圧縮センシング(少ない測定から画像を戻す)

Compressed sensing

22本の線の上だけを測ると、26万画素の像がそのまま戻った。

0でない値が少ない信号なら、式が足りなくても絶対値の和の最小化で元に戻る。シーメンスの発表では、心臓のMRI撮影が4分から16秒に縮む。

年代
2004年
習う
大3以上・線形代数・連立一次方程式
レベル
大学(例題 4 問)
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
逸話

22本の線で26万画素が戻った

式より未知数が多い連立方程式は解けない、と習う。という1本の式を満たす点は直線上に無数にあり、どれが正解かは決められない。ところが答えのほとんどが0だと分かっていれば、絶対値の和が最小の解を選ぶだけで、正解にたどり着けることがある。

この1本の式なら暗算で足りる。2乗の和が最小の解はだが、絶対値の和が最小の解はになり、片方の成分がちょうど0になる。

同じことが、26万個の未知数でも起きる。

エマニュエル・カンデス、ジャスティン・ロンバーグ、テレンス・タオの原稿には2004年6月10日の日付があり、9月にプレプリントサーバーarXivへ投稿された。序論の最初の見出しは「A puzzling numerical experiment」、不可解な数値実験である。

題材は医用画像で、頭部の断面をまねたシェップ・ローガンのファントムという試験図形を使う。ロンバーグの講演資料によれば画像は512×512画素で、未知数は26万2,144個。3人が測るのは画像のフーリエ成分で、周波数の平面を通る22本の線の上に1本512点ずつ取る。線どうしが重なる所もあり、測った成分は1万486個。画素の数の約4%しかない。

測らなかった成分を0とみなして逆変換すると、筋状の偽像が画面全体に出る。論文も、これでは診断に使えないと書いている。そこで3人は、測った成分を変えずに、隣り合う画素の差の大きさの和(全変動)が最小になる画像を計算した。論文の言葉はこうだ。「結果は驚くべきものだった。再構成は厳密である」。元の画像と、完全に一致した。

手がかりはファントムの形にある。ほとんどの場所で隣の画素と同じ明るさなので、差をとれば0の多い信号になる。では、なぜ絶対値の和を最小にすると、その0が残るのだろうか。

起源

フィドル弾きの博士論文

絶対値の和で信号を戻す発想は、2004年より40年近く古い。

ベンジャミン・ローガンは1956年にベル研究所へ入り、働きながらコロンビア大学で学んだ。1965年の博士論文「Properties of High-Pass Signals」で示したのは、帯域の限られた信号が短い区間で壊れていても、観測との差の絶対値の和を最小にすれば完全に戻せることだった。ローガンにはもう1つの顔がある。「テックス・ローガン」の名で知られたブルーグラスのフィドル奏者で、ビル・モンローが広めた「Christmas Time's A-Comin'」の作者でもあった。同じ研究所で働いた言語学者マーク・リバーマンは追悼の文に、フィドルを聴くより先に、数学研究部門の研究者として知っていたと書いている。

1960年代の家の居間の木の机に、開いたケースに入った古いフィドルと弓、紙の束と計算尺があり、奥に折りたたみ椅子とバンジョーが見える(画像生成 AI で描いたイメージ)
ベル研究所の研究者ローガンは、自宅に音楽仲間を集めるフィドル奏者でもあった画像生成AIで描いたイメージ

1974年、ローガンはローレンス・シェップと連名で、楕円を重ねて頭部の断面をまねた図形を発表する。30年後の不可解な実験に使われたのが、この図形だった。絶対値の和の先駆者の名前が、その力を示す画像に付いていたことになる。

一方、地球物理の研究者は別の道から同じ手法に近づいた。地下へ送った波の反射を記録すると、層の境目が鋭い山として並ぶ。ジョン・クラーバウトとフランシス・ミューアは1973年の論文で、最小2乗の代わりに絶対値の誤差を使えば、桁外れの誤りが混じっても解がほとんど動かないと書いた。平均の代わりに中央値をとるのと同じ安定さだという。

細かく波打つ黒い線が何本も並ぶ長い紙が、製図台の上に広げられている(画像生成 AI で描いたイメージ)
反射法地震探査の記録紙。地下の層の境目は、波形の鋭い山として現れる画像生成AIで描いたイメージ

1990年代には、統計学と信号処理にも同じ形の式が現れる。ロバート・ティブシラニは1996年にLASSOを提案し、絶対値の和を抑えると「いくつかの係数がちょうど0になる」と書いた。1998年にスコット・チェン、デイヴィッド・ドノホー、マイケル・サンダースが発表した基底追跡は、この記事の頭の式そのものである。

