化学平衡の法則

Law of mass action (chemical equilibrium)

止まって見える平衡でも、両向きの反応は同じ速さで進む。

可逆反応が平衡に達すると、生成物と反応物の濃度の比が温度ごとに決まった値Kになる。Kが大きいほど生成物の側に偏る。

年代
1864年(グルベルとワーゲの講演)
習う
高2・化学・物質の変化と平衡
レベル
基本(例題 4 問)
人物
カトー・グルベル、ペーター・ワーゲ、マックス・ボーデンシュタイン
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
起源

全部は分かれないヨウ化水素

ヨウ化水素の気体を熱すると、水素とヨウ素に分かれていくが、全部は分かれない。マックス・ボーデンシュタインが1899年に発表した測定では、443 °Cで分かれた割合は0.2198だった。反応はそこで止まったように見える。

なぜ途中で止まって見えるのか。1864年、カトー・グルベルとペーター・ワーゲはクリスチャニア(今のオスロ)の科学アカデミーでの講演で、新しい物質を作る力と元へ戻す力が等しくなると平衡になると述べた。力は物質の量を何乗かした積に比例するとし、その指数は物質で決まる定数で、実験で求めるとしている。今の式の指数は反応式の係数で、2人の1864年の形とはそこが違う。

途中の計算

濃度の比がKに落ち着く

この計算の道すじ。 記号を読み、平衡が止まっていないことをつかむ。単純な反応で両向きの速さから式を作り(手順1〜5)、段階に分かれる反応でも係数が指数になる理由をつかむ(手順6〜9)。水素とヨウ素の表でを出し(手順10〜14)、最後にの読み方と温度、平衡の移動へ進む。

は、左右どちらの向きにも進む反応を表す矢印で、こうした反応を可逆反応という。右向きを正反応、左向きを逆反応と呼ぶ。

角かっこのは物質Aのモル濃度で、1 Lあたりの物質量(mol)を表す。はを回掛けた数だ。

Kの分子には右辺の物質、分母には左辺の物質の濃度が入り、指数は反応式の係数である。H₂ + I₂の反応ならKは[HI]²を[H₂][I₂]で割った値で、単位は約分で消える。

を平衡定数という。分子が右辺、分母が左辺で、の中は平衡のときの濃度である。単位は反応式で変わる。

止まって見えても反応は続く

水素とヨウ素を混ぜた直後は、正反応だけが進む。ヨウ化水素が増えると逆反応も始まり、水素とヨウ素が減ると正反応は遅くなる。

2つの速さはやがて等しくなり、増える分と減る分が打ち消し合う。これが化学平衡である。濃度が変わらないので止まって見えるが、分子の組み替えは両向きに続いている。

横軸を時間、縦軸を速さとした模式図。正反応の速さは下がり、破線の逆反応の速さは上がって、やがて2本が重なる。

単純な反応で式を作る

の速さは、両向きとも係数どおりの式で表せる。は正反応の速さ、は逆反応の速さだ。とは速度定数といい、温度で決まる比例の定数である。

  1. 正反応の速さを書く

  2. 逆反応の速さを書く

  3. 平衡ではである

  4. 両辺をで割る

  5. 左辺の定数をと書く

ただし、この導き方が通るのは、速度式の指数が係数と同じ反応だけだ。反応速度式で読めるとおり、ヨウ化物イオンを触媒にした過酸化水素の分解は、係数が2でも濃度の1乗に比例する。速度式の指数は係数から決まらない。

段階に分かれる反応

では、段階に分かれる反応でも、平衡定数の指数は係数になるのか。なる。平衡では、どの段階でも両向きの速さが等しいからだ。

高校の解説を少し超える話なので、説明のために作った道すじで確かめる。がとの2段階で進むとする。1回の変化で進む段階では、変化に加わる分子の個数がそのまま指数になるので、どちらの段階にも手順1〜5と同じ形の式が書ける。

