84は、高さを測らずに出る
3辺の長さが13、14、15の三角形がある。高さはどこにも書いていない。それでも、面積は84と決まる。
3辺を足して半分にすると21。21から各辺を引くと、8、7、6が残る。4つの数を掛けたはで、その平方根の84が面積だ。底辺 × 高さ ÷ 2の高さは、一度も測っていない。
同じ13、14、15の三角形は、1247年に南宋の秦九韶が書いた『数書九章』にも出てくる。田畑の広さを扱う類にある問題で、三角形の沙田は小斜が13里、中斜が14里、大斜が15里。答えは「田積315頃」と書かれている。

答えの315は、84平方里を田の単位「頃」に直した数だろう。315を84で割ると、ちょうど3.75。1平方里を3.75頃と数えれば、この答えになる。
術は、竹之内脩の訳で次のように読める。小斜の2乗に大斜の2乗を足して中斜の2乗を引き、残りを2で割って2乗する。小斜の2乗と大斜の2乗を掛けたものからそれを引き、4で割って平方根をとる(開平する)と、面積が出る。
小斜を、中斜を、大斜をと書くと、術は次の式になる。
13、14、15を入れると、、、で、。さっきの7056が、ここにも出た。
竹之内はこの術が「何の説明もなく用いられている」と書く。では、なぜこの計算で面積が出るのか。その理由を、1000年以上前に証明つきで書き残した人がいた。
月食で決まった年代と、1896年の写本
アレクサンドリアのヘロンは、測量や機械について多くの本を書いた。3辺から三角形の面積を出す式は、その一つ『メトリカ』第1巻の命題8に、証明つきで載っている。

ヘロンがいつの人かは、長く決まらなかった。研究者の見方は紀元前150年ごろから紀元250年ごろまで割れ、1921年に『ギリシア数学史』を出したトーマス・ヒースも、3世紀の人とみる説を、ひとまず有力なものとして紹介している。
決め手は月食だった。ヘロンは測量器具を扱う『ディオプトラ』第35章で、同じ月食が始まる時刻をアレクサンドリアとローマで比べ、2つの町がどれだけ離れているかを出す方法を書いた。例に挙げた月食は、春分の10日前、アレクサンドリアでは夜の5番目の時間帯に始まったという。1938年、オットー・ノイゲバウアーは、候補の500年ほどのうちでこれに合うのは62年の月食だけだと示した。

アレクサンドリアで欠け始めたのは、62年3月13日の夜23時ごろ。ヘロンは紀元1世紀の人とみられるようになった。
『メトリカ』のほうは、近代にはいったん姿を消していた。1896年より前に知られていたのは、アルキメデスの注釈を書いたエウトキオスが、平方根を近づけるやり方がヘロンの『メトリカ』にある、と触れていたことくらいだ。3辺の式そのものは、1858年にギリシア語の本文が出た『ディオプトラ』の第30章で、証明つきで読めた。
1896年、R・シェーネがコンスタンティノープル(今のイスタンブール)で、11世紀か12世紀に写された『メトリカ』の写本を見つけた。息子のH・シェーネがこれを校訂し、1903年にヘロン全集の第3巻として出している。命題8で7、8、9の三角形の面積を求めたヘロンが、720の平方根をどう近づけたかも、まとまった形で読めるようになった。

この式を最初に見つけたのは、本当にヘロンなのか。11世紀の学者アル・ビールーニーは、円の弦を求める本で、今ならヘロンの名で呼ぶ命題を2つ、アルキメデスが見つけたと書いている。3辺から三角形の垂線を出す問題と、3辺から面積を出すこの式である。

アルキメデスが没したのは紀元前212年で、ヘロンより270年ほど前になる。ヒースはアラビアに伝わったこの記録を受けて、命題はアルキメデスにさかのぼると書いた。どちらが先だったにせよ、式は今もヘロンの名で呼ばれている。
高さを2通りに書いて消す
この証明の道すじ。 まず3・4・5の三角形で、とから引いた3つの数が何を表すかをつかむ(図で納得する)。次に、頂点から底辺へ垂線を下ろして、高さの2乗を三平方の定理で2通りに書く(手順1〜6)。2乗の差の因数分解で高さを辺だけで表し(手順7〜12)、底辺 × 高さ ÷ 2に入れる(手順13・14)。
式の文字を読む
、、は3辺の長さ。は3辺を足して2で割った数で、周の半分にあたる。は面積である。辺をcmで測ればもcm、はcm²になる。
公式は「と、から各辺を引いた3つの数、合わせて4つを掛けて平方根をとると面積になる」と読める。√(ルート)は2乗するとその数になる正の数で、である。
図で納得する
直角をはさむ辺が3と4、斜辺が5の直角三角形で計算してみよう。、、なので、。から各辺を引くと、3、2、1が残る。