ただ、保証は弱かった。ドノホーとフィリップ・スタークの1989年の条件では、測る周波数が全体の半分を切ると、0でない値が1個でも戻るとは言えない。式が足りないのになぜ戻るのか、何回測れば足りるのか。2004年の2つの原稿は、この問いに答えた。

比べる相手は標本化定理だ。

クロード・シャノンの肖像(ClaudeShannon MFO3807)
クロード・シャノン1916–2001情報の量を測る式を立て、情報理論を始めた出典: Wikimedia Commons・Jacobs, Konrad・CC BY-SA 2.0 de

クロード・シャノンの1949年の論文によれば、周波数までの成分しかない信号は、秒おきの値で完全に決まる。この定理は、帯域の中の「どんな信号でも」戻すための条件である。圧縮センシングは前提を置き換える。0でない成分が少ない信号だけを相手にして、測る場所をでたらめに選ぶ。標本化定理を破ったわけではなく、問いが違う。

カンデスらの定理はこう言う。長さの信号の0でない場所を、でたらめに選んだ周波数の集合をとする。

はで決まる定数である。これが成り立てば、以上の確率で、絶対値の和が最小の解は元の信号に一致する。つまりの分を別にすれば、0でない値の定数倍の測定で足りる。

同じ2004年の9月14日、スタンフォード大学のドノホーも「Compressed Sensing」と題した原稿をまとめた。ドノホーはカンデスの博士論文の指導教員で、カンデスらの原稿の謝辞にも名前がある。道具は高次元の球の断面の大きさを測る「幅」の理論で、カンデスらとは違うが、結論はよく似ている。序論の問いが、この分野の動機を言い当てていた。「捨てることになるデータまで、なぜ苦労して全部集めるのか。捨てない部分だけを直接測れないのか」。

証明

ひし形は角で触れる

頭の式のは長さの未知のベクトル、は回の測定の結果、は行列の行列で、とする。はL1ノルムと読み、絶対値の和を表す。はふつうの長さで、L2ノルムと呼ぶ。本当の信号をとし、0でない成分が個以下の信号をスパースと呼ぶ。

直観は図形にある。平面でを満たす点はひし形を作り、は円を作る。を0から大きくしていくと、円は直線に接した点で止まり、その点はふつう軸の上にない。ひし形は、ほとんどの傾きで角から触れる。角は座標軸の上にあるので、片方の成分が0になる。

つまみのを1にすると、ひし形の辺が直線と重なり、解は1つに決まらない。高い次元でも、L1ノルムの球の尖った部分は0の多い点に集まる。では、式ではどう言えるのか。2乗の和は0を作らず、絶対値の和は条件がそろえばに戻る。

  1. 測定が同じになる解は、にの零空間のベクトルを足したものである

  2. 2乗の和が最小の解は、どのを足しても長くならない。をで微分すると

  3. 零空間に直交するベクトルは、の行の1次結合で書ける。をの第列とすると

  4. が0になるのは、とがたまたま直交するときだけである。の成分を正規乱数で選ぶと、その確率は0である

  5. 絶対値の和に移る。の0でない場所を、残りをとしてを2つに分ける。ではが0なので

  6. 0でない場所の減り方を、三角不等式で抑える

    0でない場所では、hを足すと絶対値の和が減ることがある。0の場所では、足した分だけ必ず増える。
  7. 2つを合わせる

  8. 零空間のどのベクトルも少数の場所に固まっていなければ、右辺の差は正になり、が唯一の最小解になる。これを零空間性質と呼ぶ

  9. 逆に、あるとで不等式が破れると、とは同じ測定を与え、の絶対値の和はより大きくない。スパースなが、唯一の最小解にならない

つまり「すべてのスパースな信号が戻る」ことと零空間性質は同じである。では、零空間性質を保ったまま、はどこまで減らせるのだろうか。

そこでカンデスとタオが立てた物差しが、制限等長性(RIP)である。スパースなベクトルのどれについても、が長さをほぼ保つという条件を置く。

が小さければ、少数の場所に固まったはが0にならず、零空間に入れない。トニー・カイとアンル・チャンは2014年に、ならすべてのスパースな信号が戻り、この値を超えると保証できなくなることを示した。測定に大きさまでの雑音が混じるときも、制約をに緩めて解けば、誤差はの定数倍に収まる。

でたらめな行列がこの条件を満たす理由は、数え上げでつかめる。たとえばの成分を平均0、分散の正規乱数にすると、1本のベクトルについては個の独立な項の和になる。から外れる確率はの速さで減り、定数はで決まる。0でない場所の選び方は通りあり、それぞれの部分空間を個の点で代表させると、どこかで外れる確率は次の値を超えない。

