モンスター群とムーンシャイン

Monstrous moonshine

196884は、怪物の196883より1だけ大きかった。

j関数の係数196884は、巨大な単純群モンスターの最小の表現の次元196883より1大きい。偶然に見えたこの一致は、1992年に証明された対応の入口だった。

年代
1979年
習う
大3以上・代数・有限群の表現
レベル
大学(例題 3 問)
人物
ジョン・マッケイ、ジョン・G・トンプソン、ジョン・ホートン・コンウェイ、サイモン・ノートン、ベルント・フィッシャー、ロバート・グリース、イゴール・フレンケル、ジェームズ・レポウスキー、アルネ・ムールマン、リチャード・ボーチャーズ
作成日
更新日
執筆・監修
佐々木 航
逸話

差は、たった1

196884と196883。並べると、違いは最後のけたの1だけである。

左の196884は、19世紀から研究されてきたj関数を、文字の累乗の和に書き直したときに現れる係数だ。右の196883は、モンスターと呼ばれる巨大な群を書き表すときの、1を除いていちばん小さな「軸の数」である。1978年、モントリオールのコンコルディア大学にいたジョン・マッケイが、この2つが1しか違わないことに気づいた。

1970年代の大学の研究室。木の机に、計算機で打ち出した紙の束と厚い数表の本が積まれ、窓の外に街の屋根が見える。人の姿は無い。(画像生成 AI で描いたイメージ)
1978年、マッケイはモントリオールのコンコルディア大学にいた(様子を想像して描いた)画像生成AIで描いたイメージ

片方は数の性質を調べる数論の関数だが、もう片方は対称性を調べる群論の数で、つながる理由は見当たらない。リチャード・ボーチャーズが1998年の講演の記録に書いたところでは、マッケイがこの一致を話すと、何人もの数学者が「たわごとだ」と丁寧に告げたという。

話の伝わり方は1つではない。ヤン・フイ・ヘーは、マッケイの追悼文に別の「言い伝え」を書いている。1978年、ジョン・ホートン・コンウェイが196883という数を見せると、マッケイはと返し、コンウェイは「ばかげている、ムーンシャインだ」と言ったという。

ジョン・マッケイの肖像(画像生成 AI で描いたイメージ)
ジョン・マッケイ1939–2022196884 = 196883 + 1に気づき、ムーンシャインの発端をつくった画像生成AIで描いたイメージ

ところが、次の係数も同じ形をしていた。

j関数で次に来る係数は、モンスター側の数を小さい方から3つ足した値になる。この先の係数まで計算を進めたのはジョン・G・トンプソンで、1979年に「数秘術」の語を題に入れた2ページの論文にまとめた。

起源

怪物の予言と、たわごとの名

では、モンスターとはどんな群で、なぜ1978年にはまだ予言の段階だったのか。

群は形を変えない動かし方の集まりで、小さな群に分けられる。それ以上分けられない群を単純群という。20世紀の数学者たちは有限の単純群を書き出し、無限に続く18の系列と、どの系列にも入らない26個の散在型で全部だと示した。散在型は、1861年に見つかった位数(要素の数)7920のマチュー群から、いちばん大きなモンスターまで並ぶ。

モンスターの存在は、1973年にベルント・フィッシャーとロバート・グリースが別々に予想した。存在を示せないまま、フィッシャーらは「最小の表現が196883次元なら」という仮定から、群の性質を数で並べた指標表を作り上げた。1978年の196883も、この仮定の上の数だった。グリースが実際にモンスターを組み立てたのは1980年で、1982年に102ページの論文「親しみやすい巨人」として発表した。

名前を付けたのはコンウェイである。コンウェイとサイモン・ノートンは、トンプソンの提案を受けてモンスターの要素ごとに級数を計算し、1979年10月の論文「モンストラス・ムーンシャイン」で予想にまとめた。ボーチャーズによれば、ムーンシャインは月の光ではない。「ばかげた、正気でない考え」を指す英語の俗語で、密造したウイスキーも指す。

