30インチを4つの気体で分ける
1802年11月12日、ジョン・ドルトンはマンチェスター文学哲学協会で、大気をつくる気体の割合についての論文を読んだ。論文には、大気が水銀柱を30インチ押し上げる圧力を、気体ごとに分けた表が載っている。窒素23.36インチ、酸素6.18インチ、水蒸気0.44インチ、二酸化炭素0.02インチ。足すと、ちょうど30.00インチになる。
表の土台は、論文の冒頭でドルトン自身が要点として繰り返した考えだ。気体の粒が押し返す力は、同じ種類の粒どうしにしか働かない。つまり、容器の中の気体の力は、単独でも混ざっていても変わらない。酸素の受け持ちを出す方法も書かれていて、空気から酸素だけを取り除いたとき、30インチの圧力のまま体積が5分の1減るなら、酸素は6インチ分の力で地面を押している、と読めばよい。
この考えは、論文の数年前からあった。科学史研究所(Science History Institute)の伝記によると、ドルトンは1799年から1801年にかけて同じ協会で気象の論文を続けて読んでいる。その中で、空気は気体どうしが化学的に溶け合ったものではなく、成分の気体がそれぞれ独立に圧力をおよぼし、全圧はその和になる、と説いた。
状態方程式を成分ごとに書く
は混合気体の全圧、とは成分AとBの分圧、とは物質量を表す。分圧とは、その成分だけが同じ容器に同じ温度で入っていたとしたときの圧力である。では、なぜ分圧を足すと全圧になるのか。体積、温度の容器で、理想気体として計算する。
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成分Aだけについて状態方程式を書く
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成分Bについても同じ形で書く
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混合気体全体では物質量を足す
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手順1と2を足し、手順3と比べる
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手順1を手順3で割ると、とが消える
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両辺にを掛ける
手順5の右辺を、Aのモル分率という。温度と圧力がそろえば、体積の比は物質量の比に等しい(アボガドロの法則)。だから空気の体積で約21%を酸素が占めるなら、酸素の分圧も全圧の約21%になる。ドルトンが酸素を取り除いたときの体積の減り方から酸素の受け持ちを読んだのは、まさにこの関係だった。表の6.18インチは30インチの約20.6%にあたる。
水の上で気体を集めると、集めた気体には水蒸気が混ざる。ここでも分圧の和が使える。
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内外の水面をそろえ、内側の全圧を大気圧に等しくする
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水蒸気圧を引いて、集めた気体の分圧を出す
引く水蒸気圧は、その温度の飽和水蒸気圧である。空気と混ざっていても、水蒸気が出せる圧力の上限は真空の中と同じになる。ドルトンは1802年の論文で、以前に自分で測った結果からこのことを述べている。そのうえで、大気中の水蒸気の圧力を平均で55 °F(約13 °C)の飽和の値とみて、0.443インチ、全体のおよそ70分の1と見積もった。
水蒸気を引く理由と、上空で外れた予想
分圧の法則がいちばん効くのは、気体の物質量を圧力から逆算するときだ。水上置換で集めた気体の体積をそのまま状態方程式に入れると、混ざった水蒸気まで数えてしまう。たとえば水蒸気圧が Paなら大気圧の約3.6%で、引き忘れるとそのぶん物質量を多く見積もる。しかも、温度が上がるほど水蒸気圧は大きくなり、ずれも広がる。
2つの容器をコックでつなぐ問題も、成分ごとに考えると見通しがよい。温度が変わらなければ、つないだあと各成分はそれぞれ全体の体積に広がるので、成分ごとにボイルの法則で分圧を出し、最後に足せば全圧になる。同じ気体をつなぐ計算は理想気体の状態方程式の例題3で練習でき、違う気体を混ぜるときも手順は変わらない。
ただし、ドルトンの考えをそのまま大気の高さに広げると、外れる。ドルトンは同じ論文で、気体ごとの大気は互いに独立なので、重い酸素は上空ほど窒素より少なくなるはずだと考えた。見積もりでは、約3マイルのモンブランの高さで酸素と窒素の比がほぼ20対80になり、ふつうの高さでは差はほとんど分からない。論文の注には、1804年7月にヘルヴェリン山の山頂で採った空気がマンチェスターの空気と変わらなかったことに加え、ゲイ=リュサックがモンブランより高い約4マイルから持ち帰った空気も地表と同じだった、と書き添えてある。風が混ぜる大気では、気体は高さで分かれなかった。
