同じ問題の2つの書き方
水素1 molが燃えて液体の水になると、286 kJの熱が出る。今の高校の化学は、この反応をΔH = −286 kJと負の数で書く。2025年1月の大学入学共通テストの化学では、新しい教育課程で学んだ受験生の問題が「生成エンタルピー」と「ΔH」で書かれ、前の教育課程の受験生が選べる問題は、同じ題材を「生成熱」と「反応熱Q」で問うていた。
2018年に出た高等学校学習指導要領の解説は、化学反応の前後の化学エネルギーの差を「エンタルピー変化で表す」としている。2002年に化学教育の雑誌に載った論文は、「HはエンタルピーのH。ヘイケ・カメルリング・オネスとアルフレッド・W・ポーターのおかげで」と題している。
段差の向きで符号が決まる
ΔHは、反応の「あと」から「まえ」を引いた差である。エンタルピーそのものの大きさは測れないが、差なら熱として測れる。そこで、単体を0とした生成エンタルピーで高さをそろえ、差の符号で発熱か吸熱かを読む。
記号Δ(デルタ)は、変化した量を表す。変化のあとの値からまえの値を引いて求め、水温が20 °Cから25 °Cに上がれば、温度の変化は25 − 20 = +5 °Cになる。下がれば負の数だ。
エンタルピーは、物質がたくわえているエネルギーの量を、熱の出入りと結びつけて表す量だ。圧力を一定にして反応させると、外から入った熱の量が、そのままの増え方に等しくなる。つまり、熱が外へ出ればは減り、熱が入ればは増える。
水素が燃えて液体の水になる反応に、数を入れてみる。使うのは生成エンタルピーで、単体から物質1 molをつくるときのΔHを指し、単位はkJ/molである。液体の水は−286 kJ/mol、水素や酸素のように1種類の元素だけでできた単体は0とおく。
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反応式を書く
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ΔHを「あと − まえ」で書く
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単体を高さ0とし、生成エンタルピーを入れる
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引き算をする
酸素の係数は、水1 molをつくるのに酸素が0.5 mol要るという意味だ。前の教育課程の熱化学方程式は、この反応をと書いた。反応熱はまわりに出た熱を正の数で書くので、符号が逆になり、の関係にある。
では、向きを逆にした反応ではどうなるのか。水を水素と酸素に分ける反応では、まえとあとが入れ替わる。
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反応物と生成物を入れ替えて差をとる
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引き算をする
ΔHが正の反応は、まわりから熱を取り込む吸熱反応だ。向きを逆にしても、ΔHの大きさは変わらない。変わるのは符号だけである。
反応物に単体でない物質があっても、やり方は同じだ。物質ごとの生成エンタルピーに係数を掛けて、足し合わせればよい。メタンを燃やす反応で、メタンの生成エンタルピーを−75 kJ/mol、二酸化炭素を−394 kJ/molとする。
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反応式を書く
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生成物の生成エンタルピーに係数を掛けて足す
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反応物も同じように足す
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あとからまえを引く
単体の高さを0の基準にすると、反応物の段は−75、生成物の段は−966の位置にくる。ΔHは2つの段の高さの差だから、途中でどんな道を通っても同じ値になる。この性質を、ヘスの法則という。
アメリカ国立標準技術研究所(NIST)のデータベースには、メタンの燃焼エンタルピーとして−890.7 kJ/molが載っている。整数に丸めた値から出した−891 kJとの差は、0.3 kJにすぎない。
反応を選ぶと、段の高さと矢印の向きが変わる。「何組ぶん」を2にすると段差も2倍になり、ΔHは反応させた量に比例するのが分かる。
お湯を沸かすメタンの量
20 °Cの水1.0 kgを100 °Cまで温める熱を、水1 gを1 °C上げるのに4.2 Jかかるとして求める。4.2 Jに、水の質量1000 gと、上がる温度の80 °Cを掛ければよい。
