ブラックホールの影の大きさ

Angular size of a black hole shadow

画像の暗い丸は、地平面の 2.6 倍の大きさに見える。

光が回る軌道で決まる、ブラックホールの影の見かけの直径。質量に比例し、距離に反比例するので、影を縁どる光の輪の大きさと距離から重さが量れる。

年代
1966年(計算)・2019年(初の画像)
習う
大3以上・相対性理論・一般相対性理論
レベル
大学(例題 4 問)
人物
カール・シュヴァルツシルト、ダフィット・ヒルベルト、ジョン・ライトン・シング、ヤコフ・ゼルドビッチ、イーゴリ・ノヴィコフ、ジェームズ・バーディーン、ジャン=ピエール・リュミネ、ハイノー・ファルケ、本間希樹
逸話

暗い丸は地平面ではない

ブラックホールの画像の真ん中の暗い丸は、光さえ出てこられない境目、事象の地平面を写したものだと思われやすい。けれども、光が曲がらずにまっすぐ届くとして地平面を遠くから見たとすると、暗い丸の直径は 2.6 分の 1 ほどに縮む。暗く見える範囲を決めているのは地平面ではなく、そのすぐ外で光がぐるりと回る軌道である。この軌道の大きさは、ブラックホールの質量だけで決まる。だから、距離が分かっていれば、影を縁どる光の輪の大きさから重さが分かる。

2019 年 4 月 10 日、国際共同研究のイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)は、世界 6 か所で同時に記者会見を開いた。公表したのは、おとめ座銀河団の楕円銀河 M87 の中心にある巨大ブラックホールの画像である。明るい輪の直径は 42 ± 3 マイクロ秒角(μas)だった。1 μas は 1 秒角の 100 万分の 1 で、国立天文台は発表で、この大きさを、月面に置いた野球のボールを地球から見たときの大きさにたとえた。輪とその内側のくぼみの明るさの比は、10 対 1 を超えていた。

観測はその 2 年前、2017 年 4 月に行われた。ハワイ、メキシコ、アリゾナ、スペイン、チリ、南極の 6 か所にある 8 台の電波望遠鏡が、波長 1.3 mm の電波で同じ天体を同時に記録した。M87 を観測したのは 4 月 5 日・6 日・10 日・11 日である。遠く離れた望遠鏡の記録をあとで突き合わせ、地球ほどの口径を持つ 1 台の望遠鏡のように使う。この方法を超長基線電波干渉計(VLBI)という。

アルマ望遠鏡(チャナントール高原に立つアルマ望遠鏡の 12 m アンテナ)
アルマ望遠鏡2011年(科学観測の開始)66 台のアンテナを結んだ電波干渉計。EHT で最も感度の高い観測局出典: Wikimedia Commons・Iztok Bončina/ESO・CC BY 4.0

記録はハードディスクに書き込まれ、国立天文台によれば、1 局で 1 日 350 テラバイトに及んだ。ディスクは、アメリカのヘイスタック観測所と、ドイツのマックス・プランク電波天文学研究所の相関器(各局の信号を突き合わせる専用の計算機)へ運ばれた。南極点望遠鏡は、位置の関係で M87 を観測できず、較正に使うクエーサー 3C 279 などを記録した。そのディスクは、南半球の春に飛行機が飛べるようになる 11 月 1 日ごろまで送り出せなかった(EHT の第 2 論文)。

暮れ残る青い空の下、雪原に建つ四角い建物の上で、大きな皿形のアンテナが空を向いている。窓の明かりだけがともる(画像生成 AI で描いたイメージ)
2017 年 4 月、日の沈んだ南極点望遠鏡。記録したディスクは 11 月ごろの便を待った画像生成 AI で描いたイメージ

国立天文台の発表で EHT 日本チームの代表として紹介されたのが、水沢 VLBI 観測所の所長、本間希樹である。本間は発表の中で、最終的に 4 つの独立したチームが 3 つの手法で画像を作り、どれにもブラックホールの影が現れたと語っている。

