モーメントマグニチュード

Moment magnitude

1つの地震の規模が、2日のうちに7.9から9.0へ変わった。

断層の面積とずれの量と岩の硬さの積から、地震の大きさを測る。揺れの幅の目盛りが頭打ちになる巨大地震でも、数字は伸び続ける。

年代
1977年
習う
高3・地学・地震と地殻変動
レベル
入試(例題 4 問)
人物
金森博雄、トーマス・ハンクス、安芸敬一、チャールズ・リヒター、ベノー・グーテンベルク、ロバート・フック
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
逸話

7.9、8.4、8.8、9.0

地震は1回しか起きていないのに、規模の数字は3回書き換えられた。2011年3月11日14時46分に起きた東北地方太平洋沖地震で、気象庁が発表したマグニチュードである。変わったのは地震ではなく、物差しだった。揺れの幅から読む目盛りには天井があり、長い波から断層の大きさを測る目盛りに替えて、やっと9.0に届いた。

14時49分の発表は7.9、16時00分は8.4。どちらも地震計が記録した揺れの最大の振れ幅から計算する数で、気象庁マグニチュード()と呼ばれる。17時30分に8.8へ上がり、2日後の3月13日12時55分に9.0となった。

8.8と9.0は、測り方そのものが前の2つと違う。気象庁の報告によると、幅広い周期を測る国内の広帯域地震計はほぼ全点が振り切れ、海外の観測点を手で選び直して解析した。周期83〜333秒の波を使うと8.8、周期200〜1000秒の波に替えると9.0である。周期は、波が1回振れて戻るまでの時間をいう。1000秒なら約17分もかかり、人の体には感じられない。

長い波を使うほど、数字が上がる。

なぜだろうか。手がかりは断層の大きさにある。気象庁の解析では、この地震の断層は長さ約450 km、幅約200 kmに及び、主な破壊は約160秒続いた。8.8と9.0は、揺れの最大の幅ではなく、長い波の形から求めた量で決まる。断層の面積とずれの量と岩の硬さの積にあたる量だ。この物差しを、モーメントマグニチュード()という。

起源

振れ幅の目盛りと、その天井

マグニチュードの始まりは、地震計の振れ幅だった。1935年にチャールズ・リヒターが発表した目盛りは、南カリフォルニアの地震を比べるために、ウッド・アンダーソン型という地震計の最大の振れ幅を使う。米国地質調査所(USGS)の説明では、振れ幅が10倍になるごとに数字が1上がる対数の目盛りである。

地下の観測室で、コンクリートの台に小さな地震計が置かれ、横の回転する筒に印画紙が巻かれている。人の姿は無い。(画像生成 AI で描いたイメージ)
1930年代、南カリフォルニア。地震計の振れ幅が地震を比べる物差しになった(様子を想像して描いた)画像生成AIで描いたイメージ

観測点が世界に増えると、遠くの地震にも使える目盛りが作られた。周期1秒ほどの波で測ると、周期20秒ほどの波で測るである。どれも波の振れ幅を読むので、原理の上では上限がない。

ところが、実際には上限があった。トーマス・ハンクスと金森博雄は1979年の論文の冒頭で、報告された最大の値はで約7、で約8.3であり、リヒターの目盛りも7に近いと書いている。USGSは今も、はM6.5ほど、はM8.3ほどから頭打ちになると説明する。の数が違うのは、報告された最大の値と、頭打ちが始まる所の違いだろう。この頭打ちを飽和という。

天井の上を測るには、長い波が要る。金森は2007年の京都賞の記念講演で、1960年より前には周期30秒を超える波を測れる地震計がほとんどなかったと語った。その1960年に起きたチリの地震では、カリフォルニア工科大学の記録紙に周期10分ほどの波が残り、その日の終わりごろになっても地球は揺れていた。金森はこの波を見て「大きな地震というのはこういうものかと大変感激して」、地震の大きさを決めようと解析を始めたという。

机の上に長い記録紙が広げられ、ゆるやかに波打つ線が紙の端まで続いている。線の中に文字や数字は無く、人の姿も無い。(画像生成 AI で描いたイメージ)
1960年5月のカリフォルニア工科大学。チリの地震の記録には周期10分ほどの波が残った(様子を想像して描いた)画像生成AIで描いたイメージ

