82度で逆を向く時計
重力波が銀河を通り抜けるとき、空で離れた2つのパルサーの時計は、どんなふうにずれるのか。ほぼ同じ向きに見える2つは、電波が届く時刻がそろって同じ向きにずれる。82度ほど離れた2つは逆向きにずれやすく、真反対に見える2つはまた同じ向きにずれるが、そろい方は同じ向きの2つの半分になる。
このそろい方を、空で離れた角度だけの式にしたのが、1983年にロナルド・ヘリングスとG・S・ダウンズが求めたヘリングス・ダウンズ曲線である。重力波が空のあらゆる向きから同じ強さで来ているなら、どの2つのパルサーを選んでも、時刻のずれがそろう度合いは、平均するとこの曲線に乗る。
パルサーはつぶれた星の芯で、回りながら灯台のように電波を振る。中でもミリ秒パルサーは1秒に数百回まわり、パルスがとても規則正しく届く。銀河に散らばったこの時計を何年も見張り、届く時刻のわずかなずれを比べる仕組みが、パルサー・タイミング・アレイだ。地球とパルサーを結ぶ数千光年の線が、検出器の腕になる。
2023年6月28日、北米ナノヘルツ重力波観測所(NANOGrav)は、この曲線に沿う相関の証拠を報告した。プエルトリコのアレシボ天文台、ウェストバージニア州のグリーンバンク望遠鏡、ニューメキシコ州の超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)で、2004年7月から2020年8月までに測った記録である。比べたパルサーの組は2,211組にのぼる。

NANOGravの共同所長を務めるオレゴン州立大学のザビエル・シーメンスは、発表で「解析に使ったパルサーが多かったので、一般相対性理論が予言する相関の模様の、最初の兆しと考えられるものが見えてきた」と語った。
偶然ではないと、どこまで言えたのか。パルサーどうしの相関を消すように位相をでたらめにずらしたデータを5,000通り作って比べると、これほど大きなベイズ因子が相関なしで出る確率は1,000分の1(約3σ)だった1。相関に重みをつけて直接足し合わせる統計量では、確率はから(約3.5〜4σ)になる。もっとも、論文の題は「重力波の背景の証拠」で、検出とは書いていない。
同じ日に結果を出した欧州パルサー・タイミング・アレイ(EPTA)の発表で、バーミンガム大学のアルベルト・ヴェッキオは「物理学で新しい現象の検出を名乗る基準は、その結果が偶然に起きる確率が100万回に1回より小さいことだ」と述べた。発表はEPTAとほかの共同研究の結果が、まだこの基準に届いていないと書いている。背景の振幅と、その振動数による形は、重力波のチャープ質量の記事で扱った。
では、この曲線は、どんな計算から生まれたのだろうか。
探査機の電波からパルサーへ
曲線の出発点は、パルサーではなく探査機にある。1975年、フランク・エスタブルックとヒューゴ・ウォールクイストは、地球と遠くの探査機のあいだを行き来する電波が、重力波でどう揺らぐかを式にした。NANOGravの論文はこの計算が、低い振動数の重力波を探す関心を呼び起こしたと書いている。
カリフォルニア工科大学が運営するジェット推進研究所(JPL)のロナルド・ヘリングスは、この方法で重力波を探していた1人である。1979年には「探査機のドップラー追跡で重力放射の背景を探す」という題の論文を書いている。同じころ、モスクワのシュテルンベルク天文研究所のサージン(1978年)と、イェール大学のデトワイラー(1979年)が、探査機の代わりにパルサーを遠い端に置く案を出した。パルサーなら、規則正しいパルスそのものが時計になる。
同じJPLで、パルサーの電波が届く時刻を測り続けていたのが、G・S・ダウンズである。1983年2月、2人は「パルサーの時刻解析による、等方な重力放射の背景の上限」という論文を、アストロフィジカル・ジャーナル・レターズに出した。NANOGravの論文によれば、この論文の要は、何個ものパルサーで到着時刻の乱れがそろうかを調べれば、パルサーの雑音に埋もれた重力波を見つけられるという提案にあった。EPTAの発表も、2つのパルサーの角度と相関の関係から重力波が四重極の形をしていると読み取れる点を挙げている。
相関の形を出すには、空のあらゆる向きから来る波について、2つのパルサーの応答を掛けて足し合わせる積分を解かなければならない。フレドリック・ジェネットとジョゼフ・ロマーノの解説によれば、ヘリングスとダウンズはこの積分を、数式処理の計算機システムMACSYMAに解かせた。いまでは、複素数の留数定理を使えば手でも解けることが分かっている。

ただ、当時の時計はまだ粗かった。バッカーらが最初のミリ秒パルサーを報告したのは、2人の論文が出るわずか2か月前の1982年12月だ。それを何個も並べて重力波の背景を探す計画をロマーニが出すのは1989年、フォスターとバッカーが出すのは1990年である。NANOGravの発表によれば、この研究の土台になる最初の観測は2004年。2020年には12.5年分のデータに、すべてのパルサーに共通する信号が見えていた。しかし、それが曲線に従うかどうかは、まだ分からなかった。
なぜ相関は角度だけで決まり、あの形になるのか。1つのパルサーから追っていく。