本間希樹21 世紀に活躍イベント・ホライズン・テレスコープの日本チームの代表を務めた電波天文学者

輪の大きさには、もう 1 つの決着がかかっていた。M87 の中心の質量は、それまで 2 つの方法で見積もられ、食い違っていた。まわりの星の動きからは太陽の 62 億倍、ガスの円盤の動きからは 35 億倍である。EHT の第 1 論文によれば、回転していないブラックホールの影の直径は、星の値なら 37.6 μas、ガスの値なら 21.3 μas になるはずだった。測った輪は 42 μas だった。輪は影の縁より少し外で光るので、その差をシミュレーションで見込むと、質量は太陽の 倍と求まった。第 6 論文によれば、この値は星の動きからの見積もりとよく合い、ガスの動きからの見積もりとは信頼度 99 % ほどで合わない。

起源

光が逃げられる円錐

第一次世界大戦のさなか、ロシアの前線にいた天文学者カール・シュヴァルツシルトは、アインシュタインが発表したばかりの重力の方程式(アインシュタイン方程式)を、点の質量のまわりで厳密に解いた。論文は 1916 年 1 月 13 日にプロイセン科学アカデミーに提出された。この解では、中心から の所に特別な半径が現れる。のちに事象の地平面と呼ばれる境目で、その内側からは光も出てこられない。太陽と同じ質量なら約 3 km である。

カール・シュヴァルツシルトの肖像(Karl schwarzschild)
カール・シュヴァルツシルト1873–1916アインシュタイン方程式の、点の質量のまわりの厳密な解を初めて示した出典: Wikimedia Commons・作者不明・Public domain

光の通り道も、この解から計算できる。遠くから来る光の直線と、ブラックホールの中心との距離を、衝突パラメータ という。 がある値 より小さい光は捕らえられて中心へ落ち、大きい光は曲がって遠くへ抜けていく。EHT のチームは第 1 論文で、この結果の出典に 1917 年のダフィット・ヒルベルトの論文を挙げている。 がちょうど の光は、半径 の円の軌道に近づき、回り続ける。この半径の球面を光子球という。少しでもずれると落ちるか遠ざかる、不安定な軌道である。

1966 年、ダブリン高等研究所のジョン・ライトン・シングは、地平面に近い大きさまで縮んだ、重力の強い星を考えた。表面から四方に出た光のうち、無限の遠くまで逃げられるのは、真上を軸にしたある円錐の中に出た光だけで、星が地平面に近づくほど円錐は細くなる。光の道は逆にたどれるので、この円錐の外側は、外から光がやって来ない向き、つまり影になる。シングは「影」という言葉を使っていない。それでも、ペルリックとツプコの 2022 年の総説によれば、半径 にいる観測者から見た影の角半径 は、シングの式から次の形で読み取れる。

観測者が十分に遠く、 を距離 とみなせるとき、根号の中は 1 に近づく。角も小さいので とおけて、角直径は になる。これがこの記事の式である。ペルリックとツプコによれば、同じ 1966 年に、ソ連のヤコフ・ゼルドビッチとイーゴリ・ノヴィコフも、光を捕らえる円錐を表す同じ内容の式を自分たちの総説に載せている。

ジョン・ライトン・シングの肖像(画像生成 AI で描いたイメージ)
ジョン・ライトン・シング1897–1995重い星から光が逃げられる円錐を計算し、影の大きさの式を示した画像生成 AI で描いたイメージ

ファルケらの 2000 年の論文によれば、1973 年にはジェームズ・バーディーンが、平らに光る面の手前にあるブラックホールの縁の形を計算している。回転していなければ半径 の円で、回転するブラックホール(カー解)では、ほぼ同じ大きさのまま片側がつぶれる。