断層のずれも、金森は自分の目で見ている。1965年にカリフォルニアへ渡り、サンアンドレアス断層で、何回かの大地震によって川が数十メートルも横にずれた地形に出会った。

乾いた草原を断層のまっすぐな線が横切り、川筋が線のところで横にずれて続いている。人の姿は無い。(画像生成 AI で描いたイメージ)
カリフォルニアのサンアンドレアス断層。1965年に渡った金森は、川が横にずれた地形を見た(様子を想像して描いた)画像生成AIで描いたイメージ
金森博雄1936–断層の大きさから測るモーメントマグニチュードを考案した地震学者

揺れの幅に代わる量を先に用意したのは、安芸敬一である。1966年、当時東京大学にいた安芸は、新潟地震(1964年)の地震波を調べた論文で、地震記録から地震モーメントを見積もる方法を示した。岩の硬さと断層の面積と平均のずれの積にあたる量だ。

安芸敬一1930–2005地震記録から地震モーメントを見積もる方法を1966年に示した地震学者

では、桁の大きな地震モーメントを、どうすれば慣れ親しんだ目盛りに乗せられるのか。

1977年7月、金森は論文「巨大地震のエネルギー放出」で答えを出した。地震モーメントからエネルギーを見積もり、グーテンベルクとリヒターが作ったエネルギーの式に入れて、を定義したのである。1960年のチリの地震は9.5になり、破壊の大きさが100 kmほどまでの地震ではとがなめらかにつながった。

2年後、金森はUSGSのハンクスとともに、3ページの論文で式を1本にまとめた。でもでもでも、地震モーメントとの関係がほとんど同じ形になるからだ。こうしてできたのが、このページの頭にある式である。

トーマス・ハンクス金森博雄とともにモーメントマグニチュードの式を1979年にまとめた地震学者

いま、USGSは巨大地震の大きさを最も信頼できる形で表すのがだと説明する。もっとも、プリンストン大学の同窓会誌によると、USGSが正式に切り替えたあとも世間は「リヒター・スケール」と呼び続けた。ハンクスは気にしなかったという。

証明

岩のばねから式を組み立てる

この証明の道すじ。 断層を岩のばねとみて、硬さと面積とずれの積が力×長さになることを確かめる(手順1〜4)。その積からエネルギーを出し、観測で決まった式につなぐと−10.7が出る(手順5〜14)。単位を直して1上がると何倍かを出し(手順15〜22)、最後に目盛りが止まるわけを波の足し算で見る。

式の文字を読む

は地震の規模を表す数で、単位はない。(エムゼロ)は地震モーメント、(ミュー)は岩の硬さを表す剛性率、は断層の面積、は断層の両側がずれた量の平均である。

斜線の面が断層で面積はA、両側の岩は反対向きにずれ、その量の平均がDである。μは硬さ、M₀は積、Mwは規模で、表の数は東北地方太平洋沖地震を丸めた例(M₀はN·m)。

頭の式の−10.7は、をdyn·cm(ダイン・センチメートル)という古い単位で測るときの数だ。今のN·m(ニュートン・メートル)で測るなら、手順19で導くを使う。

(ログ・テン)は「1に10を何回掛けるとその数になるか」という回数を表す。なので、だ。回数は整数とは限らず、2なら約0.301回にあたる。

1に10を3回掛けると1000になるので、1000のログ・テンは3である。下の段では、1から10までの1回ぶんのうち、2倍は約0.301回の位置にある。

つまり、桁の大きな数を、桁の数に縮める道具である。はのように大きくなるが、を通すと22ほどになり、を掛けて目盛りをそろえる。掛け算は回数の足し算に、割り算は回数の引き算になる。はである。回数の考え方は対数の法則でもたどれる。

