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ブランコはなぜタイミングよくこぐと高く上がるのか

Why a swing goes higher when you pump it in time

1回の押しは3°分。間合いが合えば、8回分ほどまでたまる。

押す周期が固有の周期に合うと、押すたびの揺れが同じ向きに積み重なる。共振曲線を複素数の振幅で導き、揺れに足し算で効くこぎ方と掛け算で効くこぎ方を、長さが変わる振り子の式で比べる。

公式
4 本
人物
ウィリアム・ケース、リチャード・ランド
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
場面

3°ずつ積み上がる揺れ

ブランコの揺れを大きくするのは、押す強さより押す間合いである。座った子と座面を合わせて25 kgとすると、0.4秒かけて平均16 Nほどで押すだけで、振れ幅にして3°ほどの揺れを足せる。揺れが戻ってくるたびに同じ間合いで押し続けると、当サイトの模型では、その3°が20秒で14°に育ち、やがて24°ほどで落ち着いた1。

ところが、押す間隔を1.5倍に延ばすと、同じ力でも揺れは1.5°ほどで落ち着く。1回押しただけの3°にも及ばない。

押す回数が3分の2に減っただけなら、揺れも3分の2の16°ほどになりそうなものだ。効いているのは、押す周期とブランコの周期の比である。ブランコには、支点から重心までの長さで決まる固有の周期がある。押す周期がその周期か整数倍に合うときだけ、押すたびの揺れが同じ向きに積み重なる。共振と呼ばれる現象だ。

では、だれにも押してもらわずにこぐときは、何に合わせているのだろうか。足は地面を蹴っていない。研究者が使ってきた単純な模型では、座ってこぐ人は揺れ幅に一定の量を足し、立ってこぐ人は1より大きい数を掛ける。重心をロープに沿って上げ下げするだけの模型なら、止まったブランコは動き出さない。0に何を掛けても0だからだ。

考え方

押すたびに足される矢印

1回押されたブランコは、そのあと固有の周期で揺れ続け、空気の抵抗で少しずつ小さくなる。押すたびにこの「1回分の揺れ」が1つ加わり、いま見えている揺れはその重ね合わせである。

重ね合わせを数えるなら、揺れを複素数で表すと見通しがよい。オイラーの公式を使えば、振れ幅と、揺れのどの段階にいるか(位相)を、平面の上の1本の矢印にまとめられる。矢印の長さが振れ幅、向きが位相だ。1回押すごとに同じ長さの矢印が1本加わり、前からある矢印は、次に押すまでに空気の抵抗で倍に縮む。

押す周期がに等しければ、新しい矢印は前の矢印と同じ向きに加わり、矢印は一直線につながっていく。ではならどうなるか。次に押すまでに揺れは1.25往復進むので、新しい矢印は前の矢印から90°回った向きに加わる。矢印は四角い渦を巻き、合計は1本分ほどから伸びない。

押すたびに加わる矢印を、新しいものから順につないだ図。6回押した直後で、周期がT₀なら合計は矢印4.5本分、1.25T₀なら矢印が90°ずつ回って1.1本分にとどまる(空気の抵抗γは0.08 s⁻¹)。

押し続けたときの合計は、等比数列の和で書ける。は1回の押しで増える座面の速さ、は固有の角振動数、が座面の振れ幅(弧に沿った長さ)。

がの整数倍ならは1になり、分母がいちばん小さい。当サイトの模型でとすると、右の式は1回分の8.5倍にあたる(押す時間を一瞬とみなした値)。一回おきに押すでも矢印の向きはそろうが、次に押すまでに2往復分縮むので、たまる量はおよそ半分にとどまる。では矢印の向きが毎回反対になり、押した分を次の押しが打ち消してしまう。

式

微分を掛け算に変えて解く

手で押す力の時間変化は、短い山がとびとびに並んだ形だ。フーリエ級数に分けると、この山の列は、一定の力と、周期の正弦波、その2倍、3倍の振動数の正弦波の和になる。がに近いとき、ブランコを大きく揺らすのは最初の正弦波だけである。そこで、重心が弧に沿って動いた道のりを、質量を、押す力をとおき、揺れ幅が押す角振動数でどう変わるかを求める。