ふつうの三角形では高さを測るのが手間だが、直角三角形なら、直角をはさむ3と4をそのまま底辺と高さにとれる。。2つの答えがそろった。
から引いた3つの数は、三角形なら必ず正になる。たとえばは、通分すると次の形だ。
これが正なのは、のとき、つまり2辺の和が残りの辺より長いときだけである。3つとも正、という条件は三角形の成立条件そのもの。2辺の和がちょうど残りの辺に等しいと、どうなるのか。
、のままを7まで伸ばすと、が0になり、掛け算の答えも面積も0になる。頂点Cが辺ABの上に乗り、三角形がつぶれたのだ。を1まで縮めたときはが0になって、やはりつぶれる。
式で確かめる
一般の三角形でも、高さを2通りに書けば公式にたどり着く。辺BCを底辺にとり、向かいの頂点Aから辺BCへ垂線を下ろして、交わる点をHとする。BHの長さを、高さAHをとすると、HCはである。数の例は、、、の三角形。
-
直角三角形ABHで三平方の定理を使う
-
直角三角形ACHでも三平方の定理を使う
-
同じなので、右辺どうしを等号で結ぶ
-
右辺のを展開する
-
両辺にを足す
-
について解く
手順4ではの前にマイナスが付くので、各項の符号を変えた。手順6は手順5の両辺にを足して左右を入れかえ、両辺をで割った。
足Hを左右に動かすと、2つの式から出る高さはふつう食い違う。13・14・15で両方が12になり、2つの点が重なるのは、のときだけだ。
13・14・15なら。手順1からなので、高さは12だ。三角形は、5・12・13と9・12・15の2つの直角三角形に分かれる。
面積を2乗したに、手順1と手順6を入れる。手順1から、手順6からなので、次の式が出る。
秦九韶の術と、まったく同じ形になった。
高さの2乗をほどく
秦九韶の式の引き算を、掛け算にほどいていく。使うのは、中学で習う2乗の差の因数分解だけである。
-
手順1の右辺を、2乗の差として因数分解する
13・14・15では、がと書ける。1辺13の正方形から1辺5の正方形を取った残りを組みかえると、縦8、横18の長方形にぴったり収まるのだ。
-
手順6をに入れて通分する
-
手順6をに入れて通分する
-
2つの分子を、2乗の差として因数分解する
手順8の分子は、をにまとめた。手順9は、をにまとめた。13・14・15では、手順8の分子が、手順9の分子が。
4つの数にそろえる
-
手順7に手順8〜10を入れ、分母どうしを掛ける
-
4つの因数をで書き直す
で、はからを引いただ。残る2つも、で、4つの2を掛けた16が前に出る。
13・14・15では、4つの因数は42、14、12、16で、半分にした21、7、6、8が、、、である。7、6、8には、もう一つの顔がある。3辺に内側から接する円(内接円)へ、各頂点から引いた接線の長さだ。
接線の長さで辺を書くと、。頂点Aからの接線の、ちょうど2本分になっている。が正であることは、この接線が長さをもつことと同じなのである。
-
面積を2乗し、手順12を入れる
-
両辺の正の平方根をとる
手順13では、なので、底辺のが消えて4つの積だけが残る。13・14・15ならで、。と、ぴたりと一致した。
底辺に選んだは、最後に消えた。だから、どの辺を底辺にしても同じ式が出る。鈍角三角形なら、いちばん長い辺を底辺に選べばよい。鈍角ができるのはいちばん長い辺の向かいだけなので、底辺をはさむ2つの角は鋭角になり、足Hは辺BCからはみ出さない。
ヘロンが手で近づけた√720
この計算の道すじ。 『メトリカ』の命題8でヘロンが例にした7・8・9の三角形を、手順1〜4で公式に入れる。720の平方根は整数にならないので、手順5〜8でヘロンの近づけ方をたどる。
-
3辺を足して半分にする
-
から各辺を引く
-
4つの数を掛ける
-
平方根をとる
ヒースの英訳では、ヘロンは「720の辺は有理数でない」と書く。「720の辺」は、面積が720になる正方形の1辺を指す。2乗して720になる分数は無い、という意味だ。そこで、すぐ上の平方数を足がかりにする。
-
720を27で割る
-
27と足して半分にする
-
2乗して720と比べる
横27、縦の長方形は面積がちょうど720だが、正方形ではない。横と縦の平均のを1辺にすると、ほぼ正方形になる。
手順7は、と分数に直すと確かめられる。なので、2乗はで、720よりだけ大きい。差をもっと小さくしたいなら、27の代わりにで同じことをくり返せばよい、とヘロンは書いている。
-
で同じことをくり返す