岩を横にずらす

ばねの伸びと力は比例する。フックの法則ので、はばね定数である(力の向きを除いた大きさの式)。小さく変形するあいだは、岩の塊も同じように振る舞う。

厚さの岩の塊を考える。下の面を止めて、面積の上の面を横へだけ押す。塊が傾く度合いは、ずれを厚さで割ったで表せる。

  1. 面積1 m²あたりの力は、傾く度合いに比例する。比例の定数が剛性率である

  2. 両辺にを掛ける。がばね定数の役をする

上は力とずれが比例するばね。下は厚さhの岩の塊で、上の面を力Fで押し下の面を逆向きのFで支えると破線の元の形からDだけ傾き、Fを面積Aで割った値はμにDとhの比を掛けた値に等しい。

が硬さと呼ばれるのは、同じだけ傾けるのに要る力がに比例するからだ。単位はN/m²で、パスカル(Pa)とも書く。気象庁の解析はを30 GPa、つまり N/m²と置いている(Gは倍)。

たとえば、1辺1 mの立方体( m²、 m)の上の面を1 mm(0.001 m)ずらす力は、 Nになる。およそ3,000 tの物の重さにあたる力だ。

力×長さになるわけ

上の面を右へ押す力と、下の面を左へ支える力は、向きが逆で、だけ離れている。この2つの力は塊を回そうとする。シーソーと同じで、回す強さは力×間隔で決まる。この積を力のモーメントという。

  1. 回す強さを力×間隔で書く

  2. 手順2のを入れると、が約分で消える

厚さのつまみを動かすと、薄いほど力は大きくなるが、右の長方形の面積は変わらない。残るのはととだけで、これが地震モーメントである。単位はN/m² × m² × m = N·mとなり、たしかに力×長さになる。

岩の塊の話は、形をつかむための簡単な模型だ。正式には、断層のずれと同じ波を出す力の組を、力を除くと元に戻る物体(弾性体)の式から導き、その大きさが同じになる。

ばねのエネルギー

ばねを離すと、力はから0まで減りながらだけ動く。平均の力はなので、ばねが出すエネルギーはだ。断層でも、ずれる前にかかっていた応力(面積1 m²あたりの力)が抜けていく。抜ける量を応力降下といい、(デルタ・シグマ)と書く。

  1. 平均の力でだけ動くので、エネルギーは次の値になる

  2. 右辺にを掛けてで割り、をまとめる

横軸がずれ、縦軸が応力のグラフで、応力はΔσから0まで直線で減り、ずれはDに達する。三角形の面積2分の1 × Δσ × Dが断層1 m²あたりのエネルギーで、面積Aを掛けるとEになる。

金森は、浅い地震の応力降下がほぼ一定であることを使った。を約と置くと、分母のはになる。

  1. 手順6の係数をに置き換える

GPaなら、は約3 MPaにあたる(Mは倍)。ただ、応力降下は地震によって違い、阪神・淡路大震災の地震では平均8 MPaと求められた。だから手順7は「だいたいこのくらい」という見積もりである。

観測の式につなぐ

もう1本の式は観測から来た。ベノー・グーテンベルクとリヒターは1956年、地震波のエネルギーとの関係をまとめた。エネルギーの単位はエルグ(erg)で、1 J = ergである。1 ergは1 dyn·cmに等しく、ダイン(dyn)は古い論文で使われた力の単位だ。だから手順8から手順14までのはdyn·cmで測る。

ただしは頭打ちになるが、手順7のは頭打ちにならない。このは、断層にたまっていたエネルギーの減り方から出した値で、摩擦についての条件がそろえば地震波のエネルギーにあたる。そこで金森は手順7のを左辺に入れ、右辺のをと置いて新しい目盛りを定義した。

  1. 手順7の両辺のをとる。割り算は引き算になる

  2. を入れる

  3. 観測の式の左辺を、手順9の右辺に置き換える

  4. 両辺に4.3を足す

  5. 16.1を左辺へ移す

  6. 両辺を1.5で割る。1.5で割ることはを掛けることで、である

Mwが6、7、8、9のときの表で、1.5Mw + 11.8はエネルギーの対数20.8、22.3、23.8、25.3、4.3を足すとM₀の対数25.1、26.6、28.1、29.6になる。これを3分の2倍して10.73を引くと、元のMwに戻る。

ハンクスと金森は、3つの関係を見比べた。では定数が16.0で、とでは16.1である。1.5で割ると10.67と10.73で、どちらも小数第1位までなら10.7になる。