対数をとると、これを1より小さくするにはで足りる。完全な証明は、バラニュークらの2008年の論文にある。このは十分条件を保証するための定数で、実際に何回要るかはあとの図で確かめる。

の正体は、場所を言うための情報量である。通りから1つを指すにはビット要り、シャノンのエントロピーを使うと、およそビットになる。大きさはの程度である。

もっとも、場所を総当たりで試せば測定はもっと少なくて済む。長さが素数のフーリエ測定なら、0でない値の2倍ので信号は1つに決まる。ただしタオの2007年の解説にある200万個から10万個を選ぶ例で、組み合わせはおよそ10の17万乗通りになる。だから絶対値の和に置き換え、線形計画法で解ける代わりにの分だけ測定を増やす。

途中の計算

3つの未知数を手で解く

未知数3つ、測定2回なら、0の残り方は手で計算できる。本当の信号はとする。測るのは隣どうしの差だけだ。

  1. 測定の結果を書く

  2. とおいて解をすべて書く

  3. 2乗の和をの式にする

  4. 平方完成する

  5. で最小になり、0がすべて消える

  6. 絶対値の和をの式にする

  7. とで絶対値を外す

  8. 傾きがでからへ跳ぶので、ここが最小になる

    解の直線に沿って見た2つの和。絶対値の和(実線)はt=0で折れ、2乗の和(破線)はt=−1で底を打つ。

0が残った理由は折れ目にある。の0の場所がを作り、その傾きはの左右でからへ跳ぶ。残りのの傾きでは、この折れ目を動かせない。2乗の和ではの傾きがで0なので、の傾き6に押されて、最小の場所がずれる。

しかも計算機で解くときも、0は同じ折れ目から生まれる。変数が1つの問題を解いて、反復に組み込む。

  1. 変数が1つの問題を書く

  2. の範囲で微分して0とおく

  3. の範囲でも同じにする

  4. ならどちらの範囲にも入らず、折れ目のが最小になる。1つの式に書くとソフトしきい値関数になる

    ソフトしきい値関数(実線)は幅2λの区間をちょうど0へ送る。2乗の罰則をつけた解(破線)は縮むだけで、0を通る点のほかは0にならない。
  5. への射影と交互に使う。これがADMM(交互方向乗数法)の反復である

シミュレーションは、この反復に緩和係数1.6をかけて解いている。

応用

4分の撮影を16秒に

MRIの装置は、体の断面のフーリエ成分を1行ずつ測る。k空間と呼ばれる周波数の平面を行で埋めるので、行が増えるほど撮影は長くなる。マイケル・ラスティグ、ドノホー、ジョン・ポーリーは2007年の論文で、行を擬似ランダムに間引き、画像を変換した係数のL1ノルムを最小にする再構成を示した。

はウェーブレット変換や差分、は間引いたフーリエ変換である。規則正しく間引くと像が折り返して重なるが、でたらめに間引くと偽像は雑音のように広がる。変換した先では大きな係数が雑音の上に頭を出すので、しきい値処理で拾える。

ただ、製品になるまでにはおよそ10年かかった。米国食品医薬品局(FDA)は2017年1月27日にシーメンスの圧縮センシング心臓シネ撮影を、4月20日にGEのHyperSenseを認め、翌2018年にはフィリップスのCompressed SENSEも認めた。シーメンスの自社発表によれば、4分間に10〜14回の息止めが要った心臓のシネ撮影が、呼吸を続けたまま16秒ほどで終わる。

白く静かな検査室の中央に、筒の形をした大きなMRI装置と、そこから伸びる寝台がある(画像生成 AI で描いたイメージ)
MRIの検査室。撮影時間は、測るフーリエ成分の行の数でほぼ決まる画像生成AIで描いたイメージ

2019年に公開されたブラックホールの影の画像は、どうだったのか。「圧縮センシングで撮った」という言い方は、正確ではない。

イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)が測るのは、空の明るさのフーリエ成分である可視度で、望遠鏡の組ごとに一部しか得られない。未知数より式が少ない点は同じだが、測る場所はアルマ望遠鏡など各地の望遠鏡の配置で決まり、でたらめではない。本間希樹らは2014年の論文で、この方程式をLASSOで解く超解像の方法を提案した。スパースモデリングは、こうした手法をまとめた呼び名である。