1本の波に2つのパルサーが応える
重力波の背景を、空のあらゆる向きから来る平面波の重ね合わせとみる。仮定は、どの向きからも同じ強さで来る(等方な)こと、2つの偏極+と×が同じ強さで混ざること、パルサーが重力波の波長よりずっと遠くにあることの3つである。波の進む向きを単位ベクトル、地球から見たパルサーの向きをとする。
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パルスが届く間隔の変わる割合は、パルスの通り道に沿って時空の伸び縮みを足し合わせると求まる。地球に届いたときの波と、パルサーを出たときの波の差になる
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分母は、地球へ向かうパルスから見て、波の位相が進む速さの比である。パルスの位置をとするとなので
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波が軸の向きに進むとし、パルサーの向きを極角と方位角で表す。+の偏極は方向を伸ばして方向を縮め、×はそれを45°回したものなので
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で、分母のが約分できる。1本の波の+と×に応える係数は
は、重力波が四重極の形をしていることを表す。パルサーの向きを、波の進む軸のまわりに90°回すと応答の符号が逆になり、180°回すと元に戻る。
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別々の2つのパルサー, では、パルサーの項は数千光年離れた場所の、数千年前の波で、互いに関係が無い。相関を作るのは地球の項だけで、+と×が同じ強さで混ざるなら、1本の波からの寄与は
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等方なら、この積をすべての向きについて平均すればよい。比例定数を慣習どおりに選んで
パルサーの組ごとに向きは違うが、空全体をどう回しても、この積分は変わらない。だから結果は、2つの向きの内積だけで決まる。つまり、角度だけの関数になるのは、等方という仮定のためである。定数は、向きが同じ別々の2つのパルサーでになるように選んである(ジェネットとロマーノは「見た目のための選択」と書く)。同じパルサーどうしでは、地球の項とパルサーの項が同じだけ効くので1になる。NANOGravの式に足してあるが、この分である。
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を確かめる。との2乗の和はで、と置くとである。の積分でが出て、係数はになる
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ではで、パルサーの係数のがに替わる(とは変わらない)。積はなので
1つのパルサーの地球の項は、パルスと同じ向きに進む波()にいちばん強く応える。真反対の2つのパルサーでは強く応える向きが逆になるので、積の積分は、同じ向きの2つの半分しかない。
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一般のでは、パルサーを軸に、を面に置き、今度は波の向きをで動かす。偏極の軸をとの向きにとると、、になる
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は、留数定理で計算する。途中でが出るので、として(上)と(下)で形が分かれる。ここは結果だけを示す(ジェネットとロマーノの付録)
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で積分する。最初の2項は多項式で、になる。残りは、下の区間ではが約分されて、上の区間ではを使って
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下の区間の項と、上の区間のから出る項が打ち消し合い、対数の項だけが残る
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と置くとで、記事の顔の式になる
でなので、でと、手順7と8の値に戻る。対数の出どころは、手順11の、もとをたどれば分母のだ。波がパルスとほぼ同じ向きに進むと地球の項が大きくなり、ここではパルサーの項との打ち消しを無視した。打ち消しが効くのは、が、波長とパルサーまでの距離の比ほどに小さい、ごく狭い向きだけである。
背景が等方でなければ、手順6の平均に重みがつき、相関は2つのパルサーの向きそのものによって変わる。
82.5°と−0.152を手で出す
顔の式で、相関がいちばん低くなる角度と値を、高校の微分で求める。が0°から180°まで動くあいだ、は0から1まで増え続けるので、でいちばん低いところがでもいちばん低い。
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顔の式をの関数として書く
