数式の読み方

微分の記号dy/dx、f′、xドットの読み方と、3つある理由

How to read derivative notation dy/dx, f′(x) and x dot

点とdとダッシュは、同じ傾きを3つの考え方で書く。

dy/dx、f′、xドットの日本語と英語での読み方と、各部分の名前。3つの書き方がそれぞれ何を書き何を省くかを、ばねの運動方程式や振り子、SIRモデルの式で読み分ける。

公式
5 本
人物
ゴットフリート・ライプニッツ、アイザック・ニュートン、ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ、ジョン・ウォリス、チャールズ・バベッジ
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
場面

同じばねの式が3通り

「ニュートンの点でも、ライプニッツのdでも、ラグランジュのダッシュでも、同じようにたやすく解けた」

英国のチャールズ・バベッジは、1864年の自伝で、ケンブリッジ大学に入ったころの自分をこう振り返っている。計算機の先駆けとして知られる人だ。当時の手持ちの数学で解ける問題なら、という前置きが付く。訳は筆者による。

点ととダッシュはどれも微分の記号である。しかも、3つとも今の教科書に残っている。フックの法則の記事は、ばねにつないだおもりの運動方程式をと書く。運動方程式の記事では、同じ式がになる。関数の記号を使えばだ。

3本が言っていることは1つ。おもりの位置を時間で2回微分して質量を掛けると、ばねの力に等しい。

では、なぜ書き方が3つもあり、どう読めばよいのか。

3つは同じ微分を「何を書いて何を省くか」で書き分けている。は、変わる量と動かす量を両方書く。は関数の名前に印を付け、測る点をで示す。は時間で微分すると約束して、を書かない。この違いは、3人が微分をどう考えていたかの違いでもあった。

考え方

ダッシュか、プライムか

日本の教室では、を上から順に「ディーワイディーエックス」と読むことが多い。英国の学習支援サイトmathcentreの手引きは、読みを「dee y by dee x」とし、「分数のように見えるかもしれないが、分数ではない」と念を押す。上智大学が理工系の学生向けに作った手引きでは、を「df dx」と読む。をで微分して得る関数を、導関数(derivative)という。

の右肩の印は、英語でprime(プライム)という。MITで公開されている教材World Web Mathの読みは「f-prime of x」。2つ重ねたの印は、MathWorldの言い方ではdouble primeだ。ところが日本では、同じ印を「ダッシュ」と呼び、を「ワイダッシュ」と読む。

意外にも、mathcentreの手引きはを「y dash」、を「f dash」と読ませている。山梨大学の加藤初弘が資料で引いた1927年版ウェブスター英語辞典の付録にも、英国ではdashやdouble dashと読むことが多いとある。日本のダッシュは、英国の呼び方だったのである。加藤は、明治の技術教育を英国から招いた教師が担ったことや、日本人で初めて数学科の教授になった菊池大麓がケンブリッジで学んだことを挙げ、英国の読みが根づいたとみている。

は日本では「エックスドット」と読むことが多く、英語でもx dotだ。上の点(overdot)は時間で1回微分した印で、点2つのは2回微分。が物の位置なら、は速度、は加速度になる。点を使うのはふつう時間の微分だけで、Mathwordsは、ほかの変数での微分に点を付けることを、よくある間違いに挙げている。

日本の高校では、微分係数と導関数を数学IIで習う。1点での値が微分係数、を動かして関数として見たが導関数だ。文部科学省による学習指導要領解説も、数学IIIの微分法でとダッシュで書き、2回微分した関数には第二次導関数という言葉を使っている。

図

3つの書き方の部品

dy/dx、f′、xドットの各部分。dy/dxはyとxのごく小さな変化dyとdxを比の形に並べる。f′は関数の名前fに微分した印′を付けた形で、続くかっこの中にどの点で測るかを書く。xの上の点は時間tで1回微分した印で、点が2つなら2回微分を表す。

並べると、文字の数がずいぶん違う。は4文字、は1文字。省いた分は、読む人が文脈から補うことになる。

考え方

Δがdに変わるとき

が何を指すかは、ギリシャ文字のΔ(デルタ)と並べると見えてくる。はの変化、はそのときのの変化。2点を結ぶ直線(割線)の傾きは、ふつうの分数である。

たとえばで、から右へだけ進む。割線の傾きは、なら、0.1なら、0.01なら。を0に近づけた行き先はで、これがで曲線に接する直線の傾き、つまりの値になる。

は差のΔを限りなく小さくした姿だと読めるが、極限をとったあとのは1つの数で、とを取り出して割った分数ではない。mathcentreが「分数ではない」と断るのは、このためだろう。

それでも、分数のように扱える場面はある。合成関数の微分は、を約分したように見える。SIRモデルの記事も、をで割って時間を消し、を導いている。文部科学省の解説も、合成関数の微分の公式は、微分係数が「xの増分とyの増分の比の近似になっていること」を踏まえて導くとしている。

