X線が見せた角と中心
立方体の8つの角と中心に原子を1個ずつ置くと、原子どうしはどこで触れ合うのだろうか。答えは、立方体を斜めに貫く体対角線の上だ。中心の原子が8つの角の原子とそこで接し、辺の両端にある角の原子どうしは離れている。この並び方を体心立方格子という。
原子の並び方は、結晶にX線を当てて初めて測れるようになった。1915年のノーベル物理学賞は、X線で結晶の構造を解き明かした業績により、ウィリアム・ヘンリー・ブラッグとウィリアム・ローレンス・ブラッグの父子に贈られている。息子のW・L・ブラッグは1922年の受賞講演で、結晶を粉にしてX線を当てる方法を取り上げ、ハルがこの方法で金属のほとんどを含む多くの元素の構造を解析したと紹介した。米国標準局が1955年にまとめた資料にも、鉄の回折の記録としてA・W・ハルの1917年の論文が挙がり、鉄の単位格子に原子が2個入ると記されている。
体対角線に4つの半径を並べる
格子定数は単位格子の1辺の長さ、は原子の半径で、原子は同じ大きさの球とみなす。まずは、1つの単位格子に原子が何個入るかを数える。
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角の原子8個はずつ入る
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中心の1個を足す
角の1点には、まわりから8つの単位格子が集まっている。だから、そこにある球は8つに切り分けられ、どの単位格子にもずつしか入らない。
では、原子はどの向きで接しているのか。向かい合う2本の辺を含むように立方体を切ると、断面は横が面の対角線、縦が辺の長方形になる。
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面の対角線を三平方の定理で出す
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面の対角線と辺から体対角線を出す
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体対角線に半径、直径、半径が並ぶ
辺の上で接しないことも、数で確かめられる。だから、辺の両端にある原子の半径を足してもで、に届かない。
ここまで分かれば、原子が占める体積の割合も出せる。
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原子2個の体積を単位格子の体積で割る
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を代入する
体積の約68%を原子が占め、残る32%はすき間だ。面心立方格子なら74%になるので、体心立方格子のほうが少しすかすかしている。同じ球を空間にどう詰めるかという問いは、8次元の球の詰め込みまで続いている。
最後に、単位格子の質量を体積で割ると密度が出る。はモル質量(g/mol)、はアボガドロ定数である。
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原子2個の質量を体積で割る
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について解く
0.28664 nmから鉄の密度へ
α鉄の格子定数は、米国標準局が1953年に高純度の鉄で測った値で、25 °Cで0.28664 nmだ。1 nmは cmなので、手順8の式に cmと原子量55.85を入れる。
米国標準局も、同じ格子定数から鉄の密度を7.874 g/cm³と計算している。原子は目に見えないが、1辺0.3 nmに満たない箱の中身を数えるだけで、手に取れる鉄1 cm³の重さが出てくるのは面白い。
この式は逆向きにも使える。密度7.874 g/cm³と格子定数を手順9に入れると、 /molとなり、定義の値と3桁まで一致する。原子を1個ずつ数えずに結晶の密度からアボガドロ定数に迫る考え方は、シリコンの結晶の球を使ったキログラムの定義の測定にもつながっている。
半径から密度、密度から原子量
アボガドロ定数は /mol、とする。1 nm = cmである。
例題 1基本格子定数から原子の半径
ある金属の結晶は体心立方格子で、格子定数は0.43 nmである。原子の半径を有効数字2桁で求めよ。
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手順5のをについて解く。
例題 2基本格子定数から密度
体心立方格子で、格子定数0.50 nm、モル質量39 g/molの金属の密度を有効数字2桁で求めよ。
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単位格子の体積は cm³である。原子2個の質量をこれで割る。
例題 3入試密度からモル質量を求める
ある金属は体心立方格子の結晶で、密度は0.97 g/cm³、格子定数は0.43 nmである。この金属のモル質量を有効数字2桁で求めよ。
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手順8の式をについて解く。
cm³を入れる。
例題 4入試中心から2番目に近い原子
体心立方格子の中心の原子から見て、(1)最も近い原子の数と距離(2)2番目に近い原子の数と距離を、格子定数で表せ。
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(1)最も近いのは8つの角の原子で、距離は体対角線の半分である。
8個あり、これが配位数8にあたる。 (2)次に近いのは、面を共有して隣り合う6つの単位格子の中心の原子で、距離はである。6個ある。 2つの距離の比はで、2番目の6個も最も近い8個より15%ほど遠いだけだ。
鉄の結晶を数える化学グランプリ
- 2021年 化学グランプリ 一次選考 問題1問キ・問サ:たたら製鉄と鋼の硬さを題材に、体心立方格子のα鉄について格子定数を鉄原子の半径で表す式を答え、体心立方格子と面心立方格子の充塡率を求める。出典は化学グランプリ2021一次選考問題。
- 2019年 化学グランプリ 一次選考 問題3問キ:約910 °Cで面心立方格子のγ鉄が体心立方格子のα鉄に変わるときの体積の変化を、2つの格子定数から選ぶ。単位格子に入る原子が面心立方格子では4個、体心立方格子では2個と違うので、原子1個あたりの体積で比べる。出典は化学グランプリ2019一次選考問題。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第5節「化学」3(1)ア(ア)㋒ 固体の構造と内容の取扱い、99-101ページ
- NobelPrize.org, "The Nobel Prize in Physics 1915"
- W. L. Bragg, "The diffraction of X-rays by crystals", Nobel Lecture (1922)
- H. E. Swanson, R. K. Fuyat, G. M. Ugrinic, Standard X-ray Diffraction Powder Patterns, National Bureau of Standards Circular 539, Vol. 4 (1955), pp. 3-4(α鉄の格子定数と密度)
- 化学グランプリ「過去出題問題」(2019年と2021年の一次選考問題と解答例)