ラーモアの公式

Larmor formula

古典物理だけなら、水素原子は1000億分の1.6秒で潰れる。

加速する電荷は、加速度の2乗に比例する強さで電磁波を出す。止まった電荷や等速の電荷は出さない。電場の線の折れ目が、光の速さで外へ広がるからだ。

年代
1897年(ラーモアの論文)
習う
大3以上・電磁気学・電磁波
レベル
大学(例題 3 問)
人物
ジョゼフ・ラーモア
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
起源

電子の年の最後のページ

電子を揺らすと、なぜ光が出るのか。ラジオの送信アンテナでは、導線の中の電子が1秒に何十万回も行き来して、電波を送り出している。ただし、止まった電子も、同じ速さでまっすぐ進む電子も、電磁波は出さない。出すのは、速さや向きが変わる電子、つまり加速している電子だけだ。

その強さを初めて計算したのが、アイルランド生まれの物理学者ジョゼフ・ラーモア(1857〜1942)である。1897年12月、ラーモアは『フィロソフィカル・マガジン』に「スペクトルへの磁場の影響と、動くイオンからの放射の理論について」を載せ、その最後のページで、加速する電荷が出す放射の強さを式にした。J・J・トムソンが電子を実験で突き止めたのも、同じ1897年である。

途中の計算

折れた電場の線が運ぶもの

この計算の道すじ。 記号と単位を読み(手順1〜5)、等速では出ず、加速すると出るわけを、電場の線の折れ目でつかむ。次に折れ目の形から放射の電場を出し(手順6〜9)、流れを球面で足し合わせて公式を導く(手順10〜13)。最後に電子の放射を数で見積もり(手順14〜16)、古典的な水素原子が潰れるまでの時間を出す(手順17〜29)。

記号と単位を読む

は電荷(C、クーロン)、は加速度(m/s²)、は光の速さで、約 m/sである。はイプシロン・ゼロと読み、真空の誘電率という定数で、約 F/m。左辺のは、1秒あたりに電荷から出ていく電磁波のエネルギー(W)だ。

右向きの加速度aで加速する電荷qから電磁波が出ていき、加速の向きから角θ、距離rの点で放射を測る。下の欄に、q、a、ε₀、c、Pの意味と単位を示す。

右辺の単位がW(ワット)になることを確かめる。F/mは、と同じ単位である。

  1. 4つの量の単位を並べる

  2. 分母の単位をまとめる

  3. C²を約分する

  4. 分母をひっくり返して掛ける

  5. N·mはJ(ジュール)、J/sはWと書きかえる

図で納得する

止まった電荷の電場の線は、電荷からまっすぐ四方へ伸びる。同じ速さで進む電荷も、一緒に動く人から見れば止まった電荷にすぎない。線はまっすぐのままで、どこにも折れ目は無く、電磁波も出ない。

では、加速するとどうなるか。止まっていた電荷を短い時間だけ押して、速さにしたとする。電荷が動いたという知らせは、光の速さでしか伝わらない。だから時間が経ったとき、半径より外の線は、まだ元の位置からまっすぐ伸びている。

半径より内の線は、今の位置からまっすぐ伸びる。2つの円にはさまれた厚さの殻で、線はつながるしかない。ここに折れ目ができて電場が横向きの成分をもち、この折れ目が光の速さで外へ広がっていく。これが電磁波である。

加速の大きさを0にすると、線は折れない。を大きくするほど折れ目は横へ大きくずれ、放射の強さはの2乗で増える。加速と同じ向きの線は折れず、加速と直角の向きの線がいちばん大きく折れる。電場の線の折れ目から放射を考えるこの見方はJ・J・トムソンにさかのぼり、今も大学の講義で使われている。

式で確かめる

折れ目の電場を、外へ向かう成分と、横向きの成分に分ける。(シータ)は、加速の向きと、測る点の向きとのなす角だ。殻の外の線と内の線は、電荷が動いた距離のぶんだけ横にずれていて、そのずれを線に直角な向きで測るとになる。

殻の内側の線は今の電荷の位置から、外側の線ははじめの位置から伸び、2本は厚さcΔtの殻の中の折れ目でつながる。2本の線の横のずれはΔv t sinθである。
  1. 折れ目の横と縦の比を、図の長さで書く