月明かりが差し込む夜の納屋に、銅の蒸留器と木の樽、ガラスの瓶が置かれている。人の姿は無い。(画像生成 AI で描いたイメージ)
ムーンシャインは英語の俗語で、たわごとのほか密造のウイスキーも指す(様子を想像して描いた)画像生成AIで描いたイメージ

テリー・ガノンの解説は、この名に、事情がまだ薄暗い中にあることと、指標表から「情報を不法に蒸留している」ことを重ねた含みがあると書いている。

答えの候補は、1984年にイゴール・フレンケル、ジェームズ・レポウスキー、アルネ・ムールマンの3人が作った。j関数の係数をちょうど各階の大きさにもつ、無限に階の続く空間で、モンスターがその上で働く。この空間が予想を満たすことを1992年に証明したのがボーチャーズで、1998年8月、ベルリンの国際数学者会議でフィールズ賞を受けた。

大きな会議場の客席を後ろから見た景色。明るく照らされた壇上は遠く、人々は後ろ姿だけで、顔は見えない。(画像生成 AI で描いたイメージ)
1998年8月、ベルリンの国際数学者会議でフィールズ賞が贈られた(様子を想像して描いた)画像生成AIで描いたイメージ
リチャード・ボーチャーズムーンシャイン予想を証明し、1998年にフィールズ賞を受けた
証明

動かし方の数と、軸の数

この章の道すじ。 正方形で群と表現の次元をつかみ、j関数に数を入れて読む。「図で納得する」までで、196884と196883が何の数で、どこが驚きなのかが分かる。予想とその証明は大学院の数学なので、「式で確かめる」は何が証明されたかと道具の役目までにとどめ、読み飛ばしても次の章へ続けて読める。

式の文字を読む

公式の1行目は、j関数をの累乗の和(級数)で書いたものだ。(タウ)に数を入れるとまずが決まり、、744、…と足した和がjの値になる。2行目は、その係数196884を群の側の数で書き直した等式である。

公式の読み方で、τは入れる数、qはτから作る小さな数、1/q、744、196884q、…がj関数の項になる。196883はモンスターの最小の表現の次元、1は動かさない表現の次元で、どれも単位の無い数である。

形を変えない動かし方

正方形を、元の場所にぴったり重なるように動かす方法は8通りある。90°ずつの回転が4通り(動かさないことも0°の回転に数える)と、縦、横、2本の斜めの軸での裏返しが4通りだ。

正方形を元の場所に重ねる8通りの動かし方。上の段は0°、90°、180°、270°の左回りの回転、下の段は縦、横、右上がりの斜め、右下がりの斜めの軸での裏返しで、旗の印の向きがすべて違う。

2つの動かし方を続けて行うと、また8通りのどれかになる。90°左に回してから縦の軸で裏返すと、右上がりの斜めの軸で裏返したのと同じになる。

1つ目と2つ目を選ぶと、正方形が順に動き、8通りのどれと同じかが出る。64通りのどの組も8通りに収まり、動かさない動かし方と、元に戻す動かし方もそろっている。続けて行うことを掛け算とみなしたこの集まりが群で、要素の数(位数)は8である。

それ以上分けられない部品

群は、小さな群に分けていける。4つのものを並べ替える24通りの群は、2通り、2通り、3通り、2通りの4つの部品に分かれ、部品の位数を掛けるとになる。部品はそれ以上分けられない単純群で、整数を素数に分けるのと似ている。

ただし、これはたとえである。整数は素数を掛け合わせれば元に戻るが、群は部品が同じでも、組み立て方で別の群になることがある。

散在型でいちばん大きいモンスターの位数は、次の54けたの数になる。

位数のけたの長さの比べ。マチュー群M₁₁の位数7920は4けた、モンスターの位数は54けた、トランプ52枚の並べ方の数52!は68けたで、数字を並べるとこれだけの長さになる。

ボーチャーズは、この数を地球をつくる素粒子の数ほどだと書いた。スコット・カーナハンは、トランプ52枚の並べ方の数(1から52までの整数の積)が約で、モンスターの位数より大きいと指摘する。

