負債どうしの積は財産
負の数に負の数を掛けると、なぜ正の数になるのか。この規則をはっきり書いた古い記録に、インドの天文学者ブラーマグプタが 628 年にまとめた『ブラーマスプタシッダーンタ』がある。全 25 章のうち第 18 章が代数の章で、正の数・負の数・ゼロの四則計算の規則が並ぶ。セント・アンドルーズ大学の数学史の資料集 MacTutor によれば、ブラーマグプタは正の数を「財産」、負の数を「負債」と呼び、「負債と負債の積や商は財産」「負債と財産の積や商は負債」と述べた。コールブルックの英訳(1817 年)で掛け算の規則を見ても、「負の数と正の数の積は負、負の数どうしの積は正、正の数どうしの積は正」と符号を並べ、0 との積の規則を続けるだけで、理由は添えられていない。
分配法則を守ると答えは 1 つ
, を正の数とする。使うのは、かっこの外の数を中の各項に掛ける分配法則、ある数とその符号を変えた数を足すと 0 になること、0 を掛けると 0 になること、の 3 つである。まず「負 × 正」を出し、それを使って「負 × 負」を出す。
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とその符号を変えた数を足す
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両辺に を掛ける
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0 を掛けると 0 になることを使う
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分配法則で左辺のかっこを外す
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両辺から を引く
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とその符号を変えた数を足す
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両辺に を掛ける
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0 を掛けると 0 になることを使う
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分配法則で左辺のかっこを外す
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手順 5 の結果を代入する
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両辺に を足す
仮に負の数どうしの積を と決めると、手順 9 の左辺は になり、0 にならない。負 × 負 = 正は、小学校から使ってきた分配法則を負の数でも成り立たせようとすると、ほかに選びようのない答えである。学習指導要領の解説 数学編にも、正の数と負の数の加法と乗法では交換法則・結合法則・分配法則が成り立つ、とある。手順 3 と 8 の「0 を掛けると 0」も、 の両辺から を引けば、同じ分配法則から出る。
かける数を 1 ずつ減らして並べても、同じ答えにたどり着く。、、、 と、かける数が 1 減るたびに積は 3 ずつ増える。この並びをそのまま 0 の先へ延ばせば、、 になる。
2 秒前の位置と 2 乗の符号
一直線の道で東を正の向きとし、西へ秒速 3 m で歩く人を考える。速度は m/s で、いま地点 O にいるなら、 秒後の位置は O から m の所である。2 秒後は で西へ 6 m、2 秒前は を入れて で東へ 6 m になる。西へ歩いている人は、少し前には東側にいた。負 × 負 = 正と決めておくと、この当たり前のことが式の上でも成り立つ。
割り算はかけ算の逆なので、符号の規則も同じになる。 は、 から決まる。正の数の 2 乗は正で、負の数の 2 乗も のように正になる。0 でない数は 2 乗するとかならず正になるので、 を満たす数は実数の中には無い(高校の数学IIで複素数を学ぶと解ける)。二次方程式の解の公式で根号の中 の符号を調べるのは、このためである。 は に負の符号を付けた で、 とは違う。下の入試の出題 4 問のうち 3 問が、負の数か、負の係数をもつ単項式の 2 乗を含んでいる。
負の数を 3 個掛けると、2 個の積で正に戻り、残る 1 個で負になる。負の数を奇数個掛けると負、偶数個掛けると正である。数直線で見ると、 を掛けたとき は へ、 は へ移る。どの点も原点について対称な点へ移り、数直線を原点のまわりに 180° 回したのと変わらない。2 回掛ければ 360° 回って元の位置に戻るので、 と合う。
次に読むなら オイラーの等式。複素数平面では、 を掛けると平面全体が原点のまわりに 180° 回る。数直線の上で見た 180° の回転は、この回転を実数の軸だけで見たものである。
符号・代入・積の最大
例題 1基本符号を決めてから計算する
次の計算をせよ。(1) (2) (3)
解説を見る
(1) 負の数どうしの積なので正になる。絶対値の積は である。
(2) 負の数が 3 個なので積は負になる。絶対値の積は である。
(3) は に負の符号を付けた数、 は を 2 回掛けた数である。
例題 2基本負の数を代入する
、 のとき、 の値を求めよ。
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負の数はかっこを付けて代入する。
よって
に代入するとき、かっこを付けずに と書くと になり、答えは とずれる。
例題 3入試3 個の数の積の最大と最小
6 個の数 、、、、、 から異なる 3 個を選んで掛ける。積の最大値と最小値を求めよ。
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積が正になるのは、負の数を 0 個か 2 個選ぶときである。負の数を選ばないときの最大は である。負の数を 2 個選ぶときは、絶対値の大きい と に、いちばん大きい正の数 6 を合わせる。
90 は 48 より大きいので、最大値は 90 である。
積が負になるのは、負の数を 1 個か 3 個選ぶときである。3 個とも負なら である。1 個だけ負なら、絶対値のいちばん大きい と、大きいほうから 2 つの正の数 4 と 6 を選ぶ。
は より小さいので、最小値は である。
例題 4入試−1 の累乗の和
を求めよ。
解説を見る
は を 回掛けた数なので、 が奇数なら 、偶数なら である。前から 2 項ずつ組にすると
となり、第 1 項から第 100 項までで、和が 0 の組が 50 組できる。残るのは第 101 項で、101 は奇数なので
公立高校入試の大問 1 に
- 2025 年 三重県立高等学校入学者選抜 前期選抜 学力検査 数学 大問 1(1): 負の数の 2 乗と、正の数を負の数で割る計算を組み合わせた式を計算する。(出典: 三重県教育委員会 令和7年度三重県立高等学校入学者選抜学力検査問題等)
- 2025 年 静岡県公立高等学校入学者選抜 学力検査 数学 大問 1(1)イ: 負の係数をもつ単項式の 2 乗を、割り算とかけ算の混じった式の中で計算する。(出典: 静岡県 令和7年度公立高等学校入学者選抜関係発表資料)
- 2026 年 宮城県公立高等学校入学者選抜 第一次募集 本試験 数学 第 1 問 2: 負の数の 2 乗に分数を掛ける計算をする。(出典: 宮城県教育委員会 学力検査問題及び正答表(令和8年度入試))
- 2026 年 長野県公立高等学校入学者選抜 後期選抜 学力検査 数学 問 1(3): 文字に負の数を代入して式の値を求める。負の係数がついた文字に負の数を入れるので、負の数どうしの積が出てくる。(出典: 長野県教育委員会 令和8年度後期選抜学力検査問題正答・正答例)
参考文献
- 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)』(2017)、第 2 章 第 3 節 数学 第 2〔第 1 学年〕2 内容 A(1)
- 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編』(2017)、第 3 章 第 1 節 2 第 1 学年の内容 A(1) 正の数と負の数、pp. 65-67
- H. T. Colebrooke (trans.), Algebra, with Arithmetic and Mensuration, from the Sanscrit of Brahmegupta and Bháscara (John Murray, 1817), Brahmegupta, Chapter XVIII, Section II, art. 34, p. 339
- J. J. O'Connor, E. F. Robertson, "Brahmagupta", MacTutor History of Mathematics Archive, University of St Andrews
- 三重県教育委員会「令和7年度三重県立高等学校入学者選抜学力検査問題等」、静岡県「令和7年度公立高等学校入学者選抜関係発表資料」、宮城県教育委員会「学力検査問題及び正答表(令和8年度入試)」、長野県教育委員会「令和8年度後期選抜学力検査問題正答・正答例」