単純に見えた塩化カリウム
74%。同じ大きさの球で空間を埋めるとき、これ以上は詰められない割合だ。銅や銀、金の原子は、この割合まで詰まる面心立方格子に並んでいる。この並び方をX線の写真から読み取ったのが、W・L・ブラッグである。1915年のノーベル物理学賞の受賞講演(1922年)で、ブラッグは塩化カリウムの写真をどう読み解いたかを語っている。その写真は、同じ形の結晶をつくる塩化ナトリウムの写真より単純に見えた。
ブラッグはそれより前に、ラウエらが閃亜鉛鉱で撮った写真を調べ、強く写る点と写らない点の選ばれ方は、原子が面心立方格子に並ぶと考えると説明できることを見つけていた。立方体の8つの角と、6つの面の中心に点を置く並び方である。塩化ナトリウムの写真も面心の並びを示したが、塩化カリウムの写真は、立方体の角だけに点を並べた形に見えた。ブラッグの答えは、どちらの結晶も2種類の原子がそれぞれ面心立方格子をつくって組み合わさっていて、カリウムと塩素は重さがほぼ等しいため、X線には同じ原子のように振る舞う、というものだった。米国標準局の資料によると、銅の結晶を面心立方格子と決めたのも、1914年のブラッグである。
角は8分の1、面は2分の1
単位格子の1辺の長さを格子定数、原子の半径をとし、原子を同じ大きさの球と考える。最初に数えるのは、1つの単位格子に入る原子の数。
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角の原子8個はずつ入る
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面の中心の原子6個はずつ入る
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足し合わせる
角の原子は8つの単位格子で分けあうが、面の中心の原子を分けあうのは、境をはさむ2つの単位格子だけだ。だから6面ぶんで3個にもなり、角の1個と合わせて4個になる。
では、角の原子と面の中心の原子は、どこで触れ合うのか。1つの面を取り出すと、角の4つの原子と中心の原子が、面の対角線に沿って並んでいる。
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面の対角線を三平方の定理で出す
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対角線に半径、直径、半径が並ぶ
辺の上はどうか。なので、辺の両端の原子のあいだにはのすき間が残る。辺の中点は、あとで数える正八面体のすき間にあたる。
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原子4個の体積を単位格子の体積で割る
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を代入する
この値に届く詰め方は、ほかにもある。面心立方格子を立方体の体対角線に垂直な面で切ると、球が正三角形の網目に並んだ層が現れる。この層を、上の球が下の層のくぼみに収まるように重ねると、くぼみの選び方は2通りある。3層ごとにくり返すABCABCの積み方が面心立方格子で、2層ごとにくり返すABABの積み方が六方最密構造だ。どちらも1つの球が12個の球に接し、充塡率は同じになる。これより密な詰め方がないと証明されるまでの長い道のりは、8次元の球の詰め込みで追える。
詰まりきらない残りの26%は、形の違う2種類のすき間に分かれている。
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単位格子を8つの小さな立方体に分け、その中心が正四面体のすき間
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単位格子の中心と12本の辺の中点が正八面体のすき間
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正八面体のすき間に入る球の半径を、辺の上で出す
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正四面体のすき間は、小さな立方体の中心から角までで出す
辺の中点は4つの単位格子で分けあうので、手順9ではを掛けた。つまり、原子4個と正四面体のすき間8個、正八面体のすき間4個で、数の比は1 : 2 : 1になる。
密度も、この原子4個から出る。をモル質量(g/mol)、をアボガドロ定数とする。
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原子4個の質量を単位格子の体積で割る
金と銀は同じ大きさの箱
格子定数が分かれば、密度はすぐに出る。米国標準局が1953年に測った25 °Cでの格子定数は、アルミニウム0.40494 nm、銅0.36150 nm、銀0.40862 nm、金0.40786 nmだ。銅なら、手順12に cmとモル質量63.55 g/molを入れる。
並べて驚くのは金と銀だ。単位格子の1辺は金のほうが0.2%ほど短いだけで、箱の大きさはほとんど変わらない。それなのに同じ式で密度を出すと、金は19.3 g/cm³、銀は10.5 g/cm³で、2倍近く違う。箱に入る原子はどちらも4個なので、この差は、ほぼ原子1個の重さの比、つまりモル質量197と108の比から来ている。