  1. 3つの目盛りをまとめて、定数を10.7と書く

論文の表で確かめると、 dyn·cmの地震はで、の6.6と合う。

ハンクスと金森の表から3つの地震を並べた表で、1971年はM₀が1×10²⁶ dyn·cm、MLが6.4、Msが6.6、式の値が6.6である。1927年は1×10²⁷でMsと式の値が7.3、1952年は2×10²⁷でMLが7.2、Msが7.7、式の値が7.5。

1952年のだけが式の値7.5より低いのは、の天井が7のあたりにあるためだと論文は見ている。

N·mの形に直す

今は力をN、長さをmで測る。1 N = dyn、1 m = 100 cmなので、1 N·m = dyn·cmになる。同じをdyn·cmで測った数を、N·mで測った数をと書く。

  1. dyn·cmで測った数は、N·mで測った数の倍である

  2. 両辺のをとる。を掛けることは、回数に7を足すことになる

  3. 手順11の左辺はである。これを手順16の右辺に置き換える

  4. 両辺から7を引く。ここから先のはN·mで測る

  5. 手順12と手順13と同じように、について解く

USGSの表と、地震調査委員会の強震動予測の手法は、この9.1の形を使う。ところが丸めた−10.7から出発すると、定数は9.1にならない。−10.7は手順11の16.1をに丸めたことにあたり、7を引くと9.05になる。

同じM₀ = 4.08×10²² N·mで2つの形を比べると、−10.7の形は約9.04、9.1の形は約9.01で、差は0.03である。気象庁の値は9.01。

2つの形の差はだ。資料によって小数第2位がずれるのは、この差のせいでもある。

1上がると約32倍

  1. 手順18でを1増やすと、は1.5増える。回数が1.5増えるので、は倍になる

  2. 指数を1と0.5に分ける。は2乗すると10になる数で、と書く

  3. を2増やすと、回数は3増える

手順7ではに比例するので、エネルギーの倍率も同じになる。気象庁の解説にある「マグニチュードが1違うと地震のエネルギーは約32倍」は、この計算にあたる。つまみを1に合わせ、長さと幅とずれが同じ倍率で伸びるとすると、それぞれ3.16倍で31.6倍に届く。

目盛りが止まるわけ

では、なぜ揺れの幅の目盛りは止まるのか。断層は一度には割れないからだ。東北の地震では、主な破壊が約160秒続いた。断層の各部分が順に波を出し、地震計にはその波の和が届く。

周期が破壊の時間よりずっと長い波なら、どの部分の波も同じ向きに振れているので、足すほど大きくなる。周期の短い波では、前の部分の山と後ろの部分の谷が重なって消し合う。

これは実際の地震波の計算ではなく、説明のための模型である。断層が端から同じ速さで割れるとし、速さを450 km ÷ 160秒 ≈ 2.8 km/sと置いた。実際の破壊は3つに分かれるなど、もっと複雑だ。

周期を20秒にして断層を長くしていくと、30 kmほどを超えたあたりから、足した高さは0と約18の間を行き来するだけになる。500 kmにしても18を超えない。天井の高さは、周期×割れる速さ÷円周率()で決まるからだ。周期を1000秒にすると天井は約890に上がり、450 kmの断層で約431まで伸びる。

金森の1977年の論文は、同じことを波長で述べている。断層の大きさが、測る波の波長(ふつう5〜50 km)を超えると、飽和が起きる。割れる速さと波の速さは同じくらいなので、周期と破壊の時間を比べることは、波長と断層の大きさを比べることに近い。波の速さを3 km/sに丸めると、波長(速さ×周期)は周期1秒で3 km、周期20秒で60 kmになる。

横軸が波長の図で、周期1秒は約3 km、周期20秒は約60 km、周期83〜333秒は約250〜1000 km、周期200〜1000秒は約600〜3000 kmにあり、破線は阪神・淡路の断層40 kmと東北の断層450 kmである。東北では、周期83〜333秒の解析が8.8、周期200〜1000秒の解析が9.0だった。

周期83〜333秒の波長の一部は450 kmの断層より短く、周期200〜1000秒の波長はすべて断層より長い。速さを丸めた目安ではあるが、気象庁の8.8と9.0の差は、この違いと矛盾しない。

