エウクレイデスが書かなかった一文
2以上の自然数は、どれも素数の積にただ1通りに分けられる。整数を扱うたびに頼るこの事実を、紀元前300年ごろのエウクレイデス『原論』は、命題として書いていない。部品はそろっていた。第7巻の命題31は、合成数はある素数で割り切れると述べる。命題30は、2つの数の積を素数が割り切るなら、その素数はどちらかの数を割り切るとした。分け方が1通りに決まる理由は、この命題30から出てくる。
メリーランド大学の代数学の講義ノートは、『原論』でいちばん近いのは第9巻の命題14だと書いている。いくつかの素数で割り切れる最小の数は、それ以外の素数では割り切れない、という命題である。ただ1通りであることの証明は、1801年に出たガウスの『整数論の研究』の第16条にある。
割れなくなるまで素数で割る
360を2つの数の積に分ける方法は、、、といくつもある。ところが、どの分け方から始めても、素数になるまで分け続けると、残るのは2が3個、3が2個、5が1個で、必ず同じになる。素数だけの積に直したこの形を素因数分解といい、積をつくる素数を素因数と呼ぶ。
手で分けるなら、小さい素数から順に割る「割り算のはしご」が速い。360なら、次の7行で終わる。
-
いちばん小さい素数2で割る
-
商の180をもう一度2で割る
-
90も2で割り切れる
-
45は2で割れないので、次の素数3で割る
-
15をもう一度3で割る
-
商の5は素数なので止め、割った数を並べる
-
同じ素数を累乗でまとめる
小さい順に割るのには理由がある。2で割り尽くしたあとの商は、もう4でも8でも割り切れない。だから小さい順に進めば、割る数は自然に素数だけになる。止めどきにも目安がある。試す素数を2乗した数が残った商より大きくなったら、残りは素数だ。211は13までのどの素数でも割り切れないが、次の17は2乗すると289になり、211を超える。ここで211が素数だと決まり、それ以上割らなくてよい。
では、分け方によらず同じ素数が残るのはなぜか。決め手は『原論』の命題30の性質で、素数が積を割り切るなら、掛けたどちらかの数を必ず割り切る。5はを割り切るので、12か30のどちらかを割り切り、実際に割り切るのは30だ。
仮に2通りの素因数分解があったとする。片方に出てくる素数は、もう片方の積を割り切るので、この性質を繰り返し使えば、もう片方の素数のどれかを割り切るはずだ。素数を割り切る素数はそれ自身しかないから、2つは等しい。等しい素数を両側から1つずつ消していけば、両側は同時に尽きる。つまり、2通りに見えた分け方は、並べる順が違うだけだった。
1を素数に入れないのも、この形を守るためである。1を素数とすれば、と、分け方がいくらでも増えてしまう。
ただし、分け方が1通りに決まることは、どんな数の世界でも成り立つわけではない。整数にを加えたの形の数ではとなり、4つの数はどれもこれ以上分けられない。1 1847年にラメが発表したフェルマーの最終定理の証明は、この性質を、成り立つとは限らない数の範囲で使っていた。リウヴィルがその場で指摘したいきさつは、フェルマーの最終定理で読める。
指数を見比べて約数と倍数を読む
中学校の学習指導要領解説によれば、素因数分解を中学1年で扱うねらいは、自然数を素数の積で表して、小学校で習った約数や倍数を捉え直すことにある。平成29年の改訂で、中学3年から1年へ移った内容でもある。分解しておけば、約数と倍数の問題は指数の比べ合いになる。
たとえば360と84の最大公約数は、両方に共通する素数を、指数の小さいほうで掛けたである。最小公倍数は、どちらかに出てくる素数を、指数の大きいほうで掛けたになる。約数を書き出して探すより、ずっと速い。
平方数にする最小の数も、指数を見れば決まる。平方数を素因数分解すると、どの指数も偶数になっている。360では2と5の指数が奇数なので、を掛けるとになる。
さらに、約数の個数も数えられる。360の約数は、2を0〜3個、3を0〜2個、5を0〜1個選んで掛けた数なので、個ある。これは中学1年の範囲を超える数え方で、高校の数学Aで整数の約数と倍数を扱うときの話になる。
指数を捨てて、素因数を1つずつ掛けた数は根基と呼ばれる。360の根基はで、abc予想は、互いに素なで、がの根基に比べてどこまで大きくなれるかを問う。
掛け算の逆、つまり大きな数を素数に分けることは、驚くほど難しい。1978年、リベスト、シャミア、エーデルマンは公開鍵暗号の方式を発表した論文で、安全性の支えとして、公開する数を素因数分解する難しさを挙げた。著者たちが知っていた最も速い方法でも、200桁のを分けるには、1回の計算に1マイクロ秒かけて約38億年かかるという見積もりである。割り算のはしごでは、200桁の数に試す割る数が近くまで要る。
正方形のタイルと平方数
例題 1基本はしごで分ける
次の数を素因数分解せよ。(1)252 (2)1001
解説を見る
(1)2で2回割ると63、63を3で2回割ると7が残る。
(2)1001は2、3、5で割り切れず、7で割ると143になる。143は7で割り切れず、11で割ると13が残る。
13は素数なので、ここで止まる。
例題 2基本正方形のタイルと正方形の床