  1. 引き戻す力は、振り子の周期の記事のとおりで、ばね定数をとしたフックの法則と同じ形になる。空気の抵抗を速さに比例するとおくと、運動方程式は

  2. 両辺をで割り、とおく。

  3. オイラーの公式から、はの実部である。右辺をに替えた式を複素数について解けば、その実部がになる。

  4. とおくと、時間で1回微分するたびにが掛かるだけになり、微分方程式が掛け算の式に変わる。

  5. 割り算で、複素数の振幅が出る。

  6. 絶対値が揺れ幅になる。これが共振曲線である。

  7. 偏角は、揺れが力からどれだけ遅れるかを表す。と書くと

では手順6の分母にだけが残り、揺れ幅はになる。同じ力でゆっくり押したときのずれの、倍だ。この倍率が値である。遅れはちょうど90°で、揺れがで変わるとき、速さはで変わる。つまり、力と速さの向きがいつもそろい、手は揺れに仕事をし続ける。

当サイトの模型は、支点から座った人の重心まで2.45 m、で、 s、。押す山の列の最初の正弦波は m/s²にあたり、手順6の式で揺れ幅を出すと23.0°だった。山の列のまま押し続けたシミュレーションの23.7°と、ほとんど変わらない。

は、間合いの許されるずれも決めている。押す周期がから2%、つまり0.06秒ずれただけで、落ち着く揺れ幅は7割ほどに下がった。時計で間合いを計って押すなら、この精度が要る。でも、実際に押す人は戻ってきた座面を見てから押すので、押す周期はひとりでににそろっていくはずだ。

歴史

1968年からのこぎ方の議論

押してもらわずにこぐしくみは、物理教育の雑誌『American Journal of Physics』で長く議論されてきた。アムステルダム自由大学のポストらは、2007年の論文で、しくみを2つに整理している。1つは重心をロープに沿って上げ下げするパラメーター励振である。1968年のティーとフォーク、1970年のバーンズ、1976年のカリーは、ブランコを長さが周期的に変わるロープの先の質点として扱い、立ってこぐ人ではこのしくみが働くと考えた。もう1つは体を前後に傾ける強制振動で、1970年のゴアと1972年のマクマランの論文が挙がっている。

1990年、ケースとスワンソンは、座ってこぐ人を3つのおもりをつないだ亜鈴の形で表した。抄録によると、運動方程式には駆動の項が1つとパラメーター励振の項が3つ現れ、数値を入れて調べると、揺れ幅が小さいうちから中くらいまでは強制振動子だと結論づけている。駆動の項の出どころは、体が自分の重心のまわりを回る分も合わせた、支点のまわりの全角運動量の保存だという。

1996年、ケースは立ってこぐ人を、ロープの下端で前後に回される剛体として表した。こちらにも駆動の項とパラメーター励振の項が現れる。抄録では、ふつうの公園にあるブランコなら駆動の項がまさり、立ちこぎも強制振動とみなすのがよいと論じている。立ちこぎをパラメーター励振とみなした先の研究とは、ここで見方が分かれた。

1998年には、Wirkus、Rand、Ruinaの論文「How to Pump a Swing」が、大学の数学教育の雑誌『The College Mathematics Journal』に載った。筆者は原文を読めていないが、共著者のRandが2017年に使ったスライドがコーネル大学数学科のサイトにある。スライドの立ちこぎの人は、端でしゃがみ、真下で立つ。角運動量が保たれたまま支点からの長さが縮むので、角速度は長さの比の2乗倍に上がる。座りこぎの人は端で体を回し、加わった角運動量で揺れの角度が一定の量だけ跳ぶ。掛け算と足し算なので、揺れ幅が小さいうちは座りこぎ、大きくなってからは立ちこぎが有利だ、とスライドは結ぶ。

2007年のポストらは、18人の大人に止まったブランコを座ったままこぎ始めてもらい、体の6か所と座面、支点に付けた印の動きを測った。鎖の長さは1.75 m。重心の動きをロープに沿った向きと垂直な向きに分けると、垂直な向き、つまり強制振動の分が大きかった。揺れが大きくなるにつれて垂直な分は小さくなり、ロープに沿った分はわずかに増える傾向を見せた。30秒の試技で、揺れの最大は平均65.2°、振動数は平均0.384 Hz。周期にすると2.60秒で、から逆に出した長さ1.68 mは、鎖の1.75 mに近い2。

式

長さが変わる振り子の式

立ちこぎのいちばん簡単な模型では、人を1つの質点とみなし、ロープに沿って支点に近づけたり離したりする。ワシントン大学の講義AMATH 568のノートも、ハーバード大学のBrydeらが2023年に書いた論文も、この形から出発する。支点から重心までの長さをとおく。

