同じ体積、2倍の量
2気圧の二酸化炭素に触れている水には、1気圧のときの何倍の二酸化炭素が溶けるだろうか。物質量で数えれば2倍だが、溶けた分を2気圧のまま取り出して体積を測ると、1気圧のときと変わらない。
この言い方で法則を書いたのが、ウィリアム・ヘンリーだった。論文は1802年12月にロンドンの王立協会で読まれ、翌1803年の『フィロソフィカル・トランザクションズ』に載った。実験に使ったのは、目盛りつきのガラス容器と、水銀柱で圧力を足す管。水銀柱を28インチ高くすると大気圧およそ1つ分、56インチで2つ分の圧力が加わる。ヘンリーは二酸化炭素、硫化水素、亜酸化窒素、酸素、窒素で少なくとも50回の実験を重ね、温度が同じなら、水は押し縮めた気体も、ふつうの圧力の気体も、同じ体積だけ取り込む、と結論した。気体の体積は圧力に反比例するので、ふつうの圧力に戻して測れば、2倍、3倍の量にあたる。
3気圧で気体を溶かした水は、栓を開いて圧力を抜くと激しく泡立った。ヘンリーは、この様子を化学の講義で見せるのにうってつけだと書き添えている。のちに付けた補遺には、友人のジョン・ドルトンの考えとして、溶ける量はほかの気体が混ざっていても、その気体だけの密度に比例する、という一文が入った。今の言葉でいえば、分圧の考え方だ。
物質量と体積を分けて追う
温度を一定にし、一定量の水(溶媒)に触れている気体の圧力をとする。溶ける気体の物質量はに比例し、比例定数は気体の種類と温度、水の量で決まる。
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圧力で溶ける物質量を書く
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圧力を2倍にする
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溶けた気体を、溶かしたときの圧力で測った体積にする
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を約分する
手順4の右辺には残らない。ヘンリーの言う「同じ体積」は、このことだ。一方、標準状態に直した体積は物質量に比例するから、圧力に比例する。
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0 °C、 Paの体積に直す
「何mLの気体が溶けるか」と問われたら、どの圧力で測った体積かを先に読む。溶かした圧力で測るなら一定、標準状態に直すなら圧力に比例で、答えは2通りだ。
では、空気のように気体が混ざっているときはどうか。それぞれの気体が、自分の分圧に比例して溶ける。ドルトンが補遺で述べたとおり、ほかの気体の圧力は関係しない。
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成分ごとに分圧で書く
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分圧は全圧に気体中のモル分率を掛けた値
ヘンリーの補遺の表では、60 °F(約16 °C)の水100に溶ける体積を、純粋な気体として酸素3.55、窒素1.47と見積もっている。酸素のほうが2倍あまり溶けやすい。だから、空気と振り混ぜた水に溶けている気体は、空気より酸素の割合が大きい。ヘンリー自身も、煮沸した水に空気を振り混ぜると酸素のほうが優先して吸い取られる、と書いていた。分圧の求め方はドルトンの分圧の法則で確かめられる。
栓を開けると泡が出る
炭酸飲料の泡は、ヘンリーの法則を逆向きにたどった姿である。栓をした容器の中では液の上の二酸化炭素の圧力が高く、それに見合う量が液に溶けている。ところが栓を開けると、液の上は空気に入れ替わり、二酸化炭素の分圧はごく小さくなる。釣り合う溶解量も一気に下がり、溶けすぎた分の行き場は泡しかない。ヘンリーが3気圧の水で見た激しい泡立ちと、同じ現象だ。
法則に「温度一定」が付くのは、温度でも溶ける量が変わるからだ。ヘンリーは二酸化炭素について、55 °F(約13 °C)では水100立方インチに108立方インチ溶けたのに、85 °F(約29 °C)では84立方インチにとどまったと記録している。比例定数は温度が変われば別の値になり、二酸化炭素では温度が高いほど小さい。
ただし、どの気体にも成り立つわけではない。ヘンリーが圧力を変えて確かめた5種類にも、アンモニアや塩化水素は入っていなかった。この2つは水にきわめてよく溶けて水と反応し、アンモニアの一部はとに、塩化水素はとに分かれる。溶ける量は圧力に比例しなくなるので、ヘンリーの法則は、溶解度が小さく水と反応しにくい気体に使う。
固体が溶ける量を温度で読む計算は溶解度と再結晶で、気体の物質量と体積の換算は理想気体の状態方程式で練習できる。
酸素、空気、二酸化炭素
例題 1基本圧力と水の量を変える
20 °C、 Paの酸素は、水1.0 Lに mol溶けるとする。20 °C、 Paの酸素に水2.0 Lを触れさせたとき、(1)溶ける酸素の質量(2)溶けた酸素を20 °C、 Paのもとで測った体積を求めよ。O = 16、気体定数はとする。
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(1)物質量は圧力に比例し、水の量にも比例する。
質量は gである。
(2)20 °Cは293 Kなので、状態方程式から体積を出す。
約68 mLになる。同じ水2.0 Lを Paの酸素に触れさせても、溶けるのは molで、その圧力で測った体積はやはり約68 mLだ。
例題 2基本空気に触れた水
20 °C、 Paの空気に、水10 Lが触れている。空気は窒素と酸素だけからなり、物質量の比は4:1とする。20 °C、 Paで水1.0 Lに溶ける量を、酸素 mol、窒素 molとする。水に溶けている酸素と窒素の物質量と、溶けている気体のうち酸素が占める物質量の割合を求めよ。
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分圧は酸素 Pa、窒素 Paで、それぞれ分圧に比例して溶ける。
酸素の割合はで、空気の中のより大きい。
例題 3入試ピストンで押し込む二酸化炭素
ピストンつきの容器に水2.0 Lと二酸化炭素が入っていて、0 °Cで圧力は Paである。温度を保ったままピストンを押し、圧力を Paにした。0 °C、 Paで水1.0 Lに溶ける二酸化炭素は molとし、水の体積の変化と水蒸気は考えない。(1)新たに水に溶けた二酸化炭素の物質量(2)それを0 °C、 Paの体積に直した値(3)押す前と押した後で、溶けている二酸化炭素をそれぞれの圧力で測った体積を求めよ。気体定数は、0 °C、 Paの気体1 molの体積は22.4 Lとする。
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(1)押す前に溶けているのは molで、圧力が3倍になると molになる。差は molである。
(2) L。
(3)押す前の体積を状態方程式で出す。
押した後も同じ値になる。
物質量は3倍になったのに、その圧力で測った体積は変わらない。体積を答えるときは、どの圧力で測った値かで答えが変わる。
蓋を緩めた炭酸水
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第1問 問3:19 °Cで、炭酸水と少量の二酸化炭素が入った容器の蓋を少し緩めると、炭酸水から二酸化炭素が0.060 mol出て、閉め直したあとの圧力は Paだった。19 °Cで水1 Lに溶ける量が与えられ、ヘンリーの法則から、緩める前の容器内の圧力を逆算する。問題の全文は大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」で読める。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第5節「化学」3(1)ア(イ)㋐ 溶解平衡、101-102ページ
- W. Henry, "Experiments on the Quantity of Gases absorbed by Water, at different Temperatures, and under different Pressures", Philosophical Transactions of the Royal Society of London 93 (1803), p. 29と補遺pp. 274-276(1802年12月23日に朗読)。全文のOCRはJ. Clifford「Philosophical Transactions Archive 1665-1869」
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 本試験 化学」