  2. と、殻までの距離からを入れる

  3. 外向きの成分は、クーロンの法則の電場である

  4. 手順7の両辺にを掛ける

クーロンの電場は距離の2乗で弱まるが、折れ目の電場は距離に反比例して弱まるだけだ。遠くまで届くのは、この横向きの電場である。次に、ポインティング・ベクトルで読める電磁波の流れの大きさに入れる。は、1秒に1 m²を通るエネルギー(W/m²)だった。

  1. を2乗してを掛ける

放射の強さを向きごとに長さで描くと、加速の向きをはさんで上下に2つのふくらみができる。90°で最も強く、45°では半分、加速の向きの0°では0になる。

がかかるので、放射は加速と直角の向き(90°)で最も強く、45°では半分、加速の向きには出ない。全部の向きに出るエネルギーを足すには、半径の球の表面でを平均し、表面積を掛ければよい。

球を加速の向きに同じ幅の帯で切ると、帯の面積はどれも等しい。アルキメデスが見つけた性質で、をから1まで均等に動かして平均すれば、球の表面で平均したことになる。の平均は、放物線の下の面積を、幅の2で割った値だ。

上は、加速の向きに同じ幅で4つに切った球で、4つの帯の面積は等しい。下は、u = cosθを横軸にしたsin²θ = 1 − u²のグラフで、平均の高さは2/3である。

放物線の下の面積は、中に描いた三角形(底辺2、高さ1で面積1)の倍になる。アルキメデスが『放物線の求積』で示した値で、等比級数の和からも出せる。は細かく分けて足す記号で、手順11ではこの面積を表す。

  1. の球面での平均を求める

  2. 平均したに表面積を掛ける

  3. とを約分する

が消えたので、どれだけ大きな球で測っても、1秒に出ていくエネルギーは同じになる。

電子1個の放射を見積もる

電子を m/s²で加速したときの放射を出す。電子の電荷は Cである。

  1. 分子に電荷と加速度を入れる

  2. 分母に定数を入れて計算する

  3. 分子を分母で割る

m/s²は、電子を1 mあたり約570万ボルトの電場に置いたときの加速度にあたる。そこまで強く押しても、出る電磁波は1秒に Jしかない。加速を2倍の m/s²にすると、が4倍になるので、放射も4倍の Wになる。

一辺がaの正方形は1マス、一辺が2aの正方形は4マスになる。加速を2倍にすると放射は4倍で、10¹⁸ m/s²なら5.7×10⁻¹⁸ W、2×10¹⁸ m/s²なら2.3×10⁻¹⁷ Wである。

古典的な原子が潰れる

水素原子の電子が、陽子のまわりを半径の円で回っているとする。円運動は向きが変わり続ける運動なので、電子はいつも中心へ向かって加速している。だとすれば、電子は電磁波を出し続け、エネルギーを失って中心へ落ちていくはずだ。は電子の質量、は回る速さである。

  1. クーロン力を質量で割って、加速度を出す

  2. とおいて書きかえる

は古典電子半径と呼ばれる長さで、約 mである。

  1. 円運動の式の両辺にを掛けて、運動エネルギーを出す

  2. 位置エネルギーを足し、で書く

  3. 公式のを、手順18のの式からに置きかえる

  4. 手順18のを入れる

水素原子の電子の半径(ボーア半径を1)と時間のグラフ。半径の3乗は破線のように一定の速さで減り、半径は実線のように最後に急に落ちて、約1.56×10⁻¹¹秒で0になる。

半径がからへ少しだけ変わると(縮むときはが負)、手順20のエネルギーはだけ変わる。で、が小さければ分母をとみなせるからだ。縮むとこの変化は負になり、減ったぶんが時間のあいだに電磁波で出ていくに等しい。

もう一つ、の変化も使う。で、が小さければ後ろの2つの項は無視できるので、の変化はである。

  1. エネルギーの変化を、出ていったのマイナスとおく

  2. 両辺にを掛ける

  3. の変化はなので、両辺を3倍する

  4. は一定の速さで減るので、はじめの半径から0になるまでの時間を出す

  5. 分子のにボーア半径 mを入れる

  6. 分母にとを入れる

  7. 分子を分母で割る

手順25でがまっすぐ減るので、半径ははじめゆっくり縮み、最後に一気に中心へ落ちる。古典物理の計算では、水素原子は1000億分の1.6秒ほどで潰れてしまう。ところが実際の水素原子は潰れず、いつまでも同じ大きさを保つ。このくい違いは古典物理では解けず、量子論が出てくるまで残った。