並べ方の群は手で計算できるのに、モンスターは計算機でも扱いにくい。理由は大きさより、次に見る軸の数にある。

何本の軸で書けるか

正方形を、横軸と縦軸の平面に中心を合わせて置く。90°左に回すと点はへ、縦の軸で裏返すとへ移る。

平面に置いた正方形と点(2, 1)。90°左に回すと(−1, 2)へ、縦の軸で裏返すと(−2, 1)へ移り、どちらも座標の入れ替えと符号の付け替えで書ける。

8通りのどれも、2本の軸の座標の入れ替えと符号で書け、続けて行った結果も群の掛け算と合う。群の動かし方を、何本かの軸をもつ空間の動かし方として書いたものを表現といい、軸の数を次元という。正方形の群は2次元で書ける。

軸が3本なら立体の空間で、4本以上になると絵には描けない。それでも、点を軸の本数だけ並べた数の組で書けば、回す計算や裏返す計算はいくらでも続けられる。

どの群にも、すべての要素を「動かさない」に送る1次元の表現がある。の1は、この表現の次元である。

モンスターでは、その次に小さい表現でも196883次元が要る。196883はで、位数の素因数の大きい方から3つの積だ。

ヘーの追悼文によれば、196883行196883列の数の表(行列)が2枚あれば、掛け合わせていくことでモンスターのすべての要素を表せる。それ以上分けられない表現(既約表現)はモンスターに194個あり、次元は小さい順に1、196883、21296876、842609326と続く。

図で納得する

j関数に入れるは、実数の軸より上にある複素数()である。複素数は、横にふつうの数、縦にの何倍かをとった平面の点で、は2乗するとになる数だ。は、約2.718の決まった数(ネイピア数)を乗して作る。

1行目はを入れ、指数の足し算を掛け算に分けた。2行目はを使い、の部分を実数の指数にした。

は、オイラーの等式で見た半径1の円の上の点で、が1増えると1周する。はのことでの大きさを決め、が高いほど小さい。ならだ。

左の実数の軸より上のτが、右の半径1の円の中のqに移る。τ = 0.1iはq ≈ 0.53、τ = 0.2iはq ≈ 0.28で、τが上がるほどqは中心へ寄り、τを右へ0.25ずらすとqは90°回る。

が小さいとは大きく、やは急に小さくなる。つまり足し算は最初の数項でほぼ決まり、では和が1728に近づく(途中の計算の章)。

ボーチャーズによれば、jはをやに替えても値が変わらない。744は定数の項で、足しても引いてもこの性質は崩れない。だから、ムーンシャインでは744を引いて定数の項を0にしたを使う。

1984年のムーンシャイン加群は、このの係数を各階の大きさ(次元)にもつ、建物のような空間である。モンスターは各階の中だけを動かし、各階は既約表現に分かれる。その分かれ方が冒頭の一致だ。

ムーンシャイン加群を階に見立てた図。qの−1乗の階は1次元、0乗の階は空き、1乗の階は196,883と1の部屋に、2乗の階は21,296,876と196,883と1の部屋に分かれ、モンスターは各階の中だけで動かす。

一致が1つだけなら、偶然でも起こりうる。でも、3つ続けて、小さい次元をいくつか足すだけで余りなく合うことは、偶然では説明しにくい。ガノンの解説も、この先の係数を見れば偶然という見方は消えると書いている。

ただし、次元の数だけでは分かれ方が1つに決まるとは限らない。の係数20245856256には、既約表現の次元を数個ずつ足す書き方が2通りある(例題3)。

式で確かめる

トンプソンは、階の大きさを数えるだけでなく、モンスターの要素ごとに、各階の軸がどれだけ元の向きに残るかを数えようと提案した。動かし方は、軸ごとの行き先を縦に並べた数の表(行列)で書ける。正方形を90°回すと横の軸はへ、縦の軸はへ移るので、表の1列目は0と1、2列目は−1と0になる。

表の左上から右下への斜めの数を足した値を、トレース(tr)という。斜めの数は、各軸が動いたあとも自分の向きにどれだけ残るかを表し、正方形では残れば1、逆向きなら−1、横へ倒れれば0になる。動かさない要素なら、トレースは次元そのものだ。