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積の微分でを微分する
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をで微分する
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0と置いてを出す
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を出す
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に戻す
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角度に直す
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手順4のを1の式に入れる
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を入れる
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もう1回微分して、下に凸であることを確かめる
手順8で対数が消えるのは、底の点ではがという決まった数になるからだ。相関が0になる角度は、顔の式を0と置いて数値で解くとと、角度ではとである。
同じ日に出た4つの答え
2023年6月28日から29日にかけて、4つの共同研究が、それぞれのデータでこの曲線に沿う相関を探した結果を出した。国際パルサー・タイミング・アレイ(IPTA)の声明によれば、互いの結果を半年近くかけて照らし合わせたうえでの、そろっての発表である。
- 欧州のEPTAとインドのInPTAは25個のミリ秒パルサーのうち、新しい観測装置になってからの10.3年分で、ベイズ因子60、偶然の確率およそ0.1%(3σ以上)の証拠を報告した。24.7年分の全体では、ベイズ因子4、偶然の確率4%にとどまる。InPTAはインドの改良型巨大メートル波電波望遠鏡(uGMRT)を使うインドと日本の共同研究で、論文の著者のうち3人は熊本大学の所属だ。
- オーストラリアのPPTAはパークスの64 m電波望遠鏡で、30個のパルサーを18年見た。曲線に合う相関は見えたが、偶然の確率はおよそ2%以下(約2σ)。
- 中国のCPTAは口径500 mの電波望遠鏡FASTで、57個のパルサーを3.4年見た。14ナノヘルツ付近の1つの振動数にしぼると、曲線に合う相関の有意さは4.6σに達する。
- 北米のNANOGravでは、2,211組の相関を15の角度の区間にまとめたとき、曲線からの外れ方が雑音から予想される程度に収まった(χ²が8.1、p値0.75)。
数字がまちまちなのは、パルサーの数と見た年数、雑音の扱い方が共同研究ごとに違うからだ。結果の強さは違うが、どこも曲線の形を物差しにしている。
なぜ形が決め手になるのか。ほかの原因では、別の形の相関が出るからである。たとえば地上の時計の誤差は、すべてのパルサーの到着時刻を同じだけずらすので、どの組でも同じ相関になる(単極)。太陽系の重心の位置を少し間違えると、空の片側のパルサーは早く、反対側は遅く届いて見えるので、に比例する相関になる(双極)。NANOGravの論文が引くゲアらの2014年の結果によれば、ヘリングス・ダウンズ曲線をルジャンドル多項式で展開すると、単極と双極の項が0になる。
当サイトで計算するとで、の値のうち6割あまりを四重極の項が占める。「四重極に近い」と言われるのはこのためだ。NANOGravのデータでも、曲線に単極や双極の相関を足した模型を支持する証拠は見つからず、ベイズ因子は1ほどだった。
角度と時刻のずれの例題
例題 1基本曲線の値を読む
(1)離れた角度が60°、90°、120°の2つのパルサーについて、とを小数第3位まで求めよ。(2)が負になる角度の範囲を、本文の値を使って答えよ。
解説を見る
(1)60°ではでである。
90°ではで
120°ではで
小数第3位までにすると、−0.082、−0.145、−0.011である。60°と90°で対数の項がどちらもになるのは、とが等しいからである。
(2)0になる角度は49.3°と121.8°で、その間ので負になる。
例題 2基本組の数からパルサーの数を出す
(1)パルサーが個あるとき、2つずつの組は何組あるか。(2)組が2,211組あるとき、パルサーは何個か。(3)組が1万組を超えるには、パルサーが少なくとも何個要るか。
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(1)個から2つを選ぶので
(2)からで、の解は
(3)では、ではなので、142個要る。パルサーの数を2倍にすると、組の数はおよそ4倍。
例題 3入試同じパルサーどうしが1になる理由
1つのパルサーの時刻のずれを、地球の項とパルサーの項の差で表す。とは平均0、分散で、互いに無相関とする。別のパルサーでもで、との相関係数は、ほかの組み合わせは無相関である。(1)の分散を求めよ。(2)との相関係数を求めよ。