集めて、つないで、燃やして冷やす
例題 1基本質量から分圧へ
窒素5.6 gと酸素3.2 gを混ぜた気体の全圧が Paである。窒素と酸素の分圧を求めよ。モル質量は窒素28 g/mol、酸素32 g/molとする。
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物質量は、窒素 mol、酸素 molである。窒素のモル分率はなので、次のようになる。
質量では7対4だが、分圧は物質量と同じ2対1に分かれる。
例題 2基本水上置換で集めた水素
亜鉛に希硫酸を加えて発生させた水素を水上置換で集め、27 °Cで管の内外の水面をそろえると、体積は249 mLだった。大気圧は Pa、27 °Cの飽和水蒸気圧は Pa、気体定数はとする。(1)水素の分圧(2)水素の物質量を求めよ。
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(1)管の中の全圧は大気圧に等しいので、水蒸気圧を引く。
(2)27 °Cは300 K、249 mLは0.249 Lである。
水蒸気圧を引かずに大気圧で計算すると molになり、3.7%ほど多く出る。
例題 3入試窒素と酸素の容器をつなぐ
容積1.0 Lの容器Aに窒素が Pa、容積3.0 Lの容器Bに酸素が Paで入っていて、どちらも同じ温度である。コックを開いて十分に時間がたったあとの、(1)窒素と酸素の分圧(2)全圧(3)酸素のモル分率を求めよ。温度は変わらず、つなぐ管の容積は無視する。
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(1)各成分は合わせて4.0 Lに広がる。成分ごとにボイルの法則を使う。
(2)分圧を足す。
(3)同じ容器の中では、分圧の比がそのまま物質量の比になる。
例題 4入試燃やしたあとの水蒸気
容積8.3 Lの容器に水素0.20 molと酸素0.20 molを入れ、27 °Cに保つ。(1)点火前の全圧を求めよ。(2)点火して水素を完全に燃やし、27 °Cに戻した。全圧を求めよ。(3)(2)のとき、液体になっている水は何molか。27 °Cの飽和水蒸気圧を Pa、気体定数をとし、液体の水の体積は無視する。
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(1) Paである。 (2)より、水が0.20 molでき、酸素が0.10 mol残る。水がすべて気体だとすると、その圧力は次のとおり。
これは飽和水蒸気圧を超えるので、水の一部は液体になり、水蒸気の分圧は Paにとどまる。酸素の分圧は Paなので、全圧は次のようになる。
(3)気体のまま残る水は molで、液体の水は molである。
体積比で混ぜた気体と、大気のオゾン
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第1問 問2:理想気体と実在気体についての3つの記述の正誤を選ぶ。記述Iは、温度と圧力が同じ気体AとBを体積比で混ぜたとき、分圧の比がその体積比になるかを問い、分圧の比と物質量の比の関係から判断する。出典は大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」。
- 2022年 化学グランプリ 一次選考 問題3〔問サ〕:地表付近の大気で、酸素を体積で20.9%、オゾンを20 ppbv、ヒドロキシルラジカルを1立方センチメートルあたり個とする。酸素の分圧を1としたときの、オゾンとヒドロキシルラジカルの相対分圧を求める。個数で与えられた濃度は、状態方程式で物質量の割合に直してから比べる。出典は化学グランプリ「化学グランプリ2022の一次選考問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第5節「化学」3(1)ア(ア)㋐㋑、99-100ページ
- J. Dalton, "Experimental Enquiry into the Proportion of the Several Gases or Elastic Fluids, Constituting the Atmosphere", Memoirs of the Literary and Philosophical Society of Manchester 1 (1805), 244-258(1802年11月12日に朗読)。翻刻はLe Moyne College「Classic Chemistry」
- Science History Institute, "John Dalton"
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 本試験 化学」
- 化学グランプリ「化学グランプリ2022の一次選考問題」