最小より停留と呼ぶべき
「最小作用の原理」という呼び名は、半分しか当たっていない。本当の運動が満たすのは、道を少しずらしたときの作用の変化が1次の範囲で0になること、つまり作用の停留で、値が最小になるとは限らないからだ。そう言い直したのは、ウィリアム・ローワン・ハミルトン自身である。1834年4月にロンドンの王立協会で読まれた論文「力学の一般的方法について」で、ハミルトンは当時よく知られていた最小作用の法則を、「最小作用、あるいはもっとよく言えば停留作用の法則」と呼んだ。この法則でいう作用は運動エネルギーの2倍を積分した量で、今の作用とは別の積分だが、言い直しはどちらにも当てはまる。
光学のために作った方法を力学に移したこの論文の終わり近くで、ハミルトンは運動エネルギーと力関数の和を時間で積分した量を導入した。ハミルトンのは偏微分するとそのまま力になる関数で、運動方程式はと書ける。今の教科書で位置エネルギーを表すやとは符号が逆なので、は今のラグランジアンにあたる。翌年に読まれた「第2論文」では、始めと終わりの位置と時刻を与えたままの変分を0とおくと、ちょうどラグランジュの形の運動方程式になると述べた。今ハミルトンの原理と呼ばれるのは、この性質である。
端を止めて道をずらす
1つの座標で位置が決まる系を考える。始めの時刻と終わりの時刻の位置を決めると、そのあいだを結ぶ道ごとに、作用の値が1つ決まる。
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道ごとに作用を決める
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両端を動かさずに、道を少しずらす
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をの1次まで展開する
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作用の1次の変化を取り出す
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第2項を部分積分する
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両端ではなので、積分の外の項が消える
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でくくる
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どんなでもとなるには、かっこの中が0
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自由落下のを入れる
手順8が言えるのは、かっこの中がある時刻のまわりで正なら、そのまわりだけで正になる小さな山の形のを選ぶと積分が正になり、に反するからだ。負のときも同じなので、かっこの中はどの時刻でも0である。端を止めたことが効いているのは手順6で、端も動かすなら積分の外の項が残る。ハミルトンの1834年の論文では、そこから終わりと始めの運動量がの偏微分として出てくる。
手順8はラグランジュの運動方程式そのもので、手順9はニュートンの運動方程式の自由落下の形だ。ニュートンの式から座標を替えて導ける同じ式に、作用という1つの数を停留させる条件からもたどり着く。
では、本当の道で作用は最小なのか。が2次式なら、ずれの2次の項がそのまま残るので、符号を調べられる。ばね定数のばねにつないだ質量の物体で確かめる。
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本当の道では1次の項が消え、2次の項だけが残る
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とし、1つ山のを入れる
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とおき、2次の項が負になる条件を出す
は振動の半周期だ。つまり、時間の幅が半周期より長いと、本当の道は作用を最小にしない。それでも1次の変化は0のままなので、本当の道が停留点であることは変わらない。ちょうど半周期のときは、0から出て0に戻る本当の道が振幅を変えて無数にあり、どれも作用は0になる。自由落下はにあたり、手順10の積分がだけになってどんなずらし方でも正なので、本当の道で作用は最小になる。
道ごとに作用を数える
真上に投げた質量1 kgのボールが、2 s後に同じ高さへ戻るとする。 m/s²なら本当の道はで、最高点は4.9 mだ。この道の高さを倍した道を、手順1の作用に入れて比べてみる。
| 道 | 最高点 | 作用 |
|---|---|---|
| 置いたまま() | 0 m | 0 J·s |
| 半分の高さ() | 2.45 m | −24.0 J·s |