正方形の2次元の表現のトレース。動かさない要素は1 + 1 = 2、90°と270°の回転は0 + 0 = 0、180°の回転は−1と−1を足して−2、4つの裏返しはどれも0である。

要素ごとのトレースを係数に並べた級数を、マッケイ・トンプソン級数という。はの乗の階、はと動かして足す記号だ。

が動かさない要素なら、はに戻る。階がいくつかの既約表現に分かれると、トレースも部品ごとのトレースの和になる。次元の和が同じでも部品が違えば、どこかの要素でトレースが食い違う。だから、トレースを全部の要素で並べれば、分かれ方が1つに決まる。

ボーチャーズは、2回続けると元に戻る要素(位数2)の2種類について、とを挙げている。前者の4372は、2番目に大きい散在型ベビーモンスターで1を除いて最小の表現の次元4371に、1を足した数だ。ガノンの解説によれば、96256もベビーモンスターの次元を使ってと書ける。

コンウェイとノートンの予想は、どのでもが「種数0の群の主関数」になる、というものだ。はの決まった範囲で、どの値もちょうど1回ずつとる(図示の章)。

種数は、面にあいたドーナツのような穴の数である。その範囲のふちを貼り合わせ、上の果てを1点で閉じると穴の無い球と同じ形になるので、種数は0だ。主関数は、その面の上でどの値もちょうど1回ずつとり、で始まって定数の項が0の関数をいう。

予想は、各も、ごとに決まるの別の動かし方の集まりについて、同じ性質をもつと言っている。正方形の90°回しと270°回しは裏から見れば同じ動きで、トレースも等しい。このように見る向きを変えると重なる要素の組を共役類といい、モンスターの194の共役類から、違う関数が171個出てくる。

ボーチャーズ自身が1998年の講演でまとめたところでは、1992年の証明は4段でできている。

  1. フレンケルらの空間が、頂点代数という特別な掛け算の構造をもつことを使う。
  2. 弦理論の「ゴーストなし定理」で、モンスターが働くリー代数を作る。リー代数は、連続的な対称性を扱う代数の一種である。
  3. そのリー代数の分母公式から、係数どうしの関係式(複製公式)を出す。
  4. 複製公式を満たす関数は、最初の数個の係数で決まる。予想の主関数も複製公式を満たすと先に示されていたので、最初の係数を1つずつ照らし合わせて一致を確かめる。

2段目では、次元の足し算が効く。ピーター・ゴダードの講演によれば、ムーンシャイン加群は弦理論で空間の次元にあたる数(中心電荷)が24で、2次元の格子から作った空間をかけ合わせると26になる。ゴーストなし定理は、弦理論で「長さの2乗が負」というありえない状態(ゴースト)が出ないことを示す定理で、26次元のときにいちばん強い結論が出る。

分母公式は、リー代数から出る「差が無限個の掛け算に等しい」という等式で、については次の形をしている。はと同じ作り方のもう1つの数、はのの係数、は、を正の整数、を整数全体で動かして掛け合わせる記号である。

両辺の係数を比べると、のように積が等しい組から、係数の関係が出る。

分母公式の掛け算に出る組の表。pの指数mとqの指数nが1から4のところで、ます目には指数c(mn)のmnが入り、積が4になる(1, 4)、(2, 2)、(4, 1)の3つに斜線がある。

ボーチャーズが例に挙げた式に数を入れると、左右が一致する。

こうして予想は、194の共役類のどれについても正しいと証明された。それでも、なぜモンスターとj関数がつながるのかは、まだ核心をつかめていないと考える人が多い、とガノンは2004年の解説に書いた。頂点代数の構造をもち、階の大きさがの係数になる空間がムーンシャイン加群のほかに無いかどうかも、その時点では予想のままだった。

