展開せずに係数を出す
を展開すると、の係数はいくつになるだろうか。かっこを1つずつ掛けていくと、積は全部で個にもなる。ところが、答えの30は、、、、の5文字の並べ方を数えるだけで出る。
2項の式から多項へ広げた早い記録に、アブラーム・ド・モアブルが1697年に王立協会の学術誌へ載せた論文がある。冒頭でド・モアブルは、2年ほど前にニュートンの二項定理を考えるうち、同じことが無限に続く多項の式でもできないかと調べたと書く。係数は分数を順に掛ける形で書かれ、今の階乗の形ではない。今の形を誰が最初に書いたのかは、確かめられなかった。
かっこから文字を選ぶ
この計算の道すじ。 展開の係数が文字の並べ方の数になることをつかみ、AABCの並べ方から公式を作る(手順1〜5)。で検算し(手順6〜9)、二項定理を2回使う道でも同じ式に着くことを確かめる(手順10〜13)。
公式のはかっこの個数で、、、は、、を選ぶ回数を表す。どのかっこからも1文字選ぶので、回数を足すとになる。は「の階乗」と読み、から1までの整数を全部掛けた数だ。で、である。
係数は選び方の数
展開とは、どのかっこからも1文字ずつ選んで掛け、全部の選び方の積を足す計算である。なら、、、の4個で、とは同じ積なのでにまとまる。の係数2は、この積になる選び方が2通りあることを表している。
でになるのは、を2回、とを1回ずつ選ぶときだ。1番目のかっこから順に選んだ文字を書くと、1つの選び方が4文字の並びになる。
つまり、の係数は、、、、を1列に並べる並べ方の数に等しい。
AABCの並べ方を数える
、、、の並べ方を、見やすいように大文字のAABCで数える。同じ文字が混ざった並べ方は、いったん全部を別の文字とみる。2つのAに番号を付けて、とすれば、4文字はすべて違う文字になる。
左から順に置くと、1番目は4通り、2番目は残りの3通り、3番目は2通り、最後は1通りである。だから全部の並べ方は掛け算で出る。
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4文字を区別して1列に並べる
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とを入れ替える並べ方を数える
-
同じ並びに見えるものが2通りずつあるので、2で割る
BとCは1個ずつなので、入れ替えは通りで、割っても変わらない。この数え方が、数学Aの同じものを含む順列である。
文字のまま書く
が個、が個、が個あっても、手順は同じだ。
-
文字を区別して1列に並べる
-
どうし、どうし、どうしの入れ替えの分を順に割る
どうしの入れ替えが通り、どうしが通り、どうしが通りあり、掛け合わせた数だけ同じ並びに見える。だから全部をその数で割る。
、にすると、一覧は冒頭の30通りになる。ではだけの1通りで、選ばなかったとの分はで割っている。1つも選ばない文字の並べ替えは「何もしない」の1通りだから、0!を1と決めると式が崩れない。
3乗で検算する
では、公式は本当に展開と合うのか。なら手で展開できるので比べられる。、、の組は、形で分けると3種類しかない。
-
は、
-
は、、
-
は
-
文字を入れ替えた項も含めて全部足す
を入れると、左辺は、右辺は係数1が3個、3が6個、6が1個なのでで合う。係数の和がかっこの中の項の数の乗になるのは、全部の積の個数を数えたことになるからだ。
二項定理を2回使う
数学IIの二項定理だけでも、同じ式に着く。とみて二項定理を1回使うと、の係数が出る。残ったにもう1回使うと、の係数が出る。は、個から個を選ぶ組合せの数である。
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を選ぶかっこを個から個決める
-
残りの個からを選ぶ個を決める(残りの個は)
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2段の選び方を掛ける
-
を約分する
ならとなり、二項定理の係数そのものだ。3つの項の和の2乗のの2も、と読める。項が4つに増えても、分母に階乗を1つ足すだけで済む。
授業で扱うかどうかは、教科書と学校によるとみられる。文部科学省の解説を見ると、数学IIの「いろいろな式」は組合せの考えで二項定理を導くところまでで、多項定理の語は出てこない。もう1つの材料である同じものを含む順列は、数学Aの「場合の数と確率」にある。
じゃんけんと血液型の割合
3種類から選ぶ場面の確率は、この係数で数えられる。5回のじゃんけんで、どの手も3分の1の確率で出すとしよう。数は計算のために決めた条件である。グーが2回、チョキが2回、パーが1回になる出し方は30通りで、1通りの確率はだ。
5回を3種類にいちばん均等に分けた内訳でも、約12.3%しかない。意外に低いが、並べ方が同じ30通りの内訳は3つあるので、3つ合わせればで約37%になる。
遺伝子の型が3種類ある形質にも、同じ計算が現れる。ハーディー・ワインベルクの法則は2種類の遺伝子の割合の和を2乗する式で、ABO式血液型では3種類に広がる。A、B、Oの遺伝子の割合を、、とすると、次の式になる。
、、なら、AB型は、O型はである。割合は作った例で、係数の2は2個のかっこから違う遺伝子を選ぶ2通りを表す。
係数を展開せずに出す
例題 1基本公式に数を入れる
の展開式で、の係数を求めよ。
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、、、で、と合う。
例題 2基本係数のついた文字
の展開式で、の係数を求めよ。
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かっこからを2回、を1回、を1回選ぶ。並べ方の数は次のとおり。
選んだ項を掛けると、文字の部分とは別に数のとが出る。
並べ方の数と掛けて、係数はである。
例題 3入試同じ次数になる組を全部探す
の展開式で、の係数を求めよ。
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1を回、を回、を回選ぶ。選ぶ回数の合計と、の次数の条件は次の2本である。
は0、1、2のどれかで、それぞれとが決まる。
のとき、である。
のとき、である。
のとき、である。
3つともになるので足すと、が係数になる。
例題 4入試項の種類と係数の和
を展開して同じ項をまとめる。文字の部分が違う項は何種類あるか。係数の和はいくつか。
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4回の内訳は、形で分けると4つある。「4、0、0」は1つの文字だけを4回選ぶ形である。
| 内訳の形 | 例 | 種類 | 係数 |
|---|---|---|---|
| 4、0、0 | 3 | 1 | |
| 3、1、0 | 6 | 4 | |
| 2、2、0 | 3 | 6 | |
| 2、1、1 | 3 | 12 |
「3、1、0」は3回選ぶ文字が3通り、1回選ぶ文字が残りの2通りなので、種類ある。係数は公式で出す。
種類はである。係数の和は、種類と係数を掛けて足す。
を入れるととなり、表の計算と合う。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第2節「数学Ⅱ」3(1)いろいろな式、55ページ(「各項の係数について,組合せの考えを用いるなどして多面的に考察することを通して「二項定理」を導き」)、第4節「数学A」3(2)場合の数と確率、93ページ(「同じものを含む順列」)。多項定理の語は解説に出てこない
- A. De Moivre, "A Method of Raising an Infinite Multinomial to Any Given Power, or Extracting Any Given Root of the Same", Philosophical Transactions of the Royal Society of London 19, no. 230(1697), 619-625。本文はOCRの写し「Philosophical Transactions Archive」で読める
- Wikipedia "Multinomial theorem"(並べ方の数としての読み方)