  1. 1段目の平衡の式を書く

  2. 2段目の平衡の式を書く

  3. 2つを掛ける

  4. を約分する

1段目はAからX、2段目はXとAからBができ、全体は2AからBになる。2つの平衡定数を掛けると途中のXが消え、全体の係数2だけが[A]の指数に残る。

速さは遅い段階で決まるので、速度式の指数は実験で求める。一方、平衡定数は全部の段階を掛けた結果なので、途中の物質が消えて全体の係数が残る。どんな反応でも係数が指数になることの一般の証明は、大学で学ぶ化学熱力学で行う。

初め・変化・平衡の表

体積1.00 Lの容器に水素とヨウ素を1.00 molずつ入れて443 °Cに保ち、平衡でヨウ化水素が1.56 molになったとする。数はボーデンシュタインの分かれた割合に合わせて作った例である。

  1. ヨウ化水素の変化量を読む

  2. 係数の比1 : 1 : 2から、水素とヨウ素の減りを出す

  3. はじめの量から引く

  4. 1.00 Lで割って濃度にする

  5. の式に入れる

初めはH₂とI₂が1.00 mol、HIが0である。H₂とI₂が0.78ずつ減ってHIが1.56増え、平衡はH₂とI₂が0.22、HIが1.56 molになる。

冒頭の測定と比べてみよう。ヨウ化水素だけを2.00 mol入れると、割合0.2198で約0.44 molが分かれ、水素とヨウ素が約0.22 molずつできて、ヨウ化水素は約1.56 mol残る。反対側から出発しても、同じ濃度に着く。

濃度が時間とともに動く様子は、はじめの物質を切り替えて比べられる。どちらから始めても、2本の曲線は同じ高さに落ち着く。

速さのつまみはとを同じ倍率で上げるもので、触媒の働きにあたる。着くのが早まるだけで、は変わらない。

Kの値を読む

は右辺の濃度が分子なので、大きいほど右辺の物質(生成物)の側に偏る。の形でAとBを1.00 molずつ入れ、 mol反応したとする。平衡の物質量はAとBが、Cがで、この形なら体積は約分で消えるので、次の式でが決まる。

ならAの約5%しか反応しない。でも約33%は進み、で約78%、なら約98%に達する。

ただ、指数の形が違う反応どうしは、の数だけでは比べられない。単位が違うこともあるからだ。

温度でKが変わる

濃度を変えてもは変わらない。変わるのは温度を変えたときである。との増え方が違うからで、増え方はアレニウスの式で決まる。

ボーデンシュタインの測定は、分かれた割合(クシー)で報告されている。2.00 mol/Lのヨウ化水素から始めると、平衡の濃度はヨウ化水素が、水素とヨウ素がずつになる。

ボーデンシュタインの測定から計算したKを温度に対して打つ。283 °Cで約85、443 °Cで約50、508 °Cで約40と、温度を上げると小さくなる。

なら約50、508 °Cのなら約40になる。ヨウ化水素ができる向きは発熱反応で、温度を上げると熱を吸う向き、つまり分かれる側に平衡が動く。

平衡の移動を式で読む

平衡に達した容器に、水素を0.50 mol足してみる。足した直後の濃度を同じ式に入れた値を、と書くことにする。

数直線の上で、水素を足した直後のQは約15、平衡のKは50である。QがKに追いつくまで、ヨウ化水素が増える向きに反応が進む。

はより小さいので、分子が増えて分母が減る向き、つまり右へ進む。

計算すると、新しい平衡は水素が約0.61、ヨウ素が約0.11、ヨウ化水素が約1.79 molになる。足した水素の一部が使われて、変化が和らいだ形だ。加えた変化を和らげる向きに平衡が移るというルシャトリエの原理は、この式の動きとして読める。

