向かいの角は、短い辺ACの向かいの角より大きい。
∠CAA'は∠CAMそのもので、∠CA'Aは∠BAMに等しい。よってである。
例題 4入試正弦の比から最大の角
△ABCでのとき、いちばん大きい角の大きさを求めよ。
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正弦定理からなので、最大の辺はで、最大の角はである。、、とおいて余弦定理に入れる。
よってである。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第4節「数学A」3(1)図形の性質、89-90ページ(「三角形に関する基本的な性質」の例に三角形が成立するための条件などを挙げ、辺と角の大小関係の名は出てこない)
- D. E. Joyce, "Euclid's Elements, Book I, Proposition 18", Clark University(訳注On word order)
- D. E. Joyce, "Euclid's Elements, Book I, Proposition 19", Clark University
- D. E. Joyce, "Euclid's Elements, Book I, Proposition 32", Clark University
- 東京都立南平高等学校「年間授業計画 数学A」(令和7年度、1学年、数研出版『高等学校 数学A』)と東京都立砂川高等学校 定時制「年間授業計画 数学A」(令和8年度、1年次、数研出版『最新数学A』)。どちらも1年の数学Aで、三角形の辺と角の大小関係を三角形の成立条件と並べて扱う