途中の計算

東北の9.0を手で出す

この計算の道すじ。 気象庁の値から断層の面積とを出し、まで計算する(手順1〜6)。同じ式で阪神・淡路大震災の地震を調べ(手順7〜9)、チリの地震はからへ逆にたどる(手順10〜12)。

面積から積を出す

気象庁の暫定の解析は、断層面を細かく分けて各部分のずれを求め、を30 GPaと置いて、 N·m、を出している。断層の大きさは長さ約450 km、幅約200 kmである。平均のずれは資料に無いので、をと長方形の面積で割ると15.1 mになる。計算には15 mに丸めた値を使う。

  1. 長さと幅をmに直す

  2. 面積は長さ×幅である

  3. 3つの量を掛ける。前の数の積と、10の指数の和を分けて計算する

同じ縮尺で描いた断層で、東北は450 km × 200 kmの長方形、阪神・淡路は40 km × 約10 kmの小さな長方形である。右の棒は別の縮尺で、平均のずれ15 mと2.1 mを比べている。

ずれは断層のどこでも同じではない。この解析では、最も大きい所で28 mに達した。15 mは、それを長方形の全体にならした値である。

対数で9.0に戻す

  1. 積の対数は対数の和になる

  2. 電卓でを求める。のすぐ上である

  3. 9.1を引いて、を掛ける

4.05×10²²の対数は、10を22回掛けた22と、残りの4.05倍の0.607の和である。よく使う値は2が0.301、3が0.477、4が0.602、5が0.699。

同じ地震を、USGSは別の解析でM 9.1としている。USGSのは N·mで、気象庁の値の約1.4倍だ。4割近い差が、では0.1にも満たない。対数で縮めるとは、こういうことである。

阪神・淡路の地震

菊地正幸と金森の1996年の解析によると、1995年の兵庫県南部地震は N·m、断層の長さ40 km、平均のずれ2.1 mである。幅は、同じを仮定して逆算する。

  1. をについて解き、数を入れる。およそ10 kmになる

  2. 2.5はなのでである。これでの対数をとる

  3. 手順6と同じ計算をする。菊地と金森が示した6.9と同じになる

阪神・淡路(1995年)はMjが7.3、Mwが6.9、M₀が2.5×10¹⁹ N·m、東北(2011年)はMjが8.4、Mwが9.0、M₀が4.08×10²² N·mである。Mjの差は1.1なのに、M₀は約1600倍違う。

気象庁マグニチュードでは、この地震は7.3である。東北の詳細な解析の8.4とは1.1しか違わない。一方でを比べると倍になる。振れ幅の目盛りの差からは、この開きを読み取れない。

チリの地震を逆算する

1960年のチリの地震は、USGSでM 9.5、気象庁の表でもモーメントマグニチュード9.5である。今度はからへ戻る。

  1. 証明の手順18に9.5を入れる

  2. 回数を整数と小数に分ける。電卓でである

  3. 阪神・淡路の地震との差はなので、電卓で倍率を出す

log₁₀ M₀の数直線で、阪神・淡路は約19.4、東北は約22.6、チリは23.35にあり、1目盛りで10倍である。Mwの差2.6に1.5を掛けた回数の差は3.9で、M₀では10の3.9乗、約7900倍になる。

金森は京都賞の記念講演で、チリの地震のエネルギーを阪神・淡路大震災の8000倍と語っている。約7900倍は、この数に近い。どうしを割ると倍で、を小数第1位に丸めたぶんだけ開く。

応用

数字を待たない津波警報

は起きた地震の大きさを測る式で、次の地震がいつ起きるかは教えない。それでも飽和の問題は、津波警報の出し方に表れている。

津波警報の第1報は、地震の約3分後を目標に出す。周期200秒の波は、1回振れるだけで3分20秒かかる。長い波を待っていては間に合わない。気象庁は2011年5月の報告で、第1報は「技術的な限界から」マグニチュードを7.9と過小評価し、津波の高さを最大6 mと予想したと振り返った。

では、この差は断層のずれでどれほどか。の8.4を仮にと読むと、証明の手順18から N·mで、気象庁の解析の約8分の1になる。面積と硬さを東北の値のままにして、ずれを求める。

