ともに落ちない線
1を0.1で割ると10、0.001で割ると1,000、0.000001で割ると100万になる。割る数を0に近づけるほど答えはいくらでも大きくなり、0で割る計算そのものは無い。だからのグラフは、y軸にどこまでも近づくのに、触れることがない。
曲線が限りなく近づいて、交わらない直線を漸近線という。英語のasymptoteは、「ともに落ちない」という意味のギリシャ語から来た言葉だ。この語を使ったのは、紀元前3〜2世紀の数学者アポロニオスである。円錐を平面で切った曲線を8巻の『円錐曲線論』で調べ、放物線、楕円、双曲線の名を与えた人で、第2巻では双曲線と漸近線の関係を調べている。もっとも、アポロニオスの漸近線は、曲線と交わらない直線を広く指す言葉だった。
2本の破線に近づく双曲線
この計算の道すじ。 公式の文字が何を表すかを読み、に数を入れて漸近線をつかむ(手順1〜4)。グラフを上下左右へずらし(手順5〜7)、の符号で向きが変わることを確かめる(手順8、9)。最後にを割り算で公式の形に直し(手順10〜14)、定義域と値域を求める(手順15〜19)。
記号を読む
分数関数は、分母にが入った関数である。数学IIIでは、分母がの一次式のもの、つまりの形を扱う。とは漸近線の位置を決める数で、縦の漸近線が、横の漸近線がになる。
は0でない数で、曲線の曲がり方と向きを決める。たとえば、、なら、中学1年で習う反比例のグラフだ。2本の漸近線が直角に交わる双曲線なので、直角双曲線とも呼ぶ。
1/xで漸近線を読む
まず、に正の数を入れてを計算してみよう。
| 0.1 | 0.5 | 1 | 2 | 10 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 10 | 2 | 1 | 0.5 | 0.1 |
を負の数にすると、は同じ大きさのまま符号だけが変わる。なら、ならだ。では、表の両端のさらに先はどうなっているのか。
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を入れる
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を入れる
を0に近づけるとはいくらでも大きくなり、グラフはy軸に沿って上へ伸びる。を大きくするとは0に近づき、グラフはx軸に沿って右へ伸びる。それでもは代入できず、が0になるも無い。だからy軸とx軸が、の2本の漸近線である。
を10、100、1000と10倍ずつにすると、は0.1、0.01、0.001と10分の1ずつ小さくなり、無限等比数列の極限のとおり0に近づく。数学IIIでは、この「限りなく近づく」を極限の記号limで書く。は「を限りなく大きくする」、は「を正の側から0に近づける」と読み、は限りなく大きくなることを表す。
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を限りなく大きくしたときの行き先を書く
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を正の側から0に近づけたときの行き先を書く
平行移動で中心を動かす
二次関数のグラフは、のグラフを、軸の向きに、軸の向きにだけずらしたものだった。形を変えずに上下左右へずらすことを平行移動という。分数関数も同じで、はを平行移動したグラフになる。を右へ2、上へ1動かしてみる。
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のをに置きかえる
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右辺に1を足す
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縦の漸近線のすぐ右、を入れる
はのときに0になる。つまり、元のグラフで割れなかったの所が、へ移ったわけだ。元のグラフの点も、での点へ、右へ2、上へ1動いている。
とを動かすと、2本の破線と双曲線が形を変えずに一緒に動く。中が空いた丸は、元のグラフの点が移った先で、いつも中心から右へ1、上へ1の所にある。を負にすると、分母はのように足し算になる。
kの符号で向きが変わる
が正なら、がより右ではがより上、左では下になる。が負なら、上下が入れかわる。、として、に数を入れてみる。
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にを入れる
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を入れる
のグラフは、点と点を通る。座標平面を2本の軸で4つに分けた部分を象限といい、右上から反時計回りに第1〜第4象限と呼ぶ。象限で言いかえると、のグラフは第1と第3象限を、のグラフは第2と第4象限を通ることになる。
割り算で形を直す
ただ、のように分子にもがあると、そのままでは漸近線が読めない。整数の割り算で余り3をと書くのと同じ考えで、分子を「分母の何倍か」と「余り」に分ける。
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分子のを、分母の2倍と残りの2に分ける
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定数をまとめる