くり返すたびに、横と縦はをはさんだまま近づいていく。2回目には、小数第7位までと同じ。ヘロン自身は、7・8・9の三角形の面積をおよそとした。
辺だけ測って、広さを出す
『メトリカ』は三角形のあとで四角形を扱い、どれも三角形と長方形に分けて面積を出す。一般の四角形では、4辺のほかに対角線も1本知らなければならない、とヘロンは指摘している。4辺だけでは形が決まらないからだ。
4辺が13 m、14 m、17 m、8 mの畑ABCDで、対角線ACを15 mと測ったとする。三角形ABCは3辺が13、14、15で、三角形ACDは15、17、8でになる。
合わせて144 m²。巻尺1本で、角を一度も測らずに出た数だ。
では、同じ長さの縄で囲むなら、どんな三角形がいちばん広いのだろうか。周を12に決めるとで、6から各辺を引いた3つの数は、足すといつもになる。
3辺が3、4、5なら3つの数は3、2、1で、。2、5、5なら4、1、1で。4、4、4の正三角形なら2、2、2でとなり、これがいちばん大きい。
和が決まった数どうしの積は、数がそろうほど大きくなる。2つの数、なら、を展開して整理するとになり、これは0以上だ。和が同じなら、2つが等しいときに積がいちばん大きい。
これは数学IIで習う相加平均と相乗平均の関係の入り口で、3つの数でも同じことが成り立つ。だから、周の長さが同じ三角形のうちでは、正三角形がいちばん広い。形を三角形に限らなければ、いちばん広いのは円になる(等周不等式)。
3辺も面積も整数になる三角形は、ヘロン三角形と呼ばれる。13・14・15は、高さ12で5・12・13と9・12・15の直角三角形に分かれた。逆に、辺が整数の直角三角形をはり合わせると、ヘロン三角形が作れる。
3辺から面積を出す練習
ヘロンの公式は、数学Iの「図形と計量」で習う余弦定理と三角形の面積の式から導ける(例題3)。ただ、学習指導要領の解説は、数学Iの節ではこの公式の名を挙げていない。名前が出るのは理数科の「理数数学I」で、発展・拡充させる内容の例に挙がっている。
例題 1基本辺が5、6、7の三角形
3辺の長さが5、6、7の三角形の面積を求めよ。
解説を見る
で、から各辺を引くと4、3、2が残る。
なので、になる。およそ14.70である。
例題 2基本鈍角三角形と内接円
3辺の長さが9、10、17の三角形の面積と、内接円の半径を求めよ。
解説を見る
で、から各辺を引くと9、8、1が残る。
はより大きいので、この三角形は鈍角三角形だ。9や10の辺を底辺にすると、垂線の足は辺の外に出る。ヘロンの公式なら、そのことを気にせずに済む。
内接円の中心から3つの頂点へ線を引くと、三角形は高さがの三角形3つに分かれる。3つの底辺を合わせると周の長さなので、面積の和はだ。
例題 3入試余弦定理から導く
△ABCで、、とする。余弦定理、面積の式、を使って、ヘロンの公式を導け。
解説を見る
面積の式を2乗して16を掛け、を入れる。
余弦定理からなので、2乗の差を因数分解する。
もう一度、2乗の差を2組とも因数分解する。
右辺の4つは、、、なので、。両辺を16で割り、の平方根をとれば公式になる。三平方の定理で高さを2通りに書いた証明と、2乗の差を2回使う所が同じである。
例題 4入試連続する3つの整数
3辺の長さが、、(は3以上の整数)の三角形の面積を、の式で表せ。また、のときの面積を求めよ。
解説を見る
で、から各辺を引くと、、が残る。
最後の2つの因数は、2乗の差にまとめた。平方根をとると次の式になる。
ならなので、。13・14・15の三角形である。なら3・4・5で面積6、なら51・52・53で面積1170と、が平方数になるで面積が整数になる。
共通テストの追試験で
- 2026年 大学入学共通テスト 追試験 数学I・数学A第1問〔2〕:、、(は5以上13以下の自然数)の△ABCで、のときの面積を余弦定理とから求め、面積が最大になると、外接円の半径が最小になるを調べる。誘導は余弦定理だが、3辺が分かっているので、ヘロンの公式でも同じ値が出る。ならで、どのでもで、2つの因数の和が180に決まっているので、2つが近いで面積が最大になる。どちらも大学入試センターの正解と一致する。出典は大学入試センター 令和8年度 追・再試験の問題と正解。
ヘロンの証明に引かれた補助線
ヒースの英訳によれば、ヘロンの証明は内接円から始まる。中心Oから3つの頂点へ線を引くと、三角形は高さがの三角形3つに分かれ、面積を足すとになる。辺CBをBの先へAFと同じ長さだけ延ばした点Hをとると、頂点から引いた2本の接線が等しいことから、CHはちょうどになる。