  1. 立ち上がる力はロープに沿って働くので、支点のまわりに回す力を生まない。角運動量を変えるのは重力だけである。

  2. 振れが小さいとしてとし、微分を展開してで割る。

  3. とおくと、なので、2の式は次の形にまとまる。重心が下へ加速する分だけ、重力が弱まった振り子の式である。

  4. 重心は1往復に2回上下する。平均の長さを、上下の幅をとしてとおく。で、はこぐ周期である。がよりずっと小さいとして整理すると、、を使って

  5. 係数が周期的に変わるこの形を、マシュー方程式と呼ぶ。講義ノートによると、1次の近似で揺れが時間とともに育ち続けるのは、つまり重心が上下する振動数が固有の振動数のちょうど2倍のときで、これがパラメーター共振である。そのときの1次の増え方を指数に直すと、揺れ幅はの形で増える。

  6. 、つまり揺れていないブランコは、4の式のいつまでも0のままの解である。

講義ノートによると、揺れを最も速く育てるには、上がりきった所で長さを伸ばし、真下を通る所で縮めればよい。端でしゃがみ、真下で立つ動きと同じである。ただし、同じノートには、子どもが実際にこぐ動きとは同じではないという断りもある。体のまわりを回る脚の角運動量も効くからだ。

当サイトの模型では、立った人の重心を支点から平均2.15 m、上下の幅を0.3 mとした。 s、手順5のは。空気の抵抗があると増え方はに減り、では1往復で1.24倍になる。シミュレーションが式を数値で解いて求めた倍率も1.24で、手順5のと合っていた。

シミュレーション

曲線をたたいて周期を選ぶ

左はブランコを横から見た図で、塗りつぶした点が人の重心、点線の弧が座面の振れ幅を示し、下の帯には過去40秒の揺れの角度が流れる。右(スマホでは下)のグラフの横軸は周期。「押してもらう」では、揺れ幅が落ち着く高さを実線の曲線と輪で、今の揺れ幅を点で示した。「立ちこぎ」の曲線は、1往復で揺れ幅が何倍になるかを表す。曲線をたたくか横になぞると周期が変わり、「3°で放す」と「止める」で揺れを始め直せる3。

考え方

足し算で育つ揺れ、掛け算で育つ揺れ

最初の設定は「押してもらう」で、 s、。止まったブランコが押され始め、点が輪へ向かって上っていく。20秒で13.9°、80秒で22.8°と、輪の23.7°にはゆっくり近づいた。輪との差はの25秒ごとに、およそ37%に縮んでいく。

を6.28 sにすると、輪は12.6°まで下がったが、揺れはちゃんと育った。山の列の2つ目の正弦波がに重なるからで、破線のの式にはこの山が無い。

「立ちこぎ」を選ぶと、周期のつまみは2.94 sに移る。立つと重心が支点に近づき、振り子が短くなるからだ。揺れていなければ、重心が上下を繰り返しても揺れ幅は0.0°のまま。「3°で放す」を押すと、揺れは1往復ごとに1.24倍になり、22秒で10°、38秒で30°を越えた。押してもらうときとは違い、揺れが大きいほど1往復の増え方も大きい。0.1°から始めると、30°までに85秒かかった。

意外だったのは、周期をぴったり合わせたままこいでも、揺れが50〜60°で頭打ちになることだ。振れ幅が大きいと振り子の周期は延び、当サイトの計算では50°で5%ほど長くなる。育つ周期の幅は2.80〜3.08 sしかなく、その外へ出てしまう。決まった間合いでこぎ続けると、ブランコの周期のほうが逃げていくのだ。Brydeらの計算でも、立ち上がるパワーに余裕があれば、端から数えて最も効く立ち上がりの時刻は、振れ幅が大きいほど遅くなる。人は揺れを感じながら、間合いを少しずつずらしているのだろう。

座りこぎなら、止まったブランコも動き出せる。ポストらの実験で、こぐ人は主に体を後ろへ倒し、膝を伸ばしていた。体を回すと、支点のまわりの全角運動量を保つように重心が逆向きに回り、押してもらうのと同じ足し算になる。もっとも、ケースの立ちこぎの模型にも駆動の項が現れ、ポストらの座りこぎにもロープに沿った重心の上下が混ざっていた。実際のこぎ方では、2つのしくみが1人の中で一緒に働いている。

