ラウールの18.5
ブドウ糖18 gを水1 kgに溶かした液と、ショ糖34 gを溶かした液。溶かした重さは2倍近く違うのに、凍り始める温度はどちらも−0.19 °Cほどになる。どちらも0.10 molで、効いているのは溶かした粒の数、つまり物質量だけなのだ。
この規則を、溶かす液を取り替えながら数え上げたのが、フランソワ=マリー・ラウールだった。1882年11月27日付の『コント・ランデュ』の報告で、ラウールは1 gの物質を100 gの液に溶かしたときの凝固点の下がりに、溶けた物質の分子量を掛けた数を「分子による降下」と呼んでいる。6種類の液に200を超える化合物を溶かして調べると、水に有機物を溶かしたときのこの数は17から20のあいだに収まり、平均は18.5だった。ベンゼンでは49、酢酸では39である。1 molを100 gに溶かした場合の値なので、1 kgあたりに直すと10分の1になり、水では1.85 K·kg/molとなる。今の表のモル凝固点降下とほぼ同じ数だ。
一方、水に溶かした無機物は、60種を超えるうちの多くが37前後と、ほぼ2倍の値を示した。ラウールは、どの液でも値が2つに分かれ、一方がもう一方の2倍になると結論している。そして大きいほうをふつうの値とし、小さいほうは溶けた分子が2つずつ組んだ場合だと考えた。水に溶けた有機物を「2つずつ組んだ」側に入れたことになり、今の見方とは逆である。塩で2倍になる本当の理由を、溶けた塩がイオンに分かれるからだと説明したのは、5年後のアレニウスだった。その数え方は電離度で読める。
蒸気圧の下がりを温度に直す
溶媒 kgに、蒸発しにくい(不揮発性の)溶質を mol溶かす。溶媒のモル質量を kg/mol、純粋な溶媒の蒸気圧をとする。
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質量モル濃度を書く
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溶媒の物質量を書く
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溶液の蒸気圧は、溶質の粒が占める割合だけ下がる
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薄い溶液ではがよりずっと小さい
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沸点の近くで蒸気圧曲線を傾きの直線とみなし、下がった分を温度で取り戻す
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手順4を入れ、溶媒だけで決まる数をとまとめる
手順3の関係はラウールの法則と呼ばれる。下がったは溶質の種類によらず粒の割合だけで決まるので、にも溶質の性質は入ってこない。
水で数を入れてみる。 kPa、 kg/molなので、 mol/kgで kPa。NISTの蒸気表では、水の飽和蒸気圧は99 °Cで97.85 kPa、101 °Cで105.09 kPaで、1 Kあたり約3.6 kPa上がる。粗い見積もりだが、から沸点は約0.50 K上がる計算になる。近畿大学の演習の解答は、100 °Cの蒸発熱2259 J/gから K·kg/molを出していて、見積もりはこれに近い。
凝固点も同じ筋で下がる。凝固点は、固体の溶媒と液体の溶媒の蒸気圧が等しくなる温度で、溶質が溶けると液体側の蒸気圧だけが下がるからだ。
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凝固点の下がりも質量モル濃度に比例する
は水で1.85〜1.86 K·kg/mol、ベンゼンで5.12 K·kg/mol。同じ1 mol/kgでも、ベンゼンの凝固点は水のおよそ2.8倍下がる。
ただ、実際に凝固点を測ると、液はすぐには凍らない。凝固点を過ぎても液のまま冷え(過冷却)、凍り始めると熱が出て温度がいったん戻る。そのあと溶液の温度は一定にならず、ゆっくり下がり続ける。凍るのは溶媒だけなので、残った液のが減り、手順1のが大きくなるからだ。
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電解質では、溶けたあとの粒の物質量で数える
は溶質1 molから生じる粒の物質量で、ほぼ完全に電離する塩化ナトリウムなら2、塩化カルシウムなら3になる。電離度の1価の弱酸ならで、電離度の手順5と同じ数え方だ。沸点上昇でも同じようにを掛ける。
凝固点で分子量を量る
沸点上昇と凝固点降下のいちばんの使い道は、溶かした物質の分子量を決めることだ。文部科学省の解説も、凝固点降下に関連して、過冷却や溶質の分子量測定に触れることを挙げている。質量 gの物質を溶媒 kgに溶かし、凝固点が下がったなら、モル質量は次の式で出る。
水ではがの3倍以上ある。だから、同じ液なら沸点より凝固点のほうが温度差を大きく読める。