すき間の数と大きさは、イオン結晶を読む手がかりにもなる。塩化ナトリウムの結晶では、塩化物イオンが面心立方格子をつくり、その正八面体のすき間4つすべてにナトリウムイオンが入っているとみなせる。だから単位格子にはNa⁺とCl⁻が4個ずつあり、ナトリウムイオンだけを見ても面心立方格子に並ぶ。ブラッグが写真から読み取った「2つの面心立方格子の組み合わせ」と同じ構造だ。陽イオンと陰イオンの半径の比から結晶の形を見積もるときも、すき間の大きさが出発点になる。
原子を数え、面を切る
アボガドロ定数は /mol、、とする。1 nm = cmである。
例題 1基本銅の原子の半径と、接する原子の数
銅の結晶は面心立方格子で、格子定数は0.36 nmとする。(1)原子の半径を有効数字2桁で求めよ。(2)1つの原子に接している原子の数を求めよ。
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(1)手順5のをについて解く。
(2)面の中心の原子に注目する。同じ面の角にある4個と接し、さらに、その面をはさむ2つの単位格子のそれぞれで、隣り合う4つの面の中心の原子と接する。どれも距離はである。
例題 2基本アルミニウム1 cm³の原子を数える
アルミニウムの結晶は面心立方格子で、格子定数は0.405 nmとする。(1)アルミニウム1 cm³に含まれる原子の数(2)その原子の質量の和を、モル質量27 g/molを使って、それぞれ有効数字2桁で求めよ。
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(1)単位格子の体積は cm³で、その中に原子が4個ある。
(2)原子の数をアボガドロ定数で割って物質量にし、モル質量を掛ける。
1 cm³あたりの質量なので、これがアルミニウムの密度2.7 g/cm³にあたる。
例題 3入試立方体の面と斜めの面
面心立方格子の単位格子を、(1)立方体の1つの面(2)3つの面の対角線でできる正三角形の面 で切る。それぞれの切り口で、原子の断面が占める面積の割合を求めよ。
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(1)切り口には、角の原子の4分の1が4つと、中心の原子が1つあり、合わせて円2つぶんになる。を使う。
(2)正三角形の1辺は面の対角線で、長さはである。3つの頂点の原子は60°ぶん、つまりずつ入り、3辺の中点にある面の中心の原子は半分ずつ入る。
正三角形の面積はなので、割合は次のとおり。
斜めの切り口のほうがずっと密で、これが積み重なる最密の層にあたる。
例題 4入試正四面体のすき間の半分に入るイオン
陰イオンが面心立方格子をつくり、正四面体のすき間の半分に陽イオンが入った結晶がある。格子定数を0.54 nmとする。(1)単位格子中の陽イオンと陰イオンの数、(2)1つの陽イオンに接する陰イオンの数、(3)最も近い陽イオンと陰イオンの中心間の距離を、それぞれ求めよ。(3)は有効数字2桁とする。
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(1)陰イオンは4個、陽イオンは8個のすき間の半分で4個入り、数の比は1 : 1になる。 (2)正四面体の4つの頂点にある陰イオンと接するので、4個である。 (3)手順11と同じく、小さな立方体の中心から角までの距離になる。
すき間と配位数を問う出題
- 2019年 化学グランプリ 一次選考 問題3問ア〜エ:面心立方格子の図をもとに、最密充塡構造の配位数、球が占めない空間の割合、球と四面体間隙と八面体間隙の数の比、それぞれの間隙に入る球の最大の半径を答える。出典は化学グランプリ2019一次選考問題。
- 2021年 化学グランプリ 一次選考 問題1問ケ・問コ:日本刀の鋼を題材に、面心立方格子のγ鉄で格子定数を鉄原子の半径で表し、八面体と四面体のすき間に入りうる原子の半径を求める。出典は化学グランプリ2021一次選考問題。
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 化学 第1問 問2:陽イオンが面心立方格子と同じ配置をとり、陰イオンが4個の陽イオンのつくる正四面体の重心にある結晶の単位格子が示される。陽イオンの配位数と、単位格子中の陽イオンと陰イオンの数の組を選ぶ。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第5節「化学」3(1)ア(ア)㋒ 固体の構造と内容の取扱い、99-101ページ
- W. L. Bragg, "The diffraction of X-rays by crystals", Nobel Lecture(1922年9月6日)
- H. E. Swanson, E. Tatge, Standard X-ray Diffraction Powder Patterns, National Bureau of Standards Circular 539, Vol. 1 (1953), pp. 11-12, 15, 23-24, 33(アルミニウム、銅、銀、金の格子定数と、銅の構造を決めたブラッグの1914年の論文への言及)
- 化学グランプリ「過去出題問題」(2019年と2021年の一次選考問題)
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 追・再試験 化学」