| 本当の道() | 4.9 m | −32.0 J·s |
| 1.5倍の高さ() | 7.35 m | −24.0 J·s |
| 2倍の高さ() | 9.8 m | 0 J·s |
作用は J·sと書け、本当の道でいちばん小さい。高く上げるほど、運動エネルギーの積分は速さの2乗で効くのでに比例して増える。一方、位置エネルギーの積分はに比例して増え、ラグランジアンでは引き算される。を少し動かしたときの2つの増え方が釣り合うが、本当の運動だ。高さを変えるかわりに、本当の道に高さ0.5 mの山を足しても、作用は−31.7 J·sに上がる。
ただし、ばねでは様子が変わる。質量1 kg、ばね定数 N/mなら周期は2 sで、半周期は1 sだ。同じ1つ山で0.1 mずらしても、時間の幅が0.5 sなら作用は0.037 J·s増えるのに、1.5 sなら0.021 J·s減る。数で見ても、手順12の境目がそのまま現れる。
「ある量を停留させる道を選ぶ」という書き方は、力学の外にもある。光の道筋は、かかる時間を停留させるフェルマーの原理で決まり、そこからスネルの法則が出る。最速降下線も、落ちる時間を最小にする坂として求まる。ハミルトンが1834年にエディンバラのイギリス科学振興協会の会合で報告した題も、「以前に光学に用いた一般的な数学の方法の、力学への応用」だった。
作用を手で比べる
例題 1基本等速の道と加速する道
力を受けない質量の物体が、時刻0からまでに、からへ動く。(1)等速の道(2)加速する道の作用をそれぞれ求め、比べよ。
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力を受けないのでである。 (1)は一定なので、次のようになる。
(2)を入れる。
はの倍で、本当の道である等速の道のほうが小さい。
例題 2大学ラグランジアンに時間微分を足す
関数を使ってとする。で作った作用との差が端の値だけで決まることを示し、2つのラグランジアンから同じ運動方程式が出る理由を説明せよ。
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時間微分を積分すると、端の値の差になる。
両端の位置と時刻は固定しているので、最後の2項は、どの道でも同じ値をとる。だから道をずらしてもで、停留の条件、つまり手順8の式も同じになる。ラグランジアンは1通りに決まらず、時間微分の分だけ選び方に自由がある。
例題 3大学正弦の山で自由落下を近似する
質量の物体が、時刻0とで高さ0にある自由落下の運動を、の形の道に限って調べる。(1)作用を求めよ。(2)を最小にすると最小値を求め、本当の道の作用と比べよ。
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(1)で、、を使う。
(2)で微分して0とおく。
本当の道はで、正弦の山のほうが1.4%ほど大きい。最高点も、本当のより少し高くなる。形を限った道の中で作用を最小にすると、本当の道に近いものが選ばれる。
例題 4大学半周期を超えたばね
質量0.50 kg、ばね定数2.0 N/mの振動を、時刻0から2.0 sまで両端を止めて調べる。(1)半周期を求めよ。(2)1つ山のと2つ山ので、手順10の積分の符号を調べ、本当の道が作用の最小でも最大でもないことを示せ。
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(1) rad/sなので、半周期は sである。 (2)手順11と同じ計算で、つ山のでは積分がになる。 sを入れる。
1つ山にずらすと作用は減り、2つ山にずらすと増える。本当の道は谷でも山の頂でもなく、鞍点にあたる停留点である。
参考文献
- W. R. Hamilton, "On a General Method in Dynamics", Philosophical Transactions of the Royal Society of London, part II for 1834, pp. 247-308。D. R. Wilkinsによる翻刻(Trinity College Dublin)「On a General Method in Dynamics」
- W. R. Hamilton, "Second Essay on a General Method in Dynamics", Philosophical Transactions of the Royal Society of London, part I for 1835, pp. 95-144。翻刻は1と同じページ
- 九州大学 物理学科「履修に関して」基本シラバス(力学・解析力学、2年前期・必修、Lagrange形式の力学と変分原理)
- 東京大学 理学部「解析力学」授業カタログ(2025年度A1学期、汎関数と変分法、最小作用の原理)