メタン1 molが燃えると891 kJの熱が出る。熱がすべて水に移るとすれば、要るメタンは次の物質量になる。
メタンのモル質量は16 g/molなので、質量にして約6.0 g。もっとも、実際のこんろでは熱の一部がなべのまわりの空気へ逃げるので、これより多く要る。
ΔHが負でも、メタンは空気と混ぜただけでは燃えず、火をつけて初めて燃え始める。ΔHが表すのは始まりと終わりの段の差だけで、途中で越える山の高さは表さないからだ。この山の高さを活性化エネルギーといい、反応の速さとの関係はアレニウスの式で表される。
黒鉛と混合気体で練習する
例題 1基本黒鉛を燃やす
黒鉛の燃焼は、 kJで表される。原子量はC=12とする。(1)発熱反応か、吸熱反応か。(2)黒鉛6.0 gを完全に燃やすと、何kJの熱が出るか。(3)のΔHを求めよ。
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(1)ΔHが負なので発熱反応である。 (2)黒鉛の物質量は molなので、出る熱は次のとおり。
(3)向きを逆にすると符号だけが変わるので、 kJ。
例題 2基本エタンの燃焼エンタルピー
生成エンタルピーを、エタン(気)−84 kJ/mol、二酸化炭素(気)−394 kJ/mol、水(液)−286 kJ/molとする。エタン1 molを完全に燃やすときのΔHを求めよ。
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エタン1 molあたりの反応式は次のとおり。
生成物と反応物の生成エンタルピーを、係数を掛けて足す。
あとからまえを引く。
NISTのデータベースの燃焼エンタルピー(約−1561 kJ/mol)とほぼ合う。
例題 3入試メタンと水素の混合気体
メタンと水素の混合気体1.00 molを完全に燃やすと、528 kJの熱が出た。生じた水はすべて液体とし、燃焼エンタルピーはメタン−891 kJ/mol、水素−286 kJ/molとする。原子量はH=1.0、O=16とする。(1)混合気体に含まれていたメタンの物質量を求めよ。(2)生じた水の質量を求めよ。
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(1)メタンを molとすると、水素は molである。出た熱の合計を式にする。
括弧を外して整理するととなり、 mol。 (2)メタン1 molからは水が2 mol、水素1 molからは水が1 molできる。
水のモル質量は18 g/molなので、 gである。
段差を読ませた3つの出題
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第5問 問3 c:原油に含まれるバナジウムを題材に、から単体のバナジウムを得る2つの経路を比べる。生成エンタルピーの表から、経路ごとの反応エンタルピーの和を出し、大小関係を選ぶ。前の教育課程の受験生が選べる第6問には、同じ問いが生成熱と反応熱で載っている。出典は大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」。
- 2026年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第2問 問1:反応エンタルピーの定義、溶解エンタルピーの符号、一酸化炭素の生成エンタルピーの求め方など、エンタルピーについての記述から誤りを含むものを選ぶ。出典は大学入試センター「令和8年度 本試験の問題」。
- 2026年 大学入学共通テスト 追試験 化学 第2問 問4 c:燃料電池で水素と酸素から液体の水ができる反応が題材。反応エンタルピーのうち、電気として取り出せなかった分を熱として使い、水道水を温めて得られる温水の質量を選ぶ。ΔHを反応した量に比例させ、熱に読み替える力が問われる。出典は大学入試センター「令和8年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第5節「化学」3(2)ア(ア)㋐ 化学反応と熱・光、102-103ページ
- I. K. Howard, "H Is for Enthalpy, Thanks to Heike Kamerlingh Onnes and Alfred W. Porter", Journal of Chemical Education 79 (2002), 697
- NIST Chemistry WebBook, SRD 69「Methane」「Ethane」「Carbon dioxide」「Water」
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 本試験 化学」「令和8年度 本試験 化学」「令和8年度 追・再試験 化学」