崩れるのは、2回微分のときである。

シミュレーション

縮んでいくΔ

「曲線の傾き」では、上のグラフを横になぞると点Pが動く。実線は接線で、その傾きが。下のグラフでは、同じ値が塗りつぶした点の高さになる。「Δを縮める」を押すと、破線の割線が接線に重なっていき、割線の傾きを示す中の空いた丸が、塗りつぶした点に追いつく。「時間で動く点」を選べば、ばねにつるしたおもりがで上下し、左の矢印が速度、右の破線の矢印が加速度を示す。

筆者がで縮めてみると、Δが0.01のとき割線の傾きはで、接線のとは0.005違った。差はおよそなので、Δを10分の1にすれば差もほぼ10分の1になる。おもりはいちばん上で速度が0、加速度は下向きに最大。はいつもと逆を向き、が成り立つ。ばねの式でとした場合にあたる。

式

肩の2がずれる理由

の2は、上ではの肩に、下ではの肩に付く。ずれて見えるのはなぜか。組み立ててみると分かる。

  1. を、もう一度で微分する。「で微分する」操作をと書いて前に置く。

  2. 上ではが2回重なってに、下ではが2回掛かってになる。

  3. を、をと略すと、いつもの形になる。下のはではなく、上のもの2乗とは関係がない。

  4. で確かめる。

  5. 、()とする。1回目は分数のように割ってよく、となる。もう一度で微分するには、で微分してで割る。

  6. では0.75。ところが、で2回微分したものどうしを割ると3になってしまう。2回微分は、分数のようには割れない。

図

dが2つ、dxが2つ

d²y/dx²の2の位置。上の2はdを2回重ねた印で、yの2乗ではない。下の2はdxの2乗で、xの2乗をdで表したものではない。dy/dxをもう一度xで微分すると、dが2つ、dxが2つの形になる。

ライプニッツ流に読むと、上のは、を等しい幅で動かしたときのの変化のことだ。を等しい幅で動かしたときのとは別の量なので、約分できない。手順6の食い違いは、ここから生まれる。

考え方

dで書くか、点で書くか

3つの書き方には、それぞれ得意な場面がある。

で書けば、何を何で微分したかが式に残る。運動方程式のは、運動量が時間とともに変わる速さが力に等しい、という意味だ。単位も読める。のkg·m/sをのsで割るから、の単位はkg·m/s²、つまりNである。

点は、時間の微分が続く力学で式を短くする。振り子の周期の記事にあるは、振れの角を時間で2回微分した角加速度の式である。長さ1 mの振り子を0.1ラジアン傾けて手を放した瞬間なら、 rad/s²。マイナスは真下へ戻る向きを指す。

ダッシュが得意なのは、1点での値だ。と書けば「2回微分してを入れる」がひとまとまりになる。ライプニッツの書き方ならと長い。回数が増えるとのように回数をかっこに入れて肩に書き、テイラー展開の係数もこの形で書く。

つまり、変数名と単位を残したいならライプニッツ、点での値や関数そのものを扱うならラグランジュ、時間で何度も微分するならニュートンの書き方が向く。フックの法則の記事のように、1本の記事で書き方を替えることもある。

歴史

ケンブリッジの「点の時代」

最初に紙に書かれたのは、ライプニッツのだった。MacTutorに載るミラーの資料によれば、と、それに比が初めて現れるのは1675年11月の手稿で、比は今と上下が逆だ。印刷は1684年で、学術誌『アクタ・エルディトールム』の論文に、の記号と、積や商を微分する規則が載った。

ニュートンの点は、ずっと遅い。1671年に書いた本で、ニュートンは流れて増えていく量を流量(fluent)、その増える速さを流率(fluxion)と呼んだ。ただ、点の記号が生まれたのは20年ほどあとだ。ニュートンの数学論文集を編んだホワイトサイドは、標準の点の記法について、ニュートンが考え出したのは「1691年12月半ばのことにすぎない」と記している(コラーストロムの論文が引く)。

印刷されたのは1693年、ウォリスの『著作集』第2巻の391〜396ページである。もとはニュートンが前の年の9月にウォリスへ送った説明で、手紙は失われ、送ったとみられる文面の写しが残る。そこには、の各項を時間で微分して、次の式を出す例があった。

ニュートンが自分の名前でこの方法を出したのは、1704年に『光学』の付録として出た『曲線の求積について』が最初で、そこでも同じ例を使っている。

ラグランジュのダッシュは、また別の考えから生まれた。ミラーの資料によると、ラグランジュは1770年の論文での代わりにと書いた。1772年の論文ではとし、を「導かれた関数」(fonction dérivée)と呼んでいる。英語のderivativeは、この言葉を受け継いだものだ。1797年の『解析関数論』では、かっこを付けずに、と書いた。

MacTutorの伝記によれば、この本がめざしたのは、微分の原理を「無限小や消えていく量、極限や流率をいっさい考えずに」、有限の量の代数に組み立て直すことだった。無限に小さなを使わないなら、微分はから導いた別の関数として書くほかない。印がの側に付くダッシュは、この考えにそのまま合う記号だった、と筆者は読む。