1978 年、パリ・ムードン天文台の若い研究者ジャン=ピエール・リュミネは、薄い降着円盤に囲まれたブラックホールが写真にどう写るかを、初めて精密に計算した。2018 年の本人の回想によれば、使ったのは天文台の IBM 7040 で、入力は穿孔カードだった。画面に絵を出す道具はなく、リュミネは計算で出た数をもとに、黒いインクで印画紙に点を打ち、明るい所ほど点を密にした。それを焼き直して黒と白を入れかえ、黒い地に光る円盤が浮かぶ絵にした。絵は 1978 年 11 月の科学雑誌『ラ・ルシェルシュ』に載り、1979 年の論文の結びにも置かれた。

天文台の計算機室の机で、若い研究者が背を向けて大きな紙に向かい、ペンを動かしている。机には穿孔カードと印字された紙の束がある(画像生成 AI で描いたイメージ)
1978 年、計算機の出した数をもとに、印画紙に黒いインクで点を打つリュミネ(本人の回想)画像生成 AI で描いたイメージ

2000 年、ハイノー・ファルケ、フルヴィオ・メリア、エリック・アゴルの 3 人は、天の川銀河の中心の電波源いて座 A* を、光を通すガスが包んでいる場合の見え方を計算した。ファルケらによれば、光が強く曲がるために、地平面は遠くから見て直径が重力半径 のおよそ 10 倍もある暗い「影」を落とし、その大きさは回転や見る向きにほとんどよらない。ファルケらは、いて座 A* の影は約 30 μas で、サブミリ波の VLBI なら見える見込みがあると結論した。ペルリックとツプコの総説は、「ブラックホールの影」という言い方を最初に使った論文として、これを挙げている。2022 年 5 月 12 日には、M87 と同じ 2017 年の観測から、いて座 A* の画像も公表された。輪の直径は 51.8 ± 2.3 μas だった。

証明

光子球と、落ちる光の境目

回転していないブラックホールのまわりの光の道を、シュヴァルツシルト解から求める。球対称なので、光の道を含む平面を赤道面()に選べる。長さの単位として を使う。 は道にそって進むパラメータで、点は での微分を表す。

  1. シュヴァルツシルト解の、赤道面での時空の間隔である。

  2. 計量は と を含まないので、光の道にそって 2 つの量が保存する。エネルギーと角運動量にあたる。

  3. 光の道では である。2 を 1 に入れる。

  4. 両辺に を掛けて、 について解く。

  5. 遠くでは なので、 になる。この値は、光の速さ と、光の直線と中心との距離の積に等しい。そこで を衝突パラメータとし、両辺を で割る。

  6. 左辺は 0 以上なので、光は の所しか進めない。 の山を探すために微分する。

  7. から、山の頂上は にある。ここが光子球で、山の高さは次のとおり。

  8. が山の高さより大きければ、光は山を越えて地平面へ落ちる。小さければ山の手前で折り返す。等しいときが境目である。

  9. 遠くの観測者には、衝突パラメータ の光は、中心から角度 だけずれた向きから届く。 の向きからは光が来ないので、そこが影になる。

なので、影の直径は である。光がまっすぐ進むとして地平面(直径 )を見た角度の 2.6 倍で、M87 なら 15.3 μas が 39.7 μas に広がる。縁の光は光子球のすぐそばを回ってから届くので、遠くから見た縁の半径は、光が近づいた半径 ではなく、遠くでの光の直線と中心との距離 になる。光子球の直径 より大きく見えるのはこのためである。影の縁は光の道だけで決まり、光源の置き方によらない。ファルケらは 2000 年の論文で、ブラックホールを包むガスが光を通すなら、縁の形は同じになると述べている。

光子球を回る光の角速度を遠くの時計で測ると、手順 2 と 8 から になる。ニュートン力学で半径 の円軌道を回る物の角速度 と同じ値で、ケプラーの第三法則の形がそのまま残る。1 周にかかる時間は である。