本間希樹21世紀に活躍イベント・ホライズン・テレスコープの日本チームの代表を務めた電波天文学者

M87の画像づくりは、1つの手法で進んだわけではない。EHTの第4論文によると、最初の段階では互いの結果を見られない4チームが作業し、2チームが正則化付き最尤法、2チームが従来のCLEANを主に使った。次の段階ではDIFMAP(CLEAN)、eht-imaging、SMILIの3つの手順で、それぞれ1,008通り、3万7,500通り、1万800通りのパラメーターを試している。秋山和徳らが開発したSMILIとeht-imagingは、どちらも正則化の項にL1ノルムを持つ。最終の画像は、3つの手順の結果を同じ解像度にぼかして平均したものだ。

アルマ望遠鏡(チャナントール高原に立つアルマ望遠鏡の 12 m アンテナ)
アルマ望遠鏡2011年(科学観測の開始)66台のアンテナを結んだ電波干渉計。EHTで最も感度の高い観測局出典: Wikimedia Commons・Iztok Bončina/ESO・CC BY 4.0

本間は国立天文台の発表で「私たちは、『スパース・モデリング』と呼ばれる新しい手法をデータ処理に取り入れました」と語った。

圧縮センシングの定理は、でたらめな測定を前提にする。ところがEHTの測定はそうなっていないので、定理は画像の正しさを保証しない。確かさを支えたのは定理ではなく、チームを分けた比較と、答えの分かった合成データでの検証だった。

例題と解説

くしと零空間を手で確かめる

例題 1基本1本の式から0を作る

を満たすのうち、(1)が最小のもの、(2)が最小のものを求めよ。

解説を見る

とおくとである。

(1)2乗の和を平方完成する。

で最小になり、解はである。

(2)絶対値を外す。では、では、ではになる。傾きは、、なのでで最小になり、解はである。絶対値の和は1で、(1)の解の1.2より小さい。

例題 2基本場所を言うのに何ビット要るか

個の場所のうち個に印がある。(1)不等式を使い、を上と下からはさめ。(2)10個の場所を1つずつ順に伝えると、何ビットになるか。、とする。

解説を見る

(1)下の評価はである。上の評価は次のとおり。

よってとなる。実際の値は77.8ビットである。

(2)1か所を言うのにビット要るので、10か所で99.7ビットになる。順番を伝えない分だけ、(1)のほうが短く済む。

例題 3入試くしは、くしに移る

長さ9の信号を、で1、ほかで0とする。離散フーリエ変換をで定め、をの0でない場所、をの0でない周波数の集合とする。(1)を求めよ。(2)周波数のうち3の倍数でない6か所だけを測ると、と信号0は区別できるか。(3)の等号を確かめよ。

解説を見る

(1)とおくと次のようになる。

が3の倍数ならでである。それ以外はが1の原始3乗根なのでである。

(2)測る6か所ではなので、信号0と同じ測定になり、区別できない。

(3)は3点、も3点である。で等号が成り立つ。

例題 4大学1つなら戻り、2つなら戻らない

とする。(1)の零空間を求めよ。(2)で零空間性質が成り立つことを示せ。(3)の測定から絶対値の和の最小解を求め、では戻らないことを示せ。

解説を見る

(1)からなので、零空間はである。

(2)でなら、となる。

(3)解はで、絶対値の和はである。傾きはで、で、でなので、最小はの値1である。解はで、和はの2より小さいので、のは戻らない。

図示

規則正しい測定が見落とすもの

512×512画素の画像に対して、周波数の平面に22本の線を引き、その上の成分だけを測る。測る成分は画素の数の約4%である。

カンデスらの22本の線は星形で、実際の画像装置が集めやすい配置である。しかし、測る場所はどう選んでもよいわけではない。

長さ16の信号で0、4、8、12の位置だけが1の「くし」は、フーリエ変換しても同じ形のくしになる。残り12か所の周波数を測っても値はすべて0で、信号が無いのと区別できない。

論文はこの信号を「ディラックのくし」と呼び、定理を「ほとんどので」と断る理由に挙げている。信号が少数の場所に集まるほど、周波数の側は広がる。不確定性原理を離散の信号で書くと、を信号の0でない場所、をフーリエ変換の0でない場所として次の形になる。