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(1)無相関なので、差の分散は分散の和になる。
(2)共分散は、相関のあるとの組だけが残る。
したがって相関係数は
同じ向きにある別々の2つでは地球の項がそろいなので、相関はになる。同じパルサーどうしの値1で割ってそろえたのが、曲線のである。
例題 4難関空全体で平均すると0になる
(1)を示せ。(2)でたらめに散らばった2つのパルサーでは、はからまで一様に分布する。のこの平均が0になることを示せ。
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(1)部分積分で、()を使う。
(2)と置くとで、がからまで動くときは1から0まで動く。
(1)を使って項ごとに積分する。
すべての組を平均すると、相関は0。単極の成分が無いことを、この計算が表している。
例題 5大学双極の成分も0になる
を使い、を示せ。
解説を見る
例題4と同じ置き換えで
例題4からなので、残るのはである。
右辺はになる。の成分も0で、ルジャンドル多項式の展開はから始まる。太陽系の位置の誤差が作る双極の相関は、この曲線と混ざらない。
曲線の形を読む
空にでたらめに散らばったパルサーでは、離れた角度が15°より小さい組は、全体の1.7%しかない。だから曲線の左端に乗る点は、いつも少なめになる。組がいちばん多いのは90°のあたりで、曲線の底の近くは点が密に並ぶ。
宇宙を作り直して数える
空にでたらめに置いたパルサーに、振動数ごとに向きと偏極がでたらめな160本の平面波を重ねた重力波の背景を当て、地球の項だけで時刻のずれを計算している。点は1組ずつの相関で、振動数を1つ足すたびに平均し直す。重ねる振動数を増やすと雲は細くなる。ただ、○の区間の平均は「宇宙だけ取り替える」を押すたびに、曲線のまわりで少しずつ違う所に落ちる。読み出しの「曲線とのずれ」は、12の区間の平均と式の値の差の、2乗平均の平方根だ。振動数が20個なら、パルサーを60個から120個に増やしても、この値はほとんど小さくならない。残るこのずれが、宇宙の分散(cosmic variance)である。
重力の理論から原子時計まで
- 物理学 重力の理論を試すとき、相関の角度の形を比べる。ジェネットとロマーノによれば、一般相対性理論に無い偏極の重力波を予言する理論や、背景が等方でない場合には、相関が別の形になるので、それぞれの形で探さなければならない。同じ手順で計算すると、音の波を受ける2つのマイクの相関は角度によらない一定の値、電磁波を受ける2つのアンテナではに比例する形になる、と2人は示した。
- 天文学 銀河の中心にある巨大ブラックホール連星が宇宙にどれだけあるかを見積もるとき、曲線に従う相関の強さを手がかりにする。NANOGravの発表は、2023年に見えた信号の強さから、そうした連星は数十万、ひょっとすると数百万あるはずだとした。近くに強い連星があれば、背景の強さが空の向きで変わる異方性が出ると予想されている。
- 数学 球の上の関数を、ルジャンドル多項式や球面調和関数に分けて調べるとき、展開の係数がすべて閉じた式で書ける例になる。係数はから始まり、が大きくなるとほぼで小さくなる。証明の手順10での積分に使ったのは、複素数の留数定理だ。
- 工学 原子時計で作る時刻の基準を確かめるとき、すべてのパルサーに共通する時刻のずれを探す。IPTAは、パルサーをもとにした時刻の基準づくりも目標に掲げた。共通のずれは単極の相関として現れるので、四重極に近い重力波の相関と分けて取り出せる。
曲線からのずれを読む
- 2023年 ブルース・アレン(マックス・プランク重力物理学研究所):パルサーに雑音が無くても、私たちの宇宙1つで測る相関は、たくさんの宇宙で平均した曲線からずれることを、分散の式で示した。同じ振動数で鳴る多くの源の波が干渉するので、同じ角度の組をいくら増やしても消えない「宇宙の分散」が残る。同じ年にはジョゼフ・ロマーノとの論文で、実際のパルサーの並びで角度ごとの相関を最もよく見積もる組み合わせを導いた(arXiv:2205.05637、arXiv:2208.07230)。
- 2023年 北米ナノヘルツ重力波観測所(NANOGrav):曲線が前提にする、等方という仮定を確かめる解析だ。重力波の背景の異方性を調べ、異方成分は等方成分の20%より小さい(95%の上限)とした。近くの巨大ブラックホール連星が作ると予想される異方性の、かなりの部分を調べられる感度だという(arXiv:2306.16221)。
- 2024年 国際パルサー・タイミング・アレイ(IPTA):IPTAに加わるEPTAとInPTA、NANOGrav、PPTAの前の年の結果を、同じ物差しで比べ直した。雑音の扱いが違っても、背景の強さと振動数による傾きは1σの範囲で一致し、ほかの共同研究だけが見ているパルサーを足すと、曲線に従う相関の信号対雑音比が上がった。すべてのデータを合わせる第3版(DR3)で、どれだけ効くかを先に見せた形である(arXiv:2309.00693)。