応用

アンモニアを高圧で作る

アンモニアの合成も可逆反応で、平衡定数は次の形になる。

温度を保って体積を半分にすると、どの濃度も2倍になる。分子は倍、分母は倍だから、は4分の1に下がる。

体積をVからVの半分にすると、どの濃度も2倍になる。分子は4倍、分母は16倍なのでQは4分の1になり、QがKより小さいのでNH₃が増える向きに進む。

体積を小さくすると圧力は上がるので、圧力を上げるほどアンモニアが増えることになる。水素とヨウ素の反応では分子も分母も4倍になるので、体積を変えてもは動かない。

温度は逆に悩ましい。アンモニアができる向きは発熱反応なので、温度を下げるほどは大きくなるが、今度は反応が遅くなる。

そこで工業では触媒を使う。触媒では変わらず、平衡に早く着くようになる。

例題と解説

濃度の表からKを出す

例題 1基本分解の平衡定数

体積1.0 Lの容器にを1.00 mol入れて一定の温度に保つと、が平衡に達し、が0.60 mol残った。平衡定数を単位とともに求めよ。数は作った例である。

解説を見る

減ったは molで、係数の比からは molできる。体積は1.0 Lなので、物質量の数がそのまま濃度になる。

単位はである。

例題 2基本式を書いて値を入れる

の平衡で、、、(単位はmol/L)だった。を単位とともに求めよ。同じ温度でと書いたときの平衡定数も求めよ。数は作った例である。

解説を見る

指数は係数の1、3、2である。

単位はから出る。反応式を左右入れ替えると分子と分母も入れ替わる。

例題 3入試Kから平衡の量を出す

体積2.0 Lの容器にAとBを1.0 molずつ入れる。反応の平衡定数を36とするとき、平衡でのCの物質量を求めよ。数は作った例である。

解説を見る

A、Bが molずつ反応すると、Cは molできる。平衡の物質量はAとBが、Cがである。濃度は2.0で割るが、分子と分母にが1つずつ入るので消える。

左辺はの2乗で、は0より大きく1.0より小さいので、正の平方根をとる。

分母を払うととなり、からである。Cは molになる。

例題 4入試平衡に物質を足す

例題3の平衡に、同じ温度と体積のままCを1.0 mol足す。どちらへ反応が進むか。新しい平衡でのAの物質量も求めよ。

解説を見る

足した直後のCは2.5 molで、AとBは0.25 molのままである。体積の2.0はこの式では消える。

はより大きいので、が下がる向き、つまり左へ進む。 molだけ左へ進むとする。

正の平方根をとる。

分母を払うととなり、からである。Aは mol、Cは2.25 molになり、で確かめられる。

入試・大会での出題

共通テストの平衡定数

  • 2026年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第5問 問3 b:カルボン酸とアルコールからエステルを作る可逆反応で、はじめの物質量と平衡で生成したエステルの物質量から、平衡定数を計算して選ぶ。出典は大学入試センター「令和8年度 本試験の問題」。
  • 2025年 大学入学共通テスト 追試験 化学 第5問 問3:水素とヨウ素からヨウ化水素ができる反応で、容器の体積を変えたときと、2つの濃度を逆の倍率で変えたときの時間変化のグラフを選ぶ。速さと平衡の量を別々に考える。出典は大学入試センター「令和7年度 追・再試験の問題」。
  • 2025年 大学入学共通テスト 本試験 化学 第2問 問4 a・b:アンモニアの合成について、圧平衡定数と濃度平衡定数の関係を選び、平衡での物質量と全圧からグラフを読んで温度を求める。出典は大学入試センター「令和7年度 本試験の問題」。

参考文献

  1. 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018、2021年一部改訂)、第1部 第2章 第5節「化学」3(2)ア(イ)㋑ 化学平衡とその移動、105ページ(「水素とヨウ素の反応のような系を取り上げ,平衡定数を扱う」「ルシャトリエの原理を中心に扱う」「平衡が触媒の影響を受けないことやアンモニアの工業的製法に触れることが考えられる」)
  2. P. Waage, C. M. Guldberg, "Studies Concerning Affinity"(1864年の講演)、H. I. Abrash英訳。ChemTeam「Studies Concerning Affinity」
  3. M. Bodenstein, "Gasreaktionen in der chemischen Kinetik II", Zeitschrift für physikalische Chemie 29(1899), 295-314。測定値はC. Giuntaの教材「Bodenstein equilibrium」による
  4. 大学入試センター「令和8年度 本試験」「令和7年度 本試験」「令和7年度 追・再試験」の化学の問題と正解

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この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

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