1/2ずつ伸びる和
足す数がどんどん小さくなり、0に近づいていくなら、和はどこかで止まりそうに思える。ところがは、どこまでも大きくなる。
14世紀のパリの学者ニコル・オレーム(1323ごろ〜1382)は、この和が限りなく大きくなることを初めて示した人とされる。ハインツ・クラウス・シュトリックの解説によると、オレームの工夫は、足す項の個数を2個、4個、8個、16個と増やして見ることだった。項を組にして足すと、どの組もを下回らない。この和は調和級数と呼ばれる。高等学校学習指導要領の解説も、数学IIIの課題学習の例に、項を群に区切って発散を示す方法を挙げている。
部分和の差から0を導く
この計算の道すじ。 部分和を読み、隣り合う部分和の差が項になることを確かめる(手順1〜3)。2つの部分和は同じ数に近づくので、差のは0に近づく(手順4〜6)。最後に、対偶で発散を示す使い方と、逆が成り立たない調和級数を見る(手順7〜10)。
部分和を読む
と限りなく続く数を全部足した式を、無限級数という。とも書き、は「限りなく続く」という印だ。は番目に足す数で、項と呼ぶ。
限りなく足すことは実際にはできないので、初めの個だけを足した和を考える。これが部分和だ。を大きくしていくとが1つの決まった数に限りなく近づくとき、級数は収束するといい、をその和と呼ぶ。近づく数が無ければ発散で、和は決まらない。
は、「を限りなく大きくすると、は0に限りなく近づく」と読む。limはリミットと読み、極限を表す印である。公式は、収束する級数なら、その項は必ず0に近づくという意味だ。
隣どうしの差が項になる
、つまりを例にとる。部分和は、である。
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を書く
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1つ手前の部分和を書く
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手順1から手順2を引くと、最後の項だけが残る
数を入れるとで、と一致する。手順3は、が2以上ならどのでも成り立つ。
2つの部分和が同じ数へ向かう
ここで、級数が収束して和がだとする。がに近づくなら、1つ遅れて進むも同じに近づく。
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級数が収束するので、部分和はに近づく
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は同じ列を1つずらしただけなので、同じに近づく
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手順3の両辺でを限りなく大きくする
2つの丸がそろって1に近づくので、間の距離も0に縮む。ならで、と同じ数になる。
対偶で発散を示す
「AならばB」を「BでないならAでない」と言い直した文を、対偶という。もとの文が正しければ対偶も正しく、数学Iで習う。公式の対偶は次の形になる。
左の「」は、項が0以外の数に近づく場合も、どの数にも近づかない場合も含む。たとえばの項はと1に近づくので、和は発散する。どの項も以上だから、10項で約7.98、100項なら50以上と、1項ごとに増え続ける。
は、−1と1を交互に足す級数だ。項は−1と1を行き来して0に近づかないので、これも発散する。部分和は−1, 0, −1, 0, …と振れて、1つの数に決まらない。
逆は成り立たない
公式の逆の「項が0に近づけば収束する」は、正しくない。反例が冒頭の調和級数で、項は0に近づくのに、和は限りなく大きくなる。オレームと同じように、項を2個、4個、8個とまとめる。
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3番目と4番目の項は、どちらも以上である
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5番目から8番目までの4個は、どれも以上である
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9番目から16番目までの8個は、どれも以上である
2番目のも1組と数えると、16番目までには以上の組が4つ並び、和は以上になる。番目までなら、組は個だ。
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番目までの和は、初めの1にを個足した数以上になる
はいくらでも大きくできるので、も限りなく大きくなる。16項までの和は約3.38で、たしかに3を超えている。ただ、伸び方はとても遅く、和が10を超えるのは12,367項目だ。
級数を選んで項の数を増やすと、上の段の項はどれも0の線に近づく。下の段の部分和は、とでは破線で止まり、だけが止まらずに伸びていく。
入試での書き方
「が発散することを示せ」と言われたら、まずを求める。0でなければ、次の1行で答えになる。
「であるから、無限級数は発散する。」
一方、なら、この公式からは何も言えない。部分和を直接計算するか、調和級数のように、小さい項に置きかえた和と比べる。無限等比級数が公比やで発散するのも、項が0に近づかないからで、等比級数で確かめられる。
積み木のはみ出しと、2乗の逆数の和
積み木はどこまで出せるか。 同じ積み木個を机の端から少しずつずらして積むと、いちばん上のはみ出しは、積み木の長さの倍まで伸ばせる。調和級数が発散するので、個数を増やせばはみ出しはいくらでも大きくなる。4個で長さの倍に届き、1個分をまるごと机の外に出せることは、てこの原理の例題4で確かめられる。
もっとも、はみ出しを長さの5倍にするには、かっこの中の和が10を超える12,367個が要る。和は止まらないが、ゆっくりとしか伸びないのである。
2乗の逆数なら止まる。 も項は0に近づくが、こちらは約1.645に収束する。100項までの和は、調和級数が約5.187、2乗の逆数の和が約1.635だ。和がちょうどになることは、バーゼル問題で読める。どちらも項は0に近づくのに、近づく速さの違いで、収束と発散が分かれる。
項の極限で見分ける
例題 1基本項が0に近づかない級数
無限級数が発散することを示せ。
解説を見る
項の分母と分子をで割る。
を限りなく大きくするとは0に近づくので、項はに近づく。ならである。
項が0に近づかないので、この無限級数は発散する。
例題 2基本部分和から項と和を出す
無限級数の部分和がである。を求めよ。また、この級数の和を求めよ。
解説を見る
は部分和そのもので、である。では、手順3のを使う。
分母をにそろえる。分子はになる。
を入れるとで、とも合う。和は、の分母と分子をで割ったが近づく数で、1である。項は0に近づき、公式とも食い違わない。
例題 3入試項は0に近づくのに発散する
無限級数について、次を示せ。
(1)項は0に近づく。
(2)級数は発散する。
解説を見る
(1)分母を1と見て、分子と分母にを掛ける。分子はになる。
分母は限りなく大きくなるので、項は0に近づく。ならである。
(2)部分和を書き出すと、となりどうしが打ち消し合う。
残るのは最後のと最初のだけである。
を限りなく大きくするとも限りなく大きくなるので、級数は発散する。ならだ。項が0に近づくだけでは収束しない、もう1つの例である。
参考文献
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第3節「数学Ⅲ」3(1)極限、74ページ(「無限級数の収束,発散について理解し,無限等比級数などの簡単な無限級数の和を求める」)。同節の課題学習の例〈積分法〉、84〜85ページ(調和級数の項を群に区切り,群ごとに和を取って発散を示す方法)。第1節「数学Ⅰ」36ページ(対偶を利用した証明)
- H. K. Strick, "Nicole Oresme (1323 - July 11, 1382)", MacTutor History of Mathematics(Spektrum der Wissenschaft、2017の英訳。オレームが調和級数の部分和が限りなく大きくなることを初めて示し、項の個数を2、4、8、16と増やして見たこと)
- J. J. O'Connor, E. F. Robertson, "Nicole Oresme", MacTutor History of Mathematics(無限級数の研究と、Quaestiones super geometriam Euclidisについての文献)