- 2024年MeerKATパルサー・タイミング・アレイ(MPTA・スウィンバーン工科大学ほか):南アフリカの電波望遠鏡MeerKATで、83個のパルサーを4.5年見た。曲線に従う相関の有意さは、雑音の模型の置き方しだいで3〜3.4σにもなり、有意でなくもなる。パルサーごとに時刻の精度と雑音が違い、3,403組のうち実質的に効く組は608組ほどで、精度の高いパルサーが空の近い所に固まって検出の統計を左右しているという(arXiv:2412.01153)。
効く組をいくら増やしても、宇宙の分散は残る。その幅を超えて曲線から外れる分を、どこまで測れるのだろうか。
参考文献
- R. W. Hellings, G. S. Downs, "Upper limits on the isotropic gravitational radiation background from pulsar timing analysis", The Astrophysical Journal 265 (1983), L39.
- F. A. Jenet, J. D. Romano, "Understanding the gravitational-wave Hellings and Downs curve for pulsar timing arrays in terms of sound and electromagnetic waves", American Journal of Physics 83 (2015), 635; arXiv:1412.1142.
- G. Agazie et al. (NANOGrav), "The NANOGrav 15 yr Data Set: Evidence for a Gravitational-wave Background", The Astrophysical Journal Letters 951 (2023), L8; 同 "Search for Anisotropy in the Gravitational-Wave Background", arXiv:2306.16221; NANOGrav "Scientists use Exotic Stars to Tune into Hum from Cosmic Symphony"(2023年6月28日)
- J. Antoniadis et al. (EPTA, InPTA), Astronomy & Astrophysics 678 (2023), A50; D. J. Reardon et al. (PPTA), The Astrophysical Journal Letters 951 (2023), L6; H. Xu et al. (CPTA), Research in Astronomy and Astrophysics 23 (2023), 075024; EPTA "EPTA announces evidence for nanohertz gravitational waves"; IPTA "The IPTA's Search for Nanohertz Gravitational Waves"(2023年6月28日)
- F. B. Estabrook, H. D. Wahlquist, General Relativity and Gravitation 6 (1975), 439; R. W. Hellings, Physical Review Letters 43 (1979), 470; S. Detweiler, The Astrophysical Journal 234 (1979), 1100; D. C. Backer et al., Nature 300 (1982), 615; R. S. Foster, D. C. Backer, The Astrophysical Journal 361 (1990), 300.
- B. Allen, "Variance of the Hellings-Downs correlation", Physical Review D 107 (2023), 043018; B. Allen, J. D. Romano, Physical Review D 108 (2023), 043026.
- IPTA, "Comparing Recent Pulsar Timing Array Results on the Nanohertz Stochastic Gravitational-wave Background", The Astrophysical Journal 966 (2024), 105; M. T. Miles et al. (MPTA), Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 536 (2024), 1489.
注
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ベイズ因子で比べると、曲線に従う相関のある模型は、相関の無い共通の雑音の模型より200〜1,000倍支持された(振動数の成分を14個入れたとき200、5個のとき1,000)。偶然の確率は、相関を消した5,000通りのデータで同じ比を計算して見積もった。 ↩