回転していても、影の大きさはほとんど変わらない。EHT のチームは第 6 論文で、回転の速さと見る向きによって、影の平均の直径は から の間に入るとしている。真ん中の 10 から上下に 4 % ほどの幅で、第 1 論文もこの違いを「小さい(4 %)」と書いている。回転しない場合の は、この幅の上の端にあたる。

途中の計算

M87 の数を入れて μas にする

EHT の第 1 論文の質量 と距離 Mpc を式に入れ、逆に輪の大きさから質量に戻す。定数は m、1 pc m、1 μas rad とする。

  1. 太陽の を 倍する

  2. 距離をメートルに直す

  3. 2 つを割って角度にする

  4. マイクロ秒角に直す

  5. を掛けて影の直径にする

  6. 逆に、輪の直径 42 μas を で割る

  7. 角度に距離を掛けて に戻す

  8. 太陽の値で割って質量にする

手順 6 の は、輪の直径と の比である。輪の光は影の縁より少し外から来るので、EHT のチームはシミュレーションの画像で を 10.7〜11.5 と較正した。輪をそのまま影とみなして で割ると、質量は太陽の 倍になり、6 % ほど重く出る。影から直接決まるのは で、質量を出すには距離が要る。

応用

40 μas と 50 μas、12 日と 11 分

大きさは で決まる。 式に入るのは、質量と距離の比だけである。いて座 A* の質量は M87 の中心のブラックホールの約 1600 分の 1 だが、距離も約 2000 分の 1 と近い。EHT の 2022 年の論文の質量 と、電波のメーザーの観測から求めた距離 8150 pc を入れると

で、M87 の 39.7 μas に近い。EHT のチームは第 1 論文で、空で影がいちばん大きく見えるブラックホールとして、この 2 つを挙げている。いて座 A* では、まわりの星の軌道から μas とさらに精密に決まっていて(VLTI の観測)、式に入れると影の直径は 53.3 μas になる。EHT が輪から見積もった影の直径 48.7 ± 7.0 μas は、この予言と誤差の範囲で合った。

1 周 12 日と 11 分。 光子球を光が 1 周する時間は、遠くの時計で で、質量に比例する。M87 では 秒、およそ 12 日。いて座 A* では 640 秒、およそ 11 分である。国立天文台の 2022 年の発表で、EHT の研究者チークワン・チャンは次のように説明している。M87 のまわりのガスが 1 周するには数日から数週間かかるが、いて座 A* ではわずか数分で、観測している間にも明るさや模様が激しく変わる。

望遠鏡の細かさ。 波長 の電波で、いちばん離れた 2 局の距離が のとき、見分けられる細かさの目安は である。2017 年の EHT では、M87 を観測したときの は最大 10,700 km で、 は 25 μas になる(第 1 論文)。基線を地球の直径 12,742 km いっぱいにしても 21 μas で、M87 の影は細かさの 2 倍に届かない。画像づくりの手法を選べば、 より細かい像も作れる。論文の画像は、手法ごとに違う細かさをそろえるため、どれも 20 μas にぼかして示された。影がこの 10 分の 1 のブラックホールを見るには、波長を短くするか、地球より長い基線が要る。

例題と解説

影の角度と、見分ける基線を計算する

例題 1基本3 つの半径

太陽の 10 倍の質量の、回転していないブラックホールがある。 km として、(1) 地平面の半径 、(2) 光子球の半径 、(3) 影の縁になる衝突パラメータ を、それぞれ km で有効数字 3 桁で求めよ。

解説を見る

km である。

(1) km

(2) km

(3) なので、 km

遠くから見ると、影は半径 76.9 km の黒い円を置いたのと同じ大きさになる。地平面の半径の 2.6 倍である。

例題 2基本影の角直径と、要る基線

太陽の 倍の質量のブラックホールが、20 Mpc の距離にある。 m、1 pc m、1 μas rad とする。(1) 影の角直径を μas で有効数字 2 桁で求めよ。(2) 波長 1.3 mm で、 が影の角直径と等しくなる基線の長さ を求め、地球の直径 km の何倍かを答えよ。

