1回では決まらない量
酸とアルコールを混ぜても、エステルは一度にはできあがらない。1864年、カトー・グルベルとペーター・ワーゲはクリスチャニア(今のオスロ)の科学アカデミーでの講演で、ベルテロとサン=ジルが約500回の実験で調べたこの種の反応を引き、比較的ゆっくり進むと述べた。反応で変わった量は、たいてい1回の実験では決まらない。同じ量を混ぜて時間をずらして測り、量がどこへ近づくかを見る、と2人は続けている。
2人が追ったのは行き着く先の量で、同じ講演では、速さの法則を見つけるだけの材料はまだないとも述べている。反応速度の定義がこの講演から始まったわけではない。それでも、時間をずらして測った量の差を時間の差で割れば、その間の反応の速さが出る。
濃度の差を時間の差で割る
この計算の道すじ。 記号の[A]とΔを読み、数を入れて平均の速さを出す(手順1〜4)。次に、式のマイナスの理由と、係数のある反応で物質ごとに速さが違って見えることを確かめる(手順5〜7)。最後に、濃度のグラフの傾きとして読み直す。
反応速度は、単位時間あたりに濃度がどれだけ変わるかを表す。単位時間は、1秒や1分のように基準にとった時間である。角かっこの[A]は物質Aのモル濃度で、溶液1 Lに溶けているAの物質量(mol)を指す。
Δ(デルタ)は変化量を表す記号で、あとの値から前の値を引く。Δ[A]で1つのまとまりであり、Δと[A]の掛け算ではない。
過酸化水素水に触媒を入れると、過酸化水素は水と酸素に分かれる。はじめ0.80 mol/Lの濃度が、5分後に0.40 mol/Lになったとする。数値はどれも、説明のために作った例である。
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濃度の変化量を、あと − 前で出す
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かかった時間を、あと − 前で出す
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濃度の変化量を時間で割る
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マイナスを付けて正の値にする
この5分間は、濃度が1分あたり平均0.080 mol/Lずつ減っていたことになる。5分のあいだ同じ調子で減ったとは限らないので、平均の速さと呼ぶ。
マイナスを付ける理由
減る物質は、あとの濃度のほうが小さいので、Δ[A]が負の数になる。速さが負では扱いにくいので、マイナスを付けて正の値にそろえる。
増える物質なら、変化量ははじめから正なので、マイナスは要らない。できる物質をBとすると、式は次の形になる。
係数で速さが違って見える
では、酸素で測っても、同じ0.080になるのだろうか。ならない。反応式の係数がと違うからだ。酸素は気体で溶液の外へ出ていくので、溶液1 Lあたりの物質量で数える。
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反応式の係数から、物質量の比を読む
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溶液1 Lあたりの酸素は、の減りの半分
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5分で割って、酸素の発生の速さを出す
反応は1つでも、どの物質で測るかで数が変わる。だから「過酸化水素の分解速度」「酸素の発生速度」のように、物質の名前を添えて言う。係数の比の読み方は、化学反応式の量的関係で確かめられる。
グラフの傾きで読む
濃度のグラフでは、この割り算が傾きになる。横軸に時間、縦軸に濃度をとり、曲線の上の2点を結ぶ。この直線を割線といい、傾きは縦の変化量を横の変化量で割った値だ。
減っていくグラフでは傾きが負になる。そのマイナスを取ったものが平均の速さで、公式の右辺のマイナスは、この符号を変える働きをしている。
はじめの時刻を右へ動かすと、同じ幅でも割線はゆるやかになり、速さの数が小さくなる。時間の幅を短くすると、割線はその時刻の曲線の向きに近づく。
この例の濃度が、5分ごとに0.80、0.40、0.20、0.10 mol/Lと下がったとしよう。平均の速さは、0〜5分が、5〜10分が、10〜15分がで、単位はどれもである。
時間とともに遅くなるのは、過酸化水素が減るほど、分解する分子が触媒に出会う回数も減るからだ。この例は、濃度が半分になると速さも半分になるように数を選んである。どの反応でも速さが濃度に比例するとは限らない。濃度と速さの関係をの形に書いたものを速度式といい、定数を速度定数と呼ぶ。とは実験で決める。
泡の体積から速さを出す
濃度を直接測らなくても、出てきた酸素の体積から速さが出る。過酸化水素水20 mLに触媒を入れ、最初の2分間に酸素を44.8 mL集めたとする。これも作った例で、体積は0 °C、 Paに直した値である。は1000分の1を表すので、44.8 mLは Lと書ける。
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体積を物質量に直す(気体1 molは22.4 L)
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係数の比2 : 1から、分解したを出す
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溶液20 mL = 0.020 Lで割り、濃度の減りにする
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2分で割る
同じ濃度でも、温度を上げたり触媒を加えたりすると、速さは大きくなる。温度による速度定数の変わり方は、アレニウスの式で計算できる。肝臓に含まれる酵素カタラーゼも、同じ過酸化水素の分解を速める触媒で、酵素の反応の速さはミカエリス・メンテン式で読める。
表と気体の体積から速さを出す
例題 1基本表から平均の速さ
過酸化水素の濃度が、時刻0分、2分、4分で0.50、0.40、0.32 mol/Lだった。0〜2分と2〜4分の平均の分解速度を求めよ。
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それぞれ、濃度の変化量を2分で割り、マイナスを付ける。
あとの区間のほうが、濃度が低く、速さも小さい。
例題 2基本係数から酸素の速さ
反応で、過酸化水素の分解速度がのとき、溶液1 Lあたりの酸素の発生速度を求めよ。また、この速さが10分間続くとき、溶液2.0 Lから出る酸素の物質量を求めよ。
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酸素の係数は過酸化水素の半分なので、速さも半分になる。
これは溶液1 L、1分あたりの量なので、2.0と10を掛ける。
例題 3入試気体の体積から濃度の変化
0.500 mol/Lの過酸化水素水10.0 mLに触媒を加えると、最初の60秒間に酸素が22.4 mL発生した(0 °C、 Paに直した値)。この60秒間の過酸化水素の平均の分解速度をの単位で求め、60秒後の濃度も求めよ。溶液の体積は変わらないものとする。
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酸素の物質量は molである。係数の比2 : 1から、分解した過酸化水素は molになる。
溶液は0.0100 Lなので、濃度の減りは次のとおり。
これを60秒で割ると速さが出る。
60秒後の濃度は mol/Lである。
定義と要因を選ばせた出題
- 2026年 大学入学共通テスト 追試験 化学 第2問 問1:反応速度の定義と、温度、濃度、触媒の影響について述べた4つの記述から、正しいものを1つ選ぶ。出典は大学入試センター「令和8年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018、2021年一部改訂)、第1部 第2章 第5節「化学」3(2)ア(イ)㋐ 反応速度、104〜105ページ(「反応速度が単位時間内に変化する物質の量で表されること」、例に「過酸化水素の分解反応」)
- P. Waage, C. M. Guldberg, "Studies Concerning Affinity"(1864年の講演)、H. I. Abrash英訳。ChemTeam「Studies Concerning Affinity」
- 大学入試センター「令和8年度 大学入学共通テスト 追・再試験 化学」