途中の計算

1728に近づく足し算

この計算の道すじ。 手順1〜3で、冒頭の一致を引き算でたどる。手順4〜10で、を入れたjの値を、項を1つずつ足して求める。

  1. 196884から196883を引く

  2. 21493760から21296876を引き、残りを分ける

  3. 864299970から842609326と21296876を引き、残りを分ける

3つとも、残りは小さい方の次元を何個か足した数で、余りは出なかった。次は、j関数の値そのものを数で求める。

  1. をの式に入れ、を使う

  2. を求める

  3. 744を足す

  4. を足す

  5. を足す

  6. を足す

  7. 残りの項は0.246、0.0076と小さくなり、和は1728に近づく

項の数を増やすと、和は1728へ近づいて止まる。高さを上げるとが小さくなり、と744の2項でほとんど決まる。は、ヘーの追悼文にも書かれた値である。

応用

163で現れる744と196884

j関数の項が、目に見える形で効く例がある。は、ほとんど整数になる。

ボーチャーズの講演によれば、理由はj関数にある。では、jの値がちょうど整数になる。このをの式に入れ、とを使うと、は負の小さな数になる。

を展開に入れ(前半)、を左へ、を右へ移す(後半)。

262537412640768744の近くを拡大した数直線。eのπ√163乗はこの整数のすぐ左にあり、差は約7.5 × 10⁻¹³で、196884をeのπ√163乗で割った値とほぼ等しい。

で、はこの整数より約だけ小さい。も約で、ずれのほとんどを196884の項が説明する。ただしボーチャーズは、この性質は今のところムーンシャインとは関係がないようだと断っている。

物理学では、の分け方そのものに意味が付いた。エドワード・ウィッテンの2007年の論文によれば、フレンケルらの理論では196884個の状態が、エネルギーと運動量を表す1個(エネルギー運動量テンソル)と、モンスターの最小の表現をなす196883個に分かれる。ウィッテンはそのうえで、3次元の重力を扱う模型では、この196883個をブラックホールの状態とみなせるという案を出した。

状態が何個あるかの自然対数をとるとブラックホールのエントロピーになり、重力の計算から出る値と比べられる。

ウィッテンは、重力の式が近似なので完全な一致は期待できないとした。そのうえで、模型の大きさを表す数を1から4に上げると、25.12と25.13まで近づくことを示している。

例題と解説

正方形とjの値を手で求める

例題 1基本180°回してから裏返す

正方形を180°回してから、横の軸で裏返す。この2つを続けた動かし方は、8通りのどれと同じか。点の行き先で答えよ。

解説を見る

180°回すとはへ移る。横の軸で裏返すと座標の符号だけが変わるので、へ移る。

座標の符号だけが変わったので、縦の軸で裏返したのと同じである。

例題 2基本τ = 2iのとき

のとき、の値を小数第2位まで求めよ。を使ってよい。

解説を見る

なのでとなり、、である。

残りの項は合わせて0.0003ほどで、になる。

例題 3大学4つ目の係数

の係数を、、とする。

(1)が成り立つことを示せ。

(2)既約表現の次元1、196883、21296876、842609326、18538750076、19360062527を使い、を2通りに書け。

解説を見る

(1)なので、右辺は左辺に等しい。

(2)ヘーの追悼文にある2つの書き方は、どちらもに等しい。

次元の和だけでは、どちらの分かれ方かが決まらない。要素ごとのトレースを並べるトンプソンの級数が要るのは、このためである。

図示

値をちょうど1回ずつとる範囲

τの平面で実部が−1/2から1/2、原点からの距離が1以上の斜線の範囲では、jがどの複素数の値もちょうど1回ずつとる。τ = iではj = 1728、左右の角ではj = 0で、上へ行くほどjの大きさは限りなく大きくなる。

をやに替えてもjは変わらないので、どのもこの範囲のどこかと同じ値をとる。範囲の左右のふちは右へ1ずらすと重なり、円の弧も左右が重なる。コンウェイとノートンは、マッケイ・トンプソン級数のどれもが、それぞれの範囲でこれと同じふるまいをすると予想した。