ヘロンはこのあと、相似な直角三角形を何組か使って、がに等しいことを示し、に入れて公式を得た。13・14・15ならで、確かにが成り立つ。
頂点を動かして、ます目を数える
頂点は方眼の点から点へドラッグで動き、頂点Aは横と縦のつまみでも動かせる。読み出しには、ヘロンの公式で出した面積と、中心が三角形の内側にあるます目の数が並ぶ。ます目の数は、ふちで欠けたます目を1個か0個に数える近似なので、細い三角形ほど公式の値とずれやすい。頂点を1つ、ほかの2つを結ぶ直線の上へ運ぶと、から引いた数のどれかが0になり、面積も0になる。
3辺の式が届く学問
- 数学 円に内接する四角形の面積を4辺から出すブラーマグプタの公式は、4辺目のを0にするとヘロンの公式になる。628年の『ブラーマ・スプタ・シッダーンタ』に載る式である。
- 建築 敷地の面積を、角度を測る器具を使わず、巻尺で測った境界の辺と対角線の長さだけから出すときに使う。多角形の敷地を三角形に分け、1つずつを足せばよい。
- 情報科学 計算機で針のように細い三角形の面積を出すと、から辺を引く所で桁が落ち、答えが大きく狂うことがある。カリフォルニア大学バークレー校のウィリアム・カハンは、辺をに並べ、、、、とかっこの順を守って4つを先に作り、と計算する形を示した。
整数の三角形を探す、いまの研究
- 2021年 ティンハオ・ファン、マティルデ・ラリン、オリヴィエ・ミラ: 球面の上で、辺の長さと角を「有理数」にとれる三角形を球面のヘロン三角形と名づけ、楕円曲線の有理点で表した。平面では、3辺が有理数でが有理数の2乗になる三角形がヘロン三角形にあたる。3本の中線がすべて有理数の球面のヘロン三角形も、1つ見つけている。(出典: arXiv:2112.07058)
- 2023〜2024年 アンドリュー・ホーン(ケント大学): ヘロン三角形のうち、3本の中線(頂点と向かいの辺の中点を結ぶ線分)もすべて有理数のものは無い、と長く予想されている。ホーンは、2本の中線が有理数になるブッフホルツとラスバンの無限の族について、辺と面積と中線を2つのソモス数列で表す式を示した。2023年1月には、東京大学大学院数理科学研究科のセミナーで講演している。(出典: arXiv:2401.05581・東京大学 離散数理モデリングセミナー)
- 2026年 ヤンチョン・リー: 3辺の最大公約数が1のヘロン三角形のうち、2辺が平方数のものが無限にあることを、楕円曲線を使って証明した。3辺とも平方数のものが無限にある可能性も示している。(出典: arXiv:2601.17317)
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第1節「数学I」3(2)図形と計量、37〜40ページ;第2節「数学II」3(1)いろいろな式、56ページ;第2部 第2章 第1節「理数数学I」(2)図形と計量、160〜161ページ
- T. L. Heath, A History of Greek Mathematics, Vol. II (Oxford, 1921), pp. 103, 298-308, 316-317, 321-326
- A. G. Drachmann, M. S. Mahoney, "Hero of Alexandria", Dictionary of Scientific Biography(MacTutorの写し); O. Neugebauer, "Über eine Methode zur Distanzbestimmung Alexandria-Rom bei Heron", Kongelige Danske Videnskabernes Selskabs Skrifter 26, no. 2 (1938), 21-24
- J. J. O'Connor, E. F. Robertson, "Heron of Alexandria", "Qin Jiushao", "Al-Biruni", "Brahmagupta", MacTutor History of Mathematics Archive, University of St Andrews
- 竹之内脩「数書九章」『数理解析研究所講究録』1787(2012)、18〜28ページ
- W. Kahan, "Miscalculating Area and Angles of a Needle-like Triangle" (2014)
- 大学入試センター「令和8年度 大学入学共通テスト 追・再試験 数学I,数学A」問題と正解