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分子を入れかえて、分数を2つに分ける
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1つ目の分数をで約分する
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公式の形に並べかえる
、、で、漸近線はとである。を入れると、元の式は、直した式もで一致する。
定義域と値域
定義域はがとれる値の範囲、値域はがとる値の範囲である。では、分母が0になるだけが入れられない。
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分母が0になるを求める
値域は、に数を入れて、が求まるかどうかで決まる。グラフでいえば、高さの横線を引いて、曲線と交わるかどうかを見ることにあたる。
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とおき、両辺から2を引く
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なら、両辺の逆数をとる
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両辺に3を掛ける
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両辺に1を足す
なら、ならと、交わる点が1つずつ求まる。のときは手順16の左辺が0になるが、分子が3の分数は0にならないので、は無い。よって定義域は、値域はで、どちらも漸近線の数そのものだ。
凸レンズの像の位置
焦点距離の凸レンズから距離の所に物を置くと、反対側の距離の所に像ができる。3つの長さには、高校の物理で習うレンズの式が成り立つ。 cmのレンズで、をの式に直してみる。
逆数をとるとになる。分子のをと分けると、手順10〜14と同じ形に直せる。
、、の分数関数である。 cmなら cmになる。縦の漸近線は、物を焦点に近づけるほど像がどこまでも遠くへ逃げることを表す。 cmでは、もう cmだ。
横の漸近線からは、遠くの物ほど像が焦点に寄っていくことが読み取れる。10 m先の cmなら cmである。このレンズなら、遠くの景色から10 m先の人へピントを移しても、レンズを1 mmほど動かせば足りる。もう一方の枝のではが負になり、像は物と同じ側にできる虚像になる。
同じ形は、温度を一定にした気体の圧力と体積にも現れる。ボイルの法則で圧力を体積の式にしたは、平行移動していないの形だ。2本の軸が漸近線なので、どれだけ押しつぶしても体積は0にならない。
漸近線から形を読む練習
例題 1基本漸近線と軸との交点
の漸近線の方程式と、グラフが軸、軸と交わる点を求めよ。
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分子を、分母の1倍と余りに分ける。なので、次の形になる。
、、で、漸近線はとである。
軸と交わるのはのときで、元の式の分子が0になるだ。軸と交わる点は、を入れて求める。
交わる点はとである。
例題 2基本向きが逆になる分数関数
の定義域と値域を求めよ。また、グラフは2本の漸近線で4つに分けた部分のうち、どの2つを通るか。
解説を見る
分子を、分母の倍と余りに分ける。なので、分子のはそれより1小さい。
分子をこの形にして分数を2つに分け、1つ目を約分する。
、、である。定義域は、値域はだ。
が負なので、では、ではになる。なら、ならで確かめられる。グラフは、漸近線の交点から見て右下と左上の部分を通る。
例題 3入試グラフで分数の不等式を解く
不等式を解け。
解説を見る
左辺は、手順14でに直した双曲線である。直線より上にある曲線の部分を探す。両辺から2を引いておく。
曲線と直線が交わるのはのときで、両辺にを掛けると、つまりである。
のとき、は正なので、両辺に掛けても不等号の向きは変わらない。
のとき、は負なので、掛けると不等号の向きが逆になる。
答えは、である。なら左辺5、右辺3で成り立ち、なら左辺、右辺1で成り立たない。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第3節「数学Ⅲ」、71〜74ページ(3(1)極限 ア(ウ)「簡単な分数関数と無理関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること」。「分数関数は,分母が一次式のものを取り扱う」、y = (x − 1)/(x − 2)の漸近線の例、二次関数のグラフの平行移動と関連付けること)
- J. J. O'Connor, E. F. Robertson, "Apollonius of Perga", MacTutor History of Mathematics(『円錐曲線論』が8巻であること、放物線、楕円、双曲線の名、第2巻で双曲線と漸近線の関係を調べたこと)
- Wikipedia "Asymptote"(asymptoteの語源が「ともに落ちない」という意味のギリシャ語であること、アポロニオスがこの語を曲線と交わらない直線の意味で使ったこと)