面積と硬さを同じにして、ずれを比べた棒。Mw 8.4と読むと約1.9 m、Mw 9.0では約15 mになり、M₀が約8倍違うのでずれも約8倍違う。

約15 mと約1.9 mでは、断層のずれの見積もりがまるで違う。ただし、これは面積を固定した単純な計算で、気象庁の予想の計算そのものではない。

今の気象庁の案内では、マグニチュードが8を超えるような巨大地震は「精度のよい地震の規模をすぐに求めることができない」ため、その海域で想定される最大の津波などをもとに警報を出す。最初の発表では、高さを数値ではなく「巨大」や「高い」という言葉で伝え、規模が精度よく求まってから数値に改める。

震源が陸に近いと、警報が津波に間に合わないこともある。だから気象庁は、強い揺れや、弱くても長い揺れを感じたら、すぐに避難を始めるよう呼びかけている。

例題と解説

断層の数で確かめる

例題 1基本小さな断層の規模

長さ20 km、幅10 km、平均のずれ1.0 mの断層がある。 N/m²として、とを求めよ。を使ってよい。

解説を見る

面積は m²である。

対数はなので、次の値になる。

例題 2基本倍率を読む

(1)が7.0の地震と9.0の地震で、は何倍違うか。

(2)が0.2大きいと、は約何倍か。を使ってよい。

解説を見る

(1)差は2.0なので、倍である。

(2)差は0.2なので、倍率はである。はと同じことなので、約2倍になる。

例題 3入試断層を2倍にする

ある地震のは N·mである。

(1)を小数第1位まで求めよ。

(2)断層の長さと幅とずれをすべて2倍にすると、は何倍になるか。

(3)このときはいくつ増えるか。を使ってよい。

解説を見る

(1)なので、である。

(2)で、は長さ×幅なので、倍になる。

(3)の増分は×(の増分)である。8は2を3回掛けた数なので、はの3倍になる。

例題 4大学応力降下とエネルギー

阪神・淡路の地震を N·m、 MPa、 GPaとする。

(1)を計算せよ。

(2)の値と比べ、何倍かを求めよ。

(3)(2)の倍率が1でない理由を、の値から説明せよ。

解説を見る

(1)なので、次の値になる。

(2) Jなので、約2.7倍である。

(3)で、証明の手順7が置いたの約2.7倍にあたる。この地震の応力降下が、見積もりの前提より大きいからである。

図示

天井と、伸び続ける線

横軸が断層から測るMw、縦軸が揺れの幅から読む数のグラフで、実線のMwは伸び続け、破線のMsの模型は8.3、点線のmbの模型は6.5のあたりで止まる。塗りつぶした点は東北(Mw 9.0、Mj 8.4)、中が空いた丸は阪神・淡路(Mw 6.9、Mj 7.3)である。

破線と点線は実測の式ではなく、USGSが説明する天井の高さに合わせて描いた模型である。2つの点だけが実際の値で、どちらもなので、やの曲線に乗るとは限らない。阪神・淡路の地震のように、揺れの幅の数のほうがを上回ることもある。

シミュレーション

断層を広げて目盛りを比べる

長さと幅とずれのつまみを動かすと、とがその場で計算される。例の「東北」のずれは丸めた15 m、「阪神・淡路」の幅は逆算した10 kmだ。塗りつぶした点はで、断層を広げるほど上がる。破線の上の中が空いた丸は揺れの幅の目盛りの模型で、8.3のあたりから動かなくなる。

広がる学問

断層の積が届く学問

  • 地球科学 プレート境界がどれだけ地震で動いたかを見積もるとき、地震モーメントを足し合わせる。プレートの動きの全体と比べると、境界の動きのうち地震で動いた割合が分かり、長い目で見た地震の危険度の見積もりに使われる。
  • 物理学 地震の波を弾性体の中の力の組として計算するとき、地震モーメントがその力の組の大きさになる。長い周期の波の強さも地震モーメントで決まるので、地震計の記録から逆にを求められる。
  • 工学 建物の揺れを事前に計算するとき、想定する断層の面積から地震モーメントを決める。地震調査委員会の強震動予測の手法は、断層の面積から平均のずれをで出す。
いまの研究と事業