くしはで等号になる、いちばん特殊な信号である。カンデスらは、との組をでたらめに選ぶと、ほとんどの組でずっと強い不等式が成り立つことを示した。

論文の題の「robust(頑健な)不確定性原理」は、これを指す。つまり規則正しい測定は規則正しい信号を見落とし、でたらめな測定はどの信号にも偏らない。

長さ64の信号を、kと測定の回数mごとに200回ずつ解いたときに成功する割合。三角は下の式の予想で、成功が5割になる場所とほぼ重なる。

成功と失敗は、あるを境に一気に入れ替わる。デニス・アメルンクセンらは2014年に、この境目の場所を次の式で与えた。である。

当サイトで計算すると、のはで12.5、で17.8、で24.4になった。図の5割の点は12、18、24の近くにある。次元が高いほど鋭くなる式だが、わずか64次元でもここまで合う。が大きい極限では、ドノホーとジャレッド・タナーの結果からとなる。すべてのスパースな信号を同時に戻す条件は、これより倍厳しい。

シミュレーション

測定の回数を減らしていく

左の上の段はL1最小化をADMMで実際に解いた結果(L1解)、下の段は2乗の和が最小の解(L2解)で、丸が正解である。どちらも測定と行列だけから計算し、正解は見ていない。線形計画法の別のプログラムで解いても、同じ誤差の曲線になる。つまみを動かすたびにL2解から出発するので、草のような値が消えて0が増えていく途中も見える。右(スマホでは下)の曲線は、ごとに同じ計算をした誤差で、三角が上の式の予想である。誤差は、正解との差の長さを正解の長さで割った値である。

既定の、、では、L1解の誤差は0.0000、L2解の誤差は0.78である。L2解はを次元へ射影したものなので、誤差はおよそになり、このでは0.77と計算できる。を下げても19までは誤差0のままだが、18で0.97へ跳ね上がる。失敗のときは「絶対値の和の値」が正解より小さい。計算を誤ったのではなく、正解より和の小さい解が別に現れたのである。

「等間隔に読む」に切り替えると、信号の値を直接ところどころ読むだけになる。読まなかった場所の値は何も分からないので、L1解とL2解は同じになり、既定の信号ではまで誤差が残る。一方、でたらめな重みの測定には、1回ごとに全部の値が少しずつ入る。

広がる学問

測りにくいものを測る学問

  • 医学MRIの撮影時間を短くするとき、k空間の行を擬似ランダムに間引き、変換した画像のL1ノルムを最小にして戻す。シーメンスは心臓のシネ撮影の対象に、不整脈や呼吸の問題がある患者を挙げている。
  • 天文学 電波干渉計で測れなかった周波数を補うとき、L1ノルムや全変動を正則化の項に入れて画像を作る。M87のブラックホールの画像では、3つの手順のうち2つがこの形を使った。
  • 工学 センサーの数や電力を増やせない測定を設計するとき、測る側を単純にして計算を受信側へ回す。ライス大学の単一画素カメラは撮像素子を1個に減らし、タオは2007年の解説で、でたらめな測定を「線形代数版のハッシュ関数」にたとえた。
  • 情報科学 欠けた表を埋めるとき、ベクトルの0の数を行列のランクに置き換えて同じ手法を使う。カンデスとベンジャミン・レヒトは2009年に、特異値の和(核ノルム)を最小にすれば、ランクの低い行列の大半を個の成分から厳密に戻せると示した。
  • 数学 高次元の多面体をでたらめな向きに射影するとき、どれだけの面が残るかを調べる。ドノホーとタナーは面の数の数え上げから圧縮センシングの境目を導いた。
いまの研究と事業

絶対値の先にある正則化

  • 2021年 ニューヨーク大学とFacebook AIなど(マックリーら): 7,299件の脳のスキャンで、撮影を4倍と8倍に速める再構成を競うfastMRIコンテストの結果を報告した。決勝の手法の多くは、との一致を保つ段を残したまま、正則化の項を畳み込みニューラルネットワークに置き換えている。8倍では細部がぼやけた。出典はMuckleyほか, IEEE Transactions on Medical Imaging 40(2021), 2306-2317。
  • 2023年 プリンストン高等研究所など(メデイロスら): EHTの2017年のデータから、M87の像を作り直した。方法はPRIMOといい、の代わりに、シミュレーション画像から学んだ主成分の線形結合でを表す。輪の直径は41.5 ± 0.6 μasで、相対的な幅は従来の報告の半分以下になった。出典はMedeirosほか, The Astrophysical Journal Letters 947(2023), L7。
  • 2024年 台湾中央研究院、東京大学、国立天文台など(山口正行ら): アルマ望遠鏡の公開データから、おうし座・ぎょしゃ座領域にある原始惑星系円盤43個の像をスパースモデリングで作り直した。L1ノルムと全2乗変動(TSV)を正則化の項に使うと、解像度は従来のCLEANの2〜3倍になり、半数の円盤に隙間が見えた。出典はYamaguchiほか, Publications of the Astronomical Society of Japan 76(2024), 437-474。

参考文献

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