縦126 cm、横180 cmの長方形の板がある。(1)同じ大きさの正方形のタイルで、板をすき間なく敷き詰める。タイルの1辺をできるだけ長くすると何cmで、何枚要るか。(2)この板を同じ向きにすき間なく並べて正方形を作る。いちばん小さい正方形の1辺は何cmで、板は何枚要るか。
解説を見る
2つの数を素因数分解する。
(1)タイルの1辺は126と180の公約数で、いちばん長いのは最大公約数である。共通する素数を、小さいほうの指数で掛ける。
1辺18 cmで、縦に枚、横に枚、合わせて70枚になる。 (2)正方形の1辺は126と180の公倍数で、いちばん小さいのは最小公倍数である。出てくる素数を、大きいほうの指数で掛ける。
1辺1260 cmで、縦に枚、横に枚、合わせて70枚になる。2つの枚数がそろうのは、が成り立つからである。
例題 3入試平方数をつくる
(1)540にできるだけ小さい自然数を掛けて、ある自然数の2乗にしたい。と、できる平方数を求めよ。(2)540をできるだけ小さい自然数で割って、ある自然数の2乗にしたい。と、できる平方数を求めよ。
解説を見る
平方数では、どの素数の指数も偶数になる。 (1)3の指数を4に、5の指数を2に上げればよいので、である。
(2)3の指数を2に、5の指数を0に下げればよいので、である。
掛けても割っても15になるのは、指数が奇数の素数が3と5だけだからである。
例題 4入試約数を指数で数える
360の正の約数について、(1)全部の個数(2)奇数の個数(3)平方数の個数を求めよ。高校の数学Aで扱う数え方を使う。
解説を見る
360の約数は、(、、)の形をしている。 (1)は4通り、は3通り、は2通りあるので、次のとおり。
(2)奇数は2を含まないので、に限る。
1、3、5、9、15、45の6個である。 (3)平方数は指数がすべて偶数なので、は0か2、は0か2、は0に限る。
1、4、9、36の4個である。
702と2025をほどいた問題
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 旧数学I・旧数学A第4問:702を素因数分解し、正の約数の個数を答える。続いて、702との最大公約数と23で割った余りが指定された正の整数を、不定方程式の整数解から求める。出典は大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」。
- 2023年 日本ジュニア数学オリンピック 予選 問題1:正の約数がちょうど6個で、各桁の和が7になる最小の正の整数を求める。約数が6個になる素因数分解の形から候補を絞る。出典は数学オリンピック財団「2023年日本ジュニア数学オリンピック予選」問題と解答。
- 2025年 日本ジュニア数学オリンピック 予選 問題1:足して2025になる2つの正の整数について、最大公約数がとりうる最大の値を求める。2025の約数を、素因数分解から考える。出典は数学オリンピック財団「2025年日本ジュニア数学オリンピック予選」問題と解答。
- 2025年 日本数学オリンピック 予選 問題2:積が2025になる4つの正の整数の組のうち、4つを輪に並べて隣り合う2つの積がすべて平方数になるものを数える。素因数の指数が偶数か奇数かで場合を分ける。出典は数学オリンピック財団「2025年日本数学オリンピック予選」問題と解答。
参考文献
- 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編』(2017)、第3章 第1節2 A(1)[内容の取扱い](1)「自然数を素数の積として表すこと」、65・67ページ。改訂で移った内容は11ページ
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第4節「数学A」3(3)[内容の取扱い](4)、96ページ
- Euclid, Elements, Book VII, Proposition 30・Proposition 31、Book IX, Proposition 14(D. E. Joyceによる英訳と解説、Clark University)
- P. Brosnan, "UMD 403: Undergraduate Algebra, 1.6 Attempt at getting the history right"(University of Maryland)
- C. F. Gauss, Disquisitiones Arithmeticae (1801), Art. 16
- R. L. Rivest, A. Shamir, L. Adleman, "A Method for Obtaining Digital Signatures and Public-Key Cryptosystems", Communications of the ACM 21 (1978), 120-126
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 本試験 旧数学I・旧数学A」、数学オリンピック財団「2023年・2025年日本ジュニア数学オリンピック予選」「2025年日本数学オリンピック予選」
注
-
にを対応させると、積には積が対応する。2、3、の値は4、9、6、6なので、どれかを2つに分けるには値が2か3の数が要る。ところがが2や3になる整数、は無い。 ↩