解説を見る

(1) まず を求める。

μas に直すと μas である。 を掛けて、影の角直径は μas、有効数字 2 桁で 5.1 μas になる。

(2) 影の角直径は rad である。

km で、地球の直径のおよそ 4.1 倍になる。地上の望遠鏡だけでは足りない。

例題 3大学近くの観測者が見る影

シュヴァルツシルト解の中の半径 に、静止した観測者がいる。 とする。(1) 衝突パラメータ の光が、観測者の動径の向きとなす角を とするとき、 を示せ。(2) 影の縁()の角半径を、 と で求めよ。(3) のとき、 と の差は何 % か。

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(1) 観測者が使う正規直交の基底は、時間の向きが 、動径の向きが 、回る向きが である。証明の手順 2 の と を使うと、光の運動量の時間と回る向きの成分は

になる。光では、空間の運動量の大きさが に等しい。動径の向きとなす角は

(2) を入れる。 では

で、 である。 では で になり、空の半分が影になる。

(3) で、 との差は 0.1 % である。角は小さく とみなせるので、遠くの観測者にはこの記事の式で足りる。

例題 4大学質量の誤差

EHT のチームは第 1 論文で、M87 の画像から重力半径の見かけの角度 μas を求め、距離 Mpc を使って質量を出した。 m、1 pc m、1 μas rad とする。(1) 質量が太陽の何倍か、有効数字 2 桁で求めよ。(2) 2 つの誤差が互いに無関係だとして、質量の相対誤差を求めよ。

解説を見る

(1) なので

(2) は と の積に比例するので、相対誤差は 2 つの相対誤差の 2 乗の和の平方根になる。

質量は太陽の 倍の 12 %、およそ 倍の幅を持ち、論文の 倍に近い。距離が 1 割ずれれば、質量も 1 割ずれる。

入試・大会での出題

回折限界の出題

  • 2025 年 物理チャレンジ 第 2 チャレンジ 理論問題 第 3 問 問 13・問 14: レンズにまつわる光学の大問の [IV] 回折限界。円い口径のレンズで集めた光の広がりから、近い 2 点を見分けられる最小の角度(空間分解能)を波長と口径で表し、続けて、決まった高さの衛星から決まった大きさの物を見分けるのに要る口径を求める。影と比べる の目安と同じ考え方である。(出典: 物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ 2025 第 2 チャレンジ 理論問題」)
図示

光子球をかすめる光

回転していないブラックホールのそばを通る光の道を、シュヴァルツシルト解の光の方程式で計算した。衝突パラメータ b が b_c = √27 GM/c² より少しでも小さい光は光子球を回ってから落ち、少しでも大きい光は回ってから抜けていく。
証明の手順 5 の V(r)。山の頂上は r = 3GM/c² にある。1/b² が山より高い光は山を越えて地平面に落ち、低い光は山の手前で折り返す。ちょうど頂上の高さの光が、光子球を回り続ける。
M87 の中心のブラックホールの大きさを、同じ縮尺で並べた。観測した明るい輪の直径 42 μas は、式で出す影の直径 39.7 μas より少し大きい。地平面を光が曲がらないとして見た大きさは 15.3 μas、2017 年の EHT の細かさ λ/L は 25 μas である。
シミュレーション

望遠鏡を地球の大きさにしてみる

質量と距離のつまみで、影の直径 が変わる。四角い枠には、輪と影の本当の形と、半値幅 のぼかしをかけた「望遠鏡の像」が交互に映り、対数の目盛りで影と の大きさを比べられる。明るい輪は、EHT の較正にならって、影の縁より少し外の直径 に置いた。M87* のまま波長を 0.87 mm にすると中心のくぼみがはっきりし、基線を短くするとくぼみが消える。ぼかし方は目安で、実際の画像づくりではこれより細かい像を出せる。