揺れを読まずに断層を測る

  • 2018年Satoshi Kawamotoら(国土地理院と東北大学など) 全国約1,200点の衛星測位の動きから、断層のずれをリアルタイムで推定するシステムREGARDを報告した。揺れの幅を読まないので飽和が無く、のとを地面の動きから直接求める。東北地方太平洋沖地震などで試験し、2016年の熊本地震では、実運用で断層モデルを出した(Journal of Disaster Research 13, 440)。
  • 2008年〜 金森博雄とルイス・リベラ、米国地質調査所 周期の長いW相という波から、地震モーメントを素早く求める解析を提案した。USGSは周期約50〜2000秒の波で解くこの方法のを、計算できれば最優先の値として使う(USGSの表)。2025年7月のカムチャツカ半島の地震はこの値でM 8.8となり、証明の手順18から N·mにあたる。
  • 2023年 小林昭夫(気象庁気象研究所) 衛星測位の日ごとのデータから、1998〜2001年に日向灘南部で起きたスロースリップを検出し、規模をMw 6.7相当と見積もった。断層がゆっくりずれる現象でも、を通せば、揺れの大きさを読まずに同じ目盛りで比べられる(Papers in Meteorology and Geophysics 71, 13)。

参考文献

  1. H. Kanamori, "The energy release in great earthquakes", Journal of Geophysical Research 82 (1977), 2981-2987.(抄録はEarthRef)
  2. T. C. Hanks, H. Kanamori, "A moment magnitude scale", Journal of Geophysical Research 84 (1979), 2348-2350.
  3. C. F. Richter, "An instrumental earthquake magnitude scale", Bulletin of the Seismological Society of America 25 (1935), 1-32. B. Gutenberg, C. F. Richter, "Magnitude and energy of earthquakes", Annali di Geofisica 9 (1956), 1-15.
  4. K. Aki, "Generation and propagation of G waves from the Niigata earthquake of June 16, 1964. Part 2. Estimation of earthquake moment, released energy, and stress-strain drop from the G wave spectrum", Bulletin of the Earthquake Research Institute 44 (1966), 73-88. P. G. Richards「Keiiti Aki(1930-2005)」Seismological Research Letters 76 (2005), 551-553.
  5. 気象庁『平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震調査報告』気象庁技術報告 第133号(2012)、第1章1.3節。「東北地方太平洋沖地震への気象庁の対応について」(2011年5月31日)。「遠地実体波による震源過程解析(暫定)」。「東北地方太平洋沖地震について(第15報)」(2011年3月13日)。
  6. 気象庁「津波警報・注意報、津波情報、津波予報について」。「過去の地震津波災害」。「震度とマグニチュード」。
  7. USGS, "Magnitude Types"; "Earthquake Magnitude, Energy Release, and Shaking Intensity"; "Moment magnitude, Richter scale"; "M 9.1 - 2011 Great Tohoku Earthquake, Japan"; "M 9.5 - 1960 Great Chilean Earthquake"; "M 8.8 - 2025 Kamchatka Peninsula, Russia Earthquake".
  8. M. Kikuchi, H. Kanamori, "Rupture process of the Kobe, Japan, earthquake of Jan. 17, 1995, determined from teleseismic body waves", Journal of Physics of the Earth 44 (1996), 429-436.
  9. 公益財団法人稲盛財団「金森博雄 第23回(2007)京都賞」、記念講演録「波に魅せられて」。
  10. E. H. Daugherty, "Thomas C. Hanks '66 changed how we understand earthquakes", Princeton Alumni Weekly (2025).
  11. 地震調査研究推進本部 地震調査委員会「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(「レシピ」)」(2020年3月)。
  12. H. Kanamori, L. Rivera, "Source inversion of W phase: speeding up seismic tsunami warning", Geophysical Journal International 175 (2008), 222-238.
  13. 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』(2018)、第1部 第2章 第9節「地学」3(2)ア(ア)㋑ 地震と地殻変動、167ページ。

タグ

この記事は、人が監修しながらAIを活用して執筆した。執筆・監修: 佐々木 航(株式会社Game)。

姉妹サイト

株式会社Game が運営するメディアです。