ラウールの報告には、もう1つの手がかりが残っている。ベンゼンに溶かしたメタノールやエタノール、ギ酸や酢酸などは、ふつうの半分ほどの値しか示さなかった。この式で読めば、分子量が2倍に出ることにあたる。カルボン酸はベンゼンの中で2分子ずつ組んで1つの粒になるので、粒の数が半分になるのだ。例題3で、この半分を数で追える。
一方、式には限りもある。手順4でとした近似を使っているので、成り立つのは薄い溶液に限られる。溶質が蒸発するなら手順3の前提が崩れ、沸点上昇の式は使えない。気体が溶ける量の計算はヘンリーの法則で、質量モル濃度とモル濃度の違いはモル濃度で読める。
粒の数で決まる温度差
例題 1基本ブドウ糖水溶液の凝固点と沸点
ブドウ糖 18 gを水400 gに溶かした。 Paのもとでの凝固点と沸点を求めよ。、水の K·kg/mol、 K·kg/molとする。
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物質量は molなので、質量モル濃度を出す。
Kで、凝固点は−0.46 °C。 Kで、沸点は100.13 °Cになる。同じ液でも、凝固点の下がり幅は沸点の上がり幅の3.5倍ほどある。
例題 2基本ベンゼンの凝固点で分子量を量る
ある炭化水素0.960 gをベンゼン30.0 gに溶かすと、凝固点が1.28 K下がった。ベンゼンのを5.12 K·kg/molとして、この炭化水素の分子量を求めよ。
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応用の章の式に入れる。
分子量は128で、ナフタレンの128と一致する。
例題 3入試半分しか下がらない酢酸
酢酸 0.60 gをベンゼン50.0 gに溶かすと、凝固点は0.512 K下がった。ベンゼンの K·kg/mol、とする。(1)凝固点の下がりから見かけの分子量を求めよ。(2)酢酸がすべて1分子ずつ溶けていたら、凝固点は何K下がるはずか。(3)2つの結果の違いを、溶けた粒の数から説明せよ。
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(1)
(2)物質量は molで、質量モル濃度は mol/kg。 K下がるはずだ。
(3)見かけの分子量は60のちょうど2倍で、下がり方は半分しかない。酢酸がベンゼンの中で2分子ずつ水素結合で組み、粒の数が半分になっていると読める。ラウールが1882年にベンゼンで見た「半分の値」が、この形である。
例題 4入試凝固点から電離度を読む
1価の弱酸HAの0.20 mol/kg水溶液の凝固点は、−0.407 °Cだった。水のを1.85 K·kg/molとして、HAの電離度を求めよ。
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粒の倍率をとすると、手順8から次の式になる。
1価の弱酸ではなので、である。分子のまま残る0.18 mol/kgと、との0.020 mol/kgずつで、粒は0.22 mol/kgになっている。
減圧した釜と冷却曲線
- 2025年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第1問 問5 a:濃縮した海水から食塩を取り出す装置で、容器の中を減圧し、沸点上昇度が8 Kの塩化ナトリウム水溶液を90 °Cで沸騰させる。水の蒸気圧曲線から、そのときの容器の中の圧力を読む。沸点上昇度だけ低い温度での水の蒸気圧を読めるかが問われる。全文は大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」で読める。
- 2025年 大学入学共通テスト 追試験 化学 第1問 問4 b・c:bは、同じ質量モル濃度の塩化ナトリウム水溶液と硫酸ナトリウム水溶液で、凝固点降下度をイオンの数から比べる。cは、ショ糖水溶液の冷却曲線で、凍り始めたあとに温度が下がり続ける区間の2つの温度から、そのあいだに増えた氷の質量を求める。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第5節「化学」3(1)ア(イ)㋑ 溶液とその性質、101-102ページ
- F.-M. Raoult, "Loi générale de congélation des dissolvants", Comptes rendus 95 (1882), 1030-1033(1882年11月27日)。英訳はLe Moyne College「General Law of the Freezing of Solutions」
- NIST Chemistry WebBook「Thermophysical Properties of Fluid Systems」(水の飽和圧力、99〜101 °C)
- 近畿大学「7章 章末問題の解答」(モル凝固点降下とモル沸点上昇の計算)
- 大学入試センター「令和7年度 大学入学共通テスト 本試験 化学」「令和7年度 大学入学共通テスト 追・再試験 化学」