使いどころ

公園で測る周期と抵抗

ブランコのとは、ストップウォッチ1つで見積もれる。

  1. だれも乗っていないブランコを小さく揺らし、10往復の時間を10で割る。これがで、が、支点から座面までのおよその長さになる。2.60秒なら1.68 m、3.00秒なら2.23 mである。
  2. 揺れ幅が半分になるまでの往復の回数を数える。で、当サイトの模型の、 sはが5.5回にあたる。
  3. を出す。およその4.5倍で、押す間合いの許されるずれは、周期のおよそである。

子どもを押すときは、戻ってきた座面が向きを変え、離れ始めたところで軽く押すとよい。近づいてくる座面を押し返すと、揺れに逆向きの仕事をして、たまった分を消してしまう。強く押す必要はない。毎回同じ間合いで押せば、少ない力でも揺れは育つ。この記事の立ちこぎの数字は、どれも模型で計算したものだ。手で確かめるなら、押す側に回るか、空のブランコを揺らせば足りる。

押す人の間合いがそろっていく話はホタルとメトロノームはなぜそろうのか、山の列を正弦波に分ける方法はフーリエ級数、共振で建物の揺れを吸い取る振り子は振り子の周期で読める。

3°ずつの押しを24°まで積み上げるのは、腕の力ではない。0.06秒の幅に収まる間合いである。

参考文献

  1. W. B. Case, M. A. Swanson, "The pumping of a swing from the seated position", American Journal of Physics 58(5) (1990), 463-467. doi:10.1119/1.16477(Crossrefの抄録で確認)
  2. W. B. Case, "The pumping of a swing from the standing position", American Journal of Physics 64(3) (1996), 215-220. doi:10.1119/1.18209(Crossrefの抄録で確認)
  3. S. Wirkus, R. Rand, A. Ruina, "How to Pump a Swing", The College Mathematics Journal 29(4) (1998), 266-275. doi:10.1080/07468342.1998.11973953(Crossrefの書誌で確認。中身は、共著者R. Randが2017年に使ったスライドによる。スライドはコーネル大学数学科のサイトにあり、この論文を「Modeling the Pumping of a Swing」の題で挙げている)
  4. A. A. Post, G. de Groot, A. Daffertshofer, P. J. Beek, "Pumping a playground swing", Motor Control 11(2) (2007), 136-150. doi:10.1123/mcj.11.2.136(アムステルダム自由大学の公開版で確認)
  5. Bretherton, "Parametric Resonance and Pumping a Swing", ワシントン大学AMATH 568の講義ノート(lect7。ワシントン大学のサイトで公開。著者は名字だけ)
  6. P. Bryde, I. C. Davenport, L. Mahadevan, "Optimal strategies for kiiking: active pumping to invert a swing", arXiv:2308.06818 (2023)
  7. P. L. Tea, H. Falk, "Pumping on a Swing", American Journal of Physics 36 (1968), 1165-1166. J. A. Burns, "More on Pumping a Swing", American Journal of Physics 38 (1970), 920-922. S. M. Curry, "How children swing", American Journal of Physics 44 (1976), 924-926.(Crossrefの書誌で確認。中身は4のまとめによる)
  8. B. F. Gore, "The Child's Swing", American Journal of Physics 38 (1970), 378-379. J. T. McMullan, "On Initiating Motion in a Swing", American Journal of Physics 40 (1972), 764-766.(Crossrefの書誌で確認。中身は4のまとめによる)

注

  1. 当サイトの模型。支点から座った人の重心までを2.45 m(固有の周期3.14 s)とし、空気の抵抗を速さに比例するとしてとした。1回の押しは0.4秒で、力はの形で強まって弱まり、座面の速さを0.25 m/s増やす。真下で受ければ振れ幅2.9°分である。25 kgなら力積は6.25 N·s、平均の力は15.6 N、いちばん強いところで31 Nになる。 ↩

  2. 当サイトの計算。揺れ幅が大きいと周期が延びることと、座った人の重心が鎖の先より上にあることは入れていない。2つは周期を逆の向きにずらす。 ↩

  3. 当サイトの設定。「押してもらう」は振れが小さいとみなした線形の式を、4次のルンゲ=クッタ法で解く。実線の曲線は同じ式で押し続けたときに落ち着く揺れ幅、破線は山の列の最初の正弦波だけをの式に入れた値である。「立ちこぎ」は重心が支点から2.0〜2.3 mのあいだを mで動くとして、長さが変わる振り子の手順1の式をのまま解く。曲線は手順2の線形の式で、1往復のあいだに揺れ幅が何倍になるかを数値で求めた値である。乗り方を切り替えた瞬間は、支点のまわりの角運動量を保つ。 ↩

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