広がる学問

影の大きさが届く先

  • 物理学 強い重力の中で一般相対性理論を試す物差しになる。質量と距離が別の方法で分かっている天体なら、影の大きさの予言と観測を比べられる。いて座 A* では、1 割ほどの精度で予言と合った。国立天文台の 2022 年の発表には、EHT の科学諮問委員会の議長の 1 人、セラ・マルコフの言葉が載っている。質量が 1000 倍以上違う 2 つのブラックホールの近くがよく似て見えるのは、そこを一般相対性理論が支配しているからだという。
  • 天文学 ブラックホールの質量を量る、もう 1 つの方法になった。星やガスの動きから量るときは、万有引力の法則とケプラーの第三法則を使う。影の方法は、地平面のすぐそばを通った光から量る点が違う。
  • 工学 各局は水素メーザーの周波数標準を持ち、GPS を使って記録の時刻を数十ナノ秒以内にそろえる(第 1 論文)。1 局の記録は毎秒 64 ギガビットで、32 台のディスクに並べて書く記録装置を 4 台使う。ディスクはヘリウムを封じた密閉型で、気圧を保つ容器なしに標高 5100 m まで使え、2017 年の観測では合わせて 1 万時間を超える記録の間、1 台も壊れなかった(第 2 論文)。
  • 情報科学 干渉計が測るのは、空の明るさの分布のフーリエ成分(可視度)で、地球の上に散らばった数組の基線では、その一部しか測れない。日本のチームは、なるべく少ない成分で説明できる画像を選ぶスパースモデリングを持ち込んだ。国立天文台の発表によれば、チームは手法を変えながらおよそ 5 万通りの画像化を試し、影の特徴が本当に信頼できるかを確かめた。

参考文献

  1. The Event Horizon Telescope Collaboration, "First M87 Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole", The Astrophysical Journal Letters 875 (2019), L1; 同 "II. Array and Instrumentation", L2; 同 "VI. The Shadow and Mass of the Central Black Hole", L6.
  2. The Event Horizon Telescope Collaboration, "First Sagittarius A* Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole in the Center of the Milky Way", The Astrophysical Journal Letters 930 (2022), L12.
  3. K. Schwarzschild, Sitzungsberichte der Königlich Preussischen Akademie der Wissenschaften zu Berlin (1916), 189-196(英訳 S. Antoci, A. Loinger, arXiv:physics/9905030); D. Hilbert, Nachrichten von der Königlichen Gesellschaft der Wissenschaften zu Göttingen, Math.-phys. Klasse (1917).
  4. J. L. Synge, "The Escape of Photons from Gravitationally Intense Stars", Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 131 (1966), 463-466; Ya. B. Zeldovich, I. D. Novikov, Soviet Physics Uspekhi 8 (1966), 522; J. M. Bardeen, in Black Holes, ed. C. DeWitt, B. S. DeWitt (Gordon and Breach, 1973), 215.
  5. J.-P. Luminet, "Image of a Spherical Black Hole with Thin Accretion Disk", Astronomy and Astrophysics 75 (1979), 228; J.-P. Luminet, "Seeing Black Holes: From the Computer to the Telescope", Universe 4 (2018), 86.
  6. H. Falcke, F. Melia, E. Agol, "Viewing the Shadow of the Black Hole at the Galactic Center", The Astrophysical Journal 528 (2000), L13; V. Perlick, O. Yu. Tsupko, "Calculating black hole shadows: Review of analytical studies", Physics Reports 947 (2022), 1.
  7. 国立天文台「史上初、ブラックホールの撮影に成功」(2019 年 4 月 10 日)、「天の川銀河中心のブラックホールの撮影に初めて成功」(2022 年 5 月 12 日)

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