シミュレーション

次元の部品を積む

係数を選ぶと、モンスターの既約表現の次元が棒になって1つずつ積み上がる。積み終えた長さは、上にある係数の棒とぴったり同じだ。積み終わると右端が少しずつ拡大され、196883の棒の端に隠れていた小さな部品が現れる。「右端の拡大」を動かすと、好きな倍率で止められる。の係数では2通りの積み方がどちらも合うので、次元だけでは分かれ方が決まらないと分かる。

広がる学問

モンスターが届く学問

  • 数学 有限群の表現と保型関数の係数を結ぶ対応を探すとき、モンスターとの対応が手本になる。ボーチャーズが証明のために整えた頂点代数と一般化カッツ・ムーディ代数は、ほかの散在型やリーチ格子以外の格子にも広げて研究されている。
  • 物理学 共形場理論という2次元の場の理論で状態の数を数えるとき、がその分配関数として現れる。ムーンシャイン加群は、24次元のリーチ格子を折りたたんだ空間の上を動く弦の理論として書ける。
  • 情報科学 モンスターを計算機で扱うとき、要素を最小でも196883行196883列の数の表で表すことになり、ヘーによれば表を2枚書き出すだけで約1テラバイトになる。2023年の極大部分群の分類は、公開のPythonパッケージmmgroupで誰でも再現できる計算に支えられている。
いまの研究と事業

怪物のまわりの、いまの研究

  • 2010年 江口徹(京都大学)・大栗博司(カリフォルニア工科大学ほか)・立川裕二(プリンストン高等研究所): K3曲面という図形から作る級数を調べ、係数が45、231、770、2277、5796と続くことに目を留めた。どれも、散在型のマチュー群の既約表現の次元に一致する。と同じ「係数が次元で書ける」形の例で、2012年にガノンが、対応する表現が実際にあることを証明した。(出典: Eguchi, Ooguri, Tachikawa「Notes on the K3 Surface and the Mathieu group M24」arXiv:1004.0956・Gannon「Much ado about Mathieu」arXiv:1211.5531)
  • 2016年 ヘンリー・コーン、マリナ・ヴィアゾフスカら5人: 24次元で同じ大きさの球を最も密に詰める並べ方は、リーチ格子の並べ方だと証明した(2017年『Annals of Mathematics』)。ムーンシャイン加群はリーチ格子から作られ、格子の最も短いベクトルは196560本ある。(出典: Cohnほか「The sphere packing problem in dimension 24」arXiv:1603.06518)
  • 2023年 ハイコ・ディートリッヒ、メリッサ・リー、トマシュ・ポピエル: モンスターの極大部分群の分類を完成させ、新しい極大部分群を2つ見つけた(2025年『Advances in Mathematics』)。位数が約の群は要素を並べて調べられないため、mmgroupで再現できる計算で示した。(出典: Dietrich, Lee, Popiel「The maximal subgroups of the Monster」arXiv:2304.14646)

参考文献

  1. J. H. Conway, S. P. Norton, "Monstrous Moonshine", Bulletin of the London Mathematical Society 11 (1979), 308-339; J. G. Thompson, "Some numerology between the Fischer-Griess Monster and the elliptic modular function", 同352-353.
  2. R. L. Griess, "The friendly giant", Inventiones Mathematicae 69 (1982), 1-102.
  3. I. B. Frenkel, J. Lepowsky, A. Meurman, "A natural representation of the Fischer-Griess Monster with the modular function J as character", Proceedings of the National Academy of Sciences 81 (1984), 3256-3260.
  4. R. E. Borcherds, "Monstrous moonshine and monstrous Lie superalgebras", Inventiones Mathematicae 109 (1992), 405-444; "What is moonshine?", Documenta Mathematica Extra Volume ICM 1998, Vol. I, 607-616.
  5. P. Goddard, "The work of R. E. Borcherds", ICM 1998(1998年8月18日の授賞講演)
  6. T. Gannon, "Monstrous Moonshine: The first twenty-five years" (2004); S. Carnahan, "Monstrous Moonshine over the integers" (2019).
  7. Y.-H. He, "John Keith Stuart McKay: 1939-2022" (2023).
  8. E. Witten, "Three-Dimensional Gravity Revisited" (2007).
  9. International Mathematical Union, "Fields Medals 1998".

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