応用

空が青いわけ

昼の空が青いのは、空気の分子にある電子が太陽の光に揺らされ、光を四方へ出し直すからだ。電子が分子の中で自然に揺れる振動数は紫外線の側にあり、目に見える光の振動数よりずっと高い。このため、同じ強さの光を当てたときの電子の揺れ幅は、光の色にあまりよらない。

ところが揺れ幅が同じでも、速く揺れるほど加速度は大きい。1秒に回揺れる単振動の加速度の大きさは、最大でになる。ラーモアの公式はに比例するので、出し直す光の強さはの4乗に比例する。

同じ揺れ幅で、青い光(450 nm)は赤い光(700 nm)より速く電子を揺らす。加速度は約2.4倍、出し直す光の強さは約5.9倍になる。

光の波長はに反比例する。青い光の450 nmと赤い光の700 nmなら、で、青い光は赤い光の約6倍強く散らされる。空気の分子による、この散らされ方をレイリー散乱という。昼の空は、この散らされた青い光で満ちている。夕日が赤いのも、長い道のりを通るあいだに青い光が先に散らされ、残った赤い光が目に届くからだ。

例題と解説

放射の強さを計算する練習

例題 1大学陽子と電子

同じ強さの電場の中に、陽子と電子を置く。出す電磁波の強さは何倍違うか。陽子の質量は電子の1836倍とし、電荷の大きさは等しいとする。

解説を見る

電場から受ける力の大きさは、どちらもである。加速度は力を質量で割った値なので、電子のほうが1836倍大きい。

ラーモアの公式では同じなので、放射は加速度の2乗の比になる。

電子は、陽子の約340万倍の強さで電磁波を出す。軽い粒子ほど、同じ力で大きく加速されて強く放射する。

例題 2大学振動する電荷の平均の放射

電荷が、位置で単振動している。1周期で平均した放射の強さを求めよ。また、振幅をそのままにして角振動数を2倍にすると、何倍になるか。

解説を見る

単振動の加速度は、位置の倍である。

ラーモアの公式に入れる。

で、1周期ではとの平均が等しいので、の平均はになる。

を2倍にするとが倍になり、平均の放射も16倍になる。空が青いわけのと同じ形である。

例題 3大学半分以上の強さで出る向き

放射の強さが、最大の半分以上になる向きは、球面全体の何割を占めるか。また、その向きに全体の何割のエネルギーが出ていくか。

解説を見る

強さはに比例する()。半分以上になるのは次の範囲である。

球の面積はについて均等なので、から1までの幅2のうち、幅を占める。

エネルギーは、その範囲のの面積を、全体の面積で割って求める。面積は、に両端のを入れた差で出せる。

全体の約71%の向きに、約88%のエネルギーが出ていく。放射は、加速と直角の向きのまわりに集まっている。

参考文献

  1. J. Larmor, "On the theory of the magnetic influence on spectra; and on the radiation from moving ions", The London, Edinburgh, and Dublin Philosophical Magazine and Journal of Science (5) 44(271)(1897年12月), 503-512(書誌はCrossrefで確認)
  2. J. J. O'Connor, E. F. Robertson, "Joseph Larmor", MacTutor History of Mathematics(1857年生まれ、1942年没、加速する電子が出す放射の割合を初めて計算したこと、1897年にトムソンが電子を実験で突き止めたこと)
  3. Wikipedia "Larmor formula"(1897年の論文の最後のページに式があること、古典的な原子が潰れる問題が量子論まで解けなかったこと)
  4. 東京大学 宇宙線研究所「6.1-6.2加速された荷電粒子による放射」講義資料(Thomsonの直観的な議論からラーモアの公式へ)
  5. Penn State University ASTRO 485「Radiation of Accelerated Charges」(電場の線の折れ目からの導出、放射がsin²θに比例すること)
  6. R. Fitzpatrick, "Exercises", Quantum Mechanics lecture notes, The University of Texas at Austin(古典的な水素原子の寿命が約1.6×10⁻¹¹秒であること)
  7. NIST, CODATA 2022「classical electron radius」「Bohr radius」
  8. 明治大学「2026年度 シラバス 理工学部授業計画(物理学科 専門科目編)」21〜22ページ(「電磁気学3[物理]」は配当学年3年。第10回「時間変動する電荷と電流がつくる電磁場」、第11回「電磁波の放射」、第13回「レイリー散乱(空が青い理由)」)
  9. 名古屋大学 理学部「電磁気学特論」2022年度シラバス(物理学科の選択科目。電磁波の放射の項に「運動する電荷による放射」、散乱の項にトムソン散乱とレイリー散乱)

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この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

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