では、英国で点がに替わるきっかけを作ったのはだれか。ケンブリッジの学生たちである。ニュートンのいたこの大学では、19世紀の初めになっても流率と点の記号で教えていた。自伝によれば、始まりはバベッジのパロディだった。聖書協会のビラをまねて、ラクロワの微積分の教科書を訳す会の趣意を書いたのである。「を広めるために定期的に集まり、点の異端を支持する者はみな地獄へ送る」という調子だった。冗談は本気の会になり、バベッジ、ハーシェル、ピーコックらが解析学会を作る。

会員は「若い不信心者」と陰口をたたかれた。1813年に会報を出すとき、バベッジは題に「大学の点の時代(Dot-age)に対抗する純粋なD主義(D-ism)の原理」を推した。dotageは英語で「もうろく」、D-ismは理神論(deism)と音が重なる。信仰を疑われたことを思い出して考えた題だと、バベッジ自身が書いている。1816年には3人でラクロワの本の英訳を出した。もっとも、ケンブリッジでライプニッツの記号が広まる歩みは、それから何年も遅かったという。

使いどころ

打つときと、声に出すとき

TeXでは、を\frac{dy}{dx}、をf'(x)、とを\dot{x}と\ddot{x}、をf^{(n)}と書く。数式の中のアポストロフィーは、プライムとして描かれる。数式の外で′を文字として打つなら、キーボードのアポストロフィーではなく、U+2032(PRIME)を使う。

プログラムで微分を近似するときも、Δの考え方がそのまま使える。シミュレーションで動かした割線の傾きは、右へだけ進んだ前進差分だった。左右にずつ振った中心差分に替えると、筆者の計算では、同じでも、での誤差が0.005から0.00003ほどに下がった。数値の微分を書くなら、まず中心差分を試したい。

声に出すときは、何を何で微分したかを言い添えると伝わりやすい。なら「運動量を時間で微分したもの」、なら「fを2回微分した関数の、aでの値」。を使うなら、点が時間の微分だという約束が相手に通じているか、最初に確かめておくと安心だ。

手で確かめるなら、次の3つがよい。

  1. で、からを0.1、0.01と縮める。割線の傾きが2.1、2.01と、2に近づくのを見る。
  2. シミュレーションを「曲線の傾き」にして点Pをに置き、接線が水平になってとなるのを見る。
  3. フックの法則の運動方程式を、、、の3通りで書き、声に出して読む。

との違いは∂と∇の読み方、のかっこが表すものはf(x)と写像の矢印↦の読み方で読める。

ケンブリッジに入る前のバベッジは、ウッドハウスの本でライプニッツの記号を学び、ラグランジュの関数論を読み、マクローリンとシンプソンの流率の本も手元に置いていた。3つの書き方を同じようにこなせたのは、それぞれの流儀をそれぞれの本で覚えていたからだ。見慣れない書き方に出会ったら、それが何を書き、何を省いているかを見ればよい。

参考文献

  1. C. Babbage, Passages from the Life of a Philosopher (London, 1864), Chapter IV "Cambridge"と巻末の著作一覧. Project Gutenberg eBook #57532.
  2. J. Miller, "Earliest Uses of Symbols of Calculus"(Derivativeの項), MacTutor History of Mathematics, セント・アンドルーズ大学.
  3. J. Miller, "Earliest Known Uses of Some of the Words of Mathematics"(DERIVATIVEとFLUENT and FLUXIONの項), MacTutor History of Mathematics.
  4. J. J. O'Connor, E. F. Robertson, MacTutorの伝記 "Gottfried Wilhelm von Leibniz", "Joseph-Louis Lagrange", "Charles Babbage", "Robert Woodhouse".
  5. N. Kollerstrom, "The Birth of Calculus: Towards a More Leibnizian View", arXiv:1212.2666 (2012). D. T. Whiteside (1970), pp. 9-10と、J. Wallis, Opera Mathematica, Vol. II (1693), pp. 391-396を引く.
  6. 加藤初弘「記号「'」のはじまりとアクセント:数学記号の時代的・文化的成り立ち」(山梨大学、2020年12月1日改訂). Webster's New International Dictionary(London, 1927)の付録を引く.
  7. mathcentre, "Introduction to differentiation"(mc-bus-introtodiff-2009-1), 2009.
  8. 上智大学English for Science and Engineering, "How to Read Figures, Mathematical Expressions and Equations, and Glossary"(2008年2月).
  9. "The Notation of Differentiation", World Web Math, MIT(1998年). E. W. Weisstein, "Overdot", "Prime Mark", MathWorld. Mathwords, "Overdot", "Dot Notation".
  10. 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』の数学II「微分・積分の考え」と数学III「微分法」.
  11. F. Cajori, A History of Mathematics (New York, 1893), 解析学会の